【完結】個性:物間寧香   作:大海

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林間合宿編、完。



第17話  林間合宿 終了

 時間は少々さかのぼる――

 

 

《敵の狙いの一つ判明! 緑谷出久くん! A組の緑谷出久くんは、なるべく戦闘を避けて! 単独では動かないこと! 分かったね、緑谷くん!》

 

 

「緑谷!?」

 

「デクくんが?」

「緑谷ちゃん……!」

 

「緑谷が狙いだと? なんで……!」

「さあな! だが百個も二百個も『個性』使えて、クソ強ぇうえにケガまで治せる。欲しがらねぇ人間の方が少ねぇだろうよ! 来るぞ!!」

 

 爆豪の叫びに、轟は今の状況を思い出す。

 両腕含め上半身が拘束された、細身の男。一見すればひ弱な男は、口から鋭利で巨大な刃をいくつも伸ばし、二人へ攻撃してきた。

 

 脱獄死刑囚 ムーンフィッシュ

 個性『歯刃(しじん)

 

 激しい攻撃の手数に加えて、火災に毒ガスと、行動範囲も狭められ、更に二人とも森での戦いには向かない個性なことも手伝って、ほとんど一方的な戦況を送っていた。

 

「だが、毒ガスは止まってる。もっと広いところへ移動すりゃあ、俺たちもデカイ攻撃ができる!」

「いちいち命令してんじゃねえ!!」

 

 轟は冷静に分析し、それに爆豪は相変わらずキレつつも、正しいと理解して対処しようとした。

 手数の減らない歯刃の波状攻撃。それを避け、防ぎながら、とにかく、自分たちの個性を使っても森の木に燃え移らない、広い場所へ――

 

「緑谷!?」

「デク……!」

 

 誘導しつつ、逃げ回っている内に行きついた場所。

 そこには、自分たちのクラスメイトがいた。

 彼が二人に、二人が、一緒にいる少年に気づいた時……

 

 決着は、ただの一撃で着いた。いくつも身体に突き刺さるダメージも無視して放たれた、緑谷出久の拳。

 火花が黒く散るほどの強大な一撃は、A組でも最強クラスの二人を防戦一方に追い詰めていた敵の凶器を粉砕、破壊し、ぶっ飛ばした先の木々さえなぎ倒して、何十メートルか先へ殴り飛ばした。

 

 

「ぶっ殺してやる」

 

 

 自分たちが防戦一方だった敵を一撃で片づけた衝撃よりも。

 自身と『例外』とのあまりに通い力量差への落胆よりも。

 クラスの誰もが知っている、心優しいクラスメイトの口から放たれた言葉と、全身からにじみ出ている本気の殺意が、轟を戦りつさせ、口を閉じさせた。

 

「コラ」

 

 そんな、動けなくなっている轟の前に出て、爆豪が、出久の肩に手を置いた。

 

「倒す、だろーが、クソデクが」

 

 怒りに呑まれ、殺意に満ち満ちている。そんな『例外』に向かって、爆豪は語り掛けた。

 

「テメーと、そこで倒れてる野郎の間になにがあったか知らねーし、テメーがそこまでキレるなんざよっぽどのことだったんだろうがよ……ヒーローになろうとしてるヤツが、簡単に敵の命を奪おうなんざ、考えんじゃねーよ」

「……かっちゃんに言われても、あまり説得力ないけどね」

「あーん? どういう意味だデクコラ!?」

「……」

 

 爆豪の言葉を受けて、冷静になることができたらしい。

 そう安堵した矢先のこと。

 息着くヒマもないとはこのことで、木々をなぎ倒しながら、巨大ななにかが近づく音がする。また敵かと警戒していると……

 

「轟! 爆豪! 緑谷でもいい! 光を! 常闇が暴走した!!」

 

 そこにはA組の障子(しょうじ) 目蔵(めぞう)が、自身の個性である『複製腕』で、重症を負っている様子の禪院真希を抱えながら走ってきた。

 その後ろには、かなり巨大だが、この場の全員が見覚えのあるシルエット。

 その中心にいるのは、同じくクラスメイトの常闇踏影。

 

 

 ひゃん……!

 

 

 状況を把握した爆豪と轟が、爆破と炎を使用。それによって発生した光を受けて、闇影(ダークシャドウ)は悲鳴を上げながら小さくなって、常闇の中へ消えていった。

 

「……すまん、助かった」

 

 その後は、障子に抱えられた真希の口から、敵たちの狙いが緑谷出久であることを告げられて、この場に集まったメンバーで出久を守り移動することになった。

 

「緑谷……お前自身の傷もそうだが、まずは禪院の治療を。もはや動いて良い状態じゃない」

「……私を苗字で呼ぶんじゃねぇ」

 

 こんな状態になっても、こだわりは捨てない真希の姿に全員が呆れつつ……

 

「確かに、ひどいな……完治させるまで時間がかかるかも。障子君、君の『複製腕』をコピーさせてもらっていい?」

「ああ、もちろんだ。ぜひ使ってくれ」

 

 許可をもらい、障子の生身に触れる。

 上半身を脱ぎ、背中から複製腕を伸ばして、真希を受け取り、抱きかかえた。

 

「あったけぇ……悪ぃな、出久。また迷惑かけちまってよ」

「気にしないで。真希さんのケガは、僕が何度でも治してあげるから」

「出久……」

 

 出久の(複製)腕に包まれながら、安らぎの声を上げている。

 そんな二人の甘いやり取りに、集まった全員が見惚れさせられ、轟は一人、拳を震わせていた。

 

 

 その後、森の中を移動していき、途中、敵と戦闘していた様子の麗日に蛙吹の二人とも合流。この二人も加えて、出久を護衛しようという話になったのだが……

 

「……ん? デク君を護衛?」

「その緑谷ちゃんは、どこにいるの?」

 

 全員が、後ろを振り返る。

 誰も、油断した人間はこの場にいなかった。なのに、そこにいるはずの、出久、真希、常闇の三人の姿が、どこにも無い……

 

 

「彼なら……俺のマジックでもらっちゃったよ? こいつぁヒーローになるべき人材じゃねぇ。もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」

 

 顔を隠す仮面。羽を飾ったシルクハット。コート。ブーツ。手袋。杖。

 言葉の通り、いかにも手品師を気取った似非紳士風のその男の手には、ビー玉大の球体が二つ。

 格好と同じく、似非な暴論を正論っぽく語りながら、A組生徒らの攻撃をかわして逃げていく。

 それでもそれぞれの個性を駆使して、どうにか逃げていった男を捕らえつつ、同時に開闢行動隊の集合場所と思しき場所へ到着した、爆豪、轟、障子の三人。

 乱戦の末、先ほどから見せていた球体を障子が二つとも回収することに成功。

 あとはこのまま、逃げるだけと思われたが……

 

「物を見せびらかす時ってのは……見せたくない物がある時だぜ?」

 

 目の前に広がった黒い靄。その中に消えていく男――Mr.コンプレスの口に隠された、本物(・・)の球体。

 間に合わない……

 そう思われた時、草場の陰から伸びた光が、コンプレスの仮面を破壊。口から飛び出した球体を――

 

「哀しいなぁ。轟焦凍」

 

 一つは爆豪が回収。だがもう一つは、轟が取る前に、全身に火傷を負った男に回収された。

 

 

 

 警察、消防が駆けつけたのは、それから約15分後。

 生徒40名のうち、(ヴィラン)の毒ガスによって意識不明の重体が15名。重軽傷者11名。無傷で済んだのは12名。

 そして……行方不明者、2名。

 6人いたプロヒーローのうち、1名は重体、1名が大量の血痕を残し行方不明。

 一方の敵側は、2名の現行犯逮捕。1名死亡。

 彼らを残し、他の敵は跡形も無く姿を消した。

 

 完全敗北。

 雄英生徒らが楽しみにしていた林間合宿は、最悪な形で幕を下ろした。

 

 

 

 世間、マスコミ、あらゆるメディアが、雄英を非難した。

 雄英の教師陣全員が、敵らに対する認識の甘さを思い知った。敵連合の登場、ステインの台頭、それらによる敵活性化の恐れ……

 そんな可能性以前に、ヤツらは戦争を始めていたこと。オールマイトが築いたヒーロー社会を崩すための戦争。そのための、こちらに猶予を与えないための矢継ぎ早の展開。

 連合襲撃直後の雄英体育祭開催のような、屈さぬ姿勢はもはや取れない。

 生徒の拉致。これを行ったことで、敵連合は出久と真希の二人に加えて、ヒーローへの信頼を奪うこととなった。

 ケガの治療のために出久にくっついていた真希は偶然だったにしても、出久を狙ったのは体育祭で見せた『例外』の個性と実力ゆえだろう。爆豪が轟に語った通り、出久の持つ『個性』を見て、欲しいと思わない人間の方が少ないに違いないのだから。

 

 そんな、絶望的とも言える状況の中、一つだが、吉報も届いた。

 失態、失墜、加えて内通者の可能性。それらに苛まれながらも……

 雄英、そしてヒーローたちは、着々と、反撃の準備を進めていく――

 

 

 

 そして、準備しているのは、雄英だけに限った話ではなく……

 

 

 

 

 

「最悪の事態だな」

 

 某所にある、ヒーロー公安委員会が所有するビル。そこの特別会議室にて、スーツを着た人間たちが話をしていた。

 

「だからすぐにでも秘匿死刑にしておくべきだったのだ! それを、ホークスがいらん親心を見せたせいでこのザマだ!」

「そうは言うが、実際に何人ものヒーローたちが返り討ちに遭っていたのを忘れたわけではあるまい。更に言うなら、緑谷出久が死亡することで暴走に歯止めが効かなくなる可能性も否定はできなかった」

「そうやってズルズルとホークスの我がままを通した結果がこれだ! このまま緑谷出久が敵たちに懐柔されてみろ! 試合ルールとはいえオールマイトに勝った男だぞ! もはや我々にあの男を止めるすべは無い!!」

 

「「「「「――」」」」」

「「「「「――」」」」」

 

「こうなってしまっては、一刻の猶予も無いわ」

 

 議論が激しくなっていく中で。

 もはや、集まった者たちの答えは合致したと言っていい。

 それを口にしたのは、彼らの中心に座る、金髪の、目付きの鋭い壮年女性。

 ヒーロー公安委員会 会長の口から、その決定が告げられた。

 

「禪院家に連絡を――緑谷出久を、この世から抹殺する」

 

 

 

 

 

―― 翌日 ――

 

 

 

「本気で言ってます?」

 

 某所にある、ヒーロー公安委員会所有のビル。

 そこの最上階、公安委員会会長の部屋に訪れた男。

 ウィングヒーロー ホークス。

 

「……貴方には、別件の仕事を依頼しておいたはず」

「あんなもの、今ごろ俺の可愛い相棒(サイドキック)たちが解決してますよ」

「ヒーロービルボードチャートにさえ載っていない無名のヒーローに、わざわざ貴方を指名した依頼が解決できるとでも?」

「俺が出久一人しか育ててこなかったとでも思ってます? どころか、めきめき力を付けていく出久の姿に刺激を受けて、全員が今まで以上に自主トレに励んでくれて、日々強くなってますよ。俺が何日も博多のヒーロー事務所を離れて、出久のことに専念してられるくらいにはね」

 

 そう遠からず、ヒーロービルボードチャートの100位圏内だって狙えるでしょう。

 そんなサイドキックらの自慢をした後で……薄暗い室内にて、窓辺でこちらに背を向ける会長を睨み据えた。

 

「……もはや決定は覆らない。緑谷出久は抹殺する。それがヒーロー公安委員会の決定。むしろ、それを貴方に実行させなかったことを感謝してほしいくらいよ」

「感謝するのはアンタらだ。俺がそんな依頼を受けるわけないし、俺はアンタらに味方するヒーロー全員、倒す力も持っている」

「……これはもはや、貴方個人の感情で解決できる範疇を超えている」

 

 ため息を吐きながら……

 会長はホークスの前に立ち、真っすぐ目を見て向き合った。

 

「『物間寧香』は普通の『個性』とは違う。緑谷出久懐柔の恐れだけじゃない。事故死した女児の個性が意思と形を持ち、『無個性』の少年に乗り移ったもの。その時点で、緑谷出久に限らず、あらゆる人間が手に入れる可能性があった。それは今も変わらない。方法の如何に関わらず、悪しき心を持った敵が緑谷出久から個性を奪ったなら、社会を揺るがし、世界を破壊する力を行使できることになる。そんなことにならない内に、善人である緑谷出久の命ごと『物間寧香』を抹殺することこそ、世界を守るには最善にして最速(・・)の選択だった」

「出久が善人であると認めたうえで、個性一つを理由に命を奪うことが、ヒーローたちを統率する組織の行動だと?」

「平和のためなら悪にも墜ちる。たとえその行動を(ヴィラン)だと罵られようとも。それが公安よ……」

「そしてその責任は、公安ではなく、雄英が取るというわけですか?」

 

 会長の言葉に対して、ホークスは新たに、苦言を呈した。

 

「今、世間の非難の全ては、生徒の拉致をゆるした雄英に向けられている。その救出作戦のドサクサに紛れて人質である生徒が死亡してしまっても、その責任の所在は皆、雄英とその場に居合わせたヒーローたちに向くというわけだ。それを行ったのが禪院家だとしても、都市伝説の存在を世間が信じるわけがない。出久は殺され、雄英はバッシングを受け、公安は知らんぷり……渋々とは言え、出久の雄英入学を許したのも、こんな事態になった時の保険だったわけだ。よくできた筋書きですよ、まったく」

「……貴方が何と言おうと、決定は覆らない。何より、この世界も(・・・・・)緑谷出久が消えることを望んでいる(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「させない。出久は俺が連れて帰る」

 

 

「行かせへんでぇ?」

 

 

 会長に啖呵を切って、部屋を出ようとしたホークスの耳にそんな、若い声が聞こえた。

 薄暗い部屋の隅を見ると、そこにはいつからいたのか、若い男が立っていた。

 

「はじめまして。速すぎる男」

「禪院 直哉(なおや)……」

 

 

 

 

 

 同刻。某病院前にて……

 

「かかってこい、出来損ないども……」

 

「お、父さ……」

 

 八百万 百。

 爆豪 勝己。

 轟 焦凍。

 切島 鋭児郎。

 飯田 天哉。

 

 彼ら五人は、木刀を握った、武道の道着のような服を着た男――

 

 禪院 扇と、相対していた。

 

 

 

 




次話、戦闘回。
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