第1話
「(エー!! 青雉ぃいい!!!)」
まさかの大物との出会いにオビトは心の中で大絶叫する。前世ではワンピースにわか勢であったオビトでも彼の存在は知っている。
強者揃いの海軍の中でも群を抜いて高い戦闘力を有する、俗に海軍最高戦力と呼ばれる存在それが海軍大将である。オビトの目の前に立っている青雉ことクザンはその1人だ。
「(いや待て待て、ワンピースの時間軸がはっきりしていない現時点じゃ、もしかしたらまだ大将じゃないかもしれない)」
「んー、どうした黙りこくって?」
一言もしゃべらないオビトを見かねて、クザンが問いかける。
「あ、ど、どうもクザンさん。ボクはうちはオビトって言います」
「あー、オビトくんね。よろしく」
「あの質問いいですか?」
「ん、どうした?」
「あの海兵っとおっしゃいましたけど、階級はどのくらいでしょか?」
クザンの階級が気になったオビトはそう質問する。クザンは顎を摩りながら「あー、えっと、あれ? 今の俺の階級っていくつだ?」となぜか疑問系で答えた。
「(なぜに疑問系なの?)いや、質問に質問で返さないでくださいよ。大将じゃないんですか?」
なんとも気の抜けたクザンの言葉にオビトはツッコむ。
「うん、たぶんおらぁは海軍大将だ」
「“たぶん“って……(このなんとも間抜けた言葉使い、この人はクザン本人に違いない)」
階級ははっきりとしなかったが、これまでのやり取りから自分の目の前に立っているのが、クザン本人に違いないと分析したオビト。
「立ってるの疲れた。あー、どっこいしょと」
マイペースなクザンは、砂浜にあぐらをかいて座る。
原作通りの呑気なクザンの姿を目にし、オビトはため息を吐く。
「えっと、海兵であるクザンさんはこの島で一体何を?」
「おらぁ、この付近を散歩……いやパトロールしてる途中にこの島に昼寝……、ああ、休憩のために寄ってたんだが」
「あのところどころ言い直してますけど、要はサボりですよね、それ? 市民を守る海兵が仕事サボって何やってんの」
仕事をサボっていたことを無理やり隠そうとしているため、説明がグダグダになっているクザンにツッコむオビト。
「こらこら人が話してる途中で口を挟むんじゃない。まあ、かくかくしかじかあって、この森ん中で少し横になってたら、突然森が燃えちまってよ。慌ててこの砂浜に避難したんだ」
天照の漆黒の炎によって焼けた背後の森を親指で示すクザン。
「(うわ、ボクのせいじゃん。所々クザンさんの服が汚れてるのはそのせいか……)」
クザンの説明を聞いたオビトは、彼の服が少し煤で汚れていることに気づく。
「さて、今度はこっちが質問する番だ」
クザンはそう言うとそれまでの間抜けた雰囲気を一変させ、歴戦の海兵の風格を醸し出す。そのオーラを目の当たりにしたオビトはごくりと唾を飲む。
「森を焼いたのは、オメェだな? オビト」
そう言ってじっとオビトの顔を見上げるクザン。
「(ど、どうしよう、正直に話すか? ボクの忍術で燃やしましたって……けど、話したら下手すると海軍大将とやり合うことになる! かといって下手に誤魔化してもすぐにバレるだろうな……)」
正直に話すべきか、適当に誤魔化すべきかで悩むオビトだったが結局、下手に誤魔化してもどうせ見破られるだろうと判断し、正直に話すことにした。
「はい、森を焼いたのはボクです。すみません、まさか人がいるとは思わなくて……」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
「やっぱな、そうか分かった」
「はい……」
「あれほどの広範囲にそして強力な炎を出せるのは『悪魔の実』の能力しかない。となるとお前は悪魔の実を食べた能力者ってことになるが……。オビト、お前はついさっきまで海面を歩いたり、走ったりしていた」
「……」
「普通悪魔の実を食べたヤツは、その能力を得る代償として二度と泳げなくなる。だが、お前は普通に海面に立っていた。まあ、人がアメンボみたいに海面に立っているということ自体衝撃的だがな……」
髪をかきながらクザンは、自分の分析を語る。
「悪魔の実ってのは、1人につき1個しか口にできない。だからお前が能力を二つ保持しているはずはない。そこで最後の質問だ」
クザンはそう言うと、頬杖をつき、自分の目の前に立っている黒衣に身をつつんだ仮面の男、オビトをじっと見据えた。仮面の右目の部分から見える紅き瞳を。
「オビト、お前は一体何モンだ?」
「……」
「(さすが海軍の最強戦力が1人。間抜けているように見えても、これまでの実戦経験から得られた情報と知識をもとにしたその分析力と洞察力はずば抜けている。さて、なんと答えるか……)」
海軍最強戦力の1人、クザンの分析を聞いたオビトは、その分析力と洞察力の高さに舌を巻く。
「えっと、ボクはですね、その……“忍者“っす」
「は?」
忍者という言葉を聞いたクザンはポカンとした顔になる。しかし、すぐに顔に手を当て、やれやれと首を横に振る。
「誤魔化したいならもっとうまい言葉使いなさいよ。忍者って、あれか? 手裏剣投げたり、クナイ投げたりするあの忍者か?」
「そうです、その忍者です」
オビトの言葉を聞いたクザンは、目の前に立っているオビトの頭の先からつま先までまるで仕入れる品物を吟味する商人のような感じで凝視する。
「いやぁ、それはないわ。忍者っつうよりも大道芸人って方がまだ分かる」
クザンの言葉を聞いたオビトはムッとする。
「人を見かけで判断したらダメっすよ、クザンさん。しょうがないな、じゃあボクが忍者って証拠を見せてあげますよ」
と、オビトはクザンの目の前で高速で印を結ぶと、ボフンっという音ともにクザンに変身する。
「おいおい、マジか」
突如自分の目の前に、“自分“が出現したことに驚くクザン。まるで鏡に映る自分を見ているような状況に強い衝撃を受けるも、すぐに「いやいや」と手を振る。
「他人そっくりに自分の姿を変えることができる悪魔の実の能力者がいるってのを聞いたことがある」
「ハァ〜、じゃ、これはどうすっか」
“変化の術“を解いたオビトは次の忍術を見せるため、背後の海へと向かう。そして再び高速で印を結ぶ。
『火遁、爆風乱舞!』
火遁の術と神威を組み合わせた強力な火炎が発生する。
「(なんて野郎だ、これほどの炎を発生させるとは……)」
自分の目の前で発生した巨大な火炎に目を細めながら、クザンは驚愕する。術を解除したオビトが再びクザンの元へ戻ってくる。
「どうですか、信じてもらえました? ボクが忍者ってこと」
「いやまだだな、炎やマグマなんかの能力を持つ悪魔の実もあるからな」
「つい5分くらい前に現役の海兵さんから、“悪魔の実は1人につき1個“って聞いたんですけどね」
なかなか自分を忍者と認めてくれないクザンに文句を言うオビト。しかし、その後もオビトは、なかなか自分を忍者と認めないクザンに色々指示され忍術を発動させられた。
ーー30分後。
「よし、お前が忍者ということを認めよう」
「いや、あなた最後の方ほとんどふざけてましたよね」
結局、火遁、水遁、風遁、土遁、雷遁の五大性質全ての術と手裏剣術を見せる羽目になってしまい、無駄なチャクラと時間を消費してしまったことに機嫌を悪くするオビト。
そんなオビトのことなど全く気にしないクザンは、「どっこらせ」と言って立ち上がると、尻についた砂をはたき落とす。
「よし、そんじゃ最後の試験だ。これに合格すれば、お前も立派な忍者だ」
「何が“最後の試験“だ!! てか、アンタさっきボクを忍者って認めるつったでしょうが!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたオビトは、大声でクザンにツッコむ。しかし、対するクザンの方は両手を前に出して、「まあまあ、そうカッかしなさんな」とオビトを宥める。
「お前にやってもらいたいのはな、ほれ、あそこに落ちてる黒い物体が見えるか?」
そう言ってクザンは顎をくいくいとする。クザンが示す方へ視線を向けるオビト。そこには黒焦げになった物体が落ちていた。
「なんですか? あれ?」
「ありゃ、俺の自転車だ。いや、“だった“の方が適切か」
「はぁ……(そういやこの人よく海の自転車で走っていたな)」
原作漫画の一コマに描かれた、ひえひえの実の能力で凍らせた海面を自転車で走るクザンの姿を思い出すオビト。クザンは真っ黒焦げになった自分の自転車を見つめながらしみじみと語り始めた。
「あの自転車はな、俺が海軍に入って最初にもらった給料で買ったヤツなんだよ。それ以来ずっと乗ってきた。階級が上がろうが、乗る軍艦が変わろうとな……。タイヤがパンクしようが、ハンドルが効かなくなろうが、サドルが抜かれようがずっと乗ってきた……」
「(いや、サドル抜かれたらダメじゃん。お尻血だらけだろうがよ。え、何、立ち漕ぎか、立ち漕ぎで乗ってんのこの人? 新品買えよ。海軍大将だろうアンタ。金ならしこたま持ってんでしょ)」
自転車との思い出を語るクザンに心の中でツッコむオビト。
「言ってみりゃ、ありゃ俺の相棒だ」
「あの自転車がクザンさんにとって大切な物だということはよくわかりましたけど……」
クザンと自転車の思い出話を聞いたオビトは、結局何が言いたのと首を傾げる。
「オビト、真っ黒焦げになった俺の自転車を元通りにしてくれ」
「うんなことできるかァアアアアア!!!」
大真面目にとんでもないこと言い放ったクザンに対し、オビトは空気を震わせるほどの大声で盛大にツッコンだ。
ありがとうございました。