【完結】個性:物間寧香   作:大海

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タイトル通りの、寧香ちゃんのいないif世界線。
短いです。



特別編  もしも出久の師匠が……

 その日もいつも通りの一日だった。

 行きたくもない学校へ行き、『無個性』だとバカにされ、イジメられ……

 そうやって憂鬱な気持ちを押さえながら、家に帰って、また明日の学校への不満を募らせながら眠りにつく。そんな、いつも通りの一日になるはずだった。

 

 なのに、その日は違った。

 地元の海浜公園。海流の流れの関係で海上のゴミが集まり、結果不法投棄までまかり通ったゴミだらけの公園。

 なぜそんな場所へ来たのか出久にも分からない。ただ何となく、その場所へやってきた。景色を眺めたくても、ゴミのせいで海や夕日なんかマトモに見えやしないっていうのに。

 

 そんなことを思い知って、帰ろうとした時、海岸から、巨大な破壊音が聞こえた。

 (ヴィラン)が暴れてる? 逃げなきゃ!

 そう、頭では分かっているのに。

 気がつけばそこから動かなくなって、そこで行われる戦いから、目が離せなくなった。

 

 

 デビュー前だろうか? 少なくとも自分の記憶には無い、翼の生えた、ヒーローコスチュームを着た若い男。

 その男が、二十後半と思われる男と戦っているのが見える。

 最初、翼で飛んで、空から攻撃してる若い男が優勢だと思われた。

 相手の男は、地上で武器を振り回してるだけ。そう見えた。

 なのに、気がつけば地上の男が優勢になっていて、押されているのは翼のヒーロー。

 しかも……

 

(すごい……あの人、『個性』も無しに戦ってる……!)

 

『無個性』だからこそ分かった。いつもいつも、他人やヒーローたちの個性を羨ましいと思いながら見ている自分だから、目の前の男は個性も無しに、『個性』相手に戦っているって。

 そうして戦いが続いていって……

 最終的に、翼のヒーローを倒してしまった。

 

 

「お前の死後、生きてるお前の羽がどんな動きをするか分からん。ここで面倒事は避けたい。親に恵まれたな……だがその恵まれたお前らが、個性も持ってねぇ俺みたいな猿に負けたってこと、長生きしたきゃ忘れんな」

 

 敵だ……

 逃げなきゃ……

 それが分かっているのに、身体が動かない。

 

「……ずっと見てたよな?」

「……」

「……まぁいい。他に見てるヤツいねーんだろ? なら逃げる時間は十分だ。運が良かったな。俺は、戦って疲れた」

 

 そう言い残して、去っていく男に対して……

 

「僕を弟子にしてください!!」

 

 気がつけば、体が動いていた。

 

 

 

 断られた。当たり前だ。いくら同じ『無個性』だからと言って、(ヴィラン)でもある男が見ず知らずのガキの面倒を見る義理は無い。

 そうハッキリ断られたし、殺すぞと脅されもした。それでも、諦めきれなかった。

 なんで俺にこだわる? そう聞かれた。

 ヒーローになりたいから! そう答えたら、笑われた。

 だったらなお更、俺みたいな敵は論外じゃねーか? そう言われた。

 アナタじゃなきゃダメなんだ! 同じ無個性の、アナタじゃなきゃ! そう、必死に訴えた。

 

 その時、男がなにを思ったかは分からない。それでも、顔色は確かに変わっていた。

 

 

 自分と翼のヒーローが戦った海浜公園。アソコを綺麗に片づけられたら考えてやる。

 それが、男の出した条件だった。

 普通に考えれば、体裁良く断る理由だと判断すべきだったろう。

 なのにそう思わず、言われた通り、翌日から海浜公園の掃除を始めた。

 小さな鉄くずから、大きな家電ゴミまで。形・大きさによって使う筋肉が全く違うこの行為が、実は効率のいい筋力の鍛錬法だと気づいてからは、なお更やる気が出てきた。

 誰に見られてるわけでもない。今ごろ、あの人も遠くへ逃げてるだろう。

 そんなことは分かってた。それでも、やらずにはいられない。

 見ていてくれなくてもいい。あの人に言われたことをこなして、認めてほしい。

 願ったことは、ただその一つだけ……

 

 

 半年ほど経って、ようやく三割は片付いたかと思っていた時、それは起きていた。

 

 

「勝負はこれからだろ?」

 

「あ――? そうか? そうだなぁ――そーかもなあ!!」

 

 

 相手は、あの時と同じ、翼のヒーローだった。

 まだあの人がこの街にいたことにも驚いたけど、あの時と同じ戦いが、再び始まっていることにも驚かされた。

 

 そして決着が、あの日と逆の形になったことにも――

 

 

「最期に、言い残すことはあるか?」

「……2、3年もしたら、俺の子供(ガキ)が禪院家に売られる。好きにしろ」

 

 

 会話を最後に、飛んでいった翼のヒーローの後で、急いで男のもとへ。

 

「……なんだ、ガキ? 俺の言いつけ守って、本当に掃除してやがったのか?」

「……僕を弟子にする気が無かったなら、どうして、逃げなかったんですか?」

「さぁなぁ……俺と同じ猿の、涙ぐましい努力ってヤツを見て、笑いたくなったから、かもな?」

「……ずっと見ててくれてたんですか? 僕が掃除してるところ?」

「よせよ、気持ち悪りぃ……約束、守れなくて悪いな」

「……」

「どうせ、弟子入りすんなら、今度は、ちゃんとした、ヒーロー、みつけて――」

 

 それっきり、動かなくなって。

 翼のヒーローが通報したであろう、警察が来る前に、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 ―― 数年後 現在 ――

 

 一面の白い砂浜と、どこまでも広がる水平線を一望できる。

 そんな、地元の名所の一つである海浜公園から、数十キロ離れた先――

 

 

 その年の雄英高校では、ちょっとした騒ぎが起きていた。

 史上初、『無個性』の身で入試合格を果たした生徒。

 それが、自分たちと同じ学年だということに、新入生たちは特に興奮を隠しきれていない様子だった。

 

 熱いヤツだとテンションを上げる男子生徒。

 怖い人じゃないかしらと不安を見せる女子生徒。

 ソイツを知っている様子の目付きの悪い生徒。

 何の興味も示さず、机でぼんやりしている生徒。

 

 そんな1年A組の教室に、また一人、新入生が入ってくる。

 一瞬視線を集めたものの、またすぐ、各々の時間に戻っていく。

 

 この教室にいる誰もが、夢や希望を持っているに違いない。

 新たに入ってきた生徒も同じ。

 

 

 僕の師匠を殺した、翼のヒーローを倒すこと。

 

 

 そのことを胸に誓った生徒は、自身の席を見つけて。

 近くの席にぼんやり座っていた生徒に、話しかけた。

 

 

「初めまして。僕は緑谷出久」

「……伏黒(ふしぐろ) (めぐみ)だ」

 

 

 

 




続かない。
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