大体なんでも気に入らないんだけどな……
事件や事故が起こっても、対岸の火事とさえ思わずヘラヘラ笑ってるヤツら。
何なら、そんな事件や事故を面白おかしくネタにする社会。それさえ笑う連中。
かと思えば、そんな事件や事故に触発されたヤツらまで現れて。
そう……今一番腹立ってるのは、ヒーロー殺しだ。
贋者がどうの正しい社会がどうの、色々と理屈はこねてたが、やってることは俺と同じ、気に入らないものを壊そうってだけのことだ。
なのに、ヤツは賞賛された。結果的に、俺は認めちゃいないが、世間じゃあ仲間ってことになってる
まあ、それも『先生』の計画の一部なんだろうが……
おかげで保須襲撃はもちろん、雄英襲撃も、全部の話題がアイツの存在に喰われた。
誰も俺を見やしない。ヒーロー殺ししか見やしない。
お互い、気に入らない物を壊したかったってだけ。
なのに、アイツと俺とで、なにが違うっていうんだ?
「お前はどう思う……なあ、禪院真希?」
「……」
こいつを見つけたのはたまたまだ。
たまたまムカつくことがあって、たまたまショッピングモールに繰り出した。
そこで、たまたま買い物してた様子のこの女を見つけた。
雄英体育祭で、オールマイト並みの動きを見せていたこの女。
両腕ぶっ壊しながら戦ってたから目立ってた。他にも目立つ生徒はいたが……オールマイトに似てたからか? こいつのことは特に覚えてた。
だから捕まえて、話しかけた。
今のご時世、セクハラだって騒ぎゃあ俺も逃げるしかなかったかもしれねーが……
どうやら、この女も俺のことは知ってるらしい。
雄英襲撃で戦ったのは、確かA組。こいつはB組だったと思ったが、まあ、大方映像かなんかで情報共有されてたんだろう。通信網は遮断しての襲撃だったが、今時、監視カメラなんかそこら中にある。雄英なんて特にそうだ。通信がダメでも録画映像が残ってたんじゃねーのか? 仕組みなんてよく分かんねーけど……
そんなことはどうでもいい。
とにかく今、俺たちは落ち着いて、まったり座って話してる。
禪院の首には、指を四本。最後の中指が触れた瞬間、こいつの身体は崩れる。
ここでそんなことしちまったら、すぐに通報されて警察がくるだろう。まあ、それまで、20人や30人は余裕で壊せるがな。
そう脅してやったから、こいつも大人しく従ってるってわけだ。
「なぁ……俺とヒーロー殺し、なにが違うと思う?」
「……逆に聞きてーんだが」
と、最初こそ固まってたこの女は、どうやら冷静になったらしい。
眼鏡の下から俺のことを睨み据えて、小せぇが声を上げた。
「テメーは何がしたくて、気に入らねーもんをぶっ壊してんだ?」
「はぁ? 言っただろうが。俺は、気に入らないから壊す。それだけだ」
「……そんなガキの癇癪、良い歳した大人が相手にするかよ」
女は、それこそガキに言い聞かせるような言葉で、俺の質問に答え出した。
「少なくとも、私はお前のことは理解できねー。理解に足る材料がねーからな。理由が無ぇ。動機も無ぇ。信念も無ぇ。具体性が何にもねーから一つも心に響かねぇ。ブラック企業に引っかかった底辺貧乏家族の会社巻き込んだ無理心中の方がまだ共感できるわ」
「……生々しいたとえだな」
「……で、ヒーロー殺しだ。少なくともアイツは、やり方は間違ってても、それに走るだけの理由も動機も信念も持ってた。少なくとも、壊したくて壊してたんじゃねー。そうでもしねーと社会は変えられねーって、自分なりの信念掲げて、そのために生きた結果だ。中途半端に投げ出すようなこともしなかった。どっかの誰かと違ってな」
「……」
「A組の知り合いから襲撃の話を聞いたけど……目の前で顔見た今なら分かるわー。お前、雄英襲撃も、ゲーム感覚でやってたんだろ。そうやって今まで生きてきたんだろ? 僕は悟りを開いた世捨て人ですーって、開き直りと現実逃避が顔に貼りついてんぞ。そんな底辺ニートのガキが変に力持ったから、敵連合だの雄英襲撃だの。マジにこの国歪んでんわー」
「テメェ……」
黙って聞いてりゃあ、聞いてもないことをベラベラベラベラ……
「昔話を一つ、聞かせてやろうか?」
「あぁん?」
(回れ口……とにかく、こいつの目を周りじゃなくて、私だけに……)
「とある小さな国に、歴史ある名家がありました。その名家は超常黎明期において、社会が混迷し乱れている中、一族の中から戦闘に特化した強個性を選りすぐり、自警団を作りました。その自警団は、その名家にあだなそうとする犯罪者たちを瞬く間に成敗し、結果的に、その名家がある地域に平和をもたらしたのでした」
「なんの話してんだ、お前?」
「言ったろ? 昔話だ。お前の質問に付き合ってやったんだ。男なら女の長話に付き合いやがれ」
「それジェンダーバイアスってやつじゃねーの……まあ、いいや」
「……そんな力を示した名家に、やがて国は目を付け、平和を守るための協力を求めました。後に『個性』に関する法律が整備され、プロヒーローが職業となった後も、名家は国の依頼、場合によっては自己判断によって
「
さすがに口を挟んだ時、思い出した。
「お前、確か禪院て……」
「……力無き者は禪院家に非ず。『個性』非ずんば人に非ず。超常以前からの長い歴史と、超常後の国からの威光が混ざった結果、そんな考えに凝り固まった古臭い名家に、双子の姉妹が誕生しました。双子は宗家の嫡子であったにも関わらず、一族が求める
「なんでわざわざ、姉はそんな家に?」
「……嫌がらせだよ」
女は、今の状況を忘れたみたいに、ニカッと笑ってみせた。
「散々見下してきた出来損ないが、オールマイトみてーなNo.1ヒーローになって、禪院家の当主になる。これ以上の嫌がらせはねーだろう?」
――――ッッッッッ!
「……ッ!?」
「あー……なんかスッキリした」
あー……点が線になった気がする。
なんでヒーロー殺しがムカつくか。
なんでこいつらが鬱陶しいか、分かった気がする。
「全部……オールマイトだ」
「……!」
「そうかぁ、そうだよなぁ……結局はそこに行きつくんだよなぁ」
ああ……なにを悶々と考えていたんだろうな、俺は……
「こいつらがヘラヘラ笑って過ごしてるのも、オールマイトがヘラヘラ笑ってるからだよなぁ?」
「うぅ……ッ!」
「救えなかった人間などいなかったかのように、ヘラヘラ笑ってるからだよなぁ?」
あー……こいつと話ができてよかった。
「ありがとう、禪院真希。俺は、何ら曲がることはない……暴れるなよ、死にたいのか? 民衆が殺されてもいいってことか?」
皮肉なもんだぜ、ヒーロー殺し。
対極にある俺を生かしたお前の理想、信念……全部、俺の踏み台となる。
「……!」
と、スッキリして高揚した気分の中、寒気を感じた。
この感覚、覚えがある。
これはそう、雄英襲撃の時、『アレ』が出てきた時に感じたもの。
「そっかぁ。来てたのか、お前も……雄英襲撃以来か。なぁ、緑谷出久?」
視線をやった先……
何十メートルか離れた先から、こっちを睨んでる。
そして多分、目に見えないが、『アレ』も出てきてる。多分姿を隠して、俺のそばにいるな。俺以外にも、『アレ』の存在を感じて、震えてる人間がチラホラいやがる。
これ以上、民衆やこの女に何かすれば、俺を握りつぶすってか?
まあ、どの道お前とマトモに戦り合って、勝てるだなんて思ってねーさ。
だが、こんな人込みの中じゃあ、お前も『個性』も満足に暴れられねーだろう?
「じゃあ、俺行くわ。追ってきたら、分かるよな?」
手を離して女の方を見ると……首を押さえて、咳き込んでる。
興奮して絞めちまってたか? 暴れるわけだ。悪いことしたか……
「――っ、待ちやがれ!
「死柄木……!?」
「……知らないな。それより気を付けとけな? 次に会った時は、殺すと決めた時だろうから」
信念なき殺意に何の意義がある?
お前は俺にそう聞いてきたよな?
信念も理想も、最初からあったよ、ヒーロー殺し。
俺はなにも変わらない……
しかし、これからの行動は全てそこへ繋がる。
オールマイトがいない世界を作り、正義とやらがどれだけ脆弱か暴いてやろう。
これ以上の嫌がらせは無い。
今日からはそれを信念と呼ぼう……
……
…………
………………
その後、緑谷出久の行った通報により、ショッピングモールは一時的に封鎖。
区内のヒーローと警察が緊急捜査に当たるも、死柄木の発見には至らず。
禪院真希はその日のうちに警察署へ連れられ、事情聴取を受けた。
出久も後から聞いたことだが、すでに警察は敵連合に対して特別捜査本部を設置し、捜査に当たっているらしい。
その一員である塚内警部に対して、主犯である死柄木弔の人相、特徴、会話内容等を真希が伝えている間、簡単な聞き取りのみで解放された緑谷出久は警察署の外で待っていた。
事情聴取を済ませた様子の真希が塚内警部と出てきたところへ、出久が近づこうとした時、男が一人、二人の前に現れた。
長い前髪の金髪。ガリガリの顔と高身長の身体。
出久は見たことが無いが、真希と塚内警部が親しげにしている辺り、二人の知り合いなんだろう。
その三人が、何やら真剣な話をしていることだけは遠目からでも分かった。
だから、そんな会話が終わったと思われるタイミングで近づいた。
「……なんだよ、出久。帰ってなかったのか?」
「あ、うん。一人は危ないし、一緒に帰ろうかって……迷惑だった?」
「ハッ! 嘗めんな。あいにく、お前に守ってもらうほどか弱い乙女じゃねーよ」
「そっか……」
「……それより、私たちの会話、聞いてねーだろうな?」
「アハハハ……女の子の内緒話を盗み聞きしたりしないよ」
「そうかよ……ならいい」
そんな二人の会話の後で、塚内が二人を車で送ると言った……
その時――
「真希ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!!?」
「げっ!?」
夜の警察署に響く絶叫。
叫びながら走ってきたその男は、真希を見つけるなり全力で抱き着いた。
「うおおおおおおおおおお!! 無事だったか真希ぃぃいいいいいいい!!?」
「うっぜえ!! いちいちひっ付いてくんなクソ親父!?」
「真希いいいいいいいいいいいいい!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!!?」
再び名前を叫びながら、金属音が聞こえそうなくらい全力で頬擦りを行っている。
そんな男の凶行に真希は雄叫びを上げ、見ていた出久ら男三人はドン引きしていた。
「えっと……禪院
たまらず塚内が、名前を呼んだ時。
和服、というより武道の道着に近い服装の、黒目が大きいポニーテールのその男は、ようやく真希から離れて、姿勢を正して向き合った。
「どうも……愛娘がお世話になりました」
「いえいえ、娘さんは、とても勇敢でした。普通なら恐怖でパニックを起こすところを、彼女が冷静に対応してくれたおかげで、犠牲者を出さずに済みました」
それを聞いた、禪院扇は、誇らしげに右頬が赤く腫れた表情をほころばせつつ……
「だ、だから、娘がヒーローを目指すのは反対だったんだ。敵との戦いは常に命懸け。戦いとケガが日常の血生臭い仕事を、嫁入り前の娘が目指そうだなんて……」
「あーっ、いちいち泣いてんじゃねえよ……」
「そういう危険から遠ざけようと、娘を二人とも平和な家へ養子に出したのに、姉は養子を拒んでヒーローを目指して鍛えだすし、妹は妹で貰われた先でヒーロー志すし……」
「鼻水垂らしながら自分ん家の家庭事情ペラペラしゃべってんじゃねー!!」
「まあまあ、真希さん……」
病院で顔が赤かったのって、頬擦りのせいかな?
そんなことを思い出しながら、左頬を腫らしつつ、父親に対して怒り心頭な様子の真希を出久が制した時……
「君は、緑谷出久君だな?」
「は、はいぃ……!」
「雄英体育祭、見せてもらった。実に見事な戦いぶりだった」
「あ、ありがとう、ございます……」
真希の隣に立ち、その身に触れた男の顔に、ズイッと自身の顔を近づけていた。
(緑谷出久……強さ、実力、ともに申し分なし。だが、同時に危険極まりない個性の持ち主でもある。貴様のような男に、私の真希はやらんぞ)
(えっと……僕、なにか気に障ることしました?)
そんな感じで、禪院扇からの強い視線を一方的に受けている間に送迎の車が到着。
出久、真希、扇の三人はその後、何事も無く自宅へ送られた(車に乗っている間、出久に対する扇の視線がすごかった)。
こんな扇がいてもいいかなって…(クソな扇とかみんな飽きたかなって…)