【完結】個性:物間寧香   作:大海

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指輪ってファンタジーじゃマストアイテムの一つだけど、某ライダーや戦隊みたく、着けたら拳が使えなくなるのがな……



最終話  女子会

 いつも通り目が覚めて、ベッドを整え顔を洗い歯を磨き、服を着替えた後は家事をする。

 もっとも、夫は長いこと単身赴任だし、子供も不在なものだから、やることは皆無と言っていい。

 家にいる間、何もしなくていいことは、専業主婦の特権として喜ぶべきか、役立たずの末路と嘆くべきなのか……

 そんなことに日に日に疑問を感じながらも、玄関のポストを確認し、チラシやら広告やら確認していく。

 大抵は捨てるのみの紙束ではあるが、中には要確認の書類やら郵便やらが混ざっているものだから油断できないし厄介この上ない。

 そんな面倒にため息を吐きつつ、今回も、このまま棄ててしまって問題なさそうだと感じた時。

 

「手紙……?」

 

 一番下から出てきた封筒を見て、差出人を確認する。

 

「ウソ……出久!?」

 

 差出人を理解した主婦……緑谷 引子(いんこ)は声を上げ、目を見開いた。

 

 

 

 最初の悲劇は、出久が4歳の時。

 すでに出ていてもおかしくないはずの『個性』がいつまでたっても出ず、病院で検査してもらった結果、『無個性』であるという診断を受けた。

 涙ながらに、大好きなオールマイトの動画を見ながら、幼くも全てに絶望し諦めていた様を見た時。自分には、抱きしめることしかできなかった。

 何度も何度も、普通の体に(・・・・・)産んであげられなくて、ごめんねって、何度も、何度も……

 

 2度目の悲劇は、出久が9歳の時。

 無個性が原因で落ち込んで、長いこと辛い目に遭ってきた、そんな出久に、お友達ができた。肺炎で入院した病院で、同じく入院していた、同い年の女の子。

 退院した後は、ほぼ毎日と言っていいほどその子と仲良く遊んでいた。

 帰ってきた後も、その子の話ばかりして、ちゃんと会ったことはなかったけど、その子も出久のことを本当に好いてくれてることが話を聞いただけで伝わった。もしかしたら、人生で一番元気だったのが、その子と遊んでいたころだったかもしれない。

 そして、そんなネイカちゃんが、車に轢かれて亡くなったことも知った。

 それ以降、出久は決定的におかしくなった。

 最初は、彼女が亡くなったショックだと思ったし、事実それもありはしたろう。けど、それでショックを受けた以上に、必要以上に何かに怯え、震えているような……

 それでも他に変化は無かったし、それ以上に、無個性を理由にイジメられることも多い。そんな息子を支えること。それが最優先だと考えた。

 

 そう思っていた時に起きた、3度目の悲劇。事故から5年後の、中学二年生の終盤。

 出久のクラスメイトの四人がロッカーに詰められた事件。四人とも死にはしなかったけど、死んでもおかしくない重症を負わされていた。

 その犯人は、その四人と教室にいた、出久だと疑われた。他に教室に人はいなかったし、学校は最後まで認めなかったけど、その四人が特に出久をイジメていたという目撃証言は多く、何より出久自身が、震えながら何度もそのことを謝っていた。加えて、唯一の目撃者だった、出久の幼なじみの爆豪君も、出久がやったと、ひどく脅えながら証言したことで、逮捕されることになった。

 卑屈だけど優しい息子がやっただなんて信じたくなかったけど、もし本当にやったのなら、親として、一緒に罪を背負い、償っていく覚悟はできていた。

 けど結局、『無個性』ができる犯行じゃないという理由で、出久に対してお咎めは無かった。

 

 そのことにホッとした時、スーツを着た人たちが自宅へやってきた。

 用件は、費用は全額負担するし、必要なら新しい仕事も紹介するから、今の自宅を引き払い新しい家に住むように。その代わり、こちらへ息子さんを引き渡し、今後一切の接触を禁じる。

 そんな無茶苦茶なことを言われて、もちろん拒否しようとしたものの、拒否権は無い、そう一方的に押し切られて、今の家に引っ越してきたのが約1年半前。

 その後、お役所へ行った時、今の家の居住者は自分と夫の二人だけ。息子の名前は無いどころか、自分たちに、息子はいないということになっていた。

 

 あまりの目まぐるしい変化に現状把握すら追いつかず、何なら、本当に自分たち夫婦には、最初から子供なんていなかったんじゃないか? そんな錯覚さえ過ぎったほどだ。

 それでも息子のことはハッキリ覚えているし、今でも愛していた気持ちは生きている。息子は夢でも幻でもない。それだけは間違いない。それが、夫婦の総意だった。

 

 それを裏付けたのが、三か月ほど前に見たテレビ。

 毎年、息子が楽しみにしていたっけと、今となっては興味もないと思っていた雄英体育祭の映像。

 爆豪君が出場していたことには少しだけ驚いたし、優勝したことは素直に嬉しいと感じたけれど、本当に、それ以上感じるものは無かった。

 閉会式も追えて、テレビを消そうとした時、開始を宣言されたエキシビション。

 そこで登場した、オールマイトの対戦相手を見て……

 

 気がつけば、病院に運ばれていた。ご近所さんのお話では、家の一階部分が浸水していて、その中で脱水症状を引き起こしていたそうだ。

 迷惑や心配を掛けはしたものの、退院した後は、キチンと録画できていた放送を見返して、また脱水症状になるまで、泣いて、泣いて……

 そうして思い出すことができた。

 息子は夢でも、幻でもなかったんだって。

 

 そんな出久が、保須市で活躍したとニュースで見た時は誇らしさにまた泣いて。

 雄英の林間合宿で敵連合にさらわれたと聞いた時は心配からまた泣いて。

 その出久が、崩壊した神野区で大勢の命を救ったというニュースには、感動して泣かされて。

 

 そんな、『神野の奇跡』から数週間経った今日。

 一方的に親子の縁を切らされて、血縁関係すら抹消されていた息子からの手紙。

 自分たちを引き裂いた人たちが誰なのかは何となく気づいていたし、だから会うのはもちろん、連絡さえ禁じられていたことも想像できる。

 そんな、息子からの手紙……

 

「出久……」

 

 手紙の内容は、当たり障りのない事柄だった。

 自分は元気にやっている。そちらは元気にしているか。

 そんな、普通ながらも暖かく、こちらを思いやってくれていることが伝わる内容。

 図らずとは言え、一方的に捨てる形になって、恨んでもいいはずの親に対して……

 

 お元気ですか?

 お体に気をつけて。

 いつまでも二人のことを思っています。

 

「ごめんね……ごめんね、出久……っ」

 

 最後にニュースで見てから何の音沙汰も情報も無い。そんな息子が元気でやっていること、そして、こんな私たちのことを今でも愛してくれていたこと。

 そのことを知れた母親は、三十分後に、みたび脱水症状を引き起こすのだった。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 夏休み中の、某病院にて。

 

「吉野のあの傷、お前がやったんだな、伊藤」

 

 ベッドの上に座っている金髪の若者に話しかける、肥満体の男。

 若者は、ふて腐れた調子で聞いていた。

 

「あん時ブルってなんもできなかった人に、あーだこーだ言われたくねーんだけど……(ヴィラン)連合に入って『例外』に殺されたんだろ、アイツ。どーでもよくね? てかさ――」

 

 ふて腐れた様子から、顔中に怒りと絶望をにじませながら、叫ぶように言った。

 

「あれから俺、両手マトモに動かねーんだわ……オマケに両足は腐って切断するハメになってさぁ。卒業後はヨロイムシャのヒーロー事務所に相棒入り(サイドキックデビュー)が決まってたのに、三年間の努力が水の泡だぞ」

「……」

「俺だけじゃねぇよ。あの日休んでたヤツ以外の、ヒーロー科の生徒も教師も全員、手足が痺れるか腐るかして、ヒーローどころか普通の生活すらマトモにできなくなっちまって……」

「ああ。おかげで、雄英ほどじゃないが、進学校としてそれなりに有名だった高校(ウチ)が実質崩壊状態。生徒の保護管理責任はどうなっていると、毎日クレームの嵐だ……一人の普通科の生徒が、そんな犯行に走るほど、ヒーロー科の生徒たちに追い詰められていた実態と合わせてな」

「……」

「今聞いてるのは罪の話だ。お前に下った罰は一人で噛みしめろ」

「先生の罰は?」

「俺は、これからだ。まずは見えていなかったものをちゃんと見る。俺も、お前たちも、吉野順平の心を殺した罪を一生背負って生きていくんだ」

「……これだけの目に遭ってるのに、まだ何かしろっていうのかよ?」

「罰の重い軽いで消えてなくなってくれるなら、罪なんて言葉は最初から存在しない……見てるからな。伊藤」

「……」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「……あ、来た!」

 

 雄英高校。

 度重なる襲撃の影響から、全寮制が決定したことで新設された学生寮前にて。

 

「よぉ……待たせたな」

 

 そこへ訪れたのは、私服姿のラビットヒーロー ミルコ。

 オフな彼女を、ヒーロー科A組の麗日お茶子、B組の禪院真希、雄英勤務のメリッサ・シールドの三人が出迎えた。

 

 

「ここが学生寮かよ。さすがに立派でピカピカだなぁ。てか、他の生徒はいねーのか?」

「はい。一時帰宅してる人や、自主トレに行ってる人も多くて」

「……つーか、B組の私がA組の寮に入って良かったのか?」

「それで言ったら、私も雄英勤めとは言え、部外者に当たるし……」

「大丈夫でしょう、そのくらい……」

 

 一階の共有スペースにて、ソファに向かい合いながら、女子四人の会話は進んだ。

 新たに始まった寮生活のこと。近々行われる仮免試験。それに向けた準備等。

 

「『ぜんいんまきさんへ おっぱいつかんでごめんなさい。』……真希ちゃん、洸汰君にそんなことされてたの?」

「別に減るもんじゃなし、気にしてねーよ……初めてが出久じゃなかったのが、癪っちゃ癪だがよ」

「イズク……今、どうしてるかしらね?」

 

 真希が救けた、出水(いずみ) 洸汰(こうた)君からもらった手紙をキッカケに。

 クラス、年齢、全てがバラバラなこの四人に共通する事柄は、それ一つしかない。

 

「アイツなら、上手くやってんだろ。手紙にも、そう書いてあったし」

「ミルコにも届いてたのかよ……まあ、私もだけど」

「あ、私も」

「私も受け取ったわ」

「ホークスやベストジーニストにも届いてたって話だし、この分だと、世話になった人間全員に送ってんな、アイツ」

 

 出久らしい行動に、一瞬暗い空気が流れた四人の間に、笑顔が戻った。

 

「確かに……デク君なら、きっと元気にやってますよね!」

 

 

 

 

 

 さかのぼること、数週間前のこと。

 のちに『神野の奇跡』と呼ばれた、緑谷出久を中心とした災害現場における救助活動が終わりを迎えたころ。

 

「……あれ? デク君は?」

 

 図らずも、全員集合することになった雄英ヒーロー科1年。

 現場のヒーローやレスキュー隊らとも協力し、被災者の全員を救うことができたと確信し、その全員が運ばれたのを見送った後のこと。

 中心にいたはずの緑谷出久の姿が、気がつけば消えていた。

 

 

「ごめんね、寧香ちゃん。待たせたね」

 

  一人残らず救けたことを確信し、『サーチ』はラグドールへ確かに返却した後で、人が集まっている現場から離れた場所。

 そこに鎮座している『物間寧香』に向かって歩く出久の足取りは、とても軽く、満ち足りていた。もう何も、思い残すことは無いと言うように……

 

「どこ行くんだい? 出久?」

 

 そんな出久に、赤い羽が見えたと同時に掛けられた声。

 空の上から、ボロボロな状態の師匠が舞い降りた。

 

「出久!」

「デク君?」

「イズク!」

「出久ー!」

 

 ホークスに続いて、女子が四人――真希、お茶子、メリッサ、ミルコが合流する。

 

「おいコラデク!」

「緑谷君!?」

「ここにいたか、緑谷?」

「なにやってんだ……」

「緑谷少年?」

 

 加えて、ヒーロー科の生徒全員に、オールマイトも出久を見つけ、話しかけた。

 

「あー、えーっと……」

 

 できれば見つかりたくなかった……そんな気まずさを隠しきれず、出久は気まずげに、声を絞り出した。

 

「その……力を貸してもらう代わりに、寧香ちゃんと同じところへ行く約束を、ですね……」

 

 事情を聴いた者たちは皆、ハァ!? と驚愕の絶叫を上げた。

 

「お前それ、死ぬってことじゃねーか!」

「なに考えとんだ、クソデクがー!?」

 

 口々に苦情を受けている前で……

 ジッとしていた寧香が、その長い両手に、出久の両肩をつかんで。

 

「……え?」

 

 見ていた者のほとんどが、それを止めようと声を上げていた。

 だが、出久が感じたのは、命を奪われる感覚ではなく、自分の中からなにか――誰かが離れていく、そんな感覚。

 

「え……寧香ちゃん?」

 

 その感覚が終わったと思ったら、『物間寧香』の身が崩れていき。

 代わりにそこに現れたのは、青いワンピースに長い金髪を揺らす、やや細目ながら可憐な雰囲気の少女。

 それは、緑谷出久が最後に別れた時と全く同じ姿をした、物間寧香その人。

 

「やあ、出久」

「え……寧香ちゃん?」

 

 

「え……あれが本当の、物間寧香ちゃん?」

「ほほぉ……緑谷が入れ込むわけだぜ。5、6年後が楽しみな美少女じゃん」

「やめとけ上鳴、殺されるぞ? 緑谷に……」

 

 

「寧香ちゃん……どうして?」

「今日新しく覚えた個性を利用してね。君から離れることができたってわけさ」

 

「……オール・フォー・ワン!?」

 

 そんな寧香の言葉を聞いて、反応したのはオールマイト。

 

「他人の個性を奪い、与えることができる個性……その力を使って、緑谷少年の体から離れた。そういうことか?」

「さすがNo.1ヒーロー! ……おめでとう、出久。君がボクに約束してくれた通り、君はボクの呪いを解いてくれた。ボクを自由にしてくれたんだ」

「それじゃあ、寧香ちゃんは……」

「ああ……残念ながら、ただの『個性』でしかないボクはこのまま消えてなくなる。分かり易い話、成仏するってことになるね」

「そっか……」

 

 二人のやり取りを、理解できる者とできない者とで、反応はそれぞれ違う。

 それでも、雄英記者会見を見ていた者たちには、理解できる者もいた。

 緑谷出久は『無個性』。

 そんな彼に芽生えた『個性』は……

 

「けど、大丈夫。ボク(・・)の代わりに、ボクの個性(・・・・・)を君に渡そう」

「へ?」

「ずっと探してて、ようやく見つけたんだ。『自分の個性を他人に譲渡できる』個性」

「え? そんな個性が存在するの?」

「まあ、ボク自身、色んな個性をコピーしてきたから、誰の個性かなんていちいち覚えちゃいないけどさぁ……」

 

 そんな話に反応した約二名……

 うち、女の方をチラ見しながら、寧香はドヤ顔を決めていた。

 

ボク自身(・・・・)に比べれば幾らか力は落ちるだろうが、それでも出久なら使いこなしてくれるだろう……これで君は無個性の木偶の棒じゃない、晴れて正真正銘の個性を持った人間になるんだ」

「……そんなこと、どうでもいいよ。個性が欲しかったんじゃない」

 

 出久はその場にひざを着き、寧香の目を真っすぐ見つめた。

 

「僕はただ、償いたかった。僕のせいで、寧香ちゃんをあんな姿にしたこと……そのせいで、たくさんの人を傷つけた。敵連合にも狙われた。それでみんなが死にかけた……そのことをただ、償いたかった。僕のせいで起きた、全部のことに対して。僕の、せいで……」

「出久……」

 

 涙ながらに頭を抱えた、そんな出久の頭を持ち上げて……

 

「あれあれー!!? 出久ってば泣いてるのー? おかしくなーい!? 君が泣く必要なんて全然ないのにおかしくなーい!? 君が全部悪いだなんてなに言っちゃってんのー? 自意識過剰にもほどがあるんじゃないかなー?」

「寧香ちゃん……」

 

 

「……そう言やぁ、一度だけ見たことあったが、ああいう女だったわ」

「なんだろう……ものすごく手刀打ちたい」

「おさえろ、拳藤。殺されるぞ? 緑谷に……」

 

 

 見た目可憐な少女の豹変ぶりに、見ていた者たちがドン引きしたところで……

 

「ボクはね、出久……この6年間が、生きてたころ以上に幸せだったよ」

「え……?」

「だってそうだろう? お前になんかなれるわけないってずっと言われてきたヒーローに、出久のおかげでなることができた。ヒーローとして、多くの人たちを救けることができた。諦めていた夢を叶えることができたんだ。それに何より……最愛の男性(ひと)のそばに、ずっといられた。これほど幸せなことが、他にあるかい?」

「……」

「第一、謝らなきゃならないのは、ボクの方さ」

「寧香ちゃんが?」

 

 寧香もまた、哀しげな顔を見せながら、言葉を紡いだ。

 

「オールマイトみたいな、人々を救けられるヒーローになりたい。君はボクに、そう話してくれたよね? なのに、ボクが君に憑りついたせいで、君の夢はボクの存在に上塗りされた。出久自身の大切な夢以上に、ボクのことを優先させしまった。ボクはずっと、出久の夢の邪魔をしていたんだ」

「違うよ……無個性だった僕一人じゃ、ヒーローになることなんてできなかった。寧香ちゃんがいてくれたから、僕は夢を叶えることができたんだ。それに……最愛の女性(ひと)を第一に考えるのなんて、当たり前だろう?」

「……だよね。ボクらは正に、二人で一つの、幸せ夫婦だったんだなぁ」

「うん……」

 

 お互いに笑顔を見せあって、お互いにずっと、幸せだったことを再認識して……

 

「……けどまあ、それも今日までだ。出久だっていい加減、昔の女のことは忘れて、新しい恋がしたいだろう?」

「新しい恋って……寧香ちゃん以外に、僕のこと好きになる女性(ひと)なんていないでしょう」

 

 後ろの、約4名ほどが反応している中。

 苦笑しながらの出久の言葉に、全員が顔をしかめている前で。

 寧香は、出久の頭を抱きしめた。

 

「じゃあ、本当にお別れだ。ボクの個性、ボクの代わりに、上手に使ってくれよ」

「寧香ちゃん……」

「もう一度言う……ボクはこの6年が、生きていたころより幸せでした。ありがとう。ずっとそばにいさせてくれて」

「……」

「さよなら……元気で。あまり早くこっちに来るんじゃないぞ?」

「……うん」

 

 涙と鼻水に濡れながら、笑顔を浮かべる出久に向かって。

 ニカッと笑顔を見せながら、物間寧香は、光になって、空の上へと消えていった。

 

 

 ――またね。

 

 

 

 

 

 あの後、出久のケアは、オールマイトが行った。加えて、真希ともども、AFO(オール・フォー・ワン)がどんな男だったかも説明されて、仮に出久がいなかったとしても、ヤツは雄英を狙ってきたであろうことも話して聞かせた。AFOの命を奪ったことに関しても、状況的にも、AFOの脅威度から見てもやむを得なかった、出久に非は無かったのだと弁明し励ました。

 その後で、出久は雄英を去っていった。

『神野の奇跡』で出久の名誉がある程度回復したとは言え、それは此度の騒動の責任を取ったに過ぎないという批判の声や、記者会見やネット記事の噂で未だ騒ぐ人間も多いことから、しばらく身を隠すべきだというホークスの判断からだった。

 

「けど本当に、イズクは今、どうしてるのかしら?」

「さぁなぁ……海外にいるってこと以外、ホークスからは聞かされてねーよ」

「海外って、公安は許したのかよ?」

「『物間寧香』は逝っちまったし、前ほどの危険はもう無ぇって判断されたらしい」

「でも、いきなり海外って、大変なんじゃ……」

「そりゃあまぁ、大変だろうけど……ちょうどいいガイド見つけたって言ってたし、大丈夫じゃねーか?」

「……どの道、元気でいてもらわねーと困る。まだアイツとデートだってしてねーしな」

「あ! 私もデク君とデートしたい!」

「私も!」

「ハッ、飢えてんなーお前ら。デートもしたことねーなんてよ」

「ミルコのアレはデートって呼んでいいのか?」

「確かに、デク君もあんまり楽しそうじゃなかったし」

「じゃあ、ノーカウントね」

「なんでだよ! 二人きりだし立派なデートだったじゃねーか!」

「お互いが同意しなきゃデートとして成立しねーだろ」

「デク君、ちょっと迷惑そうにしてましたよ?」

「ノーカン! ノーカン!」

「テメーら――」

 

「なになにー? ミルコまで一緒に、何の女子会ー?」

 

 と、四人で盛り上がっているさ中、芦戸他、A組生徒の何人かが合流した。

 

「それ……緑谷からの手紙か?」

「おお! みんなも受け取ってたんだなー?」

「彼は元気でやっているのだろうか……」

「今ごろ、誰かを救けているのかしら?」

「ケッ……さっさと戻ってこいや、クソデクが!」

 

 何だかんだ、収拾がつかなくなった空間になったものの。

 それでも全員が、緑谷出久という少年の姿を思い浮かべ、その無事を信じていた。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 陽炎が揺れるほどの熱。太陽光。

 そんな気温に包まれた草原には、大型の野生動物が列を成し、その向こう側には、人工の建物が密集しているのが見える。

 自然と人工物が横並びに共存しているそんな国の、人間たちの領域。街角。

 カフェテリアとなっているその店で、暑さや直射日光を気にせず向かい合って食事をする二人。

 一人は、いかにもこの国の生まれと思われる、帽子にサングラス姿の黒人男性。

 もう一人は、日本人。それも、成人も迎えていない子供だ。

 

「フフフ……美味ひぃ~」

「上手イダロ? 『ロコイ』ッテ調味料使ッテテナ、ソレガ良イ味ヲ出シテル」

 

 少年は無邪気に、この国のグルメに舌鼓を打っている。男の方も、そんな反応に気を良くして、料理の説明を語っていた。

 

「『ロコイ』ヲ入レレバ、何デモ、ケニア味ニナル、魔法ノ粉ダ」

「へぇ~……これ本当に美味しいね! 肉じゃがみたい」

「ニクジャガ? ビーフシチュート言エ、ビーフシチュート」

 

 男が訂正を促しながら、酒を一口飲んだ時。

 

 

「きゃー!!」

「助けてー!!」

 

 

 上がる悲鳴。響く破壊音。

 少年は立ち上がり、テーブルに立てかけていた刀袋を手に取った。

 

「行クノカ?」

「うん……ミゲルはノンビリしててよ? すぐ戻るから」

「ソウサセテモラウ……オ前ノヒーロー活動ノ手伝イマデハ、契約ニ入ッテナイカラナ」

「ミゲルも強いし、ヒーローになればよかったのに」

「ハッ! 冗談ハ止セ」

「――じゃあ、行ってくる」

 

 

 身を包むは浅緑の白衣。

 握りしめるは斬穢の刀。

 契りの指輪の光と共に。

 

 悲鳴と破壊の戦場に立ち。

 祓うは魔性。

 纏うは化性。

 

 穢れと悪意打ち破りし様。

 誰が呼んだか――例外の英雄。

 

 見よ、そして記憶に刻め。

 例外を冠せし英雄の御名を――

 

 

 

 緑谷出久

 ヒーロー名『デク』

 

 

 個性:ネイカ

 

 

 

 




ラストの文章はダサかったか……

本編完結。
もう二話ほど投稿します。
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