デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚   作:デスマス怒る

8 / 10
案の定三部作に収まらなかった。


8,死霊探偵パプニカに潜入す ③

 

その日の夕方、ロメウスは医務室で目を覚ました。

 

「あれ、ここは?」

「気が付きましたか。」

「エピロ! ワタシ、どれくらい寝てた?」

「半日弱というところです。」

 

アストルティアの呪文は味方を巻き込むことはない。山賊ウルフ達を消し飛ばしたイオラの爆風や閃光、熱はロメウス達をすり抜けたのだ。だがイオ系呪文はとにかく音が大きい。続けて彼が唱えた熟睡催眠呪文(ラリホーマ)の呪文が聞こえない程度には。

 

エピロはロメウスとモーク、そして村人達全員を対象に催眠呪文をかけて眠らせた。その後のメラガイアーと、何より魔物すら怯えさせるほどの威圧を見せるわけにはいかなかったのだ。

 

本部には村人達は山賊ウルフの使った眠り粉で眠っていたと説明。山賊ウルフ達は最強戦力であるごうけつ熊を失ったことで戦意を喪失、逃げ去ったと伝えた。これらは全てが嘘ではなく、山賊ウルフ達の持ち物には確かに眠り粉があった。

 

ごうけつ熊を倒した方法については、ロメウスの援護を受けてひたすら呪文で攻撃。ロメウスはその途中で眠り粉を使われて意識を失ったと説明。ごうけつ熊の死骸は、山賊ウルフ達が去った後に念のためメラゾーマで灰になるまで焼いた、と。

 

「そっか。ワタシが気を失っている間にそんなことが。」

「おれが不用意にイオラを唱えて、ロメウスは閃光で目がくらんだんです。その隙に山賊ウルフが眠り粉を。」

「村の人たちは?」

「全員無事です。怪我人はいましたが死者はいませんでした。回復呪文で治療したので心配は入りませんよ。」

 

これも嘘だ。実際は数人の死者がいたが、全員をザオで蘇生。重症者に偽装した。なお、一部の村人には治療の際、精神混乱呪文(メダパニーマ)を応用した記憶処理を施してある。

 

 

最初の任務で新兵を危険な目に合わせたとして、モークは減給処分を受けた。というのも、魔法師団は戦士団と折り合いが悪いせいで、モークの所属する派閥は任務の際、前衛となる戦士と組みたがらない。賢者の国を守る兵士が、魔法の一つも使えないとは恥だ、というわけである。

 

今までは魔法師団だけでもなんとかなっていたが、今回とうとう綻びが見えた。そこに、エピロとロメウスの「前衛がいなくて戦いづらかった」という陳情を受け、師団長は戦士団との連携を密にすることを確約した。

 

その一環として、逃げ去った山賊ウルフの掃討作戦が立てられ、その任にはパプニカ戦士団と連携してあたることとなった。

 

「ピオリム!」

「スクルト!」

 

魔法師団員の唱えた補助呪文を受け、戦士達は縦横無尽に駆け回り、危険な魔物たちを討伐していく。そして撃ち漏らした魔物には、追撃の攻撃呪文が叩き込まれる。

 

この作戦の成功を受け、魔法師団と戦士団との確執は、僅かずつではあるが解消に向かい始める。

 

「なのに、どうしてエピロに褒賞の一つもでないのさ。」

「仕方がありませんよ。おれは陳情を上げただけで、実際動いたのは上じゃないですか。」

 

非番の日、湖畔でキャンプを楽しんでいる時、そのような話になった。

 

「掃討作戦にはキミも行ってた。」

「一兵卒として命令に従うのは当然です。」

「うーん。でもエピロは名誉が欲しかったんじゃないの?」

「欲しいですよ、とても。地位と名誉、それさえあれば昔みたいに全てに怯えて暮らすこともなくなる。命の危険も遠ざけられる。」

 

だから手柄を立てるのだ。近頃は空き時間を見つけては呪文の改良、改造に励んでいるのをロメウスは知っていた。

 

アストルティアの知識を用いればそれは容易いことだったのだが、この世界のバランスをイタズラに乱すまいとして、この世界の知識だけで行うつもりであった。幸にしてパプニカは賢者の国。古い書物を漁れば出るわ出るわ失われた古代呪文。それらを復元する分にはバランスブレイクとはならない。何せ古代には使われていたのだから。難易度の高さと実用性のなさなどで敬遠され、結果失われた。

 

「実用性ないなら復元する意味ないんじゃないの?」

「古代ではなくても、人間は進歩する生き物です。今なら役立つ呪文もありますよ。」

「例えば?」

水流(ザバ)系呪文。破壊力ではヒャドの方が使い勝手がいいですが、兵糧の観点で水を簡単に調達するのに役立ちます。」

「なるほどね。でも折角なら攻撃面でも役立たせたいなぁ。」

「極大呪文なら破壊力もあるでしょうが、見つかりませんでした。」

 

おそらく極大水流呪文(ザバトローム)極大焼失呪文(メラガイアー)極大氷結呪文(マヒャデドス)極大真空呪文(バギムーチョ)極大電撃呪文(ジゴデイン)と同じく神々によって秘匿された極大呪文なのだろう。テランで契約できたのはザバ、ザバラ、ザバラーンの3つ止まりだった。ザバトロームは名前だけは見つかったが、契約魔法陣は描かれていなかったのだ。

 

それはパプニカでも同じことで、古い書物にザバ系の名前は残ってはいれど、破壊力に欠けるので習得者はまずもって居らず、その名を知るのは一部の賢者だけだった。エピロがザバ系を習得していると知って、大層驚かれたものである。

 

「あとは、威力が高すぎて廃れた呪文もありましたね。案の定契約魔法陣は描かれていませんでしたが。」

「名前だけしかわからなかったと。」

「ええ。その名も究極呪文『マダンテ』。」

「マダンテ……なんだか、メガンテに似てて不吉。」

「実際メガンテの魔法力版なものです。残った魔法力全てを解き放って敵を討つ光の呪文。使用後は魔法力が尽きて役立たずになりますね。」

 

極大ではなく究極。これ以上の発展が望めない程にシンプルで、それが故に強力な呪文。

 

なお、エピロは魔法戦士を修めているのでマダンテは習得済みだが、現在は万魔の深淵を用いいても使用不可能である。何せ万魔の深淵を用いた呪文は消費魔法力が倍加するのだ。究極呪文(マダンテ)()()の魔法力全てを解き放つ呪文。現在の魔法力を倍にすればまたその倍を要求されるので、どうやっても発動不可能である。

 

「まぁひとまず、研究の甲斐あって古い呪文の契約魔法陣を修復できました。」

「ほんと! なんていう呪文?」

強化呪文(バイシオン)という呪文です。」

「補助呪文かぁ。」

 

ロメウスは回復や治療の呪文に適性がなかったのだが、ピオラ系を除いて補助呪文の多くも契約できなかった。おそらくはバイシオンも契約できないのだろうと、本人は思っている。

 

 

数日後、バイシオンの契約魔法陣は正式に発表され、希望する団員は誰でも契約の儀式を受けられることとなった。

 

「手柄横取りされてるじゃん!」

「シー……ここ食堂ですよ。」

「でも!」

 

バイシオンの発表者の名義は魔法師団の上層部ということになっていた。

 

「文句を言いに……」

「もう行ってきましたよ。知らぬ存ぜぬはおろか、我が魔法師団の研究者の手柄を自分のものと言い張る不届きものは即刻クビにしてもよい、と言われましてね。」

「えー……なんだよそれ。」

「ははは。流石に腹が立ったのでマホトーンで全員黙らせてきました。」

「嘘でしょ⁉︎」

「うそです。」

 

実際は上官の会議室にいた団長以外の全員に倍力呪文(バイキルト)をかけてやっただけである。エピロが退室したあと、雑巾を持った侍女達が会議室に駆けて行ったので目論見は成功したらしい。ティーカップの持ち手を尽く摘み砕いて、中身を熱々のままぶちまけたというわけだ。

 

エピロとしてはこうなることも織り込み済みの行動だったが、実際されてみると想像以上に頭に来て、同時に辛くもあった。仕返しで溜飲が下がったのも僅かの間だけで、飲み物を粗末にしたという自責の念が後から後から湧いて出た。

 

「ま、へこたれたって仕方がありませんもん。研究による勲がダメなら次は武勲を立てるのみです。」

 

その言葉が本意でないことなどロメウスには分かっていた。武勲を上げるには何者かと争い、戦わねばならない。

 

今は世界中の各国が自国の復興に向けているが、何年もして落ち着けば、また人々は争い始めるのだろう。経済競争や技術競争ならばいいが、戦争になればどうなるか。魔法師団は侵略者を討つ盾か、それとも攻め込む矛かのどちらかになるのだろう。

 

「争ったって腹ァ空くだけなんですがね。」

 

出世競争もエピロにとっては戦争と同じに見えた。自分を高めるより、他者を陥れて相対的に優位となる腐った心根の上官達。

 

 

「ま、なんとかしますよ。」

「大丈夫なのか……本当に。」

 

数週間に一度、森の中の塚を訪れ、報告を行う。エピロが魔法師団に入団して、すでに1年が過ぎていた。

 

「なぁに、順調に進んでますよ。テムジンもそろそろおれが上層部に絶望する頃だと思ってます。」

 

死霊達はなんとも言えない表情をした。エピロが見るからに無理をしているように見えたのだ。目元は酷い隈ができており、髪は艶を失いズタズタ。誰の目にも明白なストレス性の心身衰弱の兆候が見て取れた。 こればかりはベホマでも治せない。

 

「えへへ……ベホマン……えへへ。」

「エピロ殿。」

「はい。」

 

久々のベホマンクッションを堪能している彼を、1人の死霊が呼び止めた。

 

「どうか、もう終わりにしてください。」

「へ?」

「このままでは貴方の精神が持たない。我々はもういい。どうか呪文でもなんでも使って我々を成仏させて下さい。」

「嫌です。」

 

彼はすっくと立ち上がり、爛々とした瞳で死霊を見つめ返した。

 

「おれはデスマスターです。途中で仕事を放り出すなど言語道断。やり遂げますよ。それに、弱っているように見せかけた方がテムジンも釣りやすいでしょう。」

「見せかけではない。貴方は本当に弱っている。」

「まさか。フリですよ、フリ。」

「嘘だな。貴方はこの一年で嘘をつくときの癖ができた。」

「え?」

 

この塚では自らを偽る必要も無く、従ってエピロはモシャスを駆けていない。だが衰弱は見せかけだけだという嘘をついた瞬間、無意識にモシャスが発動。目を白く染め、ツノを消し去った。

 

「ははは。しかしどんな仕事も長時間続けば疲れが溜まるものですよ。おれだけがこうなんじゃあありません。」

「だがどんな仕事でも週に一度は休むべきだ。貴方はもうずっと気を張り詰めてモシャスの維持に努めている。休息など、この地を訪れる僅かな時間のみではないか!」

 

その時でさえ、依頼主に会うのだ、という気概から極端に気を緩めぬようにしていたのだ。今日に至っては疲れのあまりベホマンを前にふにゃふにゃになっていたが。

 

 

結局エピロは死霊たちを引き留めに応じず、城下町に帰って行った。そしてその後の報告は、呪文によって一方的に声が届けられるだけだった。

 




なんでワタシは二次創作でオリキャラを曇らせてんだろうか。

独自設定
・アストルティアの呪文は味方に当たらない。なお反射されたら別。
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