気が向いたので書いてみました(覚えてる人いるのかしら…)
大筋変わらん部分はダイジェスト形式で書かせていただきます。
地味目で、とても疲れた男の子。
彼を見た時の最初の印象がそれだった。
緑がかったモサモサの黒髪。顔に浮かぶそばかす。そんな地味な印象をした顔の、目の下には、暗いくまが浮かんでて。
受験会場――雄英高校の入り口で出会って、たまたま話した時は、とても真面目で誠実な人だって感じた。けど、失礼な話、試験に合格はしなさそうだな……それが、正直な印象だった。
もっとも、受験の緊張やプレッシャーでつまづいて転びそうになった時、私が『個性』を発動するより早く助けてくれた時点で、彼の強さに気づかなかったのが、今となっては本当にバカだったと思う……
筆記試験を終えた後は、実技試験。内容は、市街地を模した会場に移動して、
みんなそうだったと思うけど、いきなりスタートした時は慌てちゃって、とにかく合格しなきゃ、ポイント稼がなきゃって、夢中で走り回ってた。
そんな私たちを置き去りにして、彼はいきなりだったスタートを合図に走り出してた。
走っていった先で、どんな『個性』だったか分からないけど、目の前に集まってた敵ロボットたちを、あっという間に壊していってた。
そんな活躍を見て我に返った後はとりあえず冷静になって、慌てる気持ちが無くなったわけじゃないけど、とにかく動くことができた。途中で困ってる受験生たちがいたら、手を貸したり助けたりする余裕も出てきた。
慌てたり、落ち着いたり、余裕が出たり……
そんなふうに夢中になってる私でも目がいっちゃうくらい、彼はすごかった。
誰よりもロボットを壊していく実力。誰よりも、ピンチになった受験生たちの手助けをする余裕。状況判断力。
同い年の受験生のはずなのに、認めるしかなかった。私だけじゃなくて、同じ会場のみんながそうだったと思う。
彼は、私たちとは違う。
彼には絶対、誰も敵わないって。
多分、彼みたいな人が、本物の『ヒーロー』なんだって。
必死に走り回ってる間、それでも見惚れたし、憧れた……
異変が起きたのは、ポイントもある程度稼ぐことができた時。
地震が起きたのかと思ったら、空が暗くなった。見たらそれは、説明の時に聞かされた、『お邪魔虫』の0ポイント敵ロボット。
ビルよりも大きなソレは、とても敵う相手じゃない。説明でも言われた通り、逃げるしかない。ほとんどの受験生たちがそう判断して、蜘蛛の子散らしたみたいに逃げていった。
もちろん、私も逃げようとした。けど、運が悪く、崩れた瓦礫に足を取られて身動きが取れなくなった。
『個性』で逃げようにもすぐに逃げられるわけじゃないし、ロボットだって目の前まで来てる。
私、死んじゃうのかな……
受験だし、さすがに死にはしないか……
言葉はどうあれ、そういう諦めの言葉が頭に浮かんだ時。
突然、空が明るくなった。
振り返ると、0ポイント敵の胴体に大きな穴が空いて、そこから日の光が覗いてた。
そんな日の光の中に、うっすら、大きな手と口が見えたような……
そう思った時、気づいたら、私は倒れてた場所から離れてた。
更に気づいたら、私の体は浮いていた……というか、運ばれてた。
というか――お姫さま抱っこ、されてました。
見上げてみると、それは、受験前に出会った人。誰よりも活躍してた、その人。地味目で、くまを浮かべた疲れた顔には、朗らかな笑顔を浮かべてた。
多分、私を安心させようとしゃべりかけてくれてたんだろうけど、その……そう、太陽の光が眩しくて、とても返事をする余裕なんてありませんでした。
彼が私をゆっくり地面に降ろしてくれたタイミングで、試験は終了した。
その後は、お礼を言う暇もなく行っちゃったんだけど、更に気づくと、瓦礫に引っかかってケガをしたはずの足や、体には、傷一つ残ってなかった。
後で知ったけど、私たちのいた会場にいた受験生たちは、受験が終わってみたら、一人もケガ人は出なかったらしい。
内容的に、みんな何かしらの形でケガはしそうだろうし、実際にケガをしたっていう人もいた。なのに、かすり傷一つ負った人さえ、一人もいない。
みんな不思議がってたけど……
私は一人、確信してた。
私のケガも、他の受験生たちのケガも、全部、彼が、治してくれたって――
また彼に会いたいな……
合否の結果以上に、考えてたのはそのことばかりだった。
彼のことだから、間違いなく合格してる。だから、彼にまた会うには、私も合格するしかない。だから、結果的に、合格することを願ってた。
そんな願いが通じて……
受験の結果は、合格。
内容は、敵ポイントは並みだったけど、それと一緒に見てた、
けど、理由や内容は正直、どうでもよかった。
合格した。雄英でまた、彼に会える。それが分かったから。それが一番、嬉しかったから……
―― 数ヶ月後 雄英高校 ――
ピカピカの制服を着て、ヒーロー科1年A組の教室に入った時。
彼はすぐに見つけることができた。試験会場では一番目立ってたのに、教室にいたその人は、誰よりも地味で、目立たない存在だった。正直、彼とは違う形で一番目立ってた、眼鏡の男子生徒と話してなかったら、すぐには見つけられなかったかも。それくらい、受験の時と、今の彼は、違って見えた。
あの時、助けてくれてありがとう。
言えなかったお礼を言って、眼鏡君とも話した時、また別の、大人の男の人の声が聞こえた。見ると、教壇の上に、汚い髪とみすぼらしい服装をした、男の人が倒れてた。
寝袋ごと立ち上がったその人――担任の
個性把握テスト。
入学式やガイダンス、そんな無駄な物に出る時間は無いって言って、私たちの抗議も構わず話を進めていった。
目付きの悪い男子――
『個性』を思いきり使えるって言うそのテストに、生徒の誰かが言った。面白そうって。私も、そう思っちゃった。
その時、相澤先生の雰囲気が変わった。で、言った。そんなつもりで雄英に来たなら、トータル成績最下位の生徒は、除籍処分。
理不尽すぎる……
入学初日なのに……
まだ何も教わってないのに……
けど、やるしかない。受験の時と同じ、勝つしかないんや!
覚悟を決めて、全員がスタート地点に移動し始めた時、相澤先生は一人の生徒を呼び出した。彼――
デク……爆豪君がそう呼んだのが聞こえた。
そして、彼は個性把握テストは見学だって言った。首席合格の彼にはテストは不要だって。彼がテストを受けたら、一位になるに決まってるからって。何人か反発する生徒もいたけど、私や、眼鏡君含め、何人かは納得してた。きっと、私と同じ、受験会場が同じだった人たちだ。
デク……またそう呟いた、爆豪君もそうだった。
けど、彼の様子を見るに、納得とは違う感じだった。
納得とは全然違う、まるで……彼のこと、怖がってる、みたいな……
私たちの最大限を引き出すための合理的虚偽。
それを聞いて、私も驚いたし、最下位だった生徒は絶叫してた。
そんなこんなで初日は終わった、学校の帰り道。
眼鏡男子君――
緑谷デク君……そう呼んだけど、実際は
けど、デクって、がんばれって感じがして好きだなぁ……
そういうと、彼は優しく笑ってくれて、デクでいいよ。そう言ってくれた。
そんなふうに話してみると……
真面目で誠実で、達観してて落ち着いた雰囲気な、普通の男子生徒。
本当に、受験会場で見た、圧倒的な実力を持った人とは信じられなかった。
―― 数日後 ――
デク君の実力を見せつけられたのは、ヒーロー基礎学の、戦闘訓練。No.1ヒーロー、オールマイトが担当してくれるその授業の時。
二人一組を決めるくじ引きで、デク君とペアになった時は、本気で神様に感謝した。
宇宙服をイメージしたパツパツスーツを着た私と違って、デク君はコスチュームも地味でシンプルだった。
緑っぽい白色の服は、脇や二の腕は広いけどひじから先が出てる。ズボンは普通の黒色。靴は白色。仮にもヒーローコスチュームだし、防刃性とかそれなりの機能はあるだろうけど、ぱっと見はまるで、学校の制服みたいだった。
そんなコスチュームを着て、手には、ちょっとメカニカルな見た目の日本刀を握ってた。
聞いてみると、一応はサポートアイテムだけど、中身は本物の真剣らしい。ロックが掛かった鞘は滅多に抜かずに、鞘のまま殴って使うって。なんで日本刀なのかというと、彼の『個性』と一番相性が良いからだって。
そういう話をしてる間に、対戦の組み合わせが発表された。
Aコンビの私たちは『ヒーロー』チーム。
相手の『
それを聞いたデク君は、複雑な顔で爆豪君を見てた。
その爆豪君は……デク君をチラチラ見ながら、震えてた。奥歯を噛みしめて、拳を握って、顔とか、露出した肩とかには冷や汗を浮かべて。
飯田君に話しかけられて、ぶっきらぼうに返事するまで、そんな感じだった。
最初に敵チームの二人が、建物の中に核爆弾を隠す。私たちヒーローチームは、制限時間までにその核に触るか、敵チームの二人を捕獲したら勝ち。
敵側が有利な訓練だけど、不思議と、不安は無かった。ペアになったデク君が、すごく魅力的でゲッホッ、頼もしかったから。
私だけじゃなくて、別の場所でこの対戦を見てる人たちも、期待してたんだと思う。
個性把握テストじゃ見られなかった、受験の時もちゃんとは見られなかった、首席合格者、デク君の実力が見られるって。
そんな期待に応えるように、デク君は、作戦は僕に任せてほしい。そう言ってきた。
私は迷わず、頷いた。
制限時間15分。
終了したのは、開始4分後。
デク君と手を繋いで、ドキドキしながら手を引かれるまま歩いてるうちに、終わってた。当人の私自身、何がどうなったのか分からなかった。
結果は、私たち、ヒーローチームの勝ち。デク君が私の手を引きつつ、見つけた核に手を触れて終わってた。
講評を聞くために戻った後、オールマイトさえどうなったか分からなかったっていう訓練の内容を、デク君が説明してくれた。
まず、デク君は私の手を握りしめて、スタートの合図が鳴ったと同時に姿を消した。カメラに写ってたのはここまで。
これは『透明化』。この個性で、自分と、自分が触ってるものの姿を消したらしい。その後は、あらかじめ聴覚で探っておいた核の隠し場所の階まで上ってから、自分自身と触ってるものを無生物に限ってすり抜けさせるっていう『透過』の個性で壁をショートカット。姿を隠したまま核に触ったって……
説明を聞いた後、オールマイト以外の皆は、ポカンとしてた。もちろん、私も。
『透過』に、『透明化』。なんの関連性も無い個性をいくつも使ったことはもちろん、どれも、受験の時に見せた活躍の説明がつかない『個性』だったから。
そうして言葉を失ってる私たちに向かって、デク君は、自分の『個性』を説明してくれた。
デク君の個性は『
触った人の個性を自分の個性として、一定時間の間使うことができる。
けど、秘密のある条件を満たすと、一度コピーした個性はいつでも自由に使うことができるようになるらしい。
そうしてコピーしてきた『個性』が、自分にはいくつもあるって。
そんな説明を聞いて……
『個性』がすごいとは、もちろん思った。こんなすごい結果を出せたことにも、合点がいった。
そして、全員、思ったと思う。
デク君には、敵わないって。
核に触れば勝ち。そのためには、派手な個性はいらない。戦う必要さえない。
ただ核に触るために、今までコピーしてきた『個性』の中から、最適なタイミングや組み合わせを選んで、発動させて、使いこなして、勝ってみせる。
それだけのことができるようになるまで、たくさんの努力や、苦労をしてきたとは思う。そして、それだけのことが、仮に私たちが『模倣』を使えたとして、デク君と同じようにできるのかって……
少なくとも、私にはできる気がしない。
そしてもう一つ、全員、思ったと思う。
それだけの実力と、たくさんの『個性』を持った人が、『捕獲』や『奪還』じゃなくて、『戦闘』のために力を発揮したら、どんなことになるんだろう――
授業が終わって、結果だけで言えば、『半冷半燃』の個性を使う、
そんな轟君もすごいって思ったけど、やっぱりみんな、デク君の方がすごいって思ってたと思う。
授業が終わった後は、反省会をしようって教室に集まってた。そこでも、デク君はみんなの中心にいた。
みんなが、デク君の周りに集まってる中――
一人、爆豪君は、教室を出て帰ってた。
終始、デク君を見ながら、けど話すことも、目を合わせることさえしようとしないで、震えてるみたいだった。
ずっと、デク君を怖がってるみたいに……
そんな爆豪君の様子を見たデク君の疲れた顔は、私には、寂しそうに見えた。
出久のヒーローコスチュームは、憂太と同じ特級の制服ですが、色は若干緑っぽい白です。
また、この回で使った『透過』と『透明化』は、どちらも葉隠さんや透形先輩とは別の個性です。