【完結】個性:物間寧香   作:大海

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一応言っとくけど、ムーンフィッシュ戦の時点で使ってます。黒閃。



第21話  眩しい闇

 

 ―― 2分前 ――

 

 

「所詮は、『個性』を真似て作った劣化品よ。本物の『個性』との綱引き勝負には勝てんか。ガラクタめ」

 

 涙目になりながら形が崩れ、金属とも肉片ともつかない形状となり使い物にならなくなった。そんな、故障した獄門疆を踏みつける直毘人。

 それに複雑な反応を見せる迫圧紘(Mr.コンプレス)を始め、連合六人も黒い液体に飲み込まれ、代わりに現れる脳無たち。

 

「まあいい……行き先は分かっている。今から行けば間に合うか――また貴様か真希?」

「テメーはここでジッとしてろ、老害」

「それはお前だ、出来損ない」

 

 周りが脳無への対応でゴタついている中、真希は再び直毘人へ襲い掛かる。

 だがそれも、難なくいなされる。

『個性』に目覚めて一年未満の少女と、戦闘集団の頭目にまで上り詰めた老獪との戦力差は明白だった。

 

「そら、警察にヒーローども。誘拐被害者だ。さっさと保護しろ。二人のうち、一人は助けなければお前たちも面目が立たんだろう」

 

 そんな勝手な言葉を残した後は、姿を消した。

 

「オールマイト! さっさと追いかけろ! アイツに追いつけんのはアンタしかいねぇ!!」

「Shit!!」

 

 真希からの言葉を受けて、図らずも突然現れた禪院家と共闘しているエンデヴァーにも大丈夫か問いかけて、オールマイトもまた、飛び出した。

 

 

「Hey!! ご老人!! これ以上のご無理はお体に障るでしょう? あとは若い者にお任せください!!」

「ハッ! いらん敬老精神だ! 年長者を敬う気があるなら、引っ込んでろ若造!!」

 

 ホークスをも超える『最速』の足にどうにか追いついて、説得を試みる。

 もちろん、お互いに引き下がる気はサラサラ無く、互いに押し合い、へし合い……

 

 どうにか直毘人を引き離して、破壊された脳無格納庫へたどり着くことができた。

 

 

「全て返してもらうぞ!! オール・フォー・ワン!!」

 

「また僕を殺すか? オールマイト!!」

 

 

 この場にいるのは、ヤツと、緑谷少年の二人だけ。脳無はおろか、敵連合の姿も無い。自分がヤツを止めている間に、緑谷少年なら簡単に逃げてくれるだろう。

 そう期待して、工業地帯みたいな頭した男に向かって――

 

 

 

「領域展開」

 

 

 

「むぅ!? これは……!?」

 

 突然、目の前に発生したモノ。

 黒がうごめく、球体。巨大ではあるが、それほどの規模には感じない。

 そんな球体に、AFOと、緑谷少年が消えていった。

 

「これも、ヤツの個性の一つなのか……」

 

「――止せ。うかつに触るな」

 

 得体の知れない不気味な球体に、触れようとしたオールマイトを制する手。

 そちらを見ると――引き離したと思っていた男、禪院直毘人が、自身の手を掴んでいた。

 

「ご老人……しかし、この中に緑谷少年が!!」

「オール・フォー・ワンにばかり目が行っていたな? この球体はその緑谷出久が出した(・・・)ものだ」

「あなたもヤツのことを……いや、それよりこれを、緑谷少年が!?」

 

 直毘人に対して、疑問も聞きたいことも山ほどあるものの。

 驚かされたのは、自分が代々戦ってきた宿敵を閉じ込めたのが、高校一年生の少年だという事実。

 

「やはり公安は正しかった……俺や、オールマイトにも殺すことができなかった魔王を、あの子供が殺すようなことがあれば、間違いなく人類にとっての脅威になる」

 

 この男の言っていることは、正しいかもしれない。

 それでも、オールマイトは確信していた。

 

「それはない。緑谷少年――デクは、ヒーローなのだから」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 エンデヴァーヒーロー事務所での特訓にて、今まで限定的にしか使ってこなかった個性と向き合い、個性の全てを見直すキッカケになった。

 林間合宿での個性伸ばし訓練にて、個性の発動と解除の速度が増した結果、組み合わせだけじゃない個性の相性を発見し、個性の核心の輪郭を捉えた。

 

 それらの鍛錬の果てに修得した秘技――黒閃。

 

 それによってとうとう理解するに至った、個性の核心。

 そして、そうして核心まで理解した個性の力の全てを、寧香の力で領域というアイテムに変え、空間として構築することで自分と相手を閉じ込める。

 

 長い苦悩と、鍛錬と純愛の果てにたどり着いた、緑谷出久だけの最終奥義。

 

 

「領域展開……個性を単なる武器や道具くらいにしか考えていない、お前には一生かかってもたどり着けない領域(・・)だ。僕だけの領域――真贋相愛(しんがんそうあい)

 

 

 陽も光源も無いのに明るい空間。空に浮かぶは、魔除けを意味し、同時に結ばれた二人を祝福し、永遠を願う紅白の飾り紐――水引(みずひき)

 そんな空の広がる地上には、瓦礫の山が散乱している。

 木造家屋の骨組みのような、しかし瓦礫でできた物体の残骸。そこから大量に飛び出ししている――否、突き刺さっている、日本刀の山。

 緑谷出久と、物間寧香により生み出された……いうなれば、生得領域(しょうとくりょういき)

 二人の真心と個性のこもった、絶対の空間。

 

「ぐぅ、うぅ……!!」

 

 そんな、領域に付与された個性の力は、中に入った相手に必ず当たる(・・・・・)

 

「なにをした?」

 

 そして、今、この領域に付与されている『個性』は――

 

「僕になにをした!!?」

 

「……自分が個性を奪われるなんて、想像したことがなかったのか?」

 

 そう問いかけられて……

 ようやくAFOは、自身の身を裂く強烈な喪失感の正体を理解する。

 

「奪われたのか……僕の『個性』が? 『オール・フォー・ワン』が!!?」

 

 未だ、自分の中には奪ってきた、おびただしい無数の個性の躍動を感じる。

 なのに、それらを束ねる核たる『個性』――自分自身が持って生まれた身体の一部。それが、消えてなくなっているのが分かる。

 

「返せ……僕の個性を――」

 

「返すわけないだろう……お前は返したことがあるのか? あったとしても、利用するために無理やり与えただけだろう?」

 

 未だ、この男のことは、名乗られた名前以外何も知らない。それでも、敵連合の黒幕であり、魔王を自称するエゴイストであり、加えて、個性を奪い、操ることができると言うことだけは、彼の個性に触れて、理解させられた。

 

「残念だ……お前なら、魔王じゃなくて、ヒーローにだってなれたろうに。オールマイト以上に人々に希望を与えらえる、本当のヒーローに」

「……君のようなヒーローにか?」

 

 さっき言われたことを返してやる。

 すると男は、嘲笑を漏らした。

 

「ヒーロー……確かに、それも悪くなかったかもしれない。だが君たちが社会やコミックのヒーローに憧れたように、僕はコミックの魔王に憧れた。理想があり、それを実現するための力があるのなら、それにまい進するのが人間というものだ。だから君もここにいるんだろう?」

「順平みたいに、社会や周囲の悪意のせいで(ヴィラン)になるしかなかったわけじゃないんだな?」

「誰の話をしているのか知らないが、悪意にさらされるよりも悪意を操る方が楽しいだろう?」

「よかった……同情の余地は全くないって分かって。心置きなく、お前を倒せる」

「……どの道、返せと言っても個性は返ってこないんだろう。だが、どうやら奪えた個性は一つだけみたいだね? ならせめて、今まで奪ってきた個性を持って、君を殺すとしよう」

 

 

「この領域からは逃げられない」

 

「逃げられないのは君の方だ、緑谷出久」

 

 

 今、出久がこの領域に付与し発動している個性は『オール・フォー・ワン』。もっとも、すでに一つ、個性を奪ってしまっているため、領域の力で自動的に奪うことは、これ以上できない。更に奪うには、出久が自ら男の身に触れ、個性を発動させるしかない。

 

「お前はここで、必ず倒す」

 

 瓦礫に無数に突き刺さる、おびただしい数の日本刀。これらは全部で、出久が今日までコピーしてきた個性の数あり、刀を取ることで、その刀に付与された個性を使用できる。

 どの個性を使うことになるかは、柄を握るまで出久自身にも分からない。

 ただし、この領域内において発動した個性の力は、その条件を無視して瞬時に発動できる。

 

 ――個性『剛翼』

 

 最も手近に刺さっている刀を握る。瞬間、発動した後は、『育毛』や『成長』を併用しなければ使用できるまで数日かかるはずの『剛翼』が、大きく広がり羽ばたいた。

 

「『槍骨』、『鋲』! 『膂力増強』×3!」

 

 文字通り飛んでくる出久に対し、AFOも武器を出現させて迎え撃つ。

 大量の羽による打撃と目くらましに加えて、出久自身の斬撃。圧倒的手数に、さしもの魔王も全てに対応することは難しく……

 

「ぬぅ……!!」

 

 戦闘のさ中、刀を叩き負ったその身に触れられ、また一つ、個性を奪われた。

 

「これは、『サーチ』? ラグドールの個性か……僕と一緒にさらっていたのは聞いてたけど、彼女の個性も奪ってたんだな? 後で返しておく」

「もったいないことを……それにしても、見てもいないはずの奪った個性を瞬時に理解できるのか。僕でさえ事前に見ておかないと、ただ奪っただけでは輪郭さえ分からないというのに」

 

 この領域もそうだが、どうやら一度に奪えるのは一つだけのようだ。

 事実、生まれてから幾星霜、奪ってきた個性は一人につき一つ(・・・・・・・)だったのだから当然なことながら……

 新たに知ることになった、自身の個性に対する感傷も、今となっては敵のもの。

 

「これ以上、時間を掛けるのは得策じゃない。早々にケリをつけてやる」

 

 新たに刀を引き抜いた出久目掛けて、個性を発動――

 

「『発条(バネ)化』+『膂力増強』+『押し出し』+『鋲突』+『ダークボール』+『光塵』――」

 

 

「危なーい!!」

 

 

 ドガァァアアアアアッ

 突如、AFOの真横から大型トラックが走ってきて、その身を個性ごと撥ね飛ばした。

 

「おじーちゃん大丈夫? でもボーっと立ってると危ないよ?」

10:0(じゅうゼロ)でお前が悪い……」

 

「だってお兄ちゃん、飲んでるよね?」

 

 警官二人を引き連れた制服姿のAFOの言葉に、トラックを運転していた出久はギクリと表情をしかめる。

 

「この袋に息をはーってして? 中の金魚が死んだら検挙だからね」

「おい、すでに瀕死じゃないか!!」

 

 

「なんだこのふざけた個性は!!?」

 

 

 途中で我に返り、トラックも制服も消える。街中に変化していた空間は、元の領域の姿に戻った。

 

「あ、これ、『超人(コメディアン)』。事象の創造と他人への強制、魂の共鳴をさせるっていう、売れないことに怒ったお笑い芸人が暴走させてた個性です」

「なぜそんな個性をコピーしている!?」

「強いし、説得とかに便利かなって……でもこれ、国さえ墜とせる個性だけど、今のアナタのように、自我を強く保っていないと自分自身が呑み込まれちゃう個性でもあります。現に芸人の彼は呑み込まれてました」

「うぅむ……強いがいらないな、それは」

「ちなみに僕は無免許ですよ?」

「分かっている! アメリカじゃあるまいに、16歳で大型免許が取れるわけ無いだろう!! ――あ」

 

 と、叫んでいる間のドサクサに紛れて、何気なく触れられていた。

 慌てて攻撃するも、出久は離れていた。

 

「なんだこれ……『血液の変化』? ああ、証拠や痕跡を隠滅する類の個性か。けどこんなの使ったら、本当の自分が誰かも分からなくなるでしょうに」

 

「くだらない――自分が何者かなど、自分一人が知っていれば十分だろう!! ――ガフッ!」

 

 新たに出久が刀を握った時、金属音と同時に、頭頂部に衝撃が走った。

 

「『タライを降らせる』個性……タライの重さ大きさは自由に変えられます」

「地味で古典的なくせになんて凶悪な……」

 

 以降も次々降ってくるタライを無視しながら、出久に個性を向ける。

 出久はまた、別の刀を握りしめ……

 

「むぅ……フハハハハハハハハハハハ!!」

 

 出久が満面の笑顔を向けた途端、AFOの口から笑い声が漏れ、止められなくなった。

 

「これは『スマイル』。絵描きを目指していたけど挫折して、落書きを繰り返していた敵の個性です」

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「これは……『不老』の個性? アナタ一体いくつですか?」

 

「ワァハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

「煩わしい!!!」

 

 

 平然と歩いてきて、また一つ、触れて個性を奪う。

 そんな出久に対して、空間ごと周囲を攻撃する個性を発動。

 個性も、出久も、瓦礫も、刀も、彼の周囲から拭き飛んだ。

 

「さっきからワザとやってないか……まさか、こういうふざけた個性ばかりコピーしてきたっていうのか?」

 

「……アナタは、人々や世界を弄ぶために個性を集めて、魔王を目指したのかもしれない。僕は、人々や世界を救けるためにヒーローを目指した。だったら、人を傷つけ、悲しませる個性より、人々を救けることができて、笑顔にできる、そんな個性の方がいいに決まってる」

 

「笑顔の方向性が間違っている気がするが……それで、まさかその笑顔とやらで、僕のことさえ改心させられる、と?」

 

「……」

 

 口を閉じ、だが、浮かべている出久の表情を見て……

 AFOは、ため息を吐く。

 

「ガッカリだ……ヒーローの甘さか、君自身の甘さか、こんな男に僕が生まれ持った個性を奪われるとは。救いがたく、そして許しがたい」

 

 そして、出久にも分かった。

 これ以上は、いくら個性や言葉を使っても、説得は不可能らしいと。

 

「精神の話はよして、現実の話をしよう――『筋骨発条化』、『瞬発力』×4、『膂力増強』×3、『増殖』、『肥大化』、『鋲』、『エアウォーク』、『槍骨』……確実に殺すために、今の僕が掛け合わせられる最高・最適の個性たちで、君を殴る」

 

 禍々しく肥大、変形した右腕。

 それに込められた、悪意、憎しみ、怒り、支配欲……

 魔王と呼ばれた者として、様々な感情と力の込められた右腕を前に。

 

 

「寧香ちゃん」

 

 なぁ~~んだ~~~い?

 

 出久もまた、覚悟を決めた。

 あれは、今までのような攻撃では止められない。小出しの個性の応酬しかできないこの領域の力だけでは、太刀打ちできないと。

 だから、寧香と向き合い、抱きしめた。

 

「いつも守ってくれてありがとう……僕を好きになってくれてありがとう……最期にもう一度、力を貸して。彼を止めたいんだ。その後はもう、なにもいらないから。僕の心も体も未来も全部、寧香ちゃんにあげる。これからは、本当にずっと一緒だよ」

 

「愛してる。寧香――一緒に逝こう」

 

 

 

 チュ……

 

 

 

 あぁ……あっ

 

 あ あ あ あ゛あ゛あ あ あ゛あぁぁ

 

 

 イズク!!

 

 出久!!!

 

 

 ダイダイダイダイ大大大大大大大大大大大大大大大!!!

 

 

 大好きだあああああああああああ!!!!

 

 

「自らの身を捧げての個性の完全開放――そう来るか!! 女誑しめ!!」

 

「失礼だな……純愛だよ」

 

 

「だが僕は依然!! 魔王だあああああああああああ!!!」

 

「――黒閃ッ!!」

 

 

 魔王の異形の拳と、例外の黒い一撃がぶつかった瞬間――

 

 

 

 

 

「むぅ!?」

「これは……!」

 

 AFOが消えた球体。そこから離れるわけにはいかず、同時に緑谷少年を狙う直毘人を放置するわけにもいかず、その場に並んで見ていた。

 その黒い球体が、突然ひび割れ、弾け、崩れ。

 残がいがガラスのように降り注ぐ中。

 中心に残されたのは……

 

 

(あー……素晴らしいなぁ、個性の女王、『物間寧香』。彼女がいれば、『個性』をセコセコ集める必要はない。次だ……僕の『個性』は奪われたが、僕の個性(コピー)は真っ先にドクターに作らせてある……今の一撃でいくつか個性を持っていかれたな? それも把握しないと。傷の再生が遅いな? 再生(それ)も持っていかれたか、それともこの戦いの影響で鈍っているのかな? ああ……本当に素晴らしいよ、『例外』。まったく、あれでヒーローを目指しているだなんて。世の中分からないものだ。だから次だ。次こそ、僕が――)

 

「……やぁ、オールマイト。直毘人も一緒か?」

 

 右腕がまるまる消失し、肩や顔まで黒ずんでいる。

 そんな有様になりながらも、不敵な笑みで思考していた様子の男。

 目の無い顔は、今になって目の前の二人の存在に気づいた様子で、笑みを浮かべた。

 

「ザマぁないな、AFO。俺から散々逃げ回っていたジジィが、ガキ相手にこの体たらくか?」

最速(・・)のくせに、僕がオールマイトに殺されるまで追いつけなかったくせに……今日現れたのは、そのガキを殺すためだろう? まったく、いつも間に合わないんだから」

「緑谷少年は?」

 

 旧敵(直毘人)との会話に花を咲かせているところに、宿敵(オールマイト)から切り出された天敵(緑谷)の話。

 男は、ため息を吐いた。

 

「さぁね……僕は見ての通りの有様だから。彼のことまでは分からないよ。まったく、呆れたよ。僕から個性を奪った後は、こんな僕にまで情けを掛けて説得に掛かるだなんてねぇ」

「個性を……奪われたのか? 緑谷少年に?」

「ああ。オール・フォー・ワンをコピーされ、そのコピーしたオール・フォー・ワンで僕のオール・フォー・ワンを……回りくどいプロセスだが、まあそういうことだ。そのくせ、説得や改心が無理と見るや、最後の一撃には、しっかり細工してあったみたいだ……どうやら、『毒』の個性を受けたらしい」

「毒……?」

 

 話している内に。

 顔や肩だけの傷だと思っていた。そんな毒々しい黒ずみが、少しずつ、全身に広がっていった。

 直毘人も、オールマイトにも分かった。

 この男はもう、助からない……

 

「誰からコピーした個性だか知らないが、ちゃんと僕のことを憎んでいたみたいだなぁ……これで彼は、魔王を越えた正真正銘の怪物に変わった。僕との戦いを見た人間もいない。かつての僕がそうなったように、世界中が彼を恐れ、敵愾し、やがてそこの直毘人や公安がそうしたように、彼の抹殺に動くだろう。助けた人々から向けられる恐怖と憎悪に彼が絶望した時こそ、彼は僕を超える魔王と成るんだ」

 

 死の間際でさえ楽しげに、世界の行く末と若者の末路に嗤っている。

 そんな男に向かって、オールマイトは――

 

 

「そんなことにはならないさ」

 

 

 オールマイトと直毘人の後ろから、舞う赤い羽根と共に、その声は聞こえた。

 

「……なんだ、『速すぎる男』。今来たのか? いつも来るのが遅いなぁ?」

「アンタの息子に思った以上になつかれてね……」

 

 軽口を叩きながら二人を通り過ぎて……

 死にゆく男の前に立ち、断言する。

 

「まあ確かに、出久を恐れる人間は大勢いるだろう。それでもあの子は、人を救い続ける。どれだけ人を憎み、憎まれても、目の前の困っている人間を救けずにはいられない。そういう、優しい子だ……色眼鏡だと笑うか? 理想の押しつけと嘲るか? 好きにすればいい。俺は先生として、出久のことを見てる……いざという時は、俺がケツを拭くさ」

 

「……」

 

「禪院直毘人。アンタが俺と違って、公安に従うだけの人間じゃないっていうなら、アンタ自身の目で出久を見て判断しろ。禪院家が出久に味方するか、敵対するか……決めるのは、アンタだ」

「……」

「……それじゃあ、俺はその出久を助けに行ってきますから」

 

 言いたいことを言い終えた様子のホークスは、再び剛翼を振るい、飛び立った。

 

「……俺も行くとするか。ヤツの言ったように、俺自身の目とやらで、『例外』の姿を見てやるとしよう」

 

 直毘人も、この場にいる意味は無いと言った様子で、その場を後にする。

 後に残されたオールマイトに対して、AFOは……

 

「禪院真希……譲渡先は彼女だろう?」

 

 二人にだけしか分からない話を語っていった。

 長いようで短い、二人だけにしか分からない語らいののち……

 

「……最期にこれだけは言っておかなきゃな。あのね――死柄木弔は、志村菜々の孫だよ」

「……ウソだ」

「フフフ……事実さ。僕のやりそうなことだ。君が嫌がることをズーっと考えてた……あれ? 笑顔はどうした?」

「……」

「その顔が見られただけで、満足だよ。じゃあ、僕はここで死ぬが、後は弔が引き継いでくれるだろうさ。先生としても、君の負けだ……それじゃあ、先に逝くよ。親友――」

 

 やがて、毒々しい黒ずみが完全に全身を覆った時……

 魔王は、その息の根を止めた。

 

「オール・フォー・ワン……」

 

 残された平和の象徴は、立ち尽くす。

 自身の責任も、仕事もなにもかも、頭から抜け落ちて――

 やがて、駆けつけたグラントリノに頭を蹴り飛ばされるまで、動くことができなかった。

 

 

 

 ―― 数分前 ――

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 男との殴り合いで吹き飛んで、男が姿を消した後。

 そんな男の行方を気にする暇も無く、緑谷出久は、飛び回っていた。

 

「ごめん……ごめん、寧香ちゃん、待たせてばっかりで……もう少し、もう少しだけ、時間をちょうだい」

 

 自身に寄り添う最愛の女性(ひと)に何度も謝りながら、領域内で出した後、消さずに残しておいた『剛翼』を必死に動かして、殴り合いでボロボロになった右腕を治癒することもせず、剛翼の羽と、左腕には、瓦礫の下から救い出した人々を吊り下げて、運んでいた。

 

領域展開(ブツブツブツブツ)……個性を領域にして(ブツブツブツブツブツブツブツブツ)広げ相手を閉じ込める(ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ)分かってはいたけど(ブツブツブツブツブツブツブツブツブツ)体力をごっそり(ブツブツブツブツブツブツブツ)持っていかれる(ブツブツブツブツブツブツブツ)領域に付与した個性は(ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ)必ず当たるのが(ブツブツブツブツブツブツブツ)強いけど(ブツブツブツブツ)領域内で確実に倒せる(ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ)状況にないと(ブツブツブツブツブツブツ)激しい体力消費と(ブツブツブツブツブツブツブツブツ)合わせて最終的に(ブツブツブツブツブツブツブツブツ)取り逃がす(ブツブツブツブツブツ)ことになる(ブツブツブツブツブツ)乱用は禁物だな(ブツブツブツブツブツブツブツ)

 

 途切れそうになる体力と意識を、口も動かすことで無理やりつなぎ止める。

 そうして運んだ人々を地上に降ろし、個性『反転』で治療を施す。

 

「個性『サーチ』……ああ、まだまだいるな」

 

 男から奪い返したラグドールの個性を使い、瓦礫の山を視る。

 瓦礫の下に、まだまだ大勢の人間が生き埋めになり、助けを求めているのが視える。

 

「僕のせいなんだ……僕が、寧香ちゃんを死なせたせいなんだ……だから、連合は雄英に来て、たくさんの人たちを傷つけた。全部、僕のせいだ……僕が、救けなきゃ。僕が、全部やらなきゃ……僕が、みんなを……」

 

 時折、寧香の手を借りながら、瓦礫を持ち上げ、下敷きになっている人を助けだす。

 中には四肢が切断された人もいたが、切断部位が近くにある場合は、『反転』の個性で繋げることができる。

 もし切断部位が見つからなくても、時間をかけて、元通りにしてみせる。

 だって、全部、僕のせいなんだから。

 

「僕が、やるんだ……全部、やるんだ……全部、僕のせいなんだ……僕が、みんなを……寧香ちゃんの所へ行くのは、その後だ……ごめんよ、寧香ちゃん、待たせてごめん……もう少しだけ……もう少しだけ――」

 

 子供を一人救い出し、抱き上げた瞬間――

 とうとう限界が来て、背中から倒れ――

 

 

「やあ、緑谷君」

 

 

 その背中を、子供と一緒に支えられた。

 

「もう大丈夫。俺が来た」

「あなたは……インゲニウム?」

 

「インゲニウムだけじゃないわよ!」

 

 新たに、女性の声が聞こえた。

 スネークヒーロー ウワバミ。

 加えて、死柄木確保に動いていた、シンリンカムイ、エッジショット、エンデヴァー。

 回復した様子の(トラ)、ギャングオルカ、Mt.レディ、ベストジーニストに……

 

「出久」

「ミルコ……」

 

 まだ傷は残っている様子だが、すっかり元気になったらしい。

 そんなミルコが、インゲニウムに子供を渡した出久の頭に、手を置いた。

 

「がんばったな! デク!」

 

 初めて呼ばれたヒーロー名と、ミルコの笑顔に……

 出久もまた、笑顔を浮かばせた。

 

 

 その後は、出久が『サーチ』で要救助者を見つけ出し、『剛翼』の羽で場所を示し、ヒーローたちが救い出す。時折出久自身が自ら向かい、寧香の協力や個性を駆使して救助を行う。救った人たちを並べた後は、出久が『反転』で傷を治癒する。

 そうして役割分担を決め、人々を救助していった。

 

『ご覧ください……今、誘拐されていた雄英高校の例外こと、緑谷出久さんの指示号令と治癒のもと、被災者が次々と救助、治療されていきます』

 

 そうして出久によって治療された被災者たちは、漏れなく出久に感謝し、お礼を言っていた。

 

 

「デクくーん!!」

「イズクー!!」

 

「え? 麗日さんに、メリッサさん? それに、みんなも……」

 

 そんな様子をテレビで見ていたらしい、雄英の仲間たちまで、シールド博士が運転するジェット機で駆けつけて。

 

「デク一人に良いカッコさせんな! A組(俺ら)もやんぞ!!」

 

 隠れる必要の無くなった、爆豪ら五人も堂々と姿を現して。

 

「A組だけじゃねぇ……B組も負けんな! 救けるぞ!!」

「真希、あんた誘拐されてたんだし、休んでた方が」

「うるっせえ!! 出久だって誘拐されてたんだ。アイツ一人にばっか押しつけておけるか!!」

 

 学級委員長以上にリーダーしてる……

 そう思う、A組以上に病み上がりが多いはずのB組らも含め、雄英ヒーロー科1年らもまた救助活動に動いた。

 彼らだけでなく、テレビ中継で出久の懸命な姿を見ていたらしい、近隣住民らも、手伝えることはないかと現場に殺到していたらしい。

 

「分かるかい? 出久……お前の行動が、大勢の人間の心を動かしたんだ。お前は(ヴィラン)なんかじゃない。正真正銘の、ヒーローだ」

 

「……」

 

 ホークスと並んで、出久の姿を見ていた直毘人は、出久に背を向けた。

 

「どの道、こんな状況でヤツを仕留めることなどできん……仕事の続行は不可能。今日の所は帰るとしよう」

「……まるで仕事ができなくなって嬉しそうですね?」

「……都市伝説(・・・・)ではなんと言われているか知らんが、禪院家は何も、好きで人を殺しているわけではないわ。お前もそうだろう?」

「……そりゃあ、ね」

 

 戦うことしかできない自分たちは、この場では役に立たない。

 そう判断した直毘人は、他の禪院家の者たちも引き連れて、去っていった。

 

 

 

「……これで全員です」

 

 出久が、最後の一人を治療した時。

 朝日が、世界を照らし出していた。

 

 

 

 




目の見えないAFOに『スマイル』は通じるのかしら…



次回、最終話。
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