「残念じゃ……噂の寧香ちゃんを見られると思ってたんじゃが」
『随分と楽しそうだね?』
「当然! ワシもまさか、何年も前に施したテキトーな細工が、こんな形で実を結ぶなどとは夢にも思わなんだ。だから改めてじっくり見たいところじゃったが……」
『まあ、いいじゃないか。近いうち、
「じれったいのぉ……まあいいわい。待つのには慣れておるわ」
『お互いにね。フフフフ……』
朝日が昇る。壊れていようが散らかっていようが、光は世界を平等に照らし出す。
破壊されたI・アイランドセントラルタワー。その屋上にて。
今回の事件を引き起こしたウォルフラムおよび、テロリストたちは一人残らず捕らわれ、彼らを手引きしたシールド博士、および、助手であるサムも、逮捕されることとなった。
それだけの事件が起きた後ということで、I・エキスポの一般公開は危ぶまれていた物の、無事に開催される運びとなり、現地入りしていた雄英一年生たちと合流。彼らの働きと活躍を鑑みて、オールマイトによるバーベキューパーティーが開催されることになった。
「……そう言えば、デク君は?」
「ミルコのヤツもいねーな?」
「まさか、またデート?」
バーベキューの焼き串片手に、麗日と真希が険しい顔になっている。
そんな二人の会話を聞いた、オールマイトが補足した。
「あの二人なら、朝一で病院へ向かったよ」
「病院? まだ、どこかケガしてたんですか?」
事件後は当然、オールマイトに雄英生徒はもちろん、事件に巻き込まれた者たちの治療は行われた。
I・アイランドは治療設備はもちろん、治癒系の『個性』を持つ者も在籍している。加えて、出久もいたことで、ケガ人のほとんどは完治することができた。サムと、デヴィッド・シールドの二人も。
この二人もそうだったし、出久とミルコの二人もそうだと思ってたのに……
「いや、それとは別件だ。彼らがこの島へ来た目的は、緑谷少年の個性を調べるためだ」
「出久の個性を?」
「ああ。昨日検査を受けて、その分析結果が今朝方には出ているはずだ。昨夜のことでシステムトラブルでも起きているわけでもないなら、予定通り結果を聞いているころだろう」
「な、なるほど……」
「その出久の検査の付き添いがミルコってわけかよ?」
「そうだ。ホークスは多忙だったようだからね。公安に目をつけられていることで緑谷少年単独の海外渡航もできなかったろうし。プロヒーローの付き添いは必須だったというわけさ」
「……なんつーか、とことん難儀な男だな、出久は」
「うん……個性が強すぎるのも、考えようってことかな?」
二人とも、秘密とされている出久の個性の全てを知っているわけじゃない。
それでも、公安に睨まれ、自由な使用も叶わず、検査のためにこんな人工島くんだりまで保護者同伴で来なきゃならない。
そんな、緑谷出久という少年に、同情するばかりだった。
……
…………
………………
「これが、寧香ちゃんの正体……」
「そうだ。色々解析した結果、そう結論づけるのが最も自然な形だ」
朝一で、自身の働く研究機関にやってきた出久とミルコ。
そんな二人に、分析結果をまとめた資料を渡してやると、出久は、資料に穴が空くほど凝視していた。
「そして、一番の問題、なぜ物間寧香が緑谷君の体に宿ったか」
資料を読み進めて、最後の項目に書かれた文字を読み上げる。
「不明……」
「ああ。今の技術じゃ、直接の原因までは分からない。それが結論だ。ただ……」
「ただ?」
出久が聞き返したところで、一つ息を吐いて、語った。
「あくまで私の見た印象の話だが……どうにもこの個性、人工的にいじくられてるふうに感じるんだよね」
「個性を、いじる? 寧香ちゃんの個性が、誰かにいじられてるってことですか?」
「あくまでそう見えるという話だ。科学的な処理を受けたか、それともそういう個性による干渉を受けたか。いずれにせよ、死亡した女児が持って生まれた形とは全く変わっていることは、見た目にも明らかだからね」
「ええ……」
出久も、深くため息を吐きながら、思い人のことを思い出す。
「元々は、触った人の個性を数分使えるだけの個性だった。それが、どうしてあんな形になったのか……僕に宿ってしまったのか。寧香ちゃんの意思まで持って」
「物間寧香がそばにいて、嬉しくなかったかい?」
「嬉しいに決まってます。けど……なんというか、僕に宿ってるせいで、死んだはずの寧香ちゃんは、いつまでも楽に……安らかに眠れないんじゃないかって。彼女の眠りを、僕が邪魔してるんじゃないかって、そんな気になったんです」
「成仏ってわけか。まぁ、非化学的とか抽象的うんぬんて話は差し引いても、気持ちは分からないでもないよ」
事故に遭って死んでしまった少女。
そんな少女の個性と意識が、別の男に憑りついて。
最初にここで聞かされた通り。それはまさしく、個性の幽霊と呼ぶべき存在だろう。
いつまでも出久に憑りついて、成仏することができずにいる少女の幽霊……
「……私は科学者だ。幽霊とかオカルトの話は嫌いじゃないが、もし君に憑りついた幽霊を無理やり科学の枠にはめて考えるなら……肉体が死んでも個性だけが独立して動き、それが死に際の彼女の意識と合わさったものが、新たな肉体として本能的に最も欲した君の肉体を求めた。といったところか」
「個性と意識が……人が死ねば、当たり前だけど、その人に宿っていた個性も死ぬ。そうならないよう、誰かにいじられた、というわけですか?」
「そういうことかもしれないな。それだけであんな形になることまでは説明がつかないが……けどもし、君に憑りついていなかったら、肉体を持たない個性は制御されることなく暴れまわっていたかもしれない。そういう意味では、君は間違いなく、彼女から大勢の人たちを守ったんだ」
「……寧香ちゃんは、とてもいい娘ですから」
「それも、君を愛する気持ちがあってこそだよ。だから胸を張れ。色男」
「ケッ」
「寧香ちゃん……」
結局、彼女がこんなふうになってしまった原因は、何も分からない。原因として考えられた可能性も、全ては憶測の域を出ない。
出久がいたからああなったのか。出久がいなくてもああなっていたのか。
それさえ分からないことながら……
家入硝子がタバコに火を点け、ミルコが顔をしかめている横で。
自身の中から、最愛の
(寧香ちゃんは僕が守る……そして必ず、寧香ちゃんを変えた呪いを、解いてあげるから)
懐いてきた決意を更に強めて。
ミルコと共に、硝子のラボを後にするのだった。
「……あ! イズクー!」
一般オープンが催され、観光客は昨日までに比べて明らかに増し、島全体が更なる盛り上がりを見せている。
そんなI・アイランドを見学しながら、ミルコと並んで歩いている時。
先に雄英生徒らが集まっているバーベキュー会場の近くまで来た時に、その声は聞こえた。
「メリッサさん……シールド博士の調子はどうですか?」
「ケガは大丈夫。サムもね。イズクの個性のおかげ……けどやっぱり、したことがしたことだから、精神的には参ってるみたい」
「……シールド博士も、自分にできる、精一杯のことをしたかったんだと思います。間違ったこと、悪いことだと分かってても、そうすることが最善だと、信じたかったんだと思います」
「ええ……」
「間違いを犯さない人間はいない。自分が選んだことが正しいと信じるしかない。その結果間違ったとしても、間違ったという結果しか残らない。そうなったらもう、受け入れるしかない……受け入れられないなら、間違ったという事実から、逃避するしかない」
「……」
「けど、逃げずに間違いと向き合って、次は間違えないよう、正しくあろうと思い続けることができるなら、人は、何度でもやり直せるはずです。シールド博士も、必ず立ち直れます」
「……ええ!」
出久からの話を受けて……
敬愛する父の間違い、疲弊した姿にショックを受けた娘も、前を向こうと心に決めた。
「……デヴィッド・シールドは、ずっとオールマイトを支え続けて、平和な世界を築き上げた」
だから、出久の目を見て、宣言した。
「私も、デクのことを支え続けることができる、最高の科学者になってみせる!」
「……ええ。楽しみにしてます」
そんな二人の様子を、いつの間にやら二人から距離を取ったミルコは、しかめっ面で眺めていた。
「おい、あれは放っておいていいのか?」
そんなミルコに、掛けられた声。
そこには、ミルコに負けず劣らずのしかめっ面を浮かべた真希と、頬を膨らませたお茶子の二人が並んでいた。
「ま、今回は譲ってやるさ。あの二人がイチャつけるのも、出久がこの島にいる間だけだしよ」
明日には私も出久も、真希にお茶子も、この島を発つ。
この三人にとってメリッサはライバルだが、無理やり引き裂きたいわけじゃない。
今日しかないなら、せめて、少しでも長い時間を二人で。
そんな、出久を想う気持ちが誰よりも分かる者としての気遣いだった。
「ま、明日、日本に帰った後で、嫌がるまでイチャつくさ」
「……絶対ぇ負けねぇ」
「うんうん……」
図らずも、いなくなってしまうライバルの一人を思いやりつつも。
それでも絶対に譲りたくないと想うもの同士の、宣戦布告だった。
……
…………
………………
「来ちゃった」
「「「なんでいるの!!?」」」
「メリッサさん……どうして日本に?」
I・アイランドから帰国した数日後のこと。
I・アイランドで別れたはずの女性の姿が、雄英敷地内にあった。
「パパが起こした事件、事情が事情ってことで逮捕とかはされなかったんだけど、I・アイランドを危険にさらしたからって、島外退去処分になっちゃってね。それを、マイトおじさまが口添えしてくれて、親子ともども雄英で働くことが決まったの」
満面の笑みでの説明を受けて。
お茶子も、真希も、たまたま雄英を訪れていたミルコも、顔を歪めていた。
「そうだったんですか。お元気そうで良かった。今後ともどうか、よろしくお願いします」
出久は、屈託のない笑顔で、メリッサの訪日を歓迎していた。
「デヴィッド・シールド博士の娘さんか。光栄ですね。うちの出久を、よろしくお願いします」
そして、出久の隣に立つホークスは、なぜか親のような言葉を掛けた。
「……そう言えば、ミルコもホークスも、どうして雄英に?」
「とある事件の報告にね。念のため、根津校長の耳にも入れておこうと思って」
「事件の、ですか?」
「そうだ……エンデヴァーさんとのチームアップ。本来なら、出久が
出久に。そして、必然的に一緒に聞くことになった、メリッサ、お茶子、真希、ミルコの四人も加えて。
話しても問題は無いと判断したホークスの口から、彼らがI・アイランドにいた間の話が語られた。
元ネタなら呪いや呪霊という一言で片づくことを、ヒロアカだとこの世界の科学に落とし込まなきゃならんのがシンドイところです。