ずっと楽しみにしていた、雄英林間合宿。
始まる前には、みんなで買い物をしたりして、同時に今以上に強くなれることに希望を懐いていた。林間合宿が終わった時、私たちは更に強くなっていると……
それが現実は、脳無を含めた
そして、仲間もさらわれてしまった。
1年の中で最強の力を持つ『例外』、緑谷出久さん。
そして、1年B組女子、禪院真希……
あの時、とっさにできたのは、チェーンソーを振り回す脳無が退却していく際、B組の
先生方には、よくやった、成長した、そう褒められた。それでも、後悔と敗北感、無力感、そういった感情に苛まれ、ひたすら悔しさに心苦しさを感じるばかり。
そんな私に、切島さんが切り出したのは、私たちで緑谷さんたちの救出へ向かおうという提案だった。私が創造した発信機。その受信器をまた創造し、そこが示す場所へ向かう。そんな提案だった。
もちろん、私は反対した。私はもちろん、一緒に聞いていたA組の生徒の大半が、それを咎めていた。けど、切島さんはじめ、轟さん、爆豪さんはすでに、行くことを決めたようだった。
彼らの気持ちは分かる。私だって、真希を……仲間をさらわれて、悔しい気持ち、いても立ってもいられない気持ち、そういうものをずっと感じてきた。
それでも……私たちに与えられた戦闘許可は解除されている。そして法律は、感情による行動、個性の使用、戦闘、そういったものを決して許しはしない。それらを破ったが最後、
梅雨ちゃんさんをはじめ、A組からのそんな説明を受けても、それでも、三人は止まらない。それが確信できた。
集合場所は、その日の夜。生徒たちが入院している病院の前。
そこへ、すでに集まっていた切島さん、轟さん、爆豪さんの三人と合流した。
加えてそこに、飯田さんも現れた。飯田さんは三人を、殴ってまで止めようとした。けど、彼らの必死の訴えと、戦闘ではなく救出が目的だという意見、そして、私がいざという時のストッパーになるつもりで来たことを説明して、なら俺もストッパーにと、飯田さんもついていくことが決まった。
計五人となったメンバーで向かう目的地は――神奈川県 横浜市 神野区。
「
「んな!?」
病院を出て数分歩いた先で、聞こえてきたのはそんな絶叫。
そちらを見ると……
「うおおおおおおおおおお!! 無事だったか真依ぃぃいいいいいいい!!?」
「ちょ! 皆さんの前で、おやめください……!」
「真依いいいいいいいいいいいいい!!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいい!!?」
抱きしめながら、チェーンソーの幻聴が聞こえそうなくらい頬擦りしてくる中年男に、見ている殿方はドン引きしています。
「……あ、あのぉ、失礼ですが、アナタは?」
飯田さんが言い辛そうに尋ねた時。
和服、というより武道の道着のような服を着た、黒目の大きいボニーテールのその男は、やっと私から離れてくれた。
「失礼しました。うちの真依……おっと、今は
「あ、いえいえ、こちらこそ……」
左頬から湯気を出しながらの礼儀正しい挨拶に、真面目な飯田さんも釣られてお辞儀してる……
「……ちょっと待て、禪院て、もしかして真希の……」
「はい……私は禪院真希、そして、この八百万百の父親です」
平然と暴露して、四人ともが驚いていました。
「父親? ポニテ女と苗字がちげーじゃねーか?」
「どちらもポニテ女です……わけあって、私は養子に出されたのです。真希は養子を拒否して禪院家に残ったから、苗字が違うのです」
あまり知られたくない話ではあるけれど、特に隠す理由も無い。だからこの際、暴露することにしました。
「いやはや、誠に、うちの娘が皆さんにご迷惑をお掛けしていないか、いつも心配で……」
「いえいえ、そんな……むしろ俺たちの方こそ、娘さんの聡明さにはいつも助けられているくらいでして……」
「いやはや――」
「いえいえ――」
……飯田さんと、この男って、実は相性が良いのでは?
「それにしても、心配したぞ、ま……いや、百。さぁ、退院祝いに、お前が好きだった店を予約している。良ければ、皆さんもどうです?」
「いえいえそんな、親子の間に水を差すわけには――」
「いやはや、まぁまぁ、そう遠慮なさらず、お若いのだから、年長者にご馳走くらいさせてくださいな――」
「……」
集まっている人たちに愛想よく、あからさまに足止めをしている。
「……私たちの邪魔をする気ですの?」
ようやく湯気の止まった右頬から手を離して、たまらず口を出すと……
禪院扇の顔から、笑顔は消え、代わりに私たち全員を鋭く睨み据えた。
「……今夜は本当に退院祝いをしたかった。せめて真依、いや百、助かったお前だけでも労いたい一心でな。それがまさか、年端も行かぬ身で無茶を働こうなどと企んでいたとあっては、止める他あるまい?」
「……意外ですわね。超が付くほど親馬鹿である貴方なら、真っ先に真希の救出へ向かおうと言って下さると思っていたのに――」
ただ睨み据え、語り掛ける。それだけなのに、私たち全員が巨大なプレッシャーを感じて、その場から動けなくなってしまった。
私以外にも、全員が確信したはずです。この男は、とてつもなく強い、と……
「無論だ……本音を言えば、今すぐにでも真希を救けに行きたい。しかし、それよりもまずは、確実に生きてくれている、もう一人の娘を守ることが最優先だと考えた。そう考える親心は間違っているか? 君たちはどうだ?」
私に、そして、後ろにいる四人に語り掛けた。
「ケガ人、重体者、行方不明者、それらを出した騒動の中、それでも無事に帰ってきてくれた。そんな子供たちの姿に安堵した、君たちのご両親の気持ちを考えたことはあるか? その気持ちをないがしろにし、なお危険を冒そうと考えるのか? 家族のそばにいてあげたいとは考えないか?」
それを言われて……
表情を歪め、歯噛みした。
私もそう。正直、この男に対しては、今となっては父親であるという感覚はほぼほぼ皆無と言っていい。けど、そんな私のことを娘として育ててくれた、八百万家の両親の顔を浮かべると……
「……んなもん知るかッ」
と、言葉を失っていた私たちの中で、声を発したのは、爆豪さん。
「危険がどうとかケガとか死ぬとか、ヒーローになるって決めた時点でそんなもん、とっくに覚悟の上なんだよ、こっちはァ! それを、親が心配するから戦わねえ? 冗談じゃねえ! 俺は俺自身の意思でヒーロー目指してんだ! 親兄弟がなんと言おうが知ったことかよ!?」
「プロヒーローであれば、それで良いかもしれん。だが、君たちはまだ子ども……」
「うるせえ!! 敵にさらわれた二人も子どもだろーが!! 仲間ぁ助けに行かねーで、ヒーロー名乗れるかよ! 邪魔すんな!!」
「……そうだ」
それを聞いた、切島さんもまた、言いました。
「確かに、これからしようとすること、A組の仲間たちや、親にも申し訳ねぇって思ってる。でも、あの時何もできなかった。仲間を守ることができなかった。それでもまだ手は届くんだ。今手を伸ばさなきゃ、俺はヒーローでも、漢でもなくなっちまう。だから行くんだ! 友達を救けに!」
「……やられっぱなしじゃいられねぇ。緑谷と、真希がヤベェって時に、黙って見てられねぇ。だから俺は行く」
「私は、そんな彼らが無茶をしないためのストッパー役として同行を決めました。そして……可能なら、救け出したい。緑谷さんと、真希を!」
「うむ……俺も彼女と同じ役目だ。そして俺だって! 緑谷君と真希君を救けたい!」
「……言葉での説得は無駄か」
私たちの訴えを聞いた禪院扇は……背中に背負っていた、木刀を握った。
「致し方ない……少々、痛い目に遭ってもらおうか?」
「まさか……!」
「百……お前の『個性』、様々な物を創造する個性。便利ではあるが、それで敵と戦うには無理がある。だから養子に出した。せめて、真希ほど動けるのなら違ったろうが、今はどうだ?」
「……」
「お前たちもだ。戦闘向きの個性を持ってはいても、それだけで、何もかも未熟な身で敵に太刀打ちできると?」
私と、四人、一人ずつを見ながら、構えた。
「ここを通りたいのなら、私を越えて行くがいい。全力で邪魔をしよう。幸い、ここなら多少暴れても人が来る心配は少ない」
大きな病院は大抵、町から離れた郊外に位置している。そしてここは、病院敷地内から離れた道路脇。確かに、今も人の姿は一人も無く、ついでに車通りも少ない。
こうなることを見越して、わざわざ私たちをこの場所で待ち伏せしていたということか。『個性』を使ってでも、私たちを止めるために……
「かかってこい、出来損ないども」
「お、父さ……」
「ハッ! 出来損ないかどうか――」
爆豪さんが、手の平を爆破させながら話している最中――
「……悪ぃが、ここで時間喰ってるヒマは無ぇんだ」
すでに、轟さんが個性を発動して、禪院扇の足もとを凍らせていた。
「足袋に草履じゃあ冷てぇだろうが、まあ霜焼け程度で済むはずだ。自然に溶けるまでそこでジッとしててくれ……」
「いけない! その男の個性は――!」
横を素通りしようとした轟さんに向かって――
叫んだ直後、禪院扇は凍っていたはずの足を伸ばして、轟さんをこちらまで蹴り飛ばした。
「ぐぅ……なんで……!」
「愚かな……」
足を戻しながら……まるで見せつけるように、木刀含め、全身から炎を吹き出した。
「
「少し違う。炎を発生させ操る点はエンデヴァーと共通しているが、ヤツほどの火力や勢いは出せない。代わりの特性はあるが……少なくとも、貴様程度の氷ならば、融かすことはわけない」
「調子に乗ってんじゃねぇ!!」
続いて爆豪さんが飛び出した。手の平からの爆破を繰り返し、扇の周囲を行ったり来たりする。
「方向感覚を狂わせつつ、どこから来るかを惑わせての……目くらましか?」
「
強い光を発生させる爆破。それに対して、扇は背を向けつつ木刀を振るって、爆豪さんのお腹を突き刺した。
「発想は悪くない……だが、私もそれなりに経験を積んでいる。貴様のような若造の狙いを読む程度にはな」
「おおおおおおおおおおお!!」
お腹を突かれて、吹き飛んだ爆豪さんを見て、切島さんが飛び出した。
「オラァ!!」
「むぅ……!」
扇が振るった木刀と、『硬化』した切島さんの拳がぶつかり、結果、木刀の半分以上は折れて飛んでいった。
「もらったぁ!! ――ぐぅぅぅ!?」
しかし、切島さんもまた、木刀でお腹を突かれ、悶絶した。
「武器を破壊したからと慢心したか? 剣技ではなく、『個性』を使う相手だぞ。硬くなる個性でありながら急所を守らず懐へ飛び込む……笑止千万」
切島さんがひざを着き、倒れた時。
折られたはずの木刀からは、新たな刀身が、赤く伸びていた。
「身体から噴出した炎を操り、物質化させる。それが私の個性だ……これを応用し、炎の鎧を纏うことさえ可能だ」
その言葉の通り、木刀だけでなく、全身から炎が噴き出し、それをオーラのように纏った。
「さあ、どうするのだ、百? 飛び道具でも作りだすか? 麻酔薬でも作って注射するか? もっとも、どれも私の身に届く前に、炎に焼かれ蒸発するが……『エンジン』の君も。こんな状態の私を蹴ろうものなら、最低でもⅡ度、最悪、Ⅲ度の火傷は免れんぞ?」
残った私と、飯田さんに迫ってくる。
分かってはいたけど、本当に強い。
こんな男に、勝てる方法なんて……
「……これしかない。飯田さん、轟さん」
もはや諦めている様子の飯田さんと、轟さんに、私はあるお願いをした。
「お父さん!」
「お父さん?」
突然の呼びかけに、扇は疑問の声を上げた。そして……
「真希君を……娘さんを、僕にください!!」
「……は?」
「あぁ?」
「え?」
「……あ゛?」
「……」
突然の言葉を聞いた、禪院扇は……
「……なんだとぉ?」
全身にまとった炎を、更に燃え上がらせた。
「貴様……私が真希の父親だと知っての――!!」
「今です! 轟さん、氷結を!!」
私が叫んだ瞬間。すでに立ち上がっていた轟さんが『氷結』を発動。氷の柱が扇に届いて――
「炎なら――特に物質化する以前なら、冷やせば鎮火するでしょう……!」
そして私も、走った。
扇は反撃しようと動いていたものの、それを飯田さんが押さえてくれた。簡単に突き飛ばされましたが、懐に入ることができて……
「ぐぅ……ッ」
「アナタに言われた通り、即効性の眠り薬です……」
戦闘開始と同時にこっそり創造しておいた、麻酔薬入りの自己注射器。それを、扇の首に刺して……
首を押さえながら、早速効果が出たようで、ひざを着いた。
「……私としたことが、あんな手に、まんまと……耄碌したものだ」
「この作戦を考えたのは、八百万君です」
「……そうか」
私の周りに集まった四人とも、複雑な顔を見せていた。
緑谷さんほどでないにせよ、A組の中ではトップクラスの実力を持つ四人。そんな四人を、一人ずつとは言え倒してしまう。飯田さんに真希の名を出してもらって動揺を誘わなければ、決して勝てなかったでしょう。
それだけの力を持ったこの男は、私たちにとって、かなりの脅威だった。
「すまんが……私の代わりに、キャンセルの電話を頼む。場所は高級割烹の――」
「……」
「……真依、強くなったな」
それを最後に、目を閉じて。
倒れる前に、飯田さんと切島さんが支えて、歩道の脇にもたれ掛けさせた。
「……」
「八百万、大丈夫か?」
私を心配した様子で、轟さんが話しかけてくれたけど……
何度目をこすっても、溢れてくる大粒の涙を止めることは、できなかった……
「あの、男が……私を、強いって……そう、褒めてくれたこと、なかったくせに……!」
力無き者は禪院家に非ず。『個性』非ずんば人に非ず。
そんな矜持を掲げた、国に仕える戦闘集団、禪院家。
その家の嫡子に生まれながら、とても戦闘には役に立たない個性を持って生まれた私。真希に至っては、私以上に役立たずな『無個性』。
だから両親は、私たちを禪院家から追い出すことにした。
私としても、禪院家の教えにはついてけないと思っていたから、平和に生きられるならその方がいいって諦めてた。
なのに、真希は、禪院家に残った。
無個性のくせに。
私以上の役立たずのくせに。
ずっと一緒にいてくれるって、約束したのに。
このままじゃ、自分のことが嫌いになるからって言って……
禪院家は嫌い。
両親は嫌い。
噓つきの真希なんて、大っ嫌い。
だから、雄英を目指した。無個性のくせにヒーローを目指してる真希と、禪院家に対する当てつけのつもりだった。
なのに、真希は個性に目覚めていた。
元々、私よりも強かった。才能に恵まれていた。
私のことは、勉強や芸術でしか褒めてくれたことの無かった禪院扇から、何度も強いと褒められてた。
そんな、真希しか褒めたことのなかったこの男が。
養子に出してから今日まで、週に一度以上は必ず八百万家に電話して、私の大好きなお店まで知っていたこの男が。
ずっと私のことを、弱い妹としか見てこなかったこの男が。
私に向かって、「強い」って……
「……行きましょう。緑谷さんと、真希が待っています」
どうにか涙を押さえた後は、創造した毛布を被せた男を置いて、五人で駅まで急いだ。
キャンセルの電話は、電車に乗る前に済ませておいた。
「大っ嫌い……お父さん」
ヒーロー公安委員会所有のビル、屋上にて――
会長室の中を散らかし、傷つけ、壊し。
瓦礫と羽毛が散乱した、激しい激闘があったと一目で分かる空間にて、お互い傷だらけになりながら、立っている男と、座り込む男。
「あー、シンド……これが『速すぎる男』かいな。親父め、自分のが速いとか散々自慢しくさってからに、ここまでやるとか聞いてないわ」
「直毘人と同じ個性を使うお前も、確かに速かった……だが、直毘人はもっと強かった。そして、俺の方がお前より強かった。それだけだ」
「……ハッ! 嫌や嫌や、ホンマに……」
もはや、戦う力は残っていない。それを自覚しているから、手も足も伸ばして大の字に倒れた。
「さっさと行きーな。俺以外に、キミのこと止められる人間はココにはおらんことくらい、分かっとるやろう」
「……その前に、禪院家は出久をどうやって殺すつもりだ?」
潔く負けを認めている直哉に対して、ホークスは問いかけた。
「いくら禪院家が戦闘に特化した特殊部隊と言っても、出久と寧香の力は別格だ。禪院家が全滅する可能性だって十二分にあり得る。お前たちはそこまで覚悟して、出久に挑むつもりだったのか?」
出久の強さを誰よりも分かっているからこそ、簡単に殺すことなどできはしない。ホークスは論外。禪院家であれ、オールマイトでさえ、本当の殺し合いになればどうなるかは分からない。
だから尋ねた。出久をどうやって殺す気なのかと……
「……んなもん、禪院家総出での特攻一択やがな」
「……」
「なーんて答えじゃ、どーせ納得せんのやろうな……一つだけ教えたるわ」
「……」
「キミとエンデヴァーがとっ捕まえて、親父が押収した品物の中身な……」
「
ガシャンッ――
直哉の答えを聞いた、速すぎる男は――
会長室の窓ガラスを突き破り、夜の街を飛んでいった。
ホークスvs直哉
速すぎて大海には書けなかったぜ!(言い訳)
今回でまた、お時間くださいな。
小出しで申しわけない……