「一体何が起きているというのだ……」
オーブの首都であるオロファトに構えられた行政府の会議室に、ウズミ・ナラ・アスハをはじめとした閣僚たちが顔を向かい合わせていた。
その中の一人が声を震えさせて呟いた。
「なぜテロリストごときがこれ程までの戦力を保有しているのだ。リニアガン・タンクだけでも異常だというのにジン3機など、もはやそこらの小国よりも戦力を持っていると言わざるを得ない。彼らは本当にテロリストなのか?もしやテロリストに扮したザフトということはないのだろうな」
テロリストが声明を発表してまだそれほど時間が経っていないにもかかわらず、その男の顔は憔悴仕切っていた。だが、それも仕方のないことだろう。
順を追って説明していこう。
ヘリオポリス崩壊のニュースが届けられて間も無く、突如としてあらゆるメディアがジャックされたのである。テレビ、ラジオといった公共のメディアは言うまでもなく、インターネット上にまで声明の様子が流された。その時点で、犯行を行ったと目されるその組織にはかなり情報戦に長けた者が所属していると簡単に予想できた。
その映像の中で自らがテロを扇動したとする一人の見すぼらしい風貌の男が、ヘリオポリス崩壊時の映像を背に語った内容が以下の通りだった。
ザフトが地中に撃ち込んだNジャマーによって世界中の国々がエネルギー不足に陥り、その国民たちも厳しい生活を強いられている。だからこそ世界中の国々は手を取り合い、団結して宇宙の化け物、コーディネイターを滅ぼさなければならない。だが、その意志に反してオーブ連合首長国は中立を貫いている。だからオーブ連合首長国の保有する資源コロニーヘリオポリスを破壊した。次は即刻武力を以ってオーブ連合首長国の首都に制裁を下す。
普通の感性の持ち主ならば、何を馬鹿なと口を揃えただろう。例えテロリストが語ったような厳しい生活を強いられている者たちでも現在の理不尽な状況に対して憤りを感じることはあっても、難民の受け入れに寛容で、他国に支援も十分に行っているオーブに対して悪い感情を持っている者は少なかった。
一方、オーブ行政府はテロリスト達の声明の後、すぐにテロリストとヘリオポリスとの件の関係性を洗い出そうとした。ヘリオポリスが崩壊した原因に、ザフトと所属不明の部隊がコロニー内部で行ったMS同士の戦闘があったとロイからの報告があった為、その関係の有無を究明することが急務とされた。しかし、そんな余裕をテロリスト側は与えなかった。
オーブの各省庁が関係各所に確認を行い始めたすぐ後に、行政府に近い場所で爆発音が鳴り響いた。3両のリニアガン・タンクが街中で無秩序に砲撃を繰り返していたのだ。その騒動に対し、ウズミの命令によりオーブ軍が早急に動いた。具体的にはテロリストが使っているものと同じリニアガン・タンク10両を用いて一網打尽にした。オーブ軍とテロリストでは練度の差が明確であり、何よりも数の差が圧倒的であった為テロリスト達は一瞬で瓦解した。テロリスト側のリニアガン・タンクに随伴していた少数の歩兵達はオーブ側による砲撃の際に木っ端微塵となっており、生きている者は誰一人として存在しなかった。
そこで、テロリスト達による武装蜂起は収まったものと思われていたが、そこに完全に出遅れた形となった増援がテロリスト側に到着した。
3機のジンが飛来し、撤収作業に移ろうとしていたリニアガン・タンクの部隊を襲撃したのである。再び蹂躙劇が再開し、ものの一瞬で終了した。先ほどとは形成が完全に逆転した形でそれは行われたのである。
そして冒頭に戻る。
「兎に角、今重要なのはテロリスト達の正体についてではない。あの3機のジンをどうやって撃退するのかということが先決だ」
ウズミが騒がしくなりつつある会議室の中で、決然とした態度で言った。
「既存の兵器で太刀打ち出来ないのであれば、モルゲンレーテで開発が進んでいるというMSを投入してみては如何でしょう。既に機体は完成していると耳にしましたが」
一人の閣僚がウズミに提案した。その提案は現材の緊迫した状況を打破するのには最も有効な手段だと誰もが思った。
「しかし、M1アストレイは未だソフトの面が未完成だとも聞く。出撃は流石に無理があるのではないですかな。確か、モルゲンレーテはもう一機MSを造っていたはずでは?」
「あの機体はもはや我々の手を離れたものだ。フラガの小僧が外部から技術者や研究資金を調達して造った機体だ。そんなものを使ってしまっては我々の面子が丸つぶれだ」
「しかし、現状どうすることもできまい。今回の戦争で中立を掲げた我々がテロリストごときに敗北したなどという事実を残してしまっては、この国の独立性までもが脅かされかねない」
再び閣僚たちが各々議論を交わし始めた。そんな彼らの意見は、はっきりと二つに分かれていた。一つがロイたち技術研究部が開発した機体を使用してテロリストの鎮圧に当てること。二つ目が、多数のリニアガン・タンクを投入し、圧倒的な物量をもってしてこれを鎮圧するということだ。そして、その最終的な意思決定は国の首長であるウズミに委ねられた。
「我々、国の代表は国民の安全を保障する義務がある。そこに政治的駆け引きを持ち込むべきではない。私はそう考えている。無論、モルゲンレーテ技術研究部と外国資本との癒着は問題ではあるが、現状を打破するためには彼らの機体を使用することが最も確実性に足る選択だと判断した。よって、これよりモルゲンレーテ社にGMS-01、ジェネライズの出撃要請を行う」
このウズミの号令により、オロファトの戦況が再び逆転することになる。
テロリストが跋扈するオーブ本島、ヤラファス島から少し離れた島、オノゴロ島はオーブの軍事の中心地である。MSやその他の兵器が多数収容されている地下には勿論のことながら、MSのパイロットたちが詰めている場所がある。そこにある一つの待機室でオーブ軍のパイロットスーツに身を包んだ一人の男が落ち着きのない様子で備え付けの椅子に座っていた。俯き加減の彼は灰色にカラーリングされたヘルメットを抱えながら、しきりに貧乏ゆすりを続けていた。それはひどく焦っているようにも、緊張しているようにも見えた。
そんな折、部屋に備え付けられていたスピーカーからアナウンスが入った。
「GMS-01のパイロット、バリト・ローレンスは直ちに乗機へ移動し、待機せよ。繰り返す、GMS-01のパイロット、バリト・ローレンスは直ちに乗機へ移動し、待機せよ」
そのアナウンスを聞いたバリト・ローレンスと呼ばれた男は幾度かの長い深呼吸を経て部屋の出口へと向かった。
バリトがMSの格納されているハンガーに到着すると、彼が乗る予定の機体の隣に彼が見たことのないMSが静かに佇んでいた、その機体は黒一色に塗装されており、彼に底の知れないような冷え冷えとした恐怖を与えた。そこで男はふと我に返り、呟いた。
「落ち着け、ただ緊張しているだけだ。そうだよ、何度もシミュレーションでやったじゃないか。あの通りやれば何も問題ない。こんなことで萎縮するような俺じゃない」
そう言ったバリトは再度黒いMSを見やると、次に自分が乗る機体、主に灰色に塗装されたMSに目を向けて乗り込んだ。
命令された通り、バリトはコックピットの中で待機していると、暫くして通信が入った。通信用の画面にはスーツ姿の一人の若い黒髪の女が映し出されていた。
「再度今回の作戦の概要を説明します。現在、ヤラファス島のオロファトで起きている武装集団の撃破が今回の作戦目標です。敵は行政府から南西に5キロの地点に3機のジンを展開しています。それ以上の増援はないものと思ってもらって結構です。現在、オーブ軍の戦車部隊が交戦中ですが、長くは持たないものと考えてください。それに当たって、ジェネライズには上空からの降下時に奇襲を行ってもらいます。上空からの攻撃で作戦が達成されなかった場合は、地上戦に移行してください。地上戦では市街地への配慮のためビームライフルの使用を制限します。以上が今作戦に当たっての簡単な説明になります。なお、この作戦はオーブ軍と協力して行いますが、あなたはオーブ軍の指揮下にはありません。そのため、あなた個人の意思による作戦の遂行が可能です。これ以降、作戦時の通信は専用のオペレーターを介して行ってもらいます。それでは、作戦の成功を祈っています」
その女が話し終わると通信は切れた。そこでバリトは今まで感じていた違和感の正体に気がついた。先ほど通信を入れて来た女が話した内容でおかしな点がいくつかあった。一つは異常なほど敵の情報を知っているということだ。彼女は敵の増援はないと断定していたが、普通は突発的に現れた正体不明の敵が保有している戦力など把握している筈などないのだ。それこそ、敵が現れる前からそれらの情報を知っていなければ不可能なのだ。そして、自分がここ数週間に渡ってやらされてきたシミュレーションの内容と今の状況があまりにも酷似しているのだ。これではまるで予定調和だ。
次に、バリトがオーブ軍の指揮下にはないということだ。これは彼自身、彼のバックについている組織が軍か政府に働きかけた結果だと容易に想像がついた。しかし、いったいどんな取引をすればそんなことができるのかまでは全く想像できなかった。結局いくら考えたところで、答えは出ないと判断した彼は考えることを一度放棄し、気持ちを切り替えた。
「落ち着け。緊張しているから余計なことまで考えてしまうんだ。上のやつらがどんなにヤバい連中でも俺には関係ない。俺は言われたことをやるだけだ。そうすれば、俺の身も安泰なんだ」
バリトは不安を押し殺すように何度も自分に言い聞かせていたところで、新たな人物との通信がつながった。それは先ほどとは対象に男だった。その男も先ほどの女と似て、硬い雰囲気の人物だった。
「これより私があなたのオペレーターを担当します。お互いの為にも長い付き合いになることを期待してますよ」
そう言って軽く笑みを作るその男を見て、バリトは再び不安に支配された。長い付き合いになることを期待するとは、つまりこの作戦が失敗すれば自分はお役御免になるということではないのかと、恐怖した。そして、それは目の前に映るオペレーターの男もまた同様に当てはまることなのではないかと。彼はいわば拾われの身だ。オーブ軍をとある理由で退役になった彼は、怪しげな組織に戦力として雇われたのである。故にその組織、今、目の前のモニターに映し出されている男が所属している組織に捨てられれば彼に行く当てなどないのだ。そんなバリトの気を知ってか知らずか、オペレーターの男が指示を出してきた。
「それではあなたの目の前に見えている軽量の輸送機に、機体を搬入してください。その際、機体は降下体制で維持しておいてください。本来であれば、フライトユニットを装備すればその機体は自律飛行が可能なのですが、今回は輸送機による移動が主となります」
「了解」
バリトは言われた通り、機体を前へと歩かせ始めた。その際、ふと気になって左手の方を見やった。そこにはジェネライズに乗る前と同じように、ただ静かに居るだけの黒い機体があった。しかし、先ほどとは違い、目に光が灯っていた。バリトが黄色に輝くそのデュアルアイを何気なく見やった瞬間に、まるで睨みつけられたかのような錯覚に陥った。しかし、すぐに、ただの気のせいで自分が緊張のせいで神経衰弱になっているだけだと思い直した。
バリトは気をとり直して機体を比較的小さめの輸送機に乗り込ませ、固定した。
「少し、聞いてもいいか」
バリトがオペレーターの男に問いかけた。
「何でしょうか」
「あの黒い機体は何だ。新型機か?それに、さっきは動いていないようだったが、今は火が入っているようだ。誰かが乗っているのか?」
「……それは機密情報なので、現在答えることを許可されていません」
「そうか、それは残念だ」
バリトはオペレーターの男の答えを聞いて、質問するべきではなかったと後悔した。やはりこの組織はヤバすぎると彼の中で警笛が鳴っていた。未だナチュラルの国々ではMSの開発でさえ難航しているというのに、彼らはいとも容易くそれをやってのけた。それに、国家ではない彼らが国の介入を受けずにそれらを成功させているところを見ると、組織内部の情報統制、監視体制は恐ろしいほど厳格なものだということも想像に難くなかった。そして、自分が乗っている機体をはじめとしたMSの量産体制を確立するほどの資金力。どれを取っても異常の一言で済ませられるものだった。しかし、それらを知ったからといって今更引き返せるわけもなく、状況は刻々と進んでいくだけだった。
その後すぐに、ジェネライズを乗せた輸送機がハンガーごと地上に向けて運ばれ始めた。そして、地上の滑走路に輸送機が到着すると、オペレーターの男が再び口を開いた。
「それでは、これより作戦を開始します」
オペレーターの男が平坦な口調でそう言うと同時に、輸送機のエンジンが点火して徐々に機体が加速していった。そして十分な速度を得た輸送機が滑走路から飛び立った。
とある宙域
「GMS-01の離陸を確認。60秒後、NRMS-102も順次離陸予定」
壁に取り付けられた巨大なモニターから半円状に広がるホールでヘッドセットをつけたオペレーター風の女が歯切れの良い声で機械的にそう言った。その場所には、その女以外にも多数の人間が彼女と同じようにそれぞれのモニターに向かい作業を行っていた。それらの様子からその場所を一言で表すならば、作戦司令室というのが最も適切な表現だろう。実際に、壁に取り付けられている巨大なモニターにはジェネライズが格納された飛行中の輸送機の映像が映されていた。その映像をホールの中央後方部、その場の最も上位の者が座る場所から見ていた黒髪の若い女が指示を出した。
「予定通り、NRMS-102は高度20,000mに到達後、高度を維持したまま地上の監視に移行するように命令してください。ただし、その存在が露見することはできるだけ避けてください」
「了解。CPよりNRMS-102へ。作戦は予定通り進行中。指定ポイントに到達後、射撃体勢で待機せよ」
「NRMS-102よりCPへ。了解」
オペレーターの女がヘッドセット越しに、NRMS-102と呼ばれた機体に通信を行うと、すぐに男性のものと思われる低い声で了解の意が伝えられた。
「まもなくGMS-01がヤラファス島上空に到達。機体の降下開始と同時に作戦をセカンドフェイズへ移行。なお、NJによる通信障害の深刻化が予想されるため、今後の作戦司令はマニュアルEを参照。これより、GMS-01の指揮権を地上司令部に移譲。地上との共同で今作戦を遂行する」
オペレーターの女が読み上げると同時に、ヤラファス島の上空に差し掛かったジェネライズが輸送機からパージされ高度10,000mの空に放り出された。
「セカンドフェイズに移行」
高度計の数値が急激に減少していくコックピットの中で、バリトはけたたましく鳴り響くアラート音を背に機体の姿勢制御を行いながら、まだ距離がある地上の様子が映されたモニターを睨み付けていた。そこには既にの火器管制システムによって捉えられた3機のジンの姿が映し出されていた。
「ビームの減衰率を考えれば、この高度はまだ有効射程距離ではない。もっと距離が縮まってからでないと。それに、今ロックオンすれば、こちらの存在が向こうにもばれてしまう。有効射程ギリギリから地上に到達するまでの短い間にどれだけ落とせるかで勝負が決まる。落ち着け。これもシミュレーション通りだ」
バリトがそう呟いている間にも高度計の数値は相変わらず同じペースで減り続けており、アラートもまた耳障りな音を響かせており、刻々と会敵の時が迫っていた。
「今だ!」
バリトの声とともにジェネライズが一機のジンにビームライフルを向け、トリガーを引き絞った。その瞬間に銃口から淡い緑に発光する一条の光線が放たれ、数瞬の後にジンの頭頂部からコックピットにかけてを貫き、機体があっさりと爆散した。
「1機目!」
「一機撃破。残り2機も速やかに排除してください」
1機目のジンが撃破されると、すかさずオペレーターの男が通信を入れてきた。バリトはそれを煩わしく思いながらも、口には出さずに次の目標に狙いを定めた。
テロリスト側の残りのジンは味方の一機が落とされたことで、上空から攻撃を仕掛けてきたジェネライズの存在に気付き、すぐさま迎撃態勢に移った。その時点では、オーブ側の残存兵力は撤退行動に移っており、ジンは地上からの攻撃に気を取られることなく対空射撃に集中できた。
2機のジンがアサルトライフルをジェネライズ向けて連射してくる中でも、バリトは慌てることなく、回避しながらビームライフルによる射撃を行っていた。しかし、回避をしながらの射撃はなかなか安定せず、簡単にはジンを落とすことは出来なかった。
「くそっ、思った以上に弾幕が激しい。このままでは」
そう言いつつも、彼の持ち前のパイロットとしてのセンスが徐々に雑だった射撃精度に補正をかけていった。そして、6発目でジンがアサルトライフルを持つ右手から右足にかけてを貫き、二本の足で立つことが困難になったジンは地面に倒れ伏し、手から離れたアサルトライフルもまた、ジン本体の近くに重低音を響かせて落ちた。
「これで2機」
「2機目、沈黙。優先的に3機目を撃破してください」
バリトは再び声をかけてくるオペレーターの男の指示に従い、3機目に狙いをつけようとした段階で高度計の数値が500mを切っていることに気が付き、すぐさま射撃を中止し、回避行動に移った。相も変わらず残り1機のジンはアサルトライフルを乱射していたが、たった1機分の弾幕程度ではもはや機体の挙動にに慣れてきたバリトに命中させることはかなわなかった。
無事、機体を着陸させたバリトは命令にあった地上戦でのビームライフルの使用の禁止に乗っ取り、腰にビームライフルをマウントし、同じく腰の左右に装備されているビームサーベルを一本取り、右手に装備した。その一連の動作を行っていた際にも敵のジンはアサルトライフルを撃ってきていたが、すべて左腕に装備されていたシールドにより防いでいた。そして、その射撃を最後に、ジンのアサルトライフルの弾は底をついた。それによりジンもアサルトライフルを捨て、腰にマウントされていた剣を両手に持ち、バリトの駆るジェネライズと対峙した。
「遅い!」
バリトはジンの体勢が完全に整う前にスラスターの出力を最大にし、ジェネライズの出し得る最高速度でジンに突進した。ジンは接近してくるジェネライズに剣を突き出し迎撃の体勢に入った。両機の得物がお互いを傷つけようかという距離に入って、ジェネライズが姿勢を落としてジンの攻撃を躱した。そして、通り過ぎる際に超高温のビームサーベルでジンの胴体を切り裂いた。
決着はものの一瞬で着いた。ジェネライズによって胴体と下半身を切り裂かれたジンは1機目と同様に爆散し、物言わぬ鉄の塊に成り果てた。
「はぁ、全て片付いたのか……?」
バリトはコックピット内で荒くなった息を整えつつ、機体の被害状況を確認していた。そこに、ロックオン警報のアラートがコックピットに鳴り響いた。そして、オペレーターの男が今までとは違い、強めの語気で訴えかけてきた。
「ロックオンされています。後方200m、ジンの再起動を確認」
「なにっ!?」
咄嗟に機体を反転させてシールドを構えようとするが、機体の動きよりも早く後ろの様子が確認できたバリトの視界には、右腕と右足を失いながらも、左手に装備されたアサルトライフルをジェネライズに向けているジンの姿が映っていた。そこでバリトは一瞬、自らの死を意識した。既にロックオンされている状況では回避はほぼ不可能であり、シールドで防ぐしかない。そのシールドを構えるまでの僅かな時間の中、ジェネライズが銃撃に耐えられるのであれば突破口は開くが、耐えられないのであれば死ぬ。その逡巡の間にも体は動いており、機体は防御体制に移ろうとしていた。だが、それでも間に合わない。
ジンのアサルトライフルが砲火を放とうとした瞬間、その直上から一条の光がジンを貫いた。その淡い緑色の光は数秒にわたりジンを串刺しにし続けた。そして爆散し、その場に残ったのはバリトの駆るジェネライズだけとなった。
「目標への命中を確認。これよりNRMS-102は戦線を離脱し、施設ナンバー00へ帰投してください」
先ほどの作戦司令室でオペレーターの女が指示を出すと、巨大なモニターに映された黒いMSは、その長大なライフルを背中にマウントし、上へと向かってスラスターを吹かせた。それは明らかに地上ではなく、宇宙に向けて進路をとっていた。もしもその様子を、少しでもMSに関わったことのある技術者が見れば目を剥いただろう。なぜならば、現時点でMSの自律飛行はエネルギー効率の悪さから現実的ではなく、更に言えば単独で重力を振り切ることのできる機体など存在しないのだ。それを軽々とやってのけているのだから、その機体に使われている技術が現在の技術のレベルとは隔絶していることは明白であった。
そして、その漆黒の機体は加速を続けながら宇宙の闇へと消えていくのだった。
「お疲れ様です。無事作戦は終了しました。これよりオノゴロ島のオーブ軍基地へ帰投してください。このヤラファス島の滑走路にに軽量輸送機が停まっていますので、そこまで移動してください」
3機全てのジンが破壊されてからすぐに、再びオペレーターの男から通信が入った。その声色は先ほどの抑揚のあったものから、元の平坦なものへと戻っていた。
「……ああ。了解した」
バリトは先程の光景を思い出しながらも、機体を滑走路がある方向へと向かわせた。そして、その道すがらバリトはオペレーターの男に尋ねた。
「また質問をしてもいいか」
「私の答えられる範囲でなら」
「最後の攻撃、あれは一体何だったんだ。今回の作戦に元々明記されていたことなのか」
「残念ながら、現在その質問に答えることを許可されていません」
またそれか、とバリトは内心で悪態をついていると通信が途切れ、代わりに作戦開始前に今回の作戦の説明を行っていた黒髪の若い女が画面に映された。
「作戦成功おめでとうございます。今回の功績により、我々はあなたを高く評価しました。これで、あなたは正式に我々の一員となります。ようこそ、フラガ財閥へ。我々はあなたを歓迎します」
バリト自身、フラガという名前に心当たりはなかったが、とりあえず首の皮が繋がったということは理解した。
今回登場した機体の紹介をとりあえずここに書いておきます。
型式番号:NMS-101→GMS-01
機体名:ジェネライズ
基本武装:ビームライフル×1 ビームサーベル×2 シールド×1
機体説明:本機はヘリオポリスで開発されていたGAT-Xシリーズと同時期に開発が計画された。その際、使用された技術はGAT-Xシリーズと同様のものが多く、内部構造を含む各部に共通点が見られる。装甲にはPS装甲は使用されておらず生産性、取り扱いの容易さが意識されて開発された。本機の開発はフラガ財閥が小型化、改良に成功した核融合炉をMSに搭載し、稼働させることが主目的で計画された。結果として計画は成功したが、本機は量産機の製造を目的としたものであるというカバーストーリーの元、オーブのモルゲンレーテ社で開発されていたため、その性能も量産機としての域を出なかった。また、核融合炉が一定以上の出力に達した際、機体内部の排熱が追いつかず、エンジンユニットが融解する事態を引き起こした。その為、核反応炉搭載機としての改良計画は破棄され、量産機としては生産性、互換性、修理の容易さが優秀であった本機は本格的に量産機として生産が開始された。その際、核融合炉の存在を秘匿する為、動力を核エンジンからバッテリー駆動に切り替え、型式番号もNMS-101からGMS-01へと変更された。また、本機にはGAT-X105ストライクと同様に様々な戦闘ユニットが存在しており、戦局に合わせて交換することができる。
型式番号のGMSはGeneral-purpose Maneuver System 汎用型機動機構の略式である。
型式番号:NMS-102
機体名:
基本武装:核動力対応型ロングレンジビームライフル×1 核動力対応型レール砲×1 ビームサーベル×2 近接防御機関砲×2
機体説明:NMS-101では計測が出来なかった、「現存する技術で再現し得る最大出力」を実現させることを目的とした実験機として開発が計画された。その試みは成功し、主に攻撃武装の面で、その火力を遺憾なく発揮した。その他、機動面でも単独で地球の重力を振り切ることが可能であり、現存する全てのMSを凌駕する性能を見せた。また、核融合炉の限界出力に耐える為、内部フレームから装甲に至る大部分が耐熱性に優れたPS装甲素材が採用されている為、重量が平均的なMSを大きく上回っている。なお、この機体の存在はフラガ財閥によって完全に秘匿されている。
型式番号のNMSはNuclear-reactor Maneuver System 核反応炉搭載型機動機構の略式である。また、3桁の数字の初めの数が1の場合は核融合炉搭載型、2の場合は核分裂炉搭載型を表している。本機は102なので核融合炉搭載型となっている。