「どうやら主任の思惑通り、ヘリオポリスは消滅したようですね」
ヘリオポリスはアークエンジェルやザフトのMSがビーム兵器やミサイルといった強力な火器を内部で乱射したため、コロニーの中心軸であるシャフト部にダメージが蓄積し、外壁を支えるための強度が保てなくなり、呆気なく崩壊してしまった。
戦闘中であったストライクはコロニー内部の空気が宇宙空間に漏れ出る際の気流によって、そのままコロニー外部へと放り出されたが、暫くすると推進部が故障した救命ポットを拾って帰還した。
「あぁ、そうだな。ルーク、プラントのシーゲル・クラインと通信を繋いでくれ」
本来、ザフトが開戦当初に地球に撃ち込んだNジャマーによって電波通信など、殆どの無線通信技術は封印されてしまっていたが、それは地球に限った話であり、ヘリオポリスの崩壊という形で戦闘が終了した現在は艦船に搭載されたNジャマー発生装置は起動していない為、通常通りに通信端末による長距離通信が可能となっていた。
通信が繋がるとルークが用意したタブレット端末の大きな画面にプラントの最高評議長であるシーゲル・クラインの顔が映し出された。
「お久しぶりです、シーゲル・クライン殿。今回私が何故あなたにこのような形でコンタクトをとっているかお分かりですか」
「いや、君から連絡してくる回数は中々に多いが、今回はなんの事かは知らんな」
「まあ、もうすぐそちらにも通達が行くとは思いますが、先に伝えさせて頂きます。単刀直入に言わせて頂くと、我々オーブが保有する資源衛星コロニー、ヘリオポリスがそちらのザフト軍によって強襲され、崩壊、消滅しました」
「ヘリオポリスが崩壊!?それは本当かね」
画面越しのシーゲルはいつもの穏やかな表情からは想像できない程の驚愕に染まった表情をしていた。
「ええ、事実です。しかし、幸いにもこの事は未だ我々オーブ本国には伝わっておりません。そこで提案なのですが今回の件、まだこちらで原因を有耶無耶にする事が可能ですが、いかがなさいますか」
ロイは口元を釣り上げ、挑戦的な笑みをシーゲルに向けた。
「待ってくれ、話が飛躍しすぎだ。そもそも、こちらの軍が動いた理由はなんだ」
「そこのところも順を追って説明しましょう」
そう言ってロイはシーゲルに事の顛末を表に出せる程度に事細かく説明していった。そして、大体の経緯を把握したシーゲルは次にロイに対して懐疑的な視線を向けた。
「ふむ、大体は理解した。しかし、君の話からすると、中立と言いながらも、連合とMSの共同開発などを行っていたそちらにも原因があると思うのだが、君はそこをどう考えているのかね」
「ええ、確かに我々は連合と共にMSの開発を進めていました。しかし、残念ながら我々オーブがヘリオポリス内でMSの開発を行っていたという物的証拠は全てコロニーごと宇宙のゴミとなり、それを証明する為の材料は全て失われてしまいました。唯一の手がかりとも言える5機のMSも装甲から駆動系、更にはOSにいたるまで全て連合製の物です。よって、我々がMSの開発に関与していたという形跡はどこにもありません。例えそれが我々のコロニー内部で行われていたと指摘されたとしても、こちらには幾らでも言い逃れする手段はあります。ですが、あなた方ザフトは違います。ヘリオポリスの港部や工場区にいた市民の多くは貴軍の象徴とも言えるMSのジンを多数目撃されています。このままではあなたの最高責任者としての土台が揺るぎかねませんよ」
「すこし横暴すぎやしないかね、ロイ君。そもそもジンが見られたのならば、そちらのMSも見られたのではないのかね」
「クライン殿のおっしゃる通り、5機のG兵器も多数の市民に目撃されたでしょう。しかし、先程も言った通り、あれらは我々の関与を認めるための証拠にはなり得ません。それに、もしあなた方が目撃者やその他の地球に住まう人々にヘリオポリスに侵攻した理由を懇切丁寧に説明したとしても、地球のブルーコスモスの思想に染まった人々は信じないでしょう。人という生き物は自らの信じたいものしか信じませんから。もう一つ付け加えるなら、たとえ此方にとって都合が悪い情報を蒔こうという者が目撃者から出たとしても今ならばまだ事故に見せかけて処分することも可能です。さて、そろそろ返事をお聞かせ下さい。あなたにはもうそれほど時間はありませんよ」
「……しかたがない、どうせ他に道はないのだから。わかった、今回の件も君に任せよう。それで、報酬はどれくらい払えばよいのだ」
「確かに受理いたしました。報酬の方ですが、ヘリオポリスの建造費と同額の金額を指定する複数の口座に支払っておいてください。それと、そちらが地球で確保したの重金属採掘場から産出される鉱物の一部横流しです。それにより発生する横領の件もこちらでもみ消しますので、ご安心を」
「まったく、前回もそうだが、君はちとぼったくりすぎやしないかね」
「前回というのは、あなたを議長に就任させるために行った工作のことですか。確かに私が要求する額は個人に対して払うにはいささか多すぎなくもないですが、我々は組織ですよ議長。組織運営に金が必要なことぐらいあなた自身よくわかってらっしゃるはずです。そもそも、あなたは一文も金を払っていないではありませんか。あれらは全てプラント市民の血税でしょうに」
「確かに君の言う通りだな。いや、すまなかったね。君には感謝しているんだよ。まあ、これからもよろしく頼むよ」
シーゲルはロイに礼を言い、通信を切った。そして再びタブレットの画面が黒へと移り変わった。
「ルーク、本国にヘリオポリスが崩壊したことを報告しておいてくれ。理由はテロリストがザフトから奪ったジンを使ってコロニー内で暴れたからとでもしておいてくれ。俺の名義で報告すれば国も納得するだろう。それと、市民を騙すための加工映像も頼む」
「了解です」
ルークは、もの言わなくなった通信用タブレットを片付けながら返事をした。そして、ルークはふと思い出したかのようにロイに質問した。
「そういえば主任、あのジンの武装にあるバッテリーパック式のビームライフルに関して少し気になることがあるのですが。何故組み立てもせずに放置しているのですか?」
「ああ、あれか。本来ならば組み立てても問題は無いが、これからこの船が向かう先が少し面倒でな」
「向かう先ですか……。確かこの宙域でこの船が向かうべきは月ですよね。ですが、今この船はクルーゼ隊に追いかけられていますから、月に到着する前に落される危険性がかなり高くなりますね。そうなると、残された選択肢はアルテミス一択になるという訳ですね。……ふむ、そういうことですか」
ルークはアークエンジェルの行き先がアルテミスであると予測するとすべてを理解した。
宇宙要塞アルテミスは光波防御体、通称アルテミスの傘の防衛能力や、それ程重要な拠点ではないという理由から、今までザフトに落されることのなかった不沈要塞という信頼がある。
確かに、追われの身のアークエンジェルとしてはこれほどまでに都合の良い拠点はないだろう。しかし、組織の悪癖である内輪揉めが原因でマリューやムウは入港を躊躇っていた。
その内輪揉めというのも、地球連合軍は元々多数の国家群から成り立っている組織であるため、結束力がそれ程強くない。
その証拠にアークエンジェルやG兵器の開発はユーラシア連邦には内密で大西洋連邦とオーブが結託して行っていた。
これらの理由があり、未だIFFにも登録されていないアークエンジェルをアルテミスに入港させた場合、その情報を狙ってユーラシア側がアークエンジェルのクルーを拘束するだろうことは確実だった。
そして、そのついでとばかりにロイ達が改修したジンも押収されることも目に見えていた。しかし、ジンにはロイが完全に新規のOSを書き上げ、外部からの侵入に対するロックも万全の為、情報を抜き取られる心配は無いが、先程ルークが言っていたビームライフルは別である。
小型化されたビームライフルは今のところどの勢力にとっても喉から手が出る程欲しいものの一つでもあり、いくらビームライフルに堅牢なロックを掛けようとも、それが回収され分析された場合、時間さえあれば必ず突破される。
しかし、ロイが恐れているのは情報の漏洩ではなく、単に押収された物が二度と返却されることがなくなるということである。仮に押収でもされようものなら、ロイはビーム兵器を一切使わずにこれからの戦況を潜り抜けなければいけなくなる。ロイであれば、それは不可能ではないが難易度が跳ね上がるであろうことは誰にでも想像できることである。
故に彼はアルテミスに入港するまでに再び戦闘が行われることを知りながら、未だビーム兵器を組み立てようとしないのである。
「別にビームライフルが無くてもGAT-Xシリーズ程度なら倒せるさ。なんせ、あれらの弱点は造った俺達が一番知っているんだから」
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ジンの調整もすべて終わり、ロイ達が一息ついたところで艦内の警報が鳴り、第一次戦闘配備が言い渡された。連合の整備士達が慌ただしくし始めてすぐにマリューから通信が入った。
「ロイさん、ジンの調整は終わりましたか?」
かなり緊張した様子の彼女は、よほど状況が悪いのか、まるでそうであってくれと祈るようにロイに問い掛けた。
「ええ、終わってますよ。武装を装備すればいつでも出れます」
「そうですか、でしたらあなたもパイロットスーツに着替えてコックピットで待機していてください」
「了解です」
ロイが通信を切ると、ルークがロイのパイロットスーツを手にして現れた。
「OSの起動と武装の装着は私がやっておくので、先にこれに着替えて来てください」
「ああ、ありがとう。頼む」
ロイは手渡されたパイロットスーツを持ち、駆け足でその場を去った。
暫くしてロイがオーブ製の黒い専用パイロットスーツを着込んで再び格納庫に戻ってくると、メビウス・ゼロの近くにいたムウがロイの存在に気が付き近づいて来た。
「ロイ、MSに乗るだとか言ってたがお前本当に乗りこなせるのか?」
「ああ、一応試作機だけど、地球にいた時もかなりの時間MSは乗り回してたから大丈夫だよ兄さん」
「それじゃあ、対MS戦闘の経験はあるのか?」
「いや、無いよ。けど、実戦は一番の訓練ってよく言うだろ?」
「それは、ある程度経験のある奴に対しての言葉だろ」
ロイは飽きれた様子のムウの言葉に返事をしながらストライクのコックピットで整備長のマードックと言葉を交わしているキラを見た。
「まあ、あのキラにも出来たんだ。同じ人間の俺に出来ない筈はないさ」
「はぁ、お前なぁ……」
「それで、状況は?」
「今この船がアルテミスに向かっていることはお前も知ってるよな。残念ながらクルーゼの奴にそれが読まれてナスカ級に先回りされてる。結果的に後ろにいるローラシア級との挟み撃ち状態に陥ったというわけだ。一応作戦では俺がメビウスの慣性航行で先行してナスカ級に強襲を掛ける。そして動けなくなったナスカ級をこの船の砲撃で落として全速力でアルテミスに逃げ込むって算段だ。その間お前とあの坊主にはこの船の護衛に着いてもらう。何か質問はあるか?」
「いや、特に無いよ」
「よし、なら頼んだぞ。それと、絶対に死ぬんじゃ無いぞ」
「それこそお互い様だよ」
笑顔で言葉を交わした二人はそのままコックピットへと移動して行った。
「主任、ジンの武装はバズーカ砲とアサルトライフルで良かったんですよね」
「ああ。確かバズーカの弾数は5発だったな」
ロイはジンのコックピット内で最終チェックを行いながらルークに尋ねた。
「ええ、ですが主任にとっては5発もあれば十分でしょう」
今回、ジンにビーム兵器は積まないため自ずと実弾兵装のみとなる。それ故、ジンの総重量は若干重くなってしまうが、それを加味した上でも、このジンに搭載された新しいスラスター系統が破格の性能の為、そこまで戦闘には影響しない。
その新しいスラスターの概要だが、彼らがしたことは単にスラスターの内部構造やノズル部分をすべてフェイズシフト展開可能な特殊な金属で作り上げただけに過ぎない。だが、それによりスラスター内部の耐熱性や推進剤の莫大な膨張力に耐え得る堅牢さが飛躍的に向上したことに比例してスラスターの出力も、従来の物よりも圧倒的に増加した。
そもそも、スラスターというのはジェットエンジンと同じ仕組みで、取り込んだ空気や推進剤を加熱し膨張させて、それを運動エネルギーに転用して飛行するというものだ。言ってみれば、熱とそれに耐えられる容器さえ強化すればスラスターの性能はどこまでも上がる。
そして、その問題の推進剤に与える熱量はと言うと、ジンにはGAT-Xシリーズと同じバッテリーを使用している上、PS装甲自体、スラスター内部にしか使用していない為、電力の殆どをスラスター内部の加熱に回すことができたことで、エールストライカーのスラスター内部よりも高温なものとなっている。
この、スラスターの推進力だけで機体を無理矢理飛ばすという航空力学を完全に無視した脳筋な発想によって、この改修型ジンの大気圏外での最高速度と最大加速度は現行のMSすべてを凌駕していた。
ロイがコックピットハッチを閉めたあと暫くしてから格納庫の減圧が始まり、メビウス・ゼロ、ストライク、ジンの順番でカタパルトデッキへとハンガーごと移動させられていき、それぞれが順次発進して行った。
ストライクがエールストライカーを装備してカタパルトから射出された後、ジンの番が回って来た。
「そういえば宇宙でのMS操作は初めてだったな、俺。まあ、地球よりも簡単だろうからどうにでもなるか」
どう考えてもMSの操縦を嘗めた発言をするロイにブリッジから通信が入った。
「ロイさん、今回からMS兼MAのオペレーターを担当します、ミリアリア・ハウです。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」
「作戦の内容は把握してますか?」
「大丈夫だ」
「了解しました。それではジン、発進してください。ご武運を」
「了解。ロイ・ネ・フラガ、ジン、出るぞ」
ロイがジンを屈伸させると、カタパルトが勢いよく滑り出し、機体を暗く、広い宇宙空間に放り出した。
ロイが一気にフットペダルを踏み込むと、ウィングスラスターがそれに応えるかのように一拍の加熱を経て、推進剤独特の青白い光を最大限まで撒き散らしながら機体を爆発的な加速をもって推し進め出した。
ロイは体に掛かる強烈なGを感じながら機体を縦横無尽に動かし、宇宙という広大な空間にその鋭い感覚を適応させていくのだった。