「楽しそうやね? デク君」
検査が終わり、解放されて、晴れて自由時間となった。
その後は当然、世界的なテーマパークの側面もあるI・アイランドを見て回ることになった。
展示物の見学はもちろん、アトラクションに乗ったり、ショーを見物したり。
終始、やたらとハイテンションなミルコがローテンションな出久を連れまわす形ながら、出久も普通に楽しんではいた。
そんな出久の耳に聞こえてきたのがそんな、麗日お茶子の声。
「楽しそうやね?」
なんで二回言ったんだろう?
「とっても楽しそうでしたわ?」
疑問に思っている出久の耳に、続けて八百万百の声。
そして、そんな二人の間に、もう三人。
「緑谷……聞いちゃった」
「相変わらずくたびれてんなー」
自身の『個性』でもある長く伸びた耳たぶ、『イヤホンジャック』を揺らすA組女子、
そして、最後の一人。
「あなた! 緑谷イズク君!?」
「え、ええ、そうですけど……」
眼鏡を掛けた、金髪碧眼の長身の美女。いかにもといったアメリカ系の美少女が、拳を握り興奮した様子で出久に迫った。
「私! あなたのファンなの!」
「ファン……ファン? 僕のですか?」
「そう! 雄英体育祭の活躍見たわ! とてもカッコよかった!!」
「おかげで島の見学中も、何かとお前のこと聞かれたしな」
どうやら彼女の同伴者らしい、真希はふて腐れた様子でそんなことを語っていた。
「……それは光栄です。まだ、仮免許を取っただけの身なので、ヒーローらしいことは何もしていませんが」
「あなたなら本資格だって絶対に取れる! マイトおじさまのような立派なヒーローになれるわ! これからも応援してる!!」
「ええ。がんばります。応援してくださって、ありがとうございます」
最初こそ押され気味であった出久も、すぐに落ち着いて、平然とやり取りを行う。
そんな女性慣れした様子に女子生徒たちは感心し、彼の冷静な雰囲気に少女はますます見惚れるばかり。
「うおっほんっ……」
そんな若い者二人のやり取りに対して、一番面白くない反応を示しているのが、その場で最年長の女。
「そう言えばデク君、なんで、ミルコと一緒にいるの?」
随分と今さらな疑問を投げかけてきた麗日に対して、説明しようと向き直った出久の肩に、ミルコの手が回された。
「それな! 今こいつとプライベートでラブラブデート中だ!」
「……です」
五人とも、目を見開き、驚愕の顔を見せたものの――
出久のくたびれた微笑みから、少なくとも、雄英女子らには分かった。
あ、これ、緑谷が振り回されてるやつ……
「なるほど! 使える『個性』が多いから多目的になるよう敢えてシンプルなデザインのヒーローコスチュームなのね? 他の個性で肉体を変化させたり炎を出したりすることも考えると、動作の起点になる両腕を露出することも利に敵ってるわけだ」
「遭遇した
「裏地がデニム生地なのは『ファイバーマスター』もそうだけど、防音効果に耐久効果も期待できるのね?」
「表面の見た目に反して夏場は蒸れるのが辛いですけど、やっぱり、ベストジーニストの個性は便利で強力なので、ガマンする価値はあります」
計七人となったメンバーはその後、フードコートエリアに移動。
大人数となったことで必然的というか、テーブルは分けられた。
そこで出久の隣には、金髪碧眼の少女、メリッサ・シールドが座った。
話題は、彼女自身が科学者志望であることもあり、主に出久のヒーローコスチューム、サポートアイテム。
「重い……サポートアイテムで剣や刀を模した打突武器を持つヒーローはたまに見かけるけど、本物の刃物を持ち歩くのは珍しいわね?」
「さすがに、手入れ以外では滅多に鞘からは抜きませんけどね。こんなものを使ったら、捕まえるべき
「確かに、体育祭のエキシビションで抜いた時は、もの凄い切れ味だったものね……ねぇ、抜いて見てみてもいい?」
「すみません。それは勘弁してください。切れ味もですけど、ちょっと特殊な刀ですから」
「そう……」
こういった、技術面のことに関しても、興味津々かつ勉強熱心な女性だが、やはり一番興味がある様子なのは、自らファンだというデクに関して。
「すごーい! ホークスやエンデヴァーの仕事でも活躍してるなんて!」
「活躍だなんてそんな……あくまでできることは、サポートが中心ですから」
「それでも立派だわ! それに、強さだけじゃなくて、潜入にかく乱、ケガの治療までできるなんて。万能だし、色々な人と出会う度に強くなる……大勢の人を救けられる、偉大なヒーローにあなたならなれるわ」
「……ありがとうございます」
こんな感じで、目が♡に変わっているメリッサは出久から離れなくなって、結果的にデートの相手を取られることになった、ミルコはというと……
「だからよぉ、相手が戦意喪失してるかどうかを見分けるには目の色と、後は手の動きを見ることだな。私の場合は『兎』の聴力で変な音にも気づけるが、目はまだ闘志を失くしてねーか、手は悪あがきや小細工をするかの動作が分かるからな」
「なるほど……けど、中にはヤケクソになって人質や周囲の人を巻き込むような敵もいますよね?」
「まーな。そういう連中は闘志やら小細工うんぬん、何なら思想やら犯行動機に関係なく、後先考えず暴走してるヤツがほとんどだ。だから勝機も無しに無茶をして、自分のケガも命も無視するから結果的に状況は悪くなる。そういう相手はぶっちゃけ、蹴っ飛ばして気絶させるっきゃねーのが本音だな。当然、人質や一般人の安全確保を第一にしてな」
集まっている女子の五人とも、プロヒーローを目指す有精卵たち。加えて、自分たちと同じ女性のヒーローということで、プロの世界、経験等に関して質問し、ミルコも快く答えている。
「やっぱ、肉弾戦メインだとキツイ場面もあんのか?」
「当然、いくらでもある。敵との相性の良し悪しはまあ当然だが、できることは基本的に敵の制圧しかねーしな。救助だってもちろんやるが、それだって生身で突っ込むしかねぇ。火事場だったら消火もできねーしな。私に限らねーが、他人の個性が羨ましくなるなんてザラだ」
「……でも、私からしたらミルコも羨ましいですけどね。真希ちゃんの強さに響香ちゃんの聴力まで加わったようなヒーローだし」
「なに言ってんの? 麗日だって、物や自分を浮かせられるなんて、便利だし汎用性高いじゃん。ウチなんか、実質耳が良いだけで、アイテムが無きゃ攻撃もできないんだからさ」
「私みてーに、出力間違えて大ケガしちまうこともねーしな」
「様々な道具を生み出せても、わたくし自身は強くなれるわけでもありませんし」
「……そーなると結局、誰が最強かって」
そんなミルコの問いかけに、女子らの視線は、未だにメリッサと楽しげに会話している、出久へ向けられる。
どんな個性にも、利点もあれば、欠点もある。持って生まれた個性が決まっている以上、どうしても、隣の芝生が青く見えることはある。
そんな個性を、いくつも使うことができ、応用も効かせられる。何なら、反動でケガしても簡単に治療できる。自分のも人のも。
そんな『例外』に過ぎる力を持った、出久に対して……
気づいたのは、麗日と、真希の二人。
(あれ? ミルコ……)
(あの目、マジのやつか……)
「お待たせしました」
と、そんな出久の耳に、再び覚えのある声が聞こえた。
そちらを見ると、臨時でアルバイトをしているという、
「君たち! 真面目に労働に励みたまえー!!」
メリッサのことで出久に迫っていた二人に向かって、そんな大声が叫ばれる。
それと同時に走ってきたのは、ヒーロー一家として招待を受けたという飯田天哉。
「……なんだ?」
A組の面々と次々に合流しているさ中、聞こえてきた爆音、震動。
向かった先にはアトラクションの一つ、敵に見立てたロボットを全て破壊したタイムを競う『
そこで活躍する、これまたA組クラスメイト、切島鋭児郎、爆豪勝己の二人の姿があった。
「……16秒。爆発野郎には届かなかったか」
二人に続いて挑戦した、禪院真希の記録。
個性による瞬発力、身体能力によって、記録は爆豪に続く二位。
「14秒……真希、見たか? 俺の記録」
そのすぐ後で、いつの間にか現れた、轟焦凍が一位の記録を更新した。
「12秒……どうだ出久。惚れ直したろ?」
黙って見ているはずもないミルコも挑戦。
プロヒーローの力を見せつけるように、轟と2秒の差を付け一位に輝いた。
「うっし、次は出久だ」
「アハハ。僕もですか……」
半ば予想できていたことながら、やはり抵抗はある。
それでも、ミルコは笑って煽り立てるし、爆豪はいつものごとくキレ散らかす始末。
やらないことには収拾がつかないと判断した。
『さあ! 続けてのチャレンジャー! プロヒーロー ミルコの記録に届くことができるか?』
(
「個性『
コピーしてきた個性の一つを選択。下準備をし、両手を合わせる。
『敵アタック――Lady Go!!』
「
百臉……血液を加圧し、限界まで圧縮する技。
穿血……百臉で圧縮された血液を一点から撃ち出すことで、その速度はジェット機並みに達する。
自身の血液を自在に操る個性『
「
ダメ押しとして、百臉によって圧縮された血液を解放。
超新星……散弾のように全方位に散らばる血液によって、残った敵ロボも破壊された。
『すごーい!! 10秒!! 第一位!! プロヒーロー ミルコを押さえて、第一位です!!』
「ウッハハ!! やっぱすげーな出久は!!」
自身の記録を抜かれたというのに、誰よりも喜び、はしゃいでいるミルコだった。
「きゃー!! イズク、かっこいいー!!」
メリッサもまた、飛び跳ねるほど喜んでいた。
「なに! あれは何の個性!?」
「……ありゃあ、ブラドキング先生の、血を操るって個性だな。
「緑谷のやつ、先生たちの個性もコピーしてたのか!」
「おまけに使いこなしてやがる……やっぱすげーわ、アイツ」
「クソデクがー!! 俺ももう一回だー!!」
「……俺も。真希の前で、緑谷には負けられねぇ」
見ていた雄英生徒たちも、各々の反応を示していた。
「……強力だけど、使うと貧血でフラ付くのが『操血』の欠点なんだよね。液体だから操作も難しいし」
当人の出久はというと、個性の反動で座り込んだ物の、すぐに別の個性で回復し立ち上がるのだった。
……
…………
………………
「どーよ出久? この衣装」
「素敵ですね。とても似合ってます」
日が暮れるまで、パビリオンもあらかた楽しんで、ミルコと滞在するホテルへ帰還。
そこで、ベッドに座る出久にミルコが披露したのは、普段着ている勇ましいヒーローコスチュームとは真逆の、お洒落で上品なパーティドレス姿だった。
「出久の分も用意してあるからよ。この後の
「行きません」
と、ここでもまた、ミルコの誘いを断るの出久である。
「さすがに、公共の場ならともかく、そういう、セレブやお偉方の集まるかしこまった場へ、寧香ちゃんを連れていくのはマズイと思うので」
出久自身、単純にミルコの誘いが嫌だという感情は……大いにありはするが、それだけで彼女の好意を無下にしているわけじゃない。
エンデヴァーにも語った、公安からの海外渡航の許可の件もそうだし、誰よりも自身の『個性』の危険度を把握しているからこそ、あるべき場所と、振る舞いや分をわきまえていた。
「そっか……んじゃ、私も行かね」
ミルコは特に気にする素振りも見せず、笑って出久の隣に腰かけた。
「良いんですか?」
「おお! そもそもパーティとか堅苦しいの嫌いなの、お前も分かんだろ?」
「じゃあ、どうして誘ったんです?」
「出久と行きたかったからに、決まってんじゃねーか」
ニカッと笑い、出久と、肩と、ひざと、太ももを合わせた。
「いっそのこと……せっかくホテルに二人きりなんだ。ホテルらしく、このまま大人の階段上ってみるか?」
「……これ以上の冗談は、さすがに寧香ちゃんが黙ってませんよ?」
ミルコからの誘いに対して……
優しく微笑む出久の口から、そんな発言が飛び出した。
「……お前が、女の相手しない理由はそれか?」
体を離し、尋ねてみる。
出久は、淡々と答えた。
「誰にでも、他人に対して、苦手とか、嫌いと思う感情はあります。寧香ちゃんにも……特に、女性と、年上の男性と向かい合っている間、僕の中の彼女はとても不機嫌になります。今は克服してますけど、一時期は僕をイジメていたこともある、かっちゃん……爆豪勝己に対しても、そういう感情を向けていました。今でこそ、僕の中で大人しくしているけど、もし、寧香ちゃんにとって、許容範囲を超すようなことをしたら……ハッキリ言って、僕にも止められる自身はありません」
「……そーかよ!」
これ以上は本当に、踏み込むだけ無駄らしい。
自分自身が危険なのは別にいい。プロヒーローとして傷つき、命を落とす覚悟はできている。出久のためならなお更、命を捧げても惜しくない。
そのうえで、出久本人が本気で拒んでいる。ミルコほどなら……そうでなくとも、ヒーローであれば別に着なくても問題ない、似合いやしないお上品なドレスまで用意したっていうのに――
それが分かったミルコは、立ち上がった。
「どこへ行くんですか?」
出久の目の前でドレスから、ヒーローコスチュームに着替えてやる。
それにさえ無反応な出久に対して、ぶっきらぼうに応えた。
「女一人で散歩だよ。お前はせいぜい、最愛の
その言葉の通り、着替えを済ませた後は、乱暴にドアを開けて外へ出ていってしまった。
「……なに怒ってるんだろう?」
後に残されたのは、本気で彼女が出ていった理由を理解できないまま、脱ぎ散らかしたドレスを片づける出久と、出久の中の、物間寧香だけだった。
この小説のブラキン先生はサポートアイテムで弓矢を使います。
なお、活躍の予定は無し。
ミルコのドレス姿はご想像にお任せします。
-
赤
-
青
-
黄
-
緑
-
水
-
紫
-
桃
-
橙
-
白
-
黒
-
金
-
銀
-
その他