機動戦士ガンダムSEED 自然発生の天才   作:ただの粒

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第7話 策の交差

アルテミスから脱出したロイがアークエンジェルに合流して暫くした頃、ヴェサリウスでプラントへと帰還していたラウ・ル・クルーゼとアスラン・ザラの二人はプラント最高評議会の臨時査問委員会への出頭を命じられていた。その表の理由として、オーブの資源コロニー、ヘリオポリスが崩壊した際にクルーゼが遂行した作戦に問題があったのではないかという疑問の声が一部の穏健派の議員から上がった為である。

 

そして、裏の理由としてはアスランの実父でありプラント評議会国防委員長でもあるパトリック・ザラが急進派としての立場において、クルーゼ隊が鹵獲、運用しているMSの卓越した性能をアピールし、それがいかに切迫した脅威であるのかという危機感を煽り、穏健派を封じ込めようとしていることが挙げられる。

 

「ヘリオポリスの件について、オーブからは特にこれといった賠償などは請求されていません。ただ、MSの管理体制について問題があるのではないかということを長々と述べた文書が数件届いています。まあこれは批判しているという姿勢を見せるためだけのものでしょうから無視してしまっても問題ないでしょう」

 

かなり広い会議場の中で多数のプラント評議員達が円状に向かい合って議論を行っている内に、議題がヘリオポリスの件へと移った。

 

「確かオーブの行政府はヘリオポリスが失われた原因がテロリストによる武力行使であると声明を発表していたな」

 

「だが、実際は我々の軍が動いた結果だと聞いているが」

 

「それをはっきりとさせる為に彼らを呼んだのだろう?」

 

全員の視線がクルーゼとアスランに集まったところで、議長であるシーゲル・クラインがクルーゼの発言を許可した。

 

「おっしゃる通り、我々はヘリオポリス内で地球軍と交戦しました。まずその目的として、ヘリオポリス内で開発されていた地球軍の新型MSの奪取が挙げられます。故に、我が隊による先の行動はヘリオポリス自体を攻撃することが目的のものではなかったということをご報告いたします」

 

クルーゼが簡潔に報告し、充てがわれていた席へと戻ると評議員達が困惑した様子で各々しゃべりだした。

 

「やはりオーブは地球軍と手を組んでいたか」

 

「これだから地球に住む者の言葉は信用できんのだ」

 

「では今回の彼らの対応は一体どういうことだ?」

 

段々と騒がしくなっていく中でシーゲルが声を上げた。

 

「皆さん静粛に。今回の件、恐らくは我々とオーブ双方に利があると判断してのことでしょう。世間に公表される筋書きはこうです。テロリストが我々ザフトから奪取した機体を用いた混成部隊がヘリオポリスを襲撃した。その後、付近を偶々航行していた我々の戦艦がテロリストの撃退に成功。まあ、ひどい三文芝居ではありますが、民衆に事実を知る術はありませんし、それで納得する他ないでしょう。ですが、これならば我々は世論の非難を浴びずに済みます。無論、地球軍に与していたオーブもですが」

 

シーゲルの論に対して急進派の一人が反論をした。

 

「だが、正当性はこちらにある。奴らは条約を無視し、地球軍に与していた。これは十分に攻撃する理由になるのではないか?国民にも真実を伝えれば賛同が得られるはずだ」

 

「これ以上敵を増やしてどうするおつもりか。オーブの技術力はもはや我々と比べて遜色ない程だと聞く。もしそれらの技術が表立って連合側に流されでもすれば、それこそ我々に勝ち目などなくなる。寧ろ、彼らと手を組むことを考えるべきだ。それと、この件についてもう一つ。我々は対応が遅すぎた。この映像が先日地球上で流され時点で我々にはもうどうすることもできはしない」

 

シーゲルの言葉と共に大型のディスプレイにMS同士の戦闘映像が流される。その内容は、複数のジンと所属不明の戦闘兵器がザフト側のジン数機と激しい白兵戦を行っているというものであった。それは先ほどシーゲルが語った内容と一致しており、一見するとザフト製のジンがコロニーを破壊しているようにも見えるが、その中にはご丁寧にも連合製のメビウス数機までもがヘリオポリスを攻撃している様子までもがはっきりと映り込んでいた。この映像だけを見ればテロリストによる攻撃ということが一番自然であり、信憑性も確かなものと思えるだろう。

 

「これは本当に事実とは違うのだな、クルーゼ隊長」

 

評議員の一人がクルーゼに確認した。

 

「はい、我々がこのような作戦行動をとった事実はありません」

 

評議員達は事態が既に彼らの考えていたところよりも、かなり先へと進んでいることを理解し、シーゲルが言うようにオーブの対応に沿った姿勢を見せるしかないと悟った。だが、彼らに一つ勘違いがあるとすれば、それはオーブが意図してこのような状況を作り出したということを信じきっていることだろう。

 

これはロイがシーゲルと結託しておこなった情報操作の結果であり、騙された側にはオーブの行政府も含まれている。ロイがヘリオポリス崩壊を他の誰よりも先んじて報告する際に、評議員達が見せられたものと同じ映像を添付していた。それによって、テロリストがヘリオポリスを襲撃したことに間違いはないだろうと、真実を知らない行政府内の者達は信じた。一方、G開発計画に一枚噛んでいた者達は映像の中からGシリーズの存在を認めるものが一切映っていなかったことに胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

だが、事態はそれだけでは収まらなかった。というのもオーブ本国では更に奇妙なことが起きていた。突如としてヘリオポリス襲撃を行ったと宣言した組織がオーブによるエネルギー、技術の独占に対する制裁を掲げた声明を発表し、武装した集団が相次いで蜂起する騒ぎになった。それによってオーブ政府は対応に追われ、ヘリオポリス崩壊の正確な原因を調べる余裕を失った。そして、テロリスト達の表立った行動は同時にロイが送ってきた加工映像に信憑性を付加した。

 

もう少し時間を掛けて事故原因を探っていれば或いは今回の件の真実に辿り着けたのかもしれないが、問題の武装蜂起の規模が異常だった。ある集団はどこから持ち出したのか、地球連合に標準配備されているリニアガン・タンクを街中で乗り回し、行政府の中枢機関が密集する地区を破壊した。

 

それを受けたオーブ政府が軍に制圧要請を出し、同型のリニアガン・タンクによる制圧を行った。だが、それらの鎮圧間近になって自称テロリスト側の増援に3機のジンが現れた。それらは港区方面から飛来していたことから、事前に港のドックに搬入されていたことが判明し、この武装蜂起がかなり以前から計画されていたことをうかがわせた。それと同時に、オーブの国境警備の杜撰さも露呈した。

 

それらの3機が現れたことでオーブ軍に配備されていたリニアガン・タンクだけでの応戦は難しいと判断した行政府の中枢機関がウズミ・ナラ・アスハにある助言をした。その助言というのはモルゲンレーテ社が開発しているというMSの出動要請であった。

 

現在モルゲンレーテ社が開発しているMSは主に2機存在している。1機はウズミの派閥が主に籍を置く設計部を中心に開発している機体、MBF-M1通称M1アストレイである。そしてもう一機がロイを主任とした技術研究部が中心となって開発している機体である。こちらは正式にオーブからの援助を受けていないため、海外の企業、財閥などから資金を調達している。実質的には癒着関係が形成されており、オーブが求める設計思想から多少逸脱した機体が建造されているのが現状である。

 

官僚の助言によりウズミがモルゲンレーテ社のMSの動員を決断したところで、一つの問題が生じた。それは一体どちらのMSを動員するのかということである。普通に考えれば、どちらの機体も稼働させてテロリストの制圧に充てるところではあるが、今回の件に関しては政治が大きく関わってくる為、ウズミとしては純国産と言えるM1アストレイを使い、外の組織との繋がりが深いロイの陣営を押さえ込みたかった。だが、現実としてM1アストレイはナチュラル専用のOSの完成を待っている状態であり、現状ではまともに稼働させることが難しいのである。一方で、ロイが所属する技術研究部が開発したMSは既に稼働試験を終えて実戦を待つのみであった。結果としてウズミはモルゲンレーテ社設計部の威信よりも国家の安全を取り、技術研究部のMS1機により3機のジンを撃破した。この事実が今後の戦争事情に影響を齎したが、その話は後にしよう。

 

 

今回問題となった、ヘリオポリス襲撃を行ったと声明を発表し、オーブの首都、オロファトでテロ活動を行った集団というのはロイが裏で支援、扇動をした小規模な武装勢力であった。彼らは元々他国の人間で、ザフトが散布したNジャマーによる自国のエネルギー不足が原因で引き起こされた治安の悪化によりオーブに密入国してきた犯罪者の集団であり、近日中にオーブ内で何らかの行動を起こす計画を立てていた。だが、その情報を随分と前から掴んでいたロイが、今回のヘリオポリスの件に利用するついでに使い潰したのである。オーブから密入国者を減らすついでに面倒事も片付く。更に、これらの武装集団の出現が、本来ならば存在しないはずの、ヘリオポリス崩壊の原因となったと発表されているテロリストの存在に信憑性を帯びさせた。ヘリオポリス崩壊とオロファトでの武装蜂起に直接の関係はなくとも、武装していたという共通点により、人々はあっさりとテロリストの存在を認めたのである。更には声明を発表した者たち自身がヘリオポリス崩壊との関係を認めていたこともあり、最早疑う者など出るはずもなかった。

 

「とにかく、オーブの件は今は迂闊に手を出すべきではない。しばらくは静観ということでよろしいか」

 

シーゲルが議員を見回し、誰も反対の意を唱える者がいないことを確認した。

 

「それでは次の議題、地球軍が開発したという新型MSについてだ。ザラ国防委員長」

 

パトリック・ザラが立ち上がり、クルーゼとアスランの方へと顔を向けた。

 

「クルーゼ隊長、先の君の説明にあった地球軍のMS、果たしてジン数機を失ってでも手に入れる価値のあった物なのかね?」

 

「その驚異的な性能については、取り逃がした最後の一機と交戦経験のあるアスラン・ザラより報告させて頂きたく思います」

 

パトリックがシーゲルに視線を向け、アスランの発言の許可を促した。

 

「アスラン・ザラよりの報告を許可する」

 

シーゲルの許可により、アスランがGシリーズの説明を始めた。

 

アスランが映像と共に解説したGがあらゆる面でジンを上回る性能を備えたMSであることを理解した議員たちの意見は、徐々に急進派寄りのものへと傾いていった。流石に、穏健派から急進派に寝返るような者はいなかったが、急進派の意見が着実に力を持ってきていることを、その場の誰もが感じた。それはパトリックとクルーゼが望んだことであり、ロイもまた同様に望んでいた通りのことでもあった。

 

 

 

 

 

 

一方、アークエンジェルはヘリオポリスから一度も補給を受けられずにいたことが影響して慢性的な水不足に陥っていた。

 

「俺たちはこれから月へのルートをとる際にデブリベルトを通過する。そこで諸々の物資を補給する予定だ。そこではお前にもジンでの船外活動を手伝ってもらう」

 

ムウがアークエンジェルのこれからの予定をロイに説明した。

 

「了解。そういえば、今いる宙域から月への最短のルートを通る辺りには丁度ユニウス7が漂ってるはずだったが……」

 

「何?それは本当か?」

 

「ああ、ユニウス7の軌道は逐一こっちでも追跡していたからね。仮にもあんな巨大な物体が質量兵器にでも転用されれば地球は壊滅するから」

 

ロイの言葉を聞いて、ムウは少し考え込む仕草を見せた。

 

ユニウス7の残骸から必要な物資を補給すればアークエンジェルの水不足が解消されるのはほぼ間違いない。だが、倫理観がそれを邪魔する。ムウは現実的な思考が出来るため、そのこと自体に否は無いが、他のクルー達が反対する可能性がある。

 

「お前はユニウス7からの補給には反対か?」

 

ムウが横目にロイに問う。

 

「まさか。今は戦時下だ。俺は聖人君主の教えよりも自分の命を優先する人間なんでね」聖人君主→聖人君子

 

ロイは手をヒラヒラ振りながら馬鹿馬鹿しいといった表情を浮かべた。

 

「まあ、最初からお前が反対するとは思ってなかったが。それと、アルテミスからここまで一睡もしてないんだろ?ストライクとジンの整備が終わったらお前もしっかり休めよ」

 

ムウはそれだけ言い残すと、MSが収納されているハンガーから出て行った。

 

ロイはというと、ストライクから回収したこれまでの戦闘データをジンにフィードバックする作業に追われていた。二機は同じMSという括りとは言え、規格が根本から違うため、色々と対応させるのに時間が掛かっていた。その他にも、ストライクで試験的に運用した新規のOS で、ジンに対応させたものを上書きし、調整したりと、やることが多く、ロイはかなりの時間を不眠で過ごしていた。

 

ロイはナチュラル離れした頑健な身体を持っているため、長い時間眠らずとも、大して支障をきたしたりはしないが、人間であることに変わりは無いため限界は勿論ある。ロイ自身も自分の限界を正確に把握しているため、ムウに促されずともその時が来れば休む予定だったが、実の兄に心配されたとあらば、それを無碍にする理由も無いため素直に作業を部下達に引き継ぐことにした。

 

「良いお兄さんですね」

 

近くでムウとロイの会話を聞いていたルークが言った。

 

「ああ、人間として出来上がってるよ、あの人は。俺も見習いたいものだ」

 

ロイは自嘲気味に鼻を鳴らすと、引き継ぎの行程を手短にルークに説明した後、当てがわれていた部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

臨時査問委員会が終わった後、会議場から出たところでパトリックがクルーゼに今後の行動方針を伝えていた。

 

「クルーゼ、次のヴェサリウスの出港の際には3人ほど補充要員として充てる。その中にはゼニット・スチュアートも同行するが、お前の指揮下に配属する。MSも通常のジン2機に加えて奴のシグーも積み込む予定だ。今後の補充は暫くは無いと思え。我々の人員不足は深刻だということを努々忘れるなよ」

 

「了解しました、閣下。それにしても、彼がプラントに帰還していたとは。確か月のプトレマイオス基地攻略の部隊にいたはずでは?」

 

「いつまでも睨み合いだけのために貴重なエースパイロットを遊ばせておくわけにもいかんからな。それに、これはMSの新機構の性能実験も兼ねている」

 

「成る程、それでは積極的に彼を使えば宜しいので?」

 

「ああ、勿論だ。それと、これはまだ公式な発表がなされていない情報だが、シーゲル・クラインの息女、ラクス嬢を乗せた民間船がユニウス7付近で連絡を絶った。緊急に調査隊が派遣されたが、その内の偵察型ジンの消息も絶たれたため、お前の部隊には本格的な救難隊として向かってもらうことになる。出発の予定が早くなることを加味して準備しておけ」

 

「了解しました」

 

パトリックは言うことだけ言うと、クルーゼの前から去っていった。クルーゼはそれをただ見送るだけだった。

 

一人残されたクルーゼは、おもむろに会議場の目の前に鎮座してある巨大な化石を見遣った。それは一見クジラの化石の様にも見えるが、鳥類の翼に類似した骨格も付随していた。

 

エヴィデンス01

 

通称宇宙クジラ。人類初のコーディネイター、ジョージ・グレンが木星探査の際に発見、持ち帰ったそれは堂々とした居住まいでクルーゼを見下ろしていた。

 

この化石を見る度にクルーゼは過去にロイが言った言葉を思い返していた。

 

「恐ろしい、か」

 

この化石を初めて見たロイは地球外生命体の痕跡に好奇心を刺激されたわけでもなく、確かに恐ろしいと言ったのだ。その言葉が純粋な恐怖によるものだったのか、未知への畏怖なのか、それとも別の何かなのかは知らないし、今後も聞くつもりもなかった。だが、その一言でロイの根底にあるものが見えたのも事実であった。

 

クルーゼは口の端を吊り上げ、踵を返すと自らも遅れて外へ向けて歩き出した。

 

「私の初期衝動と比べると、随分と高尚なものだ」

 

彼の素顔は仮面に覆われ、窺い知ることは不可能であったが、その表情が笑みに包まれていたことだけは確かだった。

 

 

 

人が去った後もなお、その証拠は静かに、そこに在り続けるのだった。




今回、新たに名前だけオリキャラが登場しましたが、主人公がチート無双の超人であることに変わりはないということをここに記しておきます。

次回は今回の話の中で語られたオーブの状況について不明瞭だった部分の補足を踏まえつつ物語を進めていく予定です。サイドストーリーというよりは、本編の裏側という感じの話です。
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