とある
それが、俺がエンデヴァーさんにチームアップを依頼された仕事の内容だった。
最初聞いた時は、まあよくある捕り物系の仕事だし、日付と場所が分かっていて、俺とエンデヴァーさんがいるなら十分、むしろ戦力過多じゃないかと思ってた。だからこそ、戦力であると同時に、デビュー前である出久を駆り出すにはちょうどいい。そんな程度の仕事だってね。
けど実際は、最初に想像していたよりも厄介な仕事だって、詳しい資料を渡されてから分かった。
「なるほどね……エンデヴァーさんが出久の力をアテにしていたわけが分かりました」
最初に思った通り、仕事自体はよくある捕り物に違いない。問題はさっき言った、場所だった。
都心に建つ超高層ビル。
そこで会社員として働いている人間が、敵組織とヤバイ品物の取引を行う。それも、雄英では夏休みでも、社会じゃあ平日真っ只中の、まだ世の社会人の皆さんがバリバリ働いてる時間帯。
そんな情報を、同じくそのビルで働く人間からの告発で知って、捜査の結果、確かに怪しい動きをしている敵組織を突き止めたってわけだ。
大っぴらに捜査を行えば、取引自体は阻止できるが犯人にも逃げられて日付も場所も変わるだけ。かといって取引自体も、普通の企業間取引としてシラを切られればお終い。ビルで普通に働いてる人たちの安全も守らなきゃならない。
確実に物証を押さえつつ、敵たちを無力化し、ビル内の人たちの安全も確保する。
それだけのことの、少なくとも前者二つの条件を満たすには、デクの持つ『透過』と『透明化』の組み合わせは最適だったってわけだ。潜入や盗聴ができる個性を持つ人間は、エンデヴァーさんの事務所に限らず少ないからね。
……そんな顔するなよ、出久。エンデヴァーさんも、君を期待の戦力として認めつつ、一人の高校生だということも分かっているから、I・アイランド行きを優先させたんだ。それに、そんな君の代わりが誰か忘れたかい?
そ。グッドルッキングガイ ホークスさ。
俺の個性『剛翼』の羽は、振動幅から音の種類を割り出すことができる。
簡単に言えば、羽一枚を部屋の中に置いておけば、剛翼を通して盗み聞きができるってことだ。大企業の所有する超高層ビルなだけにセキュリティ自体は堅いけど、小さな羽毛一枚が侵入する隙間はいくらでもある。まあ、それでも見つかったらお終いではあるけど。
そんな感じで、告発にあった日の当日、そのビルを遠くから眺めつつ、剛翼を操作しビルの中に配置させてた。ああ、もちろん、ビルの持ち主とか社長とかには、極秘に話を通して事前に許可は取ってある。警察とも連携してね。
だが、取引の日付と場所は分かってはいても、正確な時間やビル内のどの場所かまでは分からなかった。加えて、敵たちがいかにもな格好でやってくるわけもない。目立たないよう、普通のスーツ姿の会社員としてやってくる公算が高い。
エンデヴァーヒーロー事務所の皆さんと一緒にその会社を見張って、とうとう、怪しい人間がビルに入っていくのを発見した。思った通り、見た目には普通の会社の役員クラスの人間にしか見えない。そんな人間が、何人かの部下と、同じようにスーツを着たガタイの良い男を引き連れていた。
もちろん、そいつら以外にも、大勢の会社員が身内・部外者問わず出入りしてたからね。
それでも潜入させた羽から聞こえてきた会話の内容から、その三人に間違いない
そう判断して、その連中が逃げ場のないエレベーターに乗ったところで突入を開始した。
ビルに入った瞬間、受付の女の子に『個性』を向けられた。受付だけじゃない。入口近くを歩いていた会社員の皆さん全員に襲い掛かられた。
そう……その日そのビルは、全員が敵になっていたんだ。
もちろん最速で応戦して無力化したよ。これで公務執行妨害に現行犯が成立したし、多対一は『剛翼』の得意とするところだからね。別口から突入していたヒーローたちも、敵たちの対応で手いっぱい。一応剛翼による捕捉はできていたから、本命――ボスの方へは俺と、エンデヴァーさんの二人が向かうことができた。
もっとも、そんな騒ぎが起こってるんだ。当然ボスだって気づく。だからエレベーターから降りた後はさっさと逃げることにしたらしい。
上へ行けば簡単に逃げられない。そう見越してエレベーターに乗ったタイミングを狙ったが、それが仇になった。ボスも部下も、ガタイの良いその男も、全員がビルから飛び降りたんだ。
外の人間を危険にさらせない。俺もエンデヴァーさんも、急いでビルの外へ出て追いかけた。
最速の俺ならすぐに追いつける。そう思ったんだが、どうやら用心棒だったらしい、ガタイの良い男が厄介なヤツだった。俺の方が遥かに速い。だが強く、そして疾い。しかも、妙な
「……コレ一本編ムノニ、俺ノ国ノ職人ガ、何十日カケルト思ッテル?」
「知るか。俺の一枚の方が勝ってる。それだけだろう?」
結局、俺はそのままボビー・オロゴンみたいな喋り方してるソイツが、縄のような武器を使い切って逃げるまで相手をさせられて……
「……まあ、逃げていったボスは、エンデヴァーさんが無事に捕まえたってわけさ」
「……そうですか。無事解決できて、本当に良かったです」
「……」
さすが、出久は空気を読むのが上手いというか、話の切り上げ時を分かってくれてる。
その後は、出久が女の子四人に対して、簡単な会話を挟んで、それ以上の詳しい話はせずに済んだ。
そういう事件があった。その事実だけを知っていてくれればいい。
その事件の詳しい経緯と顛末は、知る必要が無い……
敵のボスはエンデヴァーさんが捕まえた。それは事実だ。だが、逃げたボスの逃走を阻止したのは、彼じゃない。
「……おやおや、『速すぎる男』ではないか。たった今ご到着か?」
逃げていった用心棒には構わず、ボスと品物の奪取を優先し追いかけた先。
そこには、エンデヴァーさんと、もう一人、着物を着た爺さん。
「
「禪院……まさか!」
俺の口にした名前に、エンデヴァーさんも驚いていた。
表向きは、芸術に武芸、あらゆる日本的な文化に精通し、多くの事業を拡大している大名一家。だがその実態は、国の……というか、公安子飼いの敵制圧特殊部隊。公安からの命令を受けて、敵との戦闘、制圧、時に暗殺を特別に許可された一族。本来は完全秘匿とするべき事柄だが、敢えて都市伝説という形で一部の事実を流布させることで逆に世間からの関心を逸らしている。
エンデヴァーさんはもちろん、オールマイトだって、都市伝説としてしか存在を認識していない。見たからと話したとしても誰も信用しない。そんな一族の当主。それがこの男、禪院直毘人だ。
「ほぉ……さすがは目ざとく耳ざといホークス。知っていたか」
「禪院家の当主が、わざわざこんな小物敵の制圧とは。どういった了見で?」
「フ……
「公安か……」
「元々、コイツを捕らえる仕事は我々が請け負っていた。それを、市民からの告発を受けたエンデヴァーが引き受け、加えてホークスが参加させられた。といったところか」
「我々だと?」
説明してる間に、俺たちの周りを忍者みたいな格好した集団が囲んだ。
こいつらは確か、『くくる隊』。漢字でどう書くかは忘れたが、禪院家の下っ端部隊だ。
「
「待て。それは一体なんだ?」
「話すと思うか?」
エンデヴァーさんに返した通り。この程度の捕り物仕事なら、普通にヒーローに依頼すれば済む。機密にしたいにしても、それこそ俺に頼むはずだ。
それをせず、わざわざ禪院家に依頼したってことは、よっぽど公安にとって隠しておきたい『何か』ってわけだ。
「……分かりました。それでいい」
「ホークス、貴様……!」
「エンデヴァーさん。これ以上の介入はやめた方が良い。禪院家を……それも、俺以上の『最速』の男を相手にするのは得策じゃない」
「ホークスよりも速いだと?」
「……ま! 戦り合っても負ける気はしないんですけどねー」
「……ハッ」
おどけて挑発した瞬間だった。
気がつけば、直毘人は俺の目の前にいて、俺は、四角い枠に閉じ込められてた。
「ちと
「どうかな?」
応えてやると、直毘人も気づいたみたいだ。
自分の視線の高さに、剛翼の一枚が浮いてることに。
「……フフ。さすがは『速すぎる男』だ。中々どうしてやりおる」
「そちらこそ、70歳とは思えない速さとキレ。さすがは『最速』の禪院家」
「71歳だ、若造」
そう、けん制し合って解放されたが……
そこで俺は、初めて気づいた。
「飲んでるんですか?」
「飲んれらいよ ア゛ッ」
71歳、おまけに飲んでてこの実力かよ……
禪院家の連中がヤバイことは分かっていたし、全員が全員、直毘人みたいな規格外でないことは分かってる。
それでも、公安に属する身として存在だけは知ってた禪院家の力を目の当たりにして、やっとその本当のヤバさを実感した。
(……クッ、No.2の俺が、速すぎてついていけんとは……ッ)
結局、その後は直毘人の提案通り、敵のボスはエンデヴァーさんに任せて、押収した品物の運搬ってことで、俺はその場を後にして、この事件を納めたってわけだ。
……
…………
………………
後から聞いたが、品物を受け取るはずだった敵のボスも、別の人間に渡すための運び屋の一人でしかなかったらしい。『個性』を使った取り調べでも答えは同じで、結局、品物が何なのかは分からず仕舞い。
とは言え、禪院家まで出動させた目的が、敵の捕縛ではなく、その品物にあったことは間違いない。
そうまでして手に入れたかった物。
そんなヤバげな物品を、使う目的があるとしたら……
「ちょ、ミルコ、ダメですって……!」
「いーじゃねーか! 減るもんじゃねーしよ!」
「てか、結局なんでミルコは
「出久の顔を見に来たに決まってんだろ? こいつなら家にいるより学校で自主トレしてるかと思ってな」
「要はサボりかよ……」
「そういうお前らこそ、夏休みなのになんで学校来てんだ?」
「ぅ……」
「そ、それは、その……」
「そりゃあ、イズクがいるんだもの。一緒に勉強したいわよね?」
「からかわないでください、メリッサさん……ちょ、ミルコ、くっつきすぎです。ホークス、たすけて……!」
みんなに愛されて、笑ってる。
そんな出久の姿を見ていると、つくづく思う。
(若人から青春を取り上げるなんてこと、許されていないんだよ。誰にもね……)
そんな可愛い教え子と、その友人たちとの日常は守らなきゃならない。
それを痛感して、自分自身に言い聞かせた。
ぶっちゃけ、ガタイの良い男は出したかっただけです。
次話の投稿までヒマしてましたら、なろうでもオリジナル小説書いてますゆえ、ヒマつぶしによければ……
https://mypage.syosetu.com/177675/
まあ、こっちでも色々書いてんだけどねw