【完結】個性:物間寧香   作:大海

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今回の登場キャラは、ちょいと無理あるかもしれません。



第15話  林間合宿 ~ヒーロー科A組 飯田天哉の視点 プラス~

「ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……」

 

 雄英林間合宿。

 夏休み中に行われるその強化合宿は、バスの途中下車から始まった。

 バスでの移動中は、クラスの全員が和気あいあいとしていた。途中で峰田君がトイレに行きたいと騒ぎ出したことを除けばなんの問題も無かった。

 そんなバスが停車したのはサービスエリアではなく、なにもない山間道路の駐車スペース。そこに現れたのは、山岳救助を得意とするベテランヒーローチーム、ワイルドワイルドプッシーキャッツの二人、マンダレイとピクシーボブ。

 そのことを詳しく解説してくれた緑谷くんとも面識があったようで、特にピクシーボブにはヤケに馴れ馴れしく絡まれていた。

 そんな二人が登場したと思ったら、ここいら一帯の山々は彼女らの所有地だという話を聞かされた。加えて、ここから目的地まで、三時間くらいだろうと。

 その時点で嫌な予感がしたぼ……俺たちは、急いでバスに戻ろうとしたものの、ピクシーボブが個性『土流』を発動。合宿はすでに始まっているという相澤先生の声のもと、俺たちの全員車道の下へ突き落された。

 ただ、一人を除いて。

 

 全員の無事を確認した時、一人だけ姿が無かった。上を見上げると、その一人は、何らかの個性で空中に静止していた。

 緑谷出久君……彼にはどれだけ感謝しても足りない。

 ヒーロー一家である俺の兄にして、最も尊敬する人物、ターボヒーロー インゲニウム。本来なら、ヒーロー殺しによって脊髄をやられた兄は、ヒーローとしては再起不能なはずだった。今では軽率だったと猛省しているが、そのことが許せず復讐に走ってしまったことは記憶に新しい。

 緑谷君は、そんな兄の脊髄を、コピーしてきた個性の一つで完治させ、インゲニウムを復活させた。

 彼によれば、話を聞いた時すぐにでも治療したかったが、突発的な災害現場における負傷者の治療ならともかく、そうではない第三者の縁故による治療を行えば際限が無くなるという理由で、そういう治療を行うには公安から許可を得なければならないという縛り(・・)を掛けられていたらしい。

 そのせいで治療が遅れてしまった。もっと早く治療を行うことができていれば、俺や轟君、禪院真希君を危険にさらすことも無かったかもしれない。そう、謝ってくれた。

 謝る必要などなにも無い。彼には恩義を感じこそすれ、文句や苦言など何一つ懐いていないのだから……

 敢えて一つ、問題を挙げるなら、兄さんからもらうはずだった『インゲニウム』の名を、復活した兄に返し、その後も良い名前が浮かばなかったことで、そのまま『テンヤ』がヒーロー名になってしまったことくらいか……

 

 兄の件だけじゃない。戦闘、救助、総合的な力、どれを取っても彼の力は間違いなく一年で……どころか、雄英高校でも最強格といって差し支えないだろう。

 それは、俺たちより一年早く鍛えていただとか、あのNo.3ヒーロー ホークスから教えを受けていたからとか、個性が強いとか仮免取得済みだとか。細かい理由を挙げだせばキリがないが、そう言った結果の全てを叩きだした、彼自身(・・・)がすごいんだ。なのに決して驕らず、謙虚さと、優しささえ併せ持っている。

 

 恩義と尊敬を禁じ得ない、『例外』と呼ばれる彼に対して、相澤先生は指示を出した。

 緑谷君のみ、俺たちとは別ルートを行くようにと。加えて、今のような空を飛べる個性と、彼の個性である『物間寧香』の完全顕現は禁止すると。

 そのことに非難の声を上げる生徒も一部いたが俺は納得できた。

 あまりに『例外』な実力を持った彼がいたのでは、俺たちは全員、彼に頼り切りなる恐れがある。

 加えて、生徒たちの強化を図るこの合宿の目的において、強すぎる力に一部制限を設けることも理にかなった判断だ。

 緑谷君も納得して、地上に降りた後は指示通り、俺たちとは別ルートへ走り出した。

 俺たちも負けていられない。そんな気持ちから、『魔獣の森』へ踏み込み、ピクシーボブの操る土魔獣を打倒していった。

 

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……」

 

 僕を含め、全員がボロボロのフラフラ。傷だらけ。

 彼女らの話では、三時間ほどで到着すると言っていたのが、もう夕方。時計を見たら、八時間が経とうとしている。あれは、彼女たちなら、という意味だったらしい。

 実力差自慢への落胆と、突如ピクシーボブから唾を掛けられたことへの抵抗を感じているところへ、麗日君が声を上げた。

 デク君……緑谷君はどうしたのか、と。

 少なくとも、彼ほどの実力者が、ぼ、俺たちと同レベルの道を歩かされたとは考え辛い。遠い距離か過酷な仕掛けか。いずれにせよ、俺たち以上に辛く厳しい道中に苦戦し、遅れてしまっているとしても不思議じゃない。

 緑谷君に限って、途中リタイアということは無いと思いたいが……

 

「彼なら、12時前には到着してお昼を食べたわよ」

 

 そう、マンダレイは平然と答えた。加えて、ピクシーボブは、俺たち以上に大量の土魔獣を送ったのに、そのことごとくを撃破、踏破されたことにへこんでいる様子だった。

 そして、そんな緑谷君はというと……

 

「ほら、ちょうどやってる」

 

 マンダレイの差した先。そこにはワイルドワイルドプッシーキャッツ、四人のメンバーの残りの二人、(トラ)、ラグドールの二人を相手に、『物間寧香』抜きで組み手を行う、緑谷君の姿があった。

 

「例外過ぎんだろ……」

「バケモンかよ……」

 

 ほとんどの生徒が、同い年にしてあまりの格の違いを見せつける、彼の姿に脱力していた。麗日君は尊敬と憧憬の眼差しを向け、爆豪君、轟君の二人は、そんな彼の姿に闘志を燃やしている様子だった。もちろん、俺も……

 そんな俺たちの存在に気づいた緑谷君が、戦い、二人をいなしつつ笑って手を振ってくれたことや、マンダレイのいとこだという出水(いずみ) 洸汰(こうた)君の愛想の悪さ等には苦笑が漏れた。

 

 

 その後はお世話になる施設で食事をご馳走になり、大浴場で汗を流した。入浴時間が女子と重なっていたことで、峰田君が覗こうと考えていたようだが、仕切りの前に終始、『物間寧香』君が鎮座していたおかげで、峰田君は手出しができなかったようだ。

 

 

「あのさ、峰田君?」

「なんだよ、緑谷?」

「僕の寧香ちゃんのこと、やらしい目で見たり変なことしようとしたら……殺すよ?」

「……お、おう」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 合宿二日目の今日行ったのは、「個性を伸ばす」ための、限界突破訓練。

 端的に言えば、とにかく個性を発動させ続け、許容上限の底上げや、個性由来の部位の鍛錬を行うというもの。

 字ヅラだけ見れば簡単で単純に聞こえるが、これがとにかく辛い。ぼ、俺の場合は、個性『エンジン』を発動させ続け、とにかく走る。あまりに長く走り続ければ、熱を持ったラジエーターは不調を起こし、エンストを起こす。加えて、あくまで身体の一部な以上、痛いし、熱いし、疲れる。

 

 辛い……だが、それでも耐えて、とにかく頑張るんだ。

 走りながら、俺たちとは別エリアで刀を振るっている、緑谷君の方を見る。

『物間寧香』を完全顕現させたうえで、ひたすらにコピーしてきた個性を発動させまくって、同時にピクシーボブの土魔獣と戦っている。

 聞くところによると、彼がコピーしてきた数々の個性のうち、同時使用ができるのは三つまで。加えて完全顕現状態の『物間寧香』自身が発動する一つの、計四つ。

 その上限を上げることは不可能らしく、加えて、体質上単体での使用不可な個性は別の個性と合わせて発動しなければならない。

 ならばと、発動と切り替えの速度を鍛えつつ、状況に応じた的確な個性の組み合わせの判断速度も上げるというものらしい。

 もっとも、それら全て、彼は十分に体得している様子だが……

 

「それに、この訓練法だと、発動させる個性がどうしても戦闘向けに偏っちゃうんだよね……」

 

 そんな緑谷君の姿を見た後で、B組も合流した。そしてB組も、同じように訓練を始めた。

 禪院真希君……職場体験でのヒーロー殺しの一件、彼女もまた、俺が巻き込んでしまった一人だ。

 単純な強化系である彼女は、他の強化系個性の生徒同様、(トラ)の行う、(ワレ)ーズブートキャンプを行っていた。

 少々古いが、とにかくブートキャンプで汗を流し身体を動かし、虎の合図で攻撃。

 避けられて殴り飛ばされてる……

 

 当たり前だが、全員が一流のヒーローとなるために全力以上を引き出そうとしている。加えて緑谷君という、高すぎるお手本が目の前にあることも、一年にとっては刺激となっているだろう。

 

 僕も負けてはいられない。

 

 少なくとも、真希君が見ている前で、緑谷君に負けてはいられない!

 

 そう、気合を入れ直し、訓練を続ける俺たちに、冷たい目を向ける洸汰君の姿には、疑問を感じるばかりだった。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 合宿三日目も、二日目と同じく限界突破の個性伸ばし訓練。

 昨日から続いていることもあって、多くの生徒たちは疲労の様子が色濃かった。特に深夜まで勉強していたという補習組の五人、切島君、芦戸君、瀬呂君、砂藤君、上鳴君の五人は、眠気も相まってなお更な様子だった。

 かと思えば、何かをつかんだ様子で、昨日以上のキレと動きを見せる『例外』も、約一名……

 

「出久……」

「なに? 真希さん……」

「今日は、私たち強化系全員で、出久と組手しろ、だとよ」

「……分かった。じゃあ、やろうか?」

 

 ブートキャンプを終えたその足で、緑谷君の前に立ち、フラつきながら組手を始める真希君たち。

 組手とは言え、真希君に触れられるとは何てうらやまし――じゃない!

 彼女を振り向かせるため――じゃない!

 緑谷君に負けないために!

 

 今以上に強くなるのだああああああああ!!

 

 

 

 

 

 三日目の夜は、鞭だけでなく飴も必要ということで、肝試しが行われることとなった。クラス対抗、各クラス二人一組で回り、もう片方のクラスが脅かし役に回る。

 そして、いよいよ試そうかというタイミングで、補習組五人が補習へ向かわされた。

 加えて、B組からも補習が一人出て、両クラス共に奇数。

 そのため余りが出ないよう、人数の多いB組から一人、A組の生徒と組ませようということになった。

 方法はくじ引き。そのペアは……

 

 俺と口田君。

 青山君と八百万君。

 麗日君と梅雨ちゃん君。

 尾白君と峰田君。

 爆豪君と轟君。

 緑谷君と、B組、真希君……

 

「おい尻尾、代われ」

「青山、オイラと代わってくれ……」

「緑谷、代わってくれ」

「緑谷君! 代わってやらんことも無いぞ!」

「真希ちゃ~ん、代わってあげよっか?」

 

 両手でガッツポーズしている真希君と、麗日君のやり取りも気にはなったが。

 一部の生徒が騒ぐのを抑えて、肝試しは始まった。

 

 

 

 

 

 森の各所で起こる火災。

 吸えば気絶する毒ガスの発生。

 肝試しのスタート地点には、二人の(ヴィラン)

 

 万全を期したはずだった。なのに起きた、(ヴィラン)連合開闢行動隊による襲撃。

 スタートがまだだった生徒たちは集まっているが、森の中には、すでにスタートしたA組生徒らに、脅かし役としてスタンバイしていたB組の生徒、ほぼ全員。

 スタート前のA組生徒らは、委員長である飯田の誘導により施設へ避難を開始。

 だが、この騒ぎが起きた直後、真希は山間部へ向けて移動。

 緊急時と判断した出久も、仮免の効力を根拠に、生徒たちを救出するために森の中へ向かった。

 

 

 森の中では、すでに戦闘を開始している生徒たちもいた。

 1年B組委員長、拳藤(けんどう) 一佳(いちか)と、鉄哲(てつてつ) 徹鐵(てつてつ)

 A組、八百万によって『創造』されたガスマスクを被り、毒ガスの発生元と思しき地点へ移動。そこで見つけた、ガスマスクを被った学ラン姿の少年に向かって鉄哲が攻撃。しかし、少年は拳銃を取り出し発砲。個性『スティール』によって硬化されているとは言え、拳銃の衝撃は鉄哲を怯ませ、同時にガスマスクも破壊した。

 ガスを吸うまいと鼻と口を両手に押さえ、這いつくばる鉄哲に対して、拳銃による攻撃を続けているところへ、拳藤が奇襲。それさえ避けられるも、個性『大拳』を発動。巨大化した掌で空気を叩き、あおぎ、ガスを散らした。

 

「なんて馬鹿力な……」

「バカはお前だ! 拳銃なんか使いやがって――そりゃ喧嘩が弱いって言ってんのと同んなじだー!!」

 

 拳藤の叫びの直後。立ち上がった鉄哲が、硬化した拳を、ガスマスク目掛けて――

 

「……誰が喧嘩が弱いって?」

「ぐあああああああああああああ!!」

 

 不意を突いた鉄拳を、事も無げに受け止め、握りしめる。

 硬化したはずの拳に亀裂が走り、息を止めることも忘れて、鉄哲の悲鳴がコダマした。

 

「ガスを使ったのは、これが僕の仕事なのと、お前たちを効率よく始末するためだ。どの道、こんなことでやられるようなら、ヒーローになる見込みなんて、あるわけないんだからさぁ」

「ごぉおおおッ!!」

 

 続けざまに、腹に蹴りを入れる。腹どころか、全身が硬化しているにも関わらず、激痛が走り、悲鳴を上げた。

 

「さっきも言ったろう……雄英なんだろう? ヒーローになるんだろう? ほら、もっと夢を見せてみろよ」

「やめろおおおおおおおお!!」

 

 たまらず拳藤も飛び出した。しかし――

 

「がぁ――」

「なってないな……まだ自分たちが命令できる立場にあると思ってるのか?」

 

 もはや、拳銃もガスも必要ない。どちらも使わないまま、拳と足で、二人をいたぶり、傷つけ、なぶり……

 

「お前たちは死ぬんだよ。弱かろうが強かろうが。僕にはお前たちを殺すすべなんていくらでもあるし、お前たちは僕程度に殺されるだけの実力しか持ち合わせていないんだからね……こんなザマでもヒーロー目指してますって言うなら、最期くらいヒーローらしさを見せてくれ?」

 

 二人を両手に、胸倉をつかみ、持ち上げる。

 個性も解除され、顔中を腫らし、流血し。

 それでも二人とも、ガスマスクの少年を睨み据えていた。

 

「クソッ……タレ……」

「ちく、しょ……」

「で? だから?」

 

 トドメを刺そうと、少年が動いた時――

 

 乱入してきた攻撃に、ガスマスクが外れ、同時に二人は救出された。

 

「……体内で毒性物質を生成して、それを液体、または気体(ガス)として体外へ分泌する。その毒は、生成した自分自身にも害が及ぶため、呼吸器系や粘膜を守るために、ガスマスクや保護具の使用、あるいは解毒剤の同時生成を欠かすことができない」

 

「……」

 

「毒ガスを見た時、いくらなんでも偶然だと思った。君なわけがないって思いたかった。似たような個性を使う、別の誰かだって……そうであってくれって――」

 

 ガスマスクの外れた少年に向かって――

 出久は、叫んだ。

 

 

「なにしてんだよ!! 順平(じゅんぺい)――!!!」

 

「引っこんでろよ。例外(・・)

 

 

敵連合開闢行動隊

 敵名 マスタード

 個性『毒』

 

 本名 吉野(よしの) 順平(じゅんぺい)

 

 

 

 




真希をA組にしときゃ良かったかと時たま後悔する、今日このごろ。
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