機動戦士ガンダムSEED 自然発生の天才   作:ただの粒

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第2話 崩壊を諭す者

ザフト軍宇宙艦艇ヴェサリウス、その水色にカラーリングされた独特の形の艦船の艦橋で仮面を付けた男、ラウ・ル・クルーゼはクルー達から上がってくる作戦経過の報告を聞いていた。

 

「オロール機大破。緊急帰投、消火班Bデッキへ」

 

「オロールがこんな戦闘で大破だと!?」

 

黒服を着た艦長のフレドリック・アデスが驚きの声を上げた。

 

「どうやら、いささか煩いハエが一匹飛んでいるようだな」

 

クルーゼは現在コロニー外部で行われているザフトのジンと連合のMA、メビウスとの戦闘の状況からMA部隊の内の1人はロイの実兄であるムウ・ラ・フラガであると当たりを付けていた。本来、ザフトのMS1機の戦力は、連合のMA5機をもってようやく互角であると言われている。しかし、その戦力差を覆すのがムウと、その搭乗機、メビウス・ゼロである。

 

ムウは先天的に備わっていたその突出した空間認識能力で有線式オールレンジ攻撃兵装、ガンバレルを自在に操りザフトのMSをこれまで何機も撃墜してきたエンデュミオンの鷹の異名で知られる連合のエースパイロットでもある。

 

「ミゲル・アイマンからのレーザービーコンを受信、エマージェンシーです」

 

再びクルーからの撃墜報告が上がってくる。

 

「どうやら私が出る必要がありそうだな。暫くの間艦は任せたぞアデス」

 

「りょ、了解」

 

ミゲルが撃墜されたことで、またもや驚愕の声をあげていたアデスにクルーゼは一声掛けて艦橋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

ロイとルークがストライクが撤退した場所に着くと、連合の士官であるマリュー・ラミアスが5人の少年少女に銃を向けていた。

 

彼らは全員険悪な表情をしており、中には何か喚いている者もいた。

 

「あれは民間人だな。大方、ストライクを見てしまったことで、箝口令でも敷かれているのだろうな」

 

「どうやらそのようですね。まあ、あんなに目立つ場所で大暴れした後に箝口令を敷いても、おそらく他の人間に見られていたでしょうし、それにザフトに他の4機を奪われた今となっては余り意味のあることだとは思えませんけどね」

 

ロイ達はそんな会話を交えつつ、マリューの元へ近づいて行った。

 

「ラミアスさん、ご無事でしたか」

 

ロイが、まるで天気の挨拶とも取れるような調子でマリューに話し掛けた。声を掛けられたマリューはロイの姿を認めると、少し驚いたような表情をした。

 

「フラガさん!?あなたは避難されたはずでは」

 

「ええ、俺も本来ならそうするつもりだったんですけどね、部下達と一緒に開発資料を持ち出す作業をしている内に避難用のポットが満員になりまして、こうしてまだここにいるわけです」

 

ロイはありもしない適当な話を平然とでっち上げてマリューの質問に答えた。

 

「それは災難でしたね。でも、ご無事で良かった」

 

「ところで、そちらの彼らは民間人ですか?」

 

ロイが5人の方を指して尋ねた。

 

「ええ、そうです。ですが、彼らは軍の最高機密であるストライクを見てしまったために私がこうして身柄を拘束しています」

 

「ということは、先程ジンを倒した時にあなたと一緒にストライクに乗っていた者も彼らの中に?」

 

「はい、そこのキラ・ヤマトと名乗る少年がそうです」

 

ロイはマリューが指した少年、キラ・ヤマトの方を見た。キラはロイをマリューと同じ地球連合の士官だと思ったのか、鋭い目付きでロイを睨み付けた。

 

「なんですか」

 

「そんなに警戒しないでくれ。俺は軍の人間じゃない。君らと同じ民間人だ」

 

「じゃあ何であんたはそこの連合の士官に拘束されないんだよ」

 

突然、キラとは別の少年が割って入ってきた。だが、ロイはそんなことに一々目くじらをたてるわけでもなく、その質問に淡々と答えた。

 

「あぁ、俺は民間人といっても、オーブのモルゲンレーテ社の人間でな。そこにある機体を連合と共同で開発してたんだ」

 

「オーブが!?オーブは中立の筈ですよね。なのに、どうして地球軍なんかと」

 

今度はメガネを掛けた少年が驚いた様子で尋ねた。

 

「さあな、末端の俺に聞かれても上の考えなんて知らん。文句があるなら行政府に直接抗議してくれ。ところで、キラ・ヤマト君だったかな。君に幾つか頼みたい事があるんだが、いいかな」

 

ロイは少年の質問に対して素っ気ない返事をした後、キラに向き直り、ストライクにストライカーパックの装着を手伝ってもらうように頼んだ。キラは友達の為といって案の定あっさりとロイの申し出を引き受けた。

 

数分後、ロイの部下達がコンテナを積んだ数台の大型トレーラーをストライクの元まで運転して来た。その中には、ロイが部下に頼んでいたストライカーパックを積んだものもあった。

 

ストライクに乗り込んだキラはマリューの指示を受けて、ランチャーストライカーを装備し始めた。

 

 

 

 

 

「それにしても、末端ですか。今回の連合との共同開発の件、裏で手を引いていたのもあなただというのに、本当によく言ったものですよ」

 

ルークが心底楽しそうに、換装作業に勤しむストライクを眺めるロイに話し掛けた。

 

「別に嘘は言ってない。俺は今こうしてわざわざヘリオポリスまで足を運んでいるんだからな。それに、共同開発の話もブルーコスモスの連中から大量の金と資源、人間を搾り取るには絶好のタイミングだったからな」

 

「まあ、彼らもザフトに負け続けで相当フラストレーションも溜まっていたでしょうからね。確かに今回のG兵器の技術提供はいいガス抜きになったでしょうね」

 

「あぁ、ザフト側にも予定通り情報を流すことも出来たし、更に戦火は拡大するだろうな。それに、キラ・ヤマトがまさかこんな所にいたとはな」

 

「彼の事を知っているのですか?」

 

「あぁ、少しな……ん?この感覚はラウと兄さんか。ルーク、ストライクの換装を急がせてくれ。ラウが来る」

 

ロイやラウ、ムウといったフラガ家の遺伝子を引き継いでいる者達は皆、特殊な直感力が備わっており、その力の影響で戦場などでお互いが近くにいると感覚的にその相手を認識することが出来るようになる。そして、今回もその特殊な直感力で彼らはお互いの存在を認識し合っていた。

 

ロイがルークに指示を出した後すぐにコロニーの中心にあたるシャフト部が爆発を起こし、その中からシグーとメビウス・ゼロが飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

コロニー内に侵入したクルーゼはシグーのコックピットからロイ達の姿を確認していた。

 

「どうやらロイの方はうまくジンを捕獲出来たようだな。それとあれが最後の一機か。現状のパイロットの技術を見ておくのも悪くはないか」

 

クルーゼはフットペダルを踏み込み、シグーのスラスターを吹かせて換装を終えたばかりのストライクへ直進していき、シールド裏面に設置されたバルカン砲を撃ち込んだ。しかし、間一髪でPS装甲を展開したストライクによって全て弾かれてしまった。

 

「ならば、これならどうだ」

 

クルーゼは次に右手に装備されているメインウェポンである重突撃機銃を撃ち込んだが、それすらも有効打にはならなかった。

 

「PS装甲……まさか強化APSV弾も効かんとはな。なるほど、素晴らしい防御性能だ」

 

クルーゼがそう言うと同時、突然コロニーの地表が爆発を起こし、港で爆発に巻き込まれたはずのアークエンジェルがほぼ無傷の状態でコロニー内部へと突入して来た。

 

「あれは例の新型艦か、まさかここまで侵入してくるとは。状況は不利だな。一度撤退すべきか」

 

クルーゼが、機銃を乱射してくるアークエンジェルの攻撃を避けながら牽制でアサルトライフルを撃ち込んでいると地表からストライクがシグーに向けてアグニを撃ち放った。

 

その攻撃にいち早く反応したクルーゼは赤色に発光するその強力なビームを余裕で躱したつもりでいたが、威力が彼の予想を遥かに上回っており、ビームが近くを通り過ぎただけで、右腕が武装もろとも融解してしまった。

 

「くっ、MS1機にあれ程の威力の武装を積んでいるとは」

 

クルーゼはシグーを反転させて再び背部の翼型をしたメインスラスターを吹かせ、ストライクがアグニを放ったことで空いたコロニーの穴から撤退して行った。

 

 

 

 

 

 

マリューは着艦したアークエンジェルにストライクを収納するのをキラに頼み、ロイ達を艦のハッチまで先導した。

 

マリュー達が艦に到着すると、アークエンジェルに搭乗していた少数のクルー達がマリューを出迎えた。

 

「ラミアス大尉、ご無事でしたか」

 

「バジルール少尉、あなたもよく無事で。それで、艦長はどちらに?」

 

「艦長は港の爆発で戦死されました。他の殆どのクルー達も同様に……」

 

ナタルが悔しそうに顔を顰める。

 

この事態を招いた根本の原因はロイにあるが、この場でその事を知っているのは現状でロイ本人と、その部下であるルークだけである。勿論、彼らはその事をこの場にいる者達に言うつもりもなければ全く詫びれる様子もない。

 

ロイ達はそんな無関係な態度でマリューとナタルの会話を聞き流していると、シグーとの戦闘でガンバレルを全て失ったメビウス・ゼロから降りてきたムウ・ラ・フラガが会話に入ってきた。

 

「へぇ、こいつは驚いたな。まさか子供がこいつの操縦をしていたとは」

 

彼はストライクから降りてきたキラを見ると、とても驚いているとは思えないような口調でそんなことを言いながら歩み寄って来た。

 

「地球軍、第7機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ。よろしく」

 

「第2宙域第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」

 

「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」

 

連合の士官である3人がお互いに階級を名乗り合い、自己紹介をした。

 

「ところで、この艦の責任者は誰かな、乗艦許可をもらいたいんだが」

 

「艦長や、その他の主立った士官は皆、ザフトの奇襲により戦死されました。よって今は、ラミアス大尉がその任にあると思いますが」

 

「ほぼ全滅か。やれやれ、なんてこった。ともかく許可をくれよ、ラミアス大尉。俺の乗ってきた船も落とされちまってねぇ」

 

「あぁ、はい、許可致します」

 

ムウがマリューから乗艦の許可を得ると次に、キラの方に歩み寄り、彼がコーディネイターであることを問い立てた。その事で少し揉めはしたが、キラは中立であるヘリオポリスの民間人であることをマリューに説明されて、その問題はすぐに沈静化した。

 

「ところで、どうしてお前がここにいるんだ、ロイ」

 

丁度キラの話が纏まると、ムウは今まで傍観を貫いていたロイに話し掛けた。

 

「兄さん、俺の職業知ってるだろ?俺は、そこの機体の開発を上の連中に押し付けられてここにいるんだよ」

 

「はぁ……どうしてこう、面倒事が増えるのかねぇ。それにこいつの開発って、お前……性能のいい物を作るのは構わないが、作るんだったらナチュラルでも扱える物を作ってくれよ。俺はこいつのパイロット候補だった奴らのシミュレーションを結構見てきたが、奴らノロくさ動かすにも四苦八苦してたぞ」

 

「それはOSの問題だろ?俺達モルゲンレーテ社の担当はハードの方だよ。それに今はキラが自分用にOSを書き換えて動かせてるんだから問題ないだろ?」

 

「どうせお前の事だからこいつのOSも一から作り出せたんだろ?」

 

ムウは飽きれた態度でため息をついた。そして、2人の会話に全くついていけてなかった他の面々も再起動し始めた。

 

「えっ!?ロイさん、あなたはフラガ大尉の弟さんだったんですか?」

 

マリューが驚いた様子でロイに問い掛けた。

 

「ええ、そうですけど。フラガなんて名前は珍しいですから、既に気が付いているものと思っていましたが。ところでラミアスさん、あの回収したジンもこの船に積み込んでもいいでしょうか。修理すればまだ使えると思いますし、それに今は少しでも戦力が多い方がいいでしょう」

 

「……ええ、分かりました。許可します。ですが、一体誰が操縦するのですか」

 

「それは俺がやりますよ。ジンくらいなら操縦するのも訳ないですから」

 

「ということは、あなたもキラ君と同じ、コーディネイター……」

 

先程キラがコーディネイターであることが他のクルー達に知られた際、少し騒ぎになったことに負い目を感じているのか、マリューは遠慮がちにロイに尋ねた。

 

「いえ、俺は兄やあなた方と同じナチュラルですよ」

 

ロイは兄のムウと同じ、爽やかな笑顔でそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「肩の関節部分は全て取り替えてくれ。代わりにコンテナに積んであった強化キットを使って修理してくれ」

 

アークエンジェルへのジンと他の物資の搬入が完了すると、ロイやルーク、その他の数名の彼の部下たちは早速ジンの修理に取り掛かった。

 

しかし、連合の整備班はストライカーパックの積み込みやバッテリーへの電力供給、メビウス・ゼロのガンバレルの修理、弾の補充、推進剤の補給などやることが多すぎて、とてもジンの方に構っていられる様子はなかった。

 

それに、アークエンジェルにある修理キットではザフト製のMSとは規格が合わず、肩の関節部だけでも修理するのは難航すると思われていた。

 

だが、ロイ達はGAT-Xシリーズを開発しながら、この時のためにジン用の強化パックを製造していた。

 

その為、連合の整備班達は、ロイ達がジンに対応した部品を持ち合わせていたことに対して疑いの目を向けていたが、ロイがGAT-Xシリーズの開発に必要なジンのサンプルの予備が余っていたと説明すると、一応の理解は得られた。

 

ロイ達が暫く修理を続けていると、艦内に大きな振動が走り、第一次戦闘配備の警報が鳴り響いた。

 

「もう攻撃を仕掛けて来たか、ラウらしい思い切った判断だな」

 

「どうしますか主任。ジンの修理は既に終わっていますが」

 

ルークがジンの整備状況を報告しに、端末でジンの機体情報を眺めるロイの元まで駆けつけてきた。

 

「敵の数や装備は分かるか」

 

「はい、敵の数は4、その内の3機がD装備のジン、残りの1機がイージスです」

 

それを聞いたロイは顎に手を置き、少し考える素振りを見せた。

 

「D装備か……その程度の戦力でこの船が落ちるとは思えないが。それに両者がうまく暴れ回ってくれたらヘリオポリスは崩壊するかもしれない……。よし、それで行こう」

 

考えを纏めたロイはルークに指示を出した。

 

「ルーク、艦長には悪いが、まだジンの修理は終わっていないから出撃は無理だと伝えてくれ。この戦闘、うまくいけば俺たちにとって大きな利益になるかもしれない。そのためにも"モルゲンレーテの人間"としては今は出るべきではない」

 

「成る程、了解しました」

 

ルークはロイの言っていることの意味を理解したのか、まるで外道のような笑みをその顔に浮かべて、近くの艦橋に繋がっている通信端末がある場所へと走っていった。

 

そして、その考えを発案した本人であるロイもまた、その顔に薄っすらと黒い笑みを浮かべていた。

 

「お前達は次にメインバッテリーの取り替えに移ってくれ、それが出来次第、全てのスラスターの取り外しをしてから例の試作型のフレキシブルスラスターと補助スラスターを取り付けておいてくれ」

 

ロイは作業中の部下達に次の指示を出して、再び端末で機体状況の確認と、既存のOSを改造後のジンに対応させた新規のOSに書き換える作業に戻った。

 

 

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