短いです。
その日もいつも通りの一日だった。
行きたくもない学校へ行き、『無個性』だとバカにされ、イジメられ……
そうやって憂鬱な気持ちを押さえながら、家に帰って、また明日の学校への不満を募らせながら眠りにつく。そんな、いつも通りの一日になるはずだった。
なのに、その日は違った。
地元の海浜公園。海流の流れの関係で海上のゴミが集まり、結果不法投棄までまかり通ったゴミだらけの公園。
なぜそんな場所へ来たのか出久にも分からない。ただ何となく、その場所へやってきた。景色を眺めたくても、ゴミのせいで海や夕日なんかマトモに見えやしないっていうのに。
そんなことを思い知って、帰ろうとした時、海岸から、巨大な破壊音が聞こえた。
そう、頭では分かっているのに。
気がつけばそこから動かなくなって、そこで行われる戦いから、目が離せなくなった。
デビュー前だろうか? 少なくとも自分の記憶には無い、翼の生えた、ヒーローコスチュームを着た若い男。
その男が、二十後半と思われる男と戦っているのが見える。
最初、翼で飛んで、空から攻撃してる若い男が優勢だと思われた。
相手の男は、地上で武器を振り回してるだけ。そう見えた。
なのに、気がつけば地上の男が優勢になっていて、押されているのは翼のヒーロー。
しかも……
(すごい……あの人、『個性』も無しに戦ってる……!)
『無個性』だからこそ分かった。いつもいつも、他人やヒーローたちの個性を羨ましいと思いながら見ている自分だから、目の前の男は個性も無しに、『個性』相手に戦っているって。
そうして戦いが続いていって……
最終的に、翼のヒーローを倒してしまった。
「お前の死後、生きてるお前の羽がどんな動きをするか分からん。ここで面倒事は避けたい。親に恵まれたな……だがその恵まれたお前らが、個性も持ってねぇ俺みたいな猿に負けたってこと、長生きしたきゃ忘れんな」
敵だ……
逃げなきゃ……
それが分かっているのに、身体が動かない。
「……ずっと見てたよな?」
「……」
「……まぁいい。他に見てるヤツいねーんだろ? なら逃げる時間は十分だ。運が良かったな。俺は、戦って疲れた」
そう言い残して、去っていく男に対して……
「僕を弟子にしてください!!」
気がつけば、体が動いていた。
断られた。当たり前だ。いくら同じ『無個性』だからと言って、
そうハッキリ断られたし、殺すぞと脅されもした。それでも、諦めきれなかった。
なんで俺にこだわる? そう聞かれた。
ヒーローになりたいから! そう答えたら、笑われた。
だったらなお更、俺みたいな敵は論外じゃねーか? そう言われた。
アナタじゃなきゃダメなんだ! 同じ無個性の、アナタじゃなきゃ! そう、必死に訴えた。
その時、男がなにを思ったかは分からない。それでも、顔色は確かに変わっていた。
自分と翼のヒーローが戦った海浜公園。アソコを綺麗に片づけられたら考えてやる。
それが、男の出した条件だった。
普通に考えれば、体裁良く断る理由だと判断すべきだったろう。
なのにそう思わず、言われた通り、翌日から海浜公園の掃除を始めた。
小さな鉄くずから、大きな家電ゴミまで。形・大きさによって使う筋肉が全く違うこの行為が、実は効率のいい筋力の鍛錬法だと気づいてからは、なお更やる気が出てきた。
誰に見られてるわけでもない。今ごろ、あの人も遠くへ逃げてるだろう。
そんなことは分かってた。それでも、やらずにはいられない。
見ていてくれなくてもいい。あの人に言われたことをこなして、認めてほしい。
願ったことは、ただその一つだけ……
半年ほど経って、ようやく三割は片付いたかと思っていた時、それは起きていた。
「勝負はこれからだろ?」
「あ――? そうか? そうだなぁ――そーかもなあ!!」
相手は、あの時と同じ、翼のヒーローだった。
まだあの人がこの街にいたことにも驚いたけど、あの時と同じ戦いが、再び始まっていることにも驚かされた。
そして決着が、あの日と逆の形になったことにも――
「最期に、言い残すことはあるか?」
「……2、3年もしたら、俺の
会話を最後に、飛んでいった翼のヒーローの後で、急いで男のもとへ。
「……なんだ、ガキ? 俺の言いつけ守って、本当に掃除してやがったのか?」
「……僕を弟子にする気が無かったなら、どうして、逃げなかったんですか?」
「さぁなぁ……俺と同じ猿の、涙ぐましい努力ってヤツを見て、笑いたくなったから、かもな?」
「……ずっと見ててくれてたんですか? 僕が掃除してるところ?」
「よせよ、気持ち悪りぃ……約束、守れなくて悪いな」
「……」
「どうせ、弟子入りすんなら、今度は、ちゃんとした、ヒーロー、みつけて――」
それっきり、動かなくなって。
翼のヒーローが通報したであろう、警察が来る前に、その場を離れた。
―― 数年後 現在 ――
一面の白い砂浜と、どこまでも広がる水平線を一望できる。
そんな、地元の名所の一つである海浜公園から、数十キロ離れた先――
その年の雄英高校では、ちょっとした騒ぎが起きていた。
史上初、『無個性』の身で入試合格を果たした生徒。
それが、自分たちと同じ学年だということに、新入生たちは特に興奮を隠しきれていない様子だった。
熱いヤツだとテンションを上げる男子生徒。
怖い人じゃないかしらと不安を見せる女子生徒。
ソイツを知っている様子の目付きの悪い生徒。
何の興味も示さず、机でぼんやりしている生徒。
そんな1年A組の教室に、また一人、新入生が入ってくる。
一瞬視線を集めたものの、またすぐ、各々の時間に戻っていく。
この教室にいる誰もが、夢や希望を持っているに違いない。
新たに入ってきた生徒も同じ。
僕の師匠を殺した、翼のヒーローを倒すこと。
そのことを胸に誓った生徒は、自身の席を見つけて。
近くの席にぼんやり座っていた生徒に、話しかけた。
「初めまして。僕は緑谷出久」
「……
続かない。