【完結】個性:物間寧香   作:大海

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真希さんはなんとなく、技名を早口で叫んでるイメージです。



第12話  2人の英雄・転

 異変が起きたのは、ミルコが部屋を出ていって数十分後のこと。

 出久と一緒に出るはずだった、レセプションパーティの会場がある、セントラルタワーを見上げていた時。

 

「……ッ、なんだよ?」

 

『兎』の耳にはうるさい警報の後で流れたのは、I・アイランド警備システムからの放送。

 それによると、I・エキスポエリアに爆弾が仕掛けられたということ。そのため警戒レベルを最大まで引き上げたのち、今より10分以降の外出者は警告なく身柄を拘束されるという。

 それを証明するように、道路には警備ロボットが列を成して走り、各店のシャッターが閉まっていく。

 通行人たちも、そんな物々しい雰囲気に歩を早め、帰宅、または最寄りの避難所へ急いでいる。

 

(妙だな……そりゃあ、爆弾は一大事に違ぇねーが、それだけで警備レベルがマックスだと?)

 

 ほとんどの一般客たちは、そんな放送と事象に疑問を持たず、指示に従い行動している。

 加えて島内にいる多くのヒーロー達も、特に疑いなく指示に従っているだろう。

 だが、ミルコは……

 

(どうにも、妙な胸騒ぎがしやがる……)

 

 どの道、このままホテルへ戻るにも時間がかかるし、かったるい。かといって、避難所へ逃げるのも性に合わない。

 避難誘導は、どうせ警備ロボットがやってることだし。

 

「エキスポエリアっつったらここだよな? 何かするとしたら……セントラルタワーか?」

 

 仮に自身の考えが間違っていても、なんなら、実際は何事も無く警備ロボットにマヌケに捕まるならその方が良い。

 兎の勘に従い、目の前に建つセントラルタワーへ移動した

 

 

 

 

 

「やれやれだ。『兎』の勘もバカにできねーな」

「ミルコ! あなたと合流できて大変幸運です!」

「良いから走りやがれ!」

 

 全てのシャッターが閉まる前にセントラルタワー内へ滑り込むことができ、そこに集まっていた、雄英生徒8人――真希、麗日、八百万、耳郎、飯田、轟、上鳴、峰田、およびメリッサ・シールドと合流したミルコは、今このビルで起こっている事態を聞かされた。

 武装グループがこのビルと警備システムを占拠。人質は、I・アイランド島内にいる人間全員。

 この事態を巻き返す方法は一つ。(ヴィラン)たちの監視を逃れ、最上階へ向かい、警備システムを奪還すること。

 方針を決めた彼女ら、計10人は、上の階を目指し走っていた。

 

「ごめんなさい、ミルコ……私が『無個性』であるばかりに」

 

 メンバーの中で、訓練らしい訓練も受けたことがなく、『無個性』ゆえに戦闘能力も皆無。だが、この中で警備システムを操作できる唯一の人物。

 そんな最重要人物であるメリッサは、この中で実質最強戦力である、プロヒーローのミルコがおぶって運んでいた。

 

「ハッ! 気にせず守られとけよ。お互い、得意分野が違うんだ。私は私の、お前はお前のできることやる。それだけだろ?」

「は、はい!」

「そういえばミルコ、緑谷君はいないのですか?」

「……アイツは今ごろ、ホテルで女とイチャコラしてんだろ」

「なに! 緑谷の野郎、ミルコとは別に女連れ込んでんのか!?」

「ウソ……イズク、恋人がいるの?」

「まさか、あの緑谷君が……」

「デク君が、そんな……」

「あの野郎……」

「ナメやがって……」

「あーッ! 個性だよ個性! アイツの個性の『物間寧香』とだ!」

 

「「「「あー……」」」」

「「「「あー……」」」」

 

 ミルコの返答に、走りながら騒然とした一行だったものの。

 ミルコの擁護に、走りながら納得の声を全員で上げていた。

 

(たく……なんで私があんな鈍感野郎を擁護しなきゃなんねーんだ)

「……しっかし、緑谷がいりゃあ、こんな問題、パパっと解決してくれたのかなー?」

「上鳴君! 気持ちは分からんでもないが、いない人間をアテにしても仕方がないだろう」

「そういうことだ。それに、出久のヤツだって、最強だが無敵じゃねぇ。んで相手はオールマイトも無効化した連中だ。全員で力合わせねーと勝てねーよ」

 

 ミルコからの鼓舞を聞いて。

 つい、この島に来ている『例外』の力を求めてしまった一行は、気を引き締め、階段を上り、廊下を走り、通路を通過し……

 

 

 途中、爆豪と切島の二人とも出会い、しかし、立ちはだかる(ヴィラン)、セキュリティ、障害物や警備ロボットをかわすため、一人、また一人と仲間は減っていき。

 最上階が見えてきたところで、残ったのは、ミルコ、メリッサ、麗日、真希の4人。

 

「……おい、ミルコ?」

「あん? なんだよ?」

「今しかねーと思うから言っとく……私は出久のことが好きだ」

「ああん!?」

 

 廊下を走っていきながら、真希が突然、暴露した。

 

「アンタのことは尊敬してるし憧れてる……けど、少なくとも、出久のことに関してだけは負けねぇ」

「……ハッ! いいなお前、生意気だ」

 

 後輩からの戦線布告に、ミルコは怒り出すどころか満面の笑みを見せた。

 

「ミルコだけじゃねぇ。お前もだよ、お茶子」

「うぇ!? わわわわ、私は、その……!」

「……そっか。私の勘違いか。悪かった。忘れてくれ」

「か……勘違いじゃない!! 私もデク君が好きです!」

「私も! イズクのことを愛しているわ!!」

 

 四人が四人とも、ここにはいない一人の高校生男子に対する想いを口にして。

 

「そんじゃあ、さっさと終わらせて、全員で出久んところ帰るか!」

 

「「「うん!!」」」

 

 

 そのまま走っていき、たどり着いたのは、ビル高層の屋外に設けられた風力発電システム。

 メリッサの話によると、そこから見える、上層部への非常口へ一気に昇ることができれば、警備ロボや敵たちが待ち構えるタワー内を上ることなく一気に最上階へ近づける。

 そのために、麗日の個性で自分を浮かせて欲しいと。

 そこで、麗日がメリッサとミルコを浮かせ、真希が麗日の防衛に残るという話になったのだが……

 

「……いや、逆だ。私がここに残る。禪院真希、お前がメリッサを守ってやれ」

「私が?」

「敵アタック見て思ったが、ハッキリ言って、お前の方がマルチに立ち回れる。最上階はあんだけ狭いうえにシステムの中枢なら、ここより警備も少ねぇはずだし。だったら、どれだけの敵や警備ロボットが出てくるかも分からねぇここには、私が残った方が確実に麗日を守れる」

「……」

「頼んだぞ、真希」

「……分かった」

 

 ミルコの采配に従って、真希と、真希につかまったメリッサの二人に麗日が触れて、個性『無重力(アンチグラビティ)』を発動。

 重量から解放された二人の身は浮かび上がり、上へ上へと昇っていく。

 

「……おいでなすった」

 

 ミルコの言った通り、二人が昇っていった直後、自動扉が解放。そこから、無数の警備ロボットが姿を見せた。

 

「私の後ろにいろ」

「はい!」

 

 

 

「私の生まれた家、結構面倒な家系でさ、オマケに個性の強さ絶対主義な思想も相まって、去年まで無個性だって思われてた私は、ずっと見下されたし、バカにされてきた。そんな家の大人どもは、私が見てる前で、いっつもいとこたちに言ってた。真希みたいにはなるなって……」

 

 上昇の恐怖と、下で起きている騒ぎでパニックを起こしているメリッサを落ち着かせようと、真希は話しかけていた。

 

「それでも、目覚めたばっかの個性、オールマイトから教わったりしながらどうにか使いこなして、雄英に合格もした。体育祭じゃあ大ケガしちまったがな。出久と出会ったのは、その時だ。ズタボロになった私の両手を個性でアッサリ完治させちまった。で、私がムカつく実家を見返すためにヒーロー目指してるって話したら、アイツ、私みたいになりたいってさ……バカみてーだろ? それだけのことで認められた気になっちまってさ」

「そんなことない。私も、真希さんは素晴らしい人だと思う。見下されてもバカにされても、ハッキリした目標のためにひたむきになれる、強い人だもの……イズクもきっと、そこに憧れたんだと思う」

「……」

「私も……イズクのそんな、人のことを真っすぐ、正しく見てくれるところに惹かれた。最初は誰にでもある、体育祭で見せた雄姿への憧れだけだった。それで実際に出会って、話せたことが嬉しかった。それだけの短い関わりでも十分に分かるくらい、彼は私を見て、嬉しい言葉をくれたから」

「……私よりよっぽど出久のこと見てんだな」

「そう、かな……?」

「どっち道、お互い、てか四人とも、難儀な男に惚れちまったのは一緒だけどよ」

「そうよね。フフ……」

 

 

 

満月乱蹴(ルナ ラッシュ)!!」

 

 麗日の目の前で何往復もするように左右に動き、すれ違いざまに警備ロボットへ蹴りを叩き込む。蹴りを喰らったロボットは一撃で大破し、衝撃で後ろへ吹き飛び、後ろに並ぶ別のロボットを巻き込み破壊される。

 

「最初、ホークスが出久を連れてきた時な、なんだこのザコはって思った! 見た目貧弱だし見るからにイジメられてる顔だし、何ならその顔も地味だしな! ぶっちゃけ私でもイジメてたぜ。だから足で壁ドンしてやった。ザコに務まる仕事じゃねぇ、帰れってよ。そしたら、それに怒った個性が出てきて、そのままボコボコよ」

「デク君の個性に、ですか?」

「おう! 完敗だった。事情も聞いた。それでも面倒だし、素人のガキがいたんじゃ絶対ぇ上手くいくわけねーから、アイツに仕事を同伴させるとか、イヤでイヤで仕方なかった!」

 

 下で待機している二人。個性によって上昇した二人を制御する麗日に向かって、ミルコもまた、警備ロボットを蹴散らしていきながら話していた。

 

「実際、アイツは終始、ウジウジビクビクしっ放しだった。教えるのも面倒だし、さっさと置いていこうとした。なのにあいつ、脱兎のごとく走り回る私に、懸命についてきてよぉ。事件が起きたら、的確な判断で避難誘導だったり敵の逃走経路を潰したり。まあさすがに、仮免も無かったし戦闘じゃあ役に立たなかったが、少なくとも、相棒(サイドキック)としてならそれなりにやってける程度の実力は身につけてた。まぁ、ホークスの指導の賜物なんだろうよ」

 

 獲り漏らしたロボットの一体が、麗日に迫った。だがそれも蹴散らして、今度は麗日を抱えながら飛び回った。

 

「けどある日、かなり厄介な個性持った敵に二人して捕まっちまってな。私は捕まる前に大ケガ負わされて、出久はまだ治癒系の個性をコピーしてなかったし、私ら以外にも捕まった人間がいたしで、もうパニックよ。だが、あの場で何とかできるヤツは、出久しかいねぇ。だから説教くれてやった。何のためにヒーローになりてーんだってよ」

「……デク君は、なんて答えたんですか?」

「個性に呪われて、そのせいで人を傷つけるのが怖かった。だから、一人で消えようと思った。それでも、ホークスからの、一人は寂しいって言葉に言い返せなかった。だから誰かと関わりたい。必要とされたい。生きてていいって自信が欲しい。それが、アイツがヒーローを目指した理由だ」

「生きるための、自信が欲しくて……」

「だから私も言ってやった。だったら倒せ。人を救え。敵を倒して人を救けて。自信も他人も、その後から付いてくるのがヒーローだってよ……その後でやったのが、物間寧香の完全顕現だ。で、アッサリ私らは救かって、その後は、相変わらず大人しいしウジウジもしてたが前向きになって、気がついたら私以上の実力付けて、仮免まで合格してよぉ」

 

 最後の警備ロボットを破壊して、麗日を地上に降ろした。

 

「ウジウジビクビクした弱虫だったくせに、強くなるために変わって、実際どんどん強くたくましくなって、仮にもプロヒーローの私のことまで守ろうとする……そんなクソカッケェ男が目の前にいて、惚れない女なんていねーだろ?」

「……ですよね? 受験の時に私を救けてくれたデク君、すごくカッコよかった!」

 

 麗日もまた、受験の時に救けられた時のことを思い出して、出久の強さ、存在感、カッコよさ。自分の中で占める出久という存在の大きさを再認識した。

 

 

 

「しっかりつかまってな! フルカウル――」

 

 目標地点の高さの寸前のところで、ビル風が発生。

 それによって二人は非常口を超え、その上の壁へ向かった。

 それを受け、真希は個性を発動。

 

「デトロイトスマッシュ!!」

 

 オールマイトの技名を叫び、ビルの壁を破壊。

 中に入ったことを確認した麗日が個性を解除。

 作戦通り、二人は上層階へ侵入成功。

 

「すっげーな、メリッサ。お前の言った通り、100パーセントの力でも壊れねぇ」

 

 パーティに参加する前にメリッサから渡された、右腕を包むサポートアイテム『フルガントレット』を褒めながら、右腕を構える。そこに振り下ろされた敵の凶器を受け止めた。

 

「胸糞悪いガキどもが……ヒーロー気取ってんじゃねぇ!!」

「半端に落ちぶれたクズどもが――家に引きこもってゲームでもしてろ!!」

 

 煽り返し、蹴り飛ばす。その時見つけた、破壊されたビル壁から飛び出した鉄パイプを引き抜いた。それを華麗に操り、簡単に敵を圧倒した。

 

「やっぱ、徒手空拳より武器のが合ってるわ、私は。私がヒーローになったら、そういうアイテム作ってくれよ。刀か、薙刀がいいな」

「いいわよ。さあ、先を急ぎましょう」

 

 その後は、個性と鉄パイプを駆使して見張りの敵を蹴散らし、いよいよ、コントロールルームへ……

 

 

 そこで知らされたのは、今回の騒動を巻き起こした黒幕が、メリッサの父、デヴィッド・シールドであるということ。

 彼の目的は、親友であるオールマイトのために研究・開発し、だが各国政府の圧力によって凍結・没収させられた、『個性増幅装置』を奪還すること。

 年々個性が減退し弱っていくオールマイトを助けたい一身での、偽物敵を使った犯行であり、芝居であったと。

 だが、その敵たちは本物。それを手引きしたのは、シールド博士の助手、サム。長年の研究で得るはずだった、名誉も名声も無に帰し、ならせめて大金だけでもという動機から。

 もっとも、本物だった敵がそんな約束を守るはずもなし。

 サムは凶弾を受け、トドメと撃たれた銃弾を、シールド博士が代わりに受けて負傷。

 そのシールド博士を、装置の量産を目的に、テロリストのリーダー ウォルフラムがさらった。

 

 真希が救けようと走ったものの、ウォルフラムの個性『金属操作』に苦戦。それでもメリッサを守りきり、島内セキュリティレベルを解除することに成功。

 あわやシールド博士がヘリで連れ去られようという寸前、解放されたオールマイトによって救出された。

 

 

「パパ!!」

「オールマイト!?」

 

 その時。

 オールマイトが金属の塊に飛ばされ、シールド博士は再び捕らえられる。

 そこには、大量の金属を操って、巨大な異形と化した、ウォルフラムが復活していた。

 

「あれは、シールド博士の……!」

「個性増幅装置を!?」

 

「TEXAS SMASH!!」

 

「なんだそれは?」

 

 だが、オールマイトの渾身の一撃は、ウォルフラムの操る金属の塊に防がれ、跳ね返される。直前まで、とてもオールマイトの攻撃に対抗できるだけの力はもっていなかったはずなのに。

 

「さすがはデヴィッド・シールドの発明……個性が活性化していくのが分かる!」

 

 やがて、セントラルタワー自体の金属さえも異形の一部として吸収していき、その身は巨大な塊と化した。

 

「さぁて……装置の価値を釣り上げるために、オールマイトを倒すデモンストレーションといこうか――」

 

 

 

 

 

 なにしてるんだい?

 

 

 

 

 

 その瞬間――

 ウォルフラムは感じた。

 目には見えない。なのに、圧倒的な存在感。

 うすら寒い感覚。冷や汗が止まらない感触。

 個性が増幅され、無敵になったと思っていた自分にはあり得ないはずだった感情。

 それは……潜在的な、恐怖。

 

「だれが誰を倒すって?」

 

 恐怖の直後、目の前に現れた男。それは、今も操っている、金属に逃げ回っているはずのオールマイトでも、圧倒し、心を折ったはずの眼鏡を掛けた女のガキでもなく……

 

「個性――『抹消』」

 

 朱く輝く、そのガキの目を向けられた瞬間。

 ウォルフラムを包み込んでいた金属が動きを止め形を崩し、倒壊していった。

 それに合わせ、握っている刀のロックを解除。

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

 刀を抜き、ウォルフラムの周囲の金属を切り裂き、丸裸にする。

 

「『膂力増強』ッ!」

 

 最後に、個性によって強化された膂力による拳が、ウォルフラムをビル屋上まで殴り飛ばした。

 

「……そこか?」

 

 敵を殴り飛ばした体の向きを変え、下へ。

 そこから、大量の金属によって捕まっていた男が現れたのを、個性『ファイバー・マスター』で保護。地上に降ろした。

 

 

「緑谷少年!」

「出久!」

「イズク!」

 

 現れたと同時に、敵を圧倒し、シールド博士の奪還までやってのけた少年。

 あまりに例外に過ぎる実力は、しかしこの場においては、あまりに頼もしく、心強く、なにより、ヒーローに他ならなかった。

 

「遅れて申し訳ありません。セキュリティが解除されるまで、異変に気づくことができませんでした」

「やれやれ、良いところを取られてしまったな」

「やっかんでんじゃねーよ、おっさん。まずは助けてくれてありがとう、だろうが」

「ありがとう、イズク!」

 

 真希に咎められたオールマイトが言うよりも早く、礼を言ったメリッサが出久に抱き着いた。

 

「……危ない!」

 

 と、終わった思われた瞬間。飛んできた金属の塊。

 そこには、生身になり、倒れていたはずのウォルフラムが、個性を発動させていた。

 

「そんな、『抹消』はまだ解いていないのに……!」

 

 事実、瞬きをしない限り効果が続く『抹消』の継続は、副作用によるドライアイで目を真っ赤に腫らし、涙さえ流している出久の様子からも見て取れる。

 

「個性増幅装置のせいよ。増幅された力が『抹消』の効果を上回っているんだわ」

 

 メリッサが説明をした時。

 出久のそばの、金属の床が隆起。その衝撃が一瞬のほころびを産み、すでに限界まで耐えていた瞬きを促してしまう。

 

「やってくれたな……クソガキがああああああああああ!!!」

 

『抹消』から解放されたことで、再び個性を発動。

 二度と姿を見られまいと全身を包み込み、加えて、とっさにメリッサを突き飛ばした出久の周囲を金属で包囲。

 刀で斬り裂くものの、何度も繰り返し、身動きを封じる。

 

「緑谷少年! 貴様ぁ!?」

 

 個性が復活したと言っても、直前ほど金属には包まれていない。『抹消』を警戒しての金属の鎧も、今なら簡単に引きはがせる。

 

「観念しろ! 敵よ!」

 

 飛んでくる金属を薙ぎ払い、伸びてくる金属を回避し、途中、大量のワイヤーに捕まりながらも、敵へ向かおうとする。

 

「この程度――むぅッ」

「観念しろ? そりゃお前だ。オールマイト」

 

 ウォルフラムの目の前まで迫った時。その首を掴まれ、絞められる。

 

「これは……『筋力増強』? 個性の複数持ち……まさか!」

「そう……あの方の力だ!」

 

 真っ赤に輝き、太く大きくなった腕に掴まれて。

 オールマイトの悲鳴がコダマした。

 

「ようやくニヤケヅラが解けたな! オールマイト!!」

 

 

百臉(びゃくれん)――超新星(ちょうしんせい)

 

 

「ぐお……!!」

 

 その時、再びウォルフラムの身に衝撃が走った。

 ウォルフラムの目を盗み、『操血』によってそばまで近づけていた高圧縮された血液。それが解放され、放たれた散弾銃。

 それによって、オールマイトから手が離れ、ワイヤーに引かれたオールマイトが後ろへ下がる。

 

「……お前か? クソガキがああああああああああ!!」

 

 すぐにその原因を、刀を振るうガキだと理解。

 そのガキはすでに、拘束から逃れ、自身に向かって走ってきていた。

 

「くたばれええええええええ!!」

 

 二度と『抹消』は使わせない。そのために視界を奪いつつ攻撃を激しめる。

 

「……心配しなくても、もう『抹消』は使えない」

 

 すでに、発動して5分が経過していることなど敵には分かるまい。

 更に5分経過すればまた使えることも、敵は知るまいが……

 

「もう、5分も必要ない――だよね! みんな!」

 

 

「ったりめーだ!!」

 

 

 出久の呼びかけに、勇ましい声が響く。直後、脱兎のごとく駆けつけた褐色の蹴りが、出久を取り囲んでいた金属を蹴り砕いた。

 

「駆けつけられず、すみませんミルコ! 無事でしたか?」

「当然だ! 出久こそ、ピンチじゃねーか。愛しの寧香ちゃんは呼ばねーのか?」

「分かってるくせに……個性検査時を除く、日本国境外における『物間寧香』の完全顕現絶対禁止。違反した場合は本国強制送還のち即刻しけ、終身刑とす。ミルコも知ってるでしょう?」

「バレなきゃいーんだよー!」

 

「ハッ! この不良ヒーローが!!」

 

 続けて響く爆発音。

 

「だがまぁ、この場じゃ正論かもな!」

 

 凍りつく金属の塊の山。

 

「こら君たち! ルールがあるなら守るべきだ!」

「それで困ってるようなら、俺らが助けりゃいい話だ!」

 

 加速された蹴り。

 硬い拳の一撃。

 

「やっぱ、緑谷でも無双ってわけにはいかねーんだな!」

「うおおおおお!! オイラだってー!!」

 

 走る稲妻。

 踊るもぎもぎ。

 

「デク君! メリッサさん!」

「うわ! オールマイトもピンチじゃん……」

「真希! なんですか! その情けない姿は!?」

 

 続々と、雄英の仲間たちが集結し、ウォルフラムの操る金属を破壊、対抗していった。

 

「金属の塊と、シールド博士の保護は僕たちが……今のうちに敵を! オールマイト! 真希さん!!」

 

 金属を次々一刀両断していきながら、並び立つオールマイトと、真希へ、出久が叫んだ時。

 

「やれるよな? おっさん」

「ハハハ、相変わらず、口が悪いね、真希少女……もちろん、やれるとも!」

「そんじゃあ、介護してやるから、さっさとアイツをぶっ飛ばすぞ! ジジィ!」

「君の方こそ、遅刻したら置いてっちゃうぜ! 不良少女よ!」

 

 そのやり取りと、真希が眼鏡を外したのを合図に――

 ウォルフラムへ向かって、走りだす。

 攻撃などさせまいと、再び攻撃を仕掛ける。しかし、操る金属、ことごとく出久らによって破壊、けん制され、オールマイトと、真希の足は止まらない。

 足場を破壊するも、止まらない。あらゆる攻撃を仕掛けるも、止まらない。

 並び走る、二人の姿に……メリッサは、涙を浮かべた。

 

「……なにあれ?」

 

 激しい攻撃を繰り返しつつ、ウォルフラムは、作り上げていた。

 大量の金属を操作、加工、圧縮、硬化、圧着し、完成させた、巨大な高硬度の立方体を。

 

赤鱗躍動(せきりんやくどう)――」

 

 だが、そんな巨大な立方体も――

 赤鱗躍動……目の周囲に赤い血の線を浮かべた――脈拍、体温、赤血球数等の血中成分の操作により肉体強化された出久の刀に、真っ二つに両断される。

 

穿血(せんけつ)

 

 刀を口に咥え、合わせた両手から放たれる血液のビーム。

 浮かび上がる金属さえ貫通した血液は、ウォルフラムへ直撃、怯ませた。

 

「この――クソガキがあああああああああ!!?」

 

 

「今です!」

 

「いっけええええええええええええ!!」

 

「「「オールマイト!!」」」

 

「「「真希!!」」」

 

「「「ぶちかませ!!」」」

 

 

「更に――」

「向こうへ――」

 

 

 

 PLUS(プルス) ULTRA(ウルトラ)!!!

 

 

 

 朝日に白み始めた空のもと――

 

 I・アイランド、セントラルタワー屋上にて。

 

 巨大な金属の塊の破砕音が轟いた。

 

 

 

 




個性増幅装置で『抹消』を無視できるかは微妙なところです。

皆さんにとって、真希さんに眼鏡は、有り派? 無し派?

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