デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚   作:デスマス怒る

7 / 10
パプニカ編は三話で終わらせるつもりだったんですが、だいぶ長くなりそうです。


7,死霊探偵パプニカに潜入す ②

 

エピロの計画は思惑通りに進んだ。

 

最初、入団試験を受けた際に、エピロは周りから舐められていた。血筋の程も分からない若造が、誇り高きパプニカ魔法師団を志すなど身の程を知れ、と。

 

それにエピロの年齢設定もよくなかった。彼は自らの年齢を16と偽ったのだが、パプニカの成人年齢は14なのである。成人してから2年も何をしていたのか、という目が向けられた。とはいえエピロの顔立ちで14は無理がある、と本人は思っていた。実際は顔だけなら通用しそうな童顔だ。体付きは十分人間の20代で通る程度に成熟しているが。

 

「これよりパプニカ魔法師団入団試験を始める! エピロ・エンディ前にでよ!」

 

試験内容は1体1の模擬戦だ。戦う相手は魔法師団から選抜された試験官。そしてエピロは最初に呼ばれた。この時点で後の者より不利である。

 

「それでは、双方宜しいな。用意…………はじめ!」

 

先に仕掛けたのは試験官だった。この男、若く、肥大した自尊心を持ち、そこそこなエリート思考。エピロをなんとしてでも落とすべく、全力で向かっていったのである。

 

「バ……ギ…クロスッ!」

 

両腕が天高く振り上げられ、風切り音を発して振り落とされる。

 

だがそこにエピロの姿はなかった。加速呪文(ピオラ)によって加速し、大きく距離をとっていたのである。珍しい呪文扱いらしいが、失われた、までは行かないようなので封印はしなかった。ピオリムは知られているらしいが、範囲呪文は溜めが大きい。なおこの呪文はテランで契約したため、万魔の深淵に頼らずとも使用可能だ。

 

「マ……氷結呪文(ヒャダルコ)!」

 

うっかりマヒャデドスを唱えかけながらヒャダルコを唱える。冷気が凝縮し、大気を凍らせて冷たい礫を形作る。

 

だがそれらの礫を相手に飛ばすことはしない。試験官の男はエピロの行動をマヒャドを唱えようとして失敗した未熟者だと断じ、心の中で嘲笑していた。何せマヒャドの下にはヒャダインがあるのに、それすらできずに呪文のランクを二つも落としたからである。だが一瞬置いてその判断の迂闊を実感することとなる。

 

「奥義・氷獄殺!」

 

ヒャダルコの氷をパルクールで登り、頭上から棍を叩き込む。おお、と何人かが声を上げた。先ほどまで素手だったのに武器を何処から調達したのかといえば、ヒャダインで空気中の水分を固めて即興で作ったのだ。

 

この技は闘気で自己強化してから殴りかかる奥義・棍閃殺にヒャド系の魔法力を纏わせたものである。なお呪文そのものを纏わせたわけではないので、威力は棍閃殺据え置き。ただ氷属性と化しただけであり、(ドラゴン)の騎士の使う魔法剣より下位の技術である。

 

凍てつく棍の一閃は、男の右肩を強かに打ち据えた。

 

「ぐ………まだまだ!」

 

男は反撃の爆裂呪文(イオ)をエピロの腹部に打ち込んだ。少年は青向きに宙を舞う。骨が軋み、内臓のひしゃげる音が響いた。

 

「……てて…」

 

さらりと受け身をとり、棍を杖代わりに立ち上がる。右腕で体を支え、左腕でベホイミをかける。「回復呪文まで……」と、また数人が慄く。

 

「な!」

 

それだけに留まらず、エピロは空いた右手でヒャダルコを放った。

 

防御光膜呪文(フバーハ)!」

「あらま。」

 

ヒャダルコの氷塊は光の壁に阻まれ、消え去った。

 

フバーハはかなり高等な呪文であり、それゆえにこれを修めた男のプライドの源でもあった。

 

アストルティアにおけるフバーハは近くの味方全体にブレス系攻撃を軽減する光の膜をかける呪文だ。だがこの世界で使われるフバーハはかなり強力な光膜であり、並大抵のブレスであれば完全にシャットアウトする。それどころか、下位であれば呪文すら弾いてしまうのだ。

 

防御光膜呪文(フバーハ)でこれなら防御結界呪文(マジックバリア)はどうなるんだろう。いや、呪文防御の手段としてもフバーハしか伝承されてないのか。)

 

とはいえど、この世界のフバーハには弱点がある。展開中、術者は一歩も動けないのだ。しかも極大呪文と同じく両手を使う。

 

続け様のマヒャドも、フバーハの破壊に至らず周囲の気温を下げただけだった。

 

「硬い。」

「降参したらどうだ。マヒャドを使えるとは驚いたが、貴様は誇り高き魔法師団に相応しくない。」

「そりゃごめん被りますね。野垂れ死ぬのはヤです。」

 

なので最強(という設定)の呪文を構える。

 

「その呪文は!」

閃熱呪文(ベギラマ)……」

 

超高温のプラズマはフバーハの光膜をあっさり粉砕し、試験官の男に直撃。致命傷にならないよう威力は少し絞ったものの、2メートルほど後方に吹き飛ばした。

 

「そこまで! エンディ君、下がりたまえ。結果は後ほど、全員の試験が終わってから通達する。」

 

結局エピロは普通に合格した。合格理由も、おおよそ彼の想定通りである。

 

 

団員寮の2人部屋に荷物を運ぶ。相部屋は同じ日に受験した少年である。彼は由緒正しき魔法使いの家庭であり、彼の一族には魔法師団に勤める人が何人もいるという。しかし彼はなかなか話していて心地いい人物であり、名家ゆえの高慢ちきさを微塵も感じさせなかった。

 

「今日からよろしく頼むよ、エンディさん。」

「エピロでいいですよ。」

「でもエンディさんの方が年上だよ?」

「魔法兵としちゃ同期だからいいんです。よろしく頼みますよ、ロメウス君。」

 

挨拶を交わししつつ、荷解きを進める。とはいえ、エピロはカバン一つであるし、必要なものは全てそこに入れっぱなしでいいので困ることはない。

 

「入団式は明後日かぁ。エピロはどう? 緊張する?」

「めっちゃする。王様が直々に挨拶してくださるんですから。」

「今年はレオナ様も観に来られるみたいだよ。」

「お姫様が? 今いくつでしたっけ?」

「4つじゃなかったかなぁ。」

 

雑談をしつつ、入団に際しての配布物を広げる。真新しい魔法師団の法衣と呪文契約用の魔法陣が描かれた紙の束。契約の見込みがありそうな呪文をいくつか見繕って配っているものだが、エピロのそれはロメウスのものより多い。

 

「回復呪文に……フバーハまで……」

「期待されてるね。」

「いがいたひ。」

「なんて?」

 

エピロは期待を向けられるのが苦手だった。

 

配られた魔法陣は攻撃系が、メラ、メラミ、メラゾーマ、イオ、イオラ、ヒャダイン。補助系が防御光膜呪文(フバーハ)

 

「ヒャダインいるの?」

「いると思いますよ。選択肢は多いに越したことはありませんから。マヒャドを唱えるには魔法力が不足していて、それでいてヒャダルコでは力不足、とかね。」

 

そして回復系がベホマ、麻痺治療呪文(キアリク)鎮静呪文(キアラル)破幻呪文(マヌーハ)覚醒呪文(ザメハ)呪文封じ解除(マホリー)、そして蘇生呪文(ザオリク)

 

「ザオリク⁉︎ ザオラルじゃなくて?」

「ザオラルは契約済みです。ふむ、全部契約できましたね。」

 

魔法陣に記された呪文はほぼ全て万魔の深淵を使用すれば発動可能だが、それに頼らずとも使えるのならありがたいことだ。そもそもエピロは潜入中深淵の契りは封印する腹づもりだった。

 

「すごい才能だね。」

「契約できるがイコールで使用可能とはいきませんよ。使えるようになる可能性がゼロではないというだけで。」

「それでも、だよ。」

 

ロメウスは回復呪文の才はなかったようで、攻撃呪文と一部の補助呪文が扱えるのみ。具体的には火炎系がメラゾーマまでと、ギラ、イオ、あとは広域加速呪文(ピオリム)である。

 

「ピオリム? あれ、おれには配られなかったんだけどな。」

「珍しい呪文だからね。ワタシの実家がたまたま術式を手に入れてたから契約してただけだよ。」

「おれのザオラルと似たような感じですか。しかし、どうしておれみたいなのにザオリクのような伝説呪文を?」

「そもそも契約魔法陣って存在したんだね。」

「えぇ。しかし考えてみれば使い手は長年現れていない、という話は少なくとも完全な失伝はしていないという意味でもあったのでしょう。契約はできるものも居たが、扱えるだけの力量(レベル)に至らなかったんでしょうね。」

「エピロはどう? できそう?」

「……どうでしょうね。ただおれとしては、使わなくて済むならその方がいいです。せっかくフバーハやベホマが契約できたんですから。」

 

エピロはここに来て少々気が重くなった。この善良な同居人に嘘を吐き続けることが申し訳なくなってきたのである。モシャスで目とツノを偽り、過去を偽り、自らの実力をも偽る。魔族の寿命は長いから大丈夫だろうとたかを括ってしまってはいたが、彼は嘘を貫く苦しさを知らなかった。

 

今すぐにでもベホマンに抱き付きたかったが、彼は今依頼主達の側だ。隠匿呪法のかけられたあの塚の側は隠れるにうってつけである。場所を知るのはテムジンの手の者だろうが、あの塚はすでに廃棄されているらしく、テムジンやその部下が訪れることはないだろうということだった。

 

無論そのまま同じ隠匿結界を使い続けるのは良くないので、エピロが宝石魔術で幻惑呪文(マヌーサ)透明呪文(レムオル)を組み合わせた結界の魔法陣を新たに敷いてある。また、最悪の場合ベホマンはルーラストーンでロモスに逃げることになっている。シナナ王とは面識がある上、ベホマンの存在が危険でないと思ってくれているので、匿ってくれるだろう。無論これは最後の手段だが。

 

 

入団の式典は、パプニカの神殿の前で執り行われた。パプニカ兵士の花形である魔法師団らしく、華々しく、大々的に行われる。今回新たに入団したのはエピロとロメウスの他には3人しかおらず、試験の時の半程だ。倍率50%だと高く聞こえそうではあるが、そもそもあの最終試験にたどり着くまでに筆記試験もあり、その時に9割型落とされている。

 

新兵代表の挨拶はロメウスだ。試験の成績が最も良かったのはエピロなのだが、彼のような卑しい身分の者を陛下の目前に立たせるわけにはいかないという話だったらしい。

 

素直なロメウスは憤慨していたが、エピロにとってはどうでも良いことだった。むしろ宣誓の言葉を考えて、王様の前で暗唱するなどという行為を任されていたなら、緊張による胃痛で倒れ伏していたことだろう。世の中の王様全てがシナナ王の様にはいかないのだ。

 

パプニカ王はシナナ王と比べれば随分と若々しかったが、それでも40代くらいだろうか。武芸を納めているようで、たくましい二の腕がマントの下から覗いている。その上、賢者の国の王らしく彼自身も賢者であり様々な呪文を扱うようだ。

 

(神に祝福された賢者であってもザオリクは伝説、か。王やパプニカ三賢者でもか使えない。それどころかザオラルでさえ習得できても成功確率がひくい。王はザオラルを修めておられる様だけど、後ろの三賢者は違う。)

 

パプニカに使える賢者達の最上位にして、憧れの的。そのパプニカ三賢者でも蘇生呪文は誰1人修めていない。王の後ろに控える今の三賢者はどれも高齢。直に引退し、後進にその座を譲るであろう彼らにこれ以上の成長はないだろう。

 

契約を終えた今、エピロの力量から言えばもうザオリクは使用可能だ。どうもアストルティアのザオリクとは術式が微妙に違う様だが、万魔の深淵を用いても唱える事の敵わなかった呪文がその手の中にある。

 

しかし彼の場合、ザオラルどころかザオであっても確実に成功する。ザオリクなど唱えた場合は、復活させられた者はそのまま戦線復帰できるだろう。彼が蘇生にしくじった時は、死者の肉体の方が蘇生不可能なレベルで損壊されていたり、魂が戻ってこれないほど遠くに囚われているかだ。

 

もし彼がザオリクを使えることが判明しては、この世界の生死のバランスが崩れかねない。死者が少しでも減るのはデスマスターとしては喜ばしいことだが、この世界のバランスはこの世界の者達が決めること。外様であるエピロの為すべきことではない。本来であれば、このようなデスマスターとしての仕事もグレーゾーンの行いなのだろう。

 

 

などと考えている内に、ロメウスの宣誓は終わり、聴衆による拍手が響き始めていた。エピロも慌てて手を鳴らしたが、壇上から降りるロメウスのジトッとした視線が彼を貫いた。聞いていなかったね、と。エピロは冷や汗をかいた。

 

ロメウスが列に戻ると、パプニカ王直々の激励が述べられた。その威風堂々たる様こそ王者の威厳というものだろうとエピロは思った。王者の風格、エピロの持ち得ぬもの。手に入れたくとも敵わなかったもの。

 

その心からの羨望の眼差しを、奇しくもテムジンは目ざとく見つけた。エピロ・エンディは一部のエリートからは目の敵、蛇蝎の如く嫌われている。それは彼が魔法師団への入団を、地位と名誉を求めた俗物的欲求からであると公言しているからでもある

誇りや使命感のない動機は、貴族としてエリートとして魔法師団を志した者にとってひどく冒涜的であった。

 

彼が入団を許されたのは、ひとえに在野で放って置くには危険だと思われたからというのと、単純な人手不足からである。いかんせんパプニカにはハドラーの根城があったのだ。いわば魔王軍との戦いの最前線。多くの兵士や市民が死んでいった。戦いが終結して5年が過ぎようとも、その傷は未だ深い。

 

「テムジン様。」

「わかっておるわい。しかしまだ早い。」

 

テムジンの部下、賢者バロンもエピロの抱くものに気がついたらしく小声でそっと耳打ちする。とても小さなヒソヒソ話ではあったが、エピロだけは気が付いていた。

 

(獲物が食いついたか。案外5年もかからないかもね。)

 

エピロは脳内で計画を多少修正するのであった。

 

 

入団式の翌日から、新兵達の訓練は始まる。

 

「君、訓練いるのかい? ベギラマまで使えるのに。」

 

一部の先輩などが、嫌味な笑みを浮かべてエピロを揶揄うが、気に留める価値はないと、一礼してさっさと立ち去る。

 

「行きましょうかロメウス。」

「うん。第三演習場だね。」

 

訓練がいるかどうかなど、いるに決まっている。そんなことも分からない者が有事の際、パプニカを守り切れるかは怪しい。きっと真に賢い魔法兵は5年前に率先して働き、使命に殉じて逝ったのであろう。

 

「おれは、まぁそれなりに強い自負はありますよ。しかしその強さは一個人としてのものです。兵士の資質はまた別だ。」

「だね。」

 

基礎の体力や魔法の扱いは、入団時点で皆できている。入団後の訓練は兵士として、陣形や連携を頭と体に叩き込んでいくものだ。仲間と呼吸を合わせ、誰が何をできて何をできないかを把握しておくことも肝要だ。

 

最初のひと月は訓練兵期間である。入団できてもこの期間中に見込みなしとされれば、退団が薦められる。幸いにして、この一月の間に脱落者は出なかった。ロメウスなどは小柄なことも相まって寮に帰る頃にはヘトヘトだったが、それはそれでエピロのベホマの練習相手にちょうど良かった。アストルティアのベホマと違い、この世界のベホマの術式は直接触れないと発動できない代わりに、怪我以外に疲労を取り去る効果もあったのだ。

 

「やっぱりエピロのベホマはよく効くよ。」

「ま、散々練習させて頂きましたからね。良かったら催眠呪文(ラリホーマ)もお付けしますよ。明日の訓練もバッチリ乗り越えられるように、ね。」

「契約してたっけ?」

「前のお休みの日に契約魔法陣を買ってきました。お高かったですが。」

「いくらしたの?」

「800ゴールドです。」

「高っ! 大丈夫、借金とかしてない?」

 

大体1000ゴールドあれば庶民はひと月暮らせるものを、一つの呪文のためにそれに近しい金額をポンと出したのだ。エピロは戦災孤児のはずなので、その金の出所をロメウスは訝しんだ。

 

「経費で落ちましたので。団長殿は中々話のわかる方で、補助呪文の有用性を進言すると、聞き入れてくださいました。代わりに、全団員に配れるよう、人数分書き写すことを命じられましたが。」

 

それももう終わっている、と言ってエピロは笑った。

 

 

訓練兵期間も終わり、いよいよ兵士としての初仕事だ。先輩1人に若手数人でグループとなり、地域哨戒を行う。

 

「ふん。貴様か。」

「ええ。おれです。」

 

エピロはロメウスと共に、試験官を務めていたモークという先輩と組むこととなった。

 

「誇りのない兵士などいらないんだがな。」

「誇りで飯は食えないもので。命の方がよっぽど大事です。」

「戯言を。だから貴様は魔法師団に相応しくない。自らの命ばかり可愛く、民の為に命を賭けようという気概がない。」

「さいですか。」

 

自己蘇生は難しいが、他者蘇生の術はいくつもある。ならば最悪自分1人生き残っていれば建て直せる。そういうエピロの考えをこの先輩は一部見抜いている様だった。

 

「今日の地域哨戒は城下町を出て、辺境の村まで向かう。道中はごうけつ熊のような凶暴な怪物(モンスター)も現れる。尻尾を巻いて逃げ出すなら今のうちだぞ、半端者。」

「生憎と、巻く尻尾がないもので。」

 

モークはつまらなさそうに足を進め、エピロとロメウスも後に続いた。

城門から出て、街道を徒歩で進む。城下町から離れるにつれ、道はどんどん荒れて、デコボコのボロボロになっていく。魔王軍との戦いの爪痕はまだ癒えていない。

 

「煙!」

「なんだと! チッ、ついてこい後輩ども!」

 

モークが駆け出すのに合わせ、エピロとロメウスも走り出した。目的地の村から煙が上がっているのである。

 

「ロメウス、ピオリムを!」

「わかったよエピロ。行きます……広域加速呪文(ピオリム)!」

 

少しでも早く現着すべく、ロメウスのピオリムで加速。100メートルを8秒かそこらで後ろに蹴飛ばし、それでも数分かかって村に辿り着く。

 

「あれは、山賊ウルフ!」

「厄介な。ただの魔物ではなく知恵をもつタイプか。エピロ、ロメウス、僕の指示を聞き逃すなよ!」

「「了解!」」

 

山賊ウルフは見える範囲だけでも15体ほど。人語を話せこそしないが、その知能は猿より遥かに高い。全員がサーベルを構え、村人を脅して食物や金品を強奪している。

 

「村人たち全員が捕まっているわけではないらしいな。エピロ、貴様はルーラが使えたな。この数だ、援軍を呼びに行け。だが決して奴らに見つかるな。可能な限り低く飛ぶこと。」

「了解。」

 

指示に従い、エピロが飛び立とうとした時、3人の背後の草むらががさりと揺れた。

 

「ごうけつ熊⁉︎」

 

この付近に生息する魔物の中で、最強の存在が姿を現した。その背には山賊ウルフが跨っている。単純な力では劣っているはずだが、その知性でごうけつ熊を従えているらしい。

 

熊の嗅覚は犬より鋭い。木陰に隠れて様子を伺っていた3人を見つけるのは容易いことだったのだろう。せめて透明呪文(レムオル)を唱えていればマシだったのだろうが、匂いを辿られる以上、遅かれ早かれ見つかっていた。

 

「ぐるああああああ!」

「ぐわっ!」

「先輩!」

 

モークがごうけつ熊に殴り飛ばされた。鋭い爪が表皮を切り裂き、鮮血が飛び散る。エピロは慌てて彼を受け止めベホマをかけた。しかし今のダメージで意識が飛んでしまったようでうんともすんとも言わない。慌ててザメハを唱えるものの、完全な覚醒には至らなかった。

 

「どうしよう!」

 

冷静に考えれば、ロメウスとモークを連れてルーラで帰還し、援軍を伴って蜻蛉返りするべきだろう。それが許されれば、だが。

 

「ヒャダルコ!」

「メラミ!」

 

すでに3人は山賊ウルフたちにぐるりと囲まれていた。逃げるだけの隙を与えてくれそうもない。ヒャダルコやメラミは出が早いものの、ごうけつ熊の分厚い毛皮を貫くには足りず、かと言ってそれ以上の呪文は溜めが長すぎる。

 

魔法使いとは後衛職なのだ。相手と距離をとって戦うのが定石であり、これ程の接近を許した時点で敗北と言っていい。もしも戦士のような前衛がいたならば、立て直しも効いただろう。

 

「おれが前衛をします。ロメウスは援護を!」

「わかった。それしかないよねぇ。いくよ……イオ!」

 

ごく小さな爆風ではあるものの、音と光で魔物たちを怯ませる。その隙にエピロが氷結呪文で斧を生成した。

 

「斧無双!」

 

遠心力に身を任せ、大ぶりな一撃で薙ぎ払う。しかしこのような大技であっても、山賊ウルフ達に致命傷を与えるには及ばず、ごうけつ熊に関しては斧を掴んで叩き壊されてしまった。

 

バックステップで距離をとり、ロメウスがメラミでごうけつ熊の全身を邪魔する。その隙にエピロは斧を作り直して大勢を立て直す。

 

「なんとか逃げるべきかな?」

「いえ、村人達が見ています。もうすでに逃げるわけには行きません。私たち魔法師団は国の名前を背負っています。彼らに、国に見捨てられたという絶望を与えるわけにはいかない。」

 

エピロは覚悟を決めた。世界のバランスだとか、怪しまれるかだとかはどうでもいい。人の命がかかっているのだ。エピロは深淵の契りを結んだ。

 

倍力呪文(バイキルト)……食らえ、大地裂断!」

 

攻撃力増強の呪文で自己強化を行い、斧を真っ直ぐ振り上げる。大ぶりで隙が大きいが、決まれば強い。

 

無論敵も呑気に眺めていてはくれない。数体の山賊ウルフがエピロに向かって斬りかかる。だが、

 

爆裂呪文(イオラ)!」

 

彼は斧を途中で捨て、イオラを唱えた。この世界の爆発する魔力弾を飛ばす形ではない。アストルティアのイオラ、術者を中心にした円状範囲に爆風と閃光を放つ。

 

「エピロ⁉︎」

 

その範囲にはロメウスとモークも含まれていた。ドーンという轟音と、眩しい閃光が3体の山賊ウルフ諸共2人を包む。深淵の契りによって威力の倍加されたイオラは山賊ウルフ達を跡形もなく消し飛ばした。

 

エピロはごうけつ熊に駆け寄ると、その腹部に正拳突きを叩き込んだ。バイキルトによって強化された彼の腕力は、ごうけつ熊の内臓に甚大なダメージを与える。白目を剥いて口の縁から泡を吹き出したごうけつ熊を、エピロは極大焼失呪文(メラガイアー)で焼き尽くした。

 

そして後ろを振り返り、怯える山賊ウルフ達に向かって言い放つ。

 

「立ち去れ!」

 

山賊ウルフ達は恐怖のあまり即座に森の中へと逃げ去っていく。我先に我先にと前方の仲間を踏み越えて。エピロの放つ威圧感は師匠直伝の覇気。並の精神の持ち主であれば、ショック死する者すらいるほどだ。

 

こうしてエピロは山賊ウルフ達に勝利したのだった。

 




独自設定
・奥義・氷獄殺
 オリジナル技です。ゲーム中には出て来ません。魔法剣は(ドラゴン)の騎士専用なので属性付き特技の扱いをどうしたものかと考え、このような形になりました。イメージとしてはメラの魔法剣は「剣の威力+メラの威力」なのに対し、例えば火炎斬りなどは「剣の威力」だけで、属性を持っているだけです。
・ゴールドの価値
・パプニカの魔物分布

などなど
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