【完結】個性:物間寧香   作:大海

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映画編もやります。



第10話  2人の英雄・起

『よぉ、出久。夏休み、I・アイランドに行くぞ!』

「行きません」

 

 期末テスト、林間合宿の準備、そして、そこに起きたアクシデント。

 それ以前から、高校一年生としてはかなり濃密な時間を過ごすことになった雄英高校ヒーロー科も、いよいよ夏休みが目の前に迫った時。

 その電話は、いつもと同じように、唐突に掛かってきた。

 いつものように、唐突に掛かってきて、何の脈絡も無く本題を切り出してくる。

 そんなミルコの誘いに対して、出久は即答で返した。

 

「夏休みは林間合宿までの間、エンデヴァーの事務所を手伝うことになっていますので。申し訳ありませんが、空いた時間が取れません」

『なんだそりゃ! 聞いてねーぞ!』

「ホークスには話しています。ミルコにも話しておくべきでしたか? すみません」

 

 勝気なバニーらしく、勢いのままグイグイ押してくる。そんな積極的な女の対応にすっかり慣れた様子の出久は、淡々と返答し、粛々と話を切り上げた。

 

「用件はそれだけですか?」

『それだけって……いや、まぁ……』

「では、お互い朝は早いですし、おやすみなさい」

『おい、ちょっと待てよ、もう少し会話くらいしろよ』

「おやすみなさい」

 

 それ以上は言葉を挟む暇を与えず、通話を切り、電源も切った。

 

「ホークスの言った通り。女性の誘いを最速で断るには、即断と即答だな」

 

 

―― 翌日 ――

 

 

『デクよ。お前は夏休み、I・アイランドへ行くべきだ』

「行きませ……はい?」

 

 一夜明けた翌日の、似たような時間。

 ミルコではなく、夏休みにお世話になるはずのエンデヴァーが切り出したのは、昨夜聞いたのと同じ内容。

 

『ミルコから話は聞いたが……お前の特殊な個性について一度、I・アイランドでじっくり調べるべきだ』

「……僕の個性のことを、知ってるんですか?」

 

 出久の『個性』のことを詳しく知っているのは、現状、ヒーロー公安委員会とホークス、雄英高校の教師ら、そして、ミルコと、ベストジーニスト。

 それ以外は、よっぽどの事情が無いかぎりは秘密を明かすことは禁じられていて、何なら、そのための誓約書さえ公安と関係者間で取り交わされている。

 だから、エンデヴァーが『物間寧香』の秘密を知ることは本来、あり得ないはずなのだが……

 

『詳しいことは知らん。だが、貴様の個性が普通の個性と違うことは、俺でなくとも気づく人間は大勢いるだろう。そもそも、ヒーローですらない中学生の子供を、ホークスが連れまわしている時点でおかしいと考えるのが普通だ。それが、貴様の持つ個性にあるということもな』

「まあ、確かに……」

 

 出久自身、一年以上前の修業時代は、ホークスやミルコらに付いていきながら、『個性』の制御・コントロールを覚えるので精いっぱいだった。

 それでも、そんな自分を見る奇異や好奇、疑問の視線を全く感じなかったわけじゃない。エンデヴァー他、実際に出会って話したこともあるヒーローなら、おかしいと考える人間はいただろう。

 

「まあ、確かに……詳しい事情はエンデヴァーにも話せませんが、僕の個性は特別です。だからそもそも、そんな人間が海外に出ることを、公安が許可するとは思えません」

『ホークスがすでに公安から渡航許可を得ているという話だ』

「最速の男……!」

『それだけのことをミルコから聞かされて、俺との約束より優先すべきと判断したわけだが……ミルコからなにも聞いていないのか?』

「すみません……ほぼ毎日どうでも良い用事で電話を掛けてきては、長話に付き合わせようとしてくるので。今回も、最速で話を切り上げるべきと判断してしまいました」

『……お前、それは――』

 

 と、エンデヴァーが何かを言いかけたが、一つ、咳払いをした。

 

『――まあいい。いずれにせよ、俺のことは気にしなくていい。正直、お前ほどの男の助力を期待していただけに惜しい感情もあるが、俺は俺で何とかする。せっかくの夏休みだ。ミルコと二人で楽しんでこい』

「ミルコと、ですか……」

『……お前、あの女になにをされたんだ?』

 

 本気で嫌がっている様子の出久の声から、疑問と呆れと心配の声をエンデヴァーが上げ、しばらく会話をして通話を終了した時。

 夏休みから始まる早目のヒーローインターンの予定が、I・アイランドでのバカンスに切り替わった瞬間だった。

 

「ミルコと二人……ハァ――」

 

 

 

―― 数日後 ――

 

 

 

「着いたぜー!!」

 

 日本からプライベートジェットで出航し、到着後は更に入国審査が自動で行われ、晴れて入国が許される。

 そうして現着した、ヒーローコスチュームを着た二人組。

 ラビットヒーロー ミルコ。

 例外の男、デク。

 

「サポートアイテムとは言え、刀の持ち込みも可能なんですね」

「そりゃあ、事情があってサポートアイテムが手放せねぇ人間もいるんだ。特にヒーローなら、サポートアイテムがダメならコスチュームもダメになっちまう」

「まあ、確かに……」

 

 そんな会話をしながら、歩いていく。

 I・アイランドの様々な研究・開発の成果を展示した博覧会、I・エキスポ。現在は、明日開かれる一般公開前のプレオープン中で、入国はミルコのように招待状をもらった人間とその同伴者に限られているが、それでも多くの来場者であふれている。

 日本などとは違って『個性』の使用は自由。観光客向けの展示施設(パビリオン)には『個性』を使ったアトラクションも多く、見た目にも華やかなテーマパークの様相を呈している。

 

「おお! ミルコだ!」

「ラビットヒーロー! 勝気なバニー!」

「ミルコー!!」

 

 それだけ大勢の人々が楽しんでいる島内を歩いていくうち、途中、『ミルコ』に気づいて手を振ったり、声を掛けたりしてくる人間もいる中。

 

「アナタ、デクよね? 雄英高校の『例外』!」

「オールマイトとの試合見たわよ! かっこよかった!」

「火傷は大丈夫だった? すごかったけど危ない戦い方はしないで欲しいな……」

 

 ミルコの隣の、『デク』に気づく人間もいたことには、他ならぬ出久自身が驚いていた。

 

「モテモテじゃねーか、出久~」

「アハハ、そうかも……」

「けどまあ、今は私とのデート中だからな!」

「ハハハハ、デート、ですか……」

 

 もはや笑うしかない。

 そんな出久の頭をくしゃくしゃと撫でながら、ミルコは、歯噛みし、やきもきするばかりだった。

 

 

 

「さて……そろそろ約束の時間だがな」

 

 ホテルへ荷物を運んで、今回の旅の本題である、出久の個性の調査をしてくれるという人物との待ち合わせ場所に立っている。

 

「あの、ミルコ? ここまで来ておいて何ですけど、僕の『個性』の調査なら、日本の研究機関でもすでに行われていますが……」

 

『無個性』だったはずの自分に突然宿った、『物間寧香』の個性。

 そんな、あまりの『例外』に対して、公安が黙っているわけもない。公安が知る限りの国内の研究機関・大学等に問い合わせ、考えられるあらゆる検査、調査が行われた。

 そのうえで、起きてしまった事故も含めて出た結論が、緑谷出久の『秘匿死刑』だったのだ。

 

「バーカ。日本のショボい研究機関とI・アイランドを一緒にするんじゃねーよ」

「ショボい……まあ、そう、ですか?」

「I・アイランドがどんな島か、知らねーわけじゃねーだろ」

「そりゃあ、まぁ……」

 

 I・アイランド。

 1万人以上の科学者たちが住む、学術研究移動都市。

 この人工島が作られた目的は、世界中の才能を集め、個性の研究やヒーローアイテムの発明等を行うため。島が移動可能なのは、研究成果や科学者らを(ヴィラン)から守るため。

 その警備システムは、タルタロスに匹敵する堅牢さを誇り、今日まで敵犯罪が起きたことは一度も無いらしい。

 

「今回会うのは、私の知り合いの研究者だけど、I・アイランドで働くだけに頭の良さは確かだ。信頼していい」

「まあ、確かに、そこは信頼できそうですけど……」

 

 

「ルミー、こっちー」

 

 

 と、二人で話しているところに、そんな脱力した声は聞こえてきた。

 

「本名で呼ぶんじゃねー! 硝子(しょうこ)ー!!」

 

 聞こえてきた声とは真逆の、力強い大声を上げる。

 そんなミルコと、デクの前に歩いてきたのは、白衣を着た女性。

 背中まで伸ばした髪は特に手入れはされていないようで、縛りもせずまとめもせず適当に垂らしている。そんな髪の毛の下の目には、出久に劣らないほどの暗いクマが浮かんで、若く美人ではあるが、それなりに苦労している様子がうかがえる。

 そんな白衣の美女が、歩きタバコをくゆらせながら、二人の前に立った。

 

「またみすぼらしくなったなー。あとタバコやめろ」

「そういうルミこそ、お互い良い歳なんだから。タバコくらい許容できる女になれよー」

 

 お互い皮肉を言い合って、だが笑い合っている。

 二人の間だけにある独特の気安さと仲の良さを、確かに感じられた。

 

「……と、ごめんごめん。君が?」

「えっと、初めまして。緑谷出久です! ヒーロー名は、デクです」

「デク……木偶の棒……変わったヒーロー名だね」

「おいコラ、ガラス! 出久を木偶の棒呼ばわりすんな!」

「ごめんごめん。二度と恋人の悪口は言わないよ。あと、私は硝子(ガラス)じゃないよ?」

「恋人ではないので、悪口を言ってもらっても平気ですよ?」

 

 硝子の言葉を聞いて、ミルコは赤面するも、出久が速攻で否定した結果、元に戻る。

 硝子は、クスクスと笑った。

 

「……とにかく、こいつが今回、お前のこと調べる、家入(いえいり) 硝子(しょうこ)。職業は個性研究者――」

「兼、医師。正直、研究より医者で駆り出される方が多かったりするんだよねー」

「よろしくお願いします……ミルコから聞きましたけど、I・アイランドで働いてるなんて、本当に優秀なんですね!」

「まあねー。この島はいいよ? 補助金や研究費用は出し渋るくせに、減給と増税と中抜きが大好きな日本にいるよりノビノビ仕事ができるよ。給料も日本よりずっといいしね」

「アハハハ……確かに、研究者や科学者にとって、日本は(ケチ)だって話は昔から聞きますけどね……」

 

 詳しく書き出せば1万文字あっても足りない事情ながら。

 それでも、出久の個性を調査した結果、下された結論が『秘匿死刑』となった理由の遠因ではあるだろう。

 

「しかも、お医者さんでもあるなんて、本当にすごいです!」

「まあ、医師に関しては、たまたまそういう個性だったってだけの話なんだけど……というか、君も私の個性、コピーして使ってるんだろ?」

「え? じゃあ、ある日突然ミルコが提供してくれた、治癒系の個性って……」

「そ。私の髪と爪。人を治せる個性は一人でも多いに越したことはないからね。手紙をもらって、喜んで提供させてもらったよ。役立ててくれてるかい?」

「おかげで、大勢の人を救けることができています……けど、ミルコ、僕のこと、そんな昔から第三者に漏らしていたんですか?」

「こいつは信用できるから大丈夫だ。I・アイランド自体、秘密厳守も徹底してるしな」

「この人は信頼できても、公安にバレてたら、ミルコもタダでは済まなかったでしょう?」

「ああん? なんだよ出久~、心配してくれるのか?」

「そりゃあ、心配しますよ。ミルコにはいつもお世話になっていますし」

「可愛いヤツだな~お前」

「……まあ、いいや。詳しいことは歩きながら話そうじゃないか」

 

 

 言われた通り、その後は彼女の案内で移動を開始。途中、この島の出身者である硝子から、建物や展示物のガイドをされたりと、ミルコが終始タバコの煙を嫌がっていたことを除けば、それなりに楽しいと思える道中を過ごすことができた。

 

 

 

「好きに解剖(バラ)していいよね?」

「いいわけねーだろ!!」

 

 彼女の働く研究施設(ラボ)に到着するなり、そんな物騒なやり取りを行っている。

 出久は、微笑んでいた。

 

「お二人は、本当に仲がよろしいんですね?」

「だろー?」

「……」

 

 硝子は微笑み、ミルコはゲンナリとしている。

 結局、解剖は行われないらしく、出久は部屋の中央に立たされ、硝子は観測用の機械の操作を始めた。

 

「それじゃあ、早速だけど、『個性』を出して(・・・)もらっていいかい?」

 

 指示を受けて、出久は大切にしまっていた指輪を取り出した。

 

「ちょっと狭いけど、ガマンして、寧香ちゃん――」

 

 

「おぉ……これは、すごいね」

 

 寧香が姿を現したと同時に、うるさく鳴り響く機械音。

 隣で見ているだけのミルコには、何が何だか分からないが、とにかく、波とかグラフとか数字とかがやたら大きくなっていることだけは普通に分かった。

 

「……そんなにすげーのか?」

「ああ……恐るべき個性のエネルギー値だ。ここまでの強さはオールマイト並みだね」

「ほぉ……」

「だがそれ以上に驚くべきことは、彼女(・・)のエネルギー、つまり、存在はそれだけ強いのに、他ならぬ彼自身の個性数値はゼロ。つまりは、完璧な『無個性』ってことだ」

「……やっぱ、出久は無個性なのか?」

「そうだ。本来、個性ってやつは生まれながらにその個人の肉体とぴったり溶け合うように宿ってるものだ。それが彼の場合、無個性なはずの彼の肉体に、外側から貼りつく形で個性が宿ってる。憑りつかれてるって言えばイメージし易いかな?」

「……無個性の出久に個性のユーレイが憑りついてるってことか?」

「分かり易く言えばそういうことだ……緑谷君? なんでもいい、適当な個性を一つ、発動してくれないか?」

 

 指示を受けた出久は、言われた通り個性を発動。

 職場体験で散々練習した『煉瓦』の個性で、右手を耐火煉瓦に変化させる。

 

「ふむ……個性自体は彼女が発動させているのか。それが緑谷君の肉体を介して表出している形かな? 炎を使って身体が焼けるはずだ。肉体そのものは無個性なんだから。訓練や鍛錬でどうこうできる次元じゃない」

「……やっぱ、ここに連れてきて正解だったぜ。個性を出すこと自体を禁じてた日本じゃできなかった検査だ」

「それは、彼自身の努力の賜物だろうな。本来、肉体の一部であるはずの個性なのに、彼の場合は個性そのものが完全に肉体から独立してる。上手いこと手綱を握らなきゃ、オールマイト並みのエネルギーを持った個性が暴走して大暴れしてもおかしくない。日本の連中が慌てて死刑にしようとするのも納得だ」

「ま、そりゃあ制御は楽勝なんじゃねーか? 出久にとって、最愛の女性(ひと)、らしいしよ」

「事故死した女児か。辛いな……そういう意味でも、まさに呪いの子だな、彼は」

「おお……」

「それに、相手が死んでしまったんじゃあ、超えようにも超えられないし、な。ルミ」

「……」

 

 

 それからしばらく、様々な検査を受けて。

 データを取り終え、あとは明日までに詳しく解析するからと二人が解放されたのは、約一時間後のこと。

 

「うっし! やることやったし、あとは普通にデートすんぞー!」

「……おー」

 

 二人になってからというもの、やたらとテンションの高い勝気なバニーに対して、出久もとりあえず、合わせておいた。

 

 

 

 




ケチなのは研究・開発に対してだけなのかな……
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