「くそっ!どうして当たらない!!」
イザークは焦っていた。
ビームの雨を無駄の無い動きで潜り抜けて接近してくるジンを見て、彼の中の苛立ちが更に大きくなりはじめていた。
火器管制システムがジンを捉え、ロックオンする。その瞬間に撃つ。
外れ
ジンが避けるであろう方向に向けて予測射撃する。
外れ
ならば何発も連続で撃ち込んで面制圧を……。
外れ
「なんなんだよあいつは!」
まるで、自分が撃つ場所を知っているかのように避けていくジンに歯噛みした。予測射撃をすれば機体の進行方向をずらして避けられ、ロックオンしてトリガーを引いた瞬間には既に回避行動に入られている。だからと言って撃たなければ避けない。
そうこうしている内に距離を詰められたイザークは一旦撃つのを止めて、ライフルを腰にマウントし、ビームサーベルを抜き放った。
「こうなったら近接戦で方をつける!」
そんなイザークの闘志に応えるかのように、ジンもまた、デュエルに突進を掛けてきた。
「俺にはバスターと同じ戦法は通用しない。ナチュラルめ、それは悪手だ!」
イザークは尚も接近してくるジンを見て嗤った。彼は、ジンが先程バスターに仕掛けたのと同じ突進を仕掛けてくるものだと信じて疑わなかった。所詮はナチュラル、その程度の能しかないのだと、あまりにもナチュラルを見下し過ぎた。それ故、今構えているビームサーベルで、攻撃範囲に入った瞬間に斬りかかれば勝てるという安直な答えに至った。
だが、ロイを含め、普通のナチュラルですらそんな見え透いた攻撃を再び仕掛けるはずもない。それに、ビームサーベルを構えた相手に、なんの策も無しに突っ込むことなど、それこそあり得ない。
イザークはジンがビームサーベルの攻撃範囲内に入った瞬間にジンのコックピットを狙って胴体部へと斬りかかった。しかし、その刹那の間にジンは急激な軌道変更によってデュエルの横をすり抜けていった。
「なにっ!」
そして、デュエルが振り抜いたビームサーベルの軌道上にはジンが置き土産とばかりにパージしていったバズーカが残されていた。ビームサーベルはバズーカの丁度弾倉部分を切り裂いてしまい、熱により引火した砲弾の弾頭部や推進剤が詰まっていたロケット部分が大爆発を起こし、デュエルとジンをその爆炎で包み込んだ。
「イザークッ!!」
デュエルの援護に向かおうとしていたニコルは広がる爆炎によってデュエルとジンの姿を捉えることができずにいた。
「今の爆発でこちらも少しダメージが入ったが、駆動系には何も問題は無いな」
ロイは、爆炎に包まれたことによってデュエルの機影をロストしたジンのコックピット内で、機体の状態を確認していた。
ジンはデュエルと共に爆炎に呑み込まれたとはいえ、デュエルと比べて、爆心地点からは離れていた為、機体へのダメージは比較的軽微だった。
「さて、この煙が晴れる前に、もう一発攻撃をおみまいしてやるか」
確認作業を終えたロイはすぐに気をとりなおし、爆炎の中のデュエルの動きを予想しながら周りが一面赤色の中、機体を進め始めた。
ロイは持ち前の勘のお陰もあり、デュエルの背後を取ることに成功した。その一方でデュエルは爆散し燃え盛る固形燃料や液体燃料の炎に包まれ、未だジンの機影をロストしており、一度態勢を立て直すために、尚も薄れる様子の無い爆炎の中からの離脱を試みようとしていた。しかし、
「背中がガラ空きだぞ、コーディネイター」
ロイが、そう呟きながらアサルトライフルを背後から、デュエルの腰にマウントされてあるビームライフルに撃ち込んだ。
その瞬間、再びデュエルに爆炎が襲い掛かった。
デュエルのビームライフルには剥き出しになった1発のグレネードランチャーが装填されていた為、ジンのアサルトライフルの弾丸がそこに命中し引火したことで、エネルギーの塊であるビームライフルに中規模の爆発を起こさせたのである。
爆散したビームライフルの破片と熱は、機体のPS装甲に負荷を掛け、電力を大きく消費させた。そして、運もまたロイに味方したのか、破片の一部がスラスター内部を傷付け、ブースターに稼働不良を起こさせた。
「くそっ、後ろか!!」
耳障りなアラームが鳴り響くコックピット内でイザークは混乱していた。
何故こうも上手くいかないのか。カモを狩りに来たつもりが、逆にこちらが蹂躙されかけている。それも、ナチュラルが乗る量産機にだ。
敵がナチュラルであるということが更に、プライドの高いイザークの怒りに油を撒いた。
「くそがぁぁぁ!!」
イザークは機体を反転させ、目視で捉えたジンにビームサーベルで斬りかかろうとするが、先程起きたスラスターの動作不良により、思うように前に進むことができなかった。
そこに、バズーカの代わりに実体剣を装備したジンが再びスラスターを吹かせ、デュエルの懐に入り込んできた。イザークは接近してくるジンを斬り伏せようとするが、やはりジンには届かなかった。
ジンは振り抜かれたビームサーベルをその場で回転することで避け、回転の遠心力をそのまま左腕に装備されている実体剣に乗せ、デュエルのコックピット付近である横腹に叩きつけた。
重厚な金属の塊である剣による攻撃を受けたデュエルは姿勢を崩され、慣性の法則に従い飛ばされて行った。そして、ビームライルフを撃ちすぎたことや、2度の爆発を受けたこと、さらには決め手の実体剣による攻撃によって、デュエルのバッテリーは限界を迎えた。
青と白のツートンカラーからメタリックグレーの無機質な物言わなくなった機体の中でイザークは気絶していた。いくらPS装甲が機体を保護するといっても、衝撃までは殺してはくれない。したがって、実体剣によるあまりにも重い衝撃を受けた彼は意識を手放してしまった。
「イザークッ!!しっかりしてください、イザーク!!!」
ニコルはイザークの名前を何度も呼びながら、完全に無防備となってしまったデュエルを庇うために、当たらないことを承知でジンに向けてビームライフルを乱射しながら、デュエルのもとへ向けてスラスターを全開にした。
その甲斐あってか、ジンは狙いをデュエルからブリッツに変え、ビームを躱しながらアサルトライフルを撃ち返し始めた。
「アスランッ、聞こえますか!?」
ニコルは牽制を続けながらデュエルに近付き、アスランに通信を入れた。ニコルの通信に即座に応答したアスランは、キラが駆るストライクと交戦しつつもニコルのただならない様子をモニター越しに悟った。
「どうした、何があった!?」
「イザークとディアッカがやられました。ディアッカは先に戦線を離脱しましたが、イザークは意識を失っていて、エネルギーも底をついてしまい、完全に丸腰の状態です」
「イザークとディアッカが!?お前は大丈夫なのかニコル」
「ええ、僕は大丈夫です。ただ、僕もあまり余裕がありません。作戦は失敗です。僕はイザークをガモフまでなんとか連れて行きますから、アスランも離脱してください」
「そちらの撤退の援護には向かわなくても大丈夫なのか?」
「それくらいなら、なんとかしてみます」
「了解した、俺もここから今すぐ離脱してガモフに向かう」
アスランとニコルがお互いに情報を交換し合い、撤退し始めようとした時、デュエルを含めた3機のガンダムに、母艦であるヴェサリウスのメインスラスターが大破し、今すぐにこの戦線から離脱することが伝えられ、全機に撤退命令が下された。
「ヴェサリウスが被弾した!?」
ニコルは驚きと共に今回、自軍が敗北を喫したことを悟った。
ミッションの失敗による悔しさと、謎の改造型ジンに手も足も出なかったことの情けなさから、彼は顔を顰め、歯を噛み締めた。
「だけど、なんとかガモフまでイザークを守り切らないと」
ブリッツは相変わらず動く気配のないデュエルの腕を掴み、残り少ないバッテリーを気にしつつ、ビームライフルをジンに向けて撃ちながら後退していった。
「追撃はしてこないのか……」
ニコルは、攻撃を加えてこないジンを確認して張り詰めていた緊張から解放され、一つ溜息を吐いた。
「よかった、なんとか全員無事に帰れそうだ」
そう言う彼の顔は、酷く疲労を含むものだった。
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「与えられた子供は、与えた親を満足させる為に、目の前で愉快に戯れてみせる」
アークエンジェルのローエングリンによって推進機が損傷し、戦線から一時撤退を余儀無くされたヴェサリウスの艦橋で、ラウ・ル・クルーゼが呟いた。
「何です、それは?」
そんなクルーゼの意味深な発言が気になったのか、艦長のアデスがクルーゼに問うた。
「なに、今回の我々は健気な子供役だったということだ」
「はあ……」
アデスはクルーゼの曖昧な返事を聞いて、明確な答えを得ることは不可能だと悟り、話題を先の戦闘のことに移した。
「それにしても、アスラン以外の3人が鹵獲されたジンによって返り討ちに会うとは意外ですね。そもそも地球連合にMSをまともに操縦できる者がいたことに驚きです」
「確かにナチュラルはコーディネイターよりも劣ってはいるが、すべてがそれに該当するという訳でもない。中には突然変異体のように、コーディネイターよりも優れたナチュラルが出現することもある。実際、コーディネイターを最初に創り出した天才も、自然より産み落とされたナチュラルなのだからな」
「自らが創り上げた被造物の力を妬み、やがて手を噛まれた造物主。皮肉なものですな」
アデスは最後にそう呟くと、再び艦の指揮へと意識を集中させた。その為、クルーゼが微かに笑みを浮かべていることには、終ぞ気が付かなかった。
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「お疲れ様です、主任」
作戦が終了し、アークエンジェルの格納庫へと帰投したロイはルークから水が入ったボトルを手渡された。
「ああ、ありがとう」
それを受け取った彼はストローで水を吸い上げ、少し口に含んだ。
「それにしても、量産機のジンでGを3機も相手取るとは流石ですね。あのジンは確かにスピード面は強化されて速くはなりましたが、あれ程の操縦技術を持つ人間はコーディネイターにもそうはいませんよ」
「お前にもできるんじゃないのか?」
「確かにそれなりの機体、例えばあのストライクにでも乗れば出来なくもないとは思いますが、追従性や操作性の自由度で圧倒的に劣るあのジンでは流石に無理ですよ」
ルークは整備班の人員達がジン、ストライクの周りで作業している様子を見ながら若干呆れの色を伺わせた。
「まあ、何はともあれだ。ジンの整備が終わり次第、起動プログラムのロックやその他の機密保持の工作に取り掛かってくれ」
「了解です」
「それと、今回の戦闘で得られたそれぞれのG兵器の戦闘データを解析しておいてくれ。ジンのカメラで追っただけの情報しか無いとは思うが、それぞれのカタログスペックとの誤差を基にデータを再計算すれば正確な情報が得られるはずだ」
「ええ、お任せください」
それだけ言葉を交わすと、ロイはヘルメットを小脇に抱え、格納庫の出口へと歩みを進めた。
そこへ、同じく格納庫の出口に向かっていたムウがロイの存在に気付き、話しかけてきた。
「ロイ、聞いたぞ。お前、あの3機を撃退したらしいな。我ながら、お前が本当に俺の弟なのか疑いたくなるぜ」
そう言うムウの顔はとても嬉しそうに綻んでおり、まさに弟の活躍を聞いて喜ぶ兄のそれだった。
「ああ、兄さんも無事で良かったよ。正直、キラを含めて出撃した俺たち3人の中で一番死ぬ確率が高かったのは兄さんだったから心配してたよ」
ロイは皮肉めいた笑みを浮かべながら、冗談を零した。
「おいおい、言ってくれるじゃねえか。ちょっと活躍したからって調子に乗ってると真っ先に死んじまうぞ」
そんなロイの挑発を歯牙にもかけず、ムウもまた軽い冗談で返した。
「……俺にはまだ、この世界で為すべきことがある。それを達成するまでは死なないし、死ぬつもりもない」
そんな2人が並んで歩いて行く様は、まさに理想の兄弟像と言えるものだった。
久しぶりにseedを見直して思ったこと
回を追うごとにイザークがボキャ貧になっていき、段々と戦闘中に発するセリフの種類が「くそ」に統一されていく……。
ただ、seed destinyでは、その役目をシンが引き継いだ模様。