私、思ったことは何でも言っちゃうの。
だから、その日のヒーロー基礎学の授業、バスでの移動中にも、隣に座った緑谷ちゃんに対して言っちゃった。あなたは本当にすごい人だって。
『個性』が強いのはもちろんそう。条件はあるようだけど、私たちや、他人の個性をコピーして、自由に使うことができる。あらゆる状況や
だけど、強力な力には当然、相応のリスクだってある。緑谷ちゃんの場合はとても分かり易い。単純に強い個性をコピーすることができたとして、その個性の利点や欠点、最適な使い方や、逆にマズイ使い方なんかを理解して、的確に使いこなすことができるかどうか。
それは、生まれつき一つの個性しか持ち合わせていない私たちにも言えること。そして、たった一つの個性さえ、使いこなすどころか持て余す人たちもいる。それで敵になっちゃう人たちも大勢いる。
たった一つを極めることさえ大変な個性を、いくつも使いこなすことができる。そうやって雄英に首席合格を果たした緑谷ちゃんは、本当にすごい人なんだって、前回の戦闘訓練の後で理解することができたわ。
私がそんなことを話した後は、みんなも緑谷ちゃんのことを褒めだした。
褒められた緑谷ちゃんは、何も言わず、笑ってた。
元々、みんなの投票で学級委員長に選ばれても、自分は向いてないからって、自分が投票した飯田ちゃんにアッサリ委員長をゆずるような、控えめな子ではあった。けどそれ以上に、まるで、自分じゃない誰かが褒められてるのを見てる、そんな反応に感じた。
そう感じたのは私だけだったみたいだけど、その後で、自分たちの個性の話、どんなヒーローになりたいか、人気が出るとか出ないとか。
自分の個性が地味だって悩んでる切島ちゃんのことを、緑谷ちゃんが強力な個性だと褒めたり、性格がキツすぎて人気が出なさそうだって言われた爆豪ちゃんが怒ったりもした。
そんな、いつも怒ってる爆豪ちゃんが、緑谷ちゃんに対してだけは、口をつぐんで、目も合わせずにずっと震えてるだけなところも気にはなったけど……
話してるうちに、バスは目的地に着いてた。
中を見た誰かが、USJみたいだって叫んでた。そこに、この演習場を作ったっていう、スペースヒーロー 13号先生に、『
その後は、災害救助で活躍する13号先生からの、ありがたいお話。
先生や、私たちが振るう個性は、人を簡単に殺すことができてしまう。そんな個性を、人を救けるために使うこと。それを、これから私たちは学んでいくんだっていうこと。
そのことを演説されて、終わった後には拍手が起こったわ。
その後は、相澤先生の指示に従って、授業が始まるはずだったんだけど……
演習場の中心にある広場に、突然大きな、黒いもやが出現した。そこから、大勢の人たちが出てきた。
それを見た相澤先生が、アレは敵だって言った。
侵入者用のセンサーの無力化や、雄英の敷地への侵入。そういうことができる敵たちが、私たちの前に現れた。
相澤先生は13号先生に、私たちの避難誘導を指示した後、敵たちに向かっていった。緑谷ちゃんも手伝うって言ってたけど、お前も今は生徒なんだから避難しろって。
そんな言い方が気にはなったけど、緑谷ちゃんもしぶしぶ受け入れて、私たちと一緒に避難を始めた。
そんな私たちの前に現れたのは、敵たちを出現させた、黒いもや。
自分たちのことを『
平和の象徴、オールマイトを殺しにきたって。
そんな黒いもやに、爆豪ちゃんと切島ちゃんが向かっていった。けど攻撃は効いてなくて、13号先生が逃げるよう叫んだ後には、全員、黒いもやに包まれて――
気がつくと、下は水難ゾーンの水場が広がってた。
『カエル』の個性を持つ私なら、溺れることはない。そう思った時、体が引っ張られた。
それは、何らかの個性で空を移動してる緑谷ちゃんだった。
彼は私と、一緒に飛ばされてたらしい峰田ちゃんの二人を抱えて、中心に浮かんでる船の上に降ろしてくれた。
水中の敵たちに囲まれてはいるけど、とりあえずは話し合う余裕ができた。
今日やる授業のカリキュラムが割れてたことは、何日か前に起きたマスコミ乱入の時に敵たちが仕組んでたことだろうって、緑谷ちゃんは言った。
峰田ちゃんは、オールマイトを殺すなんてできっこないって叫んでたけど、これだけの無茶をする以上、それができる算段があるってことでもある。
そんな連中に、嬲り殺すって言われた私たちは、オールマイトや他の
そう言って、泣き出した峰田ちゃんの叫び声と、周りからの叫び声が重なった。
水場を見ると、私たちを囲んでた敵たちが、苦しそうにもがいて溺れてた。全員、私みたいに、いかにも泳ぎが得意そうな見た目に個性をしているでしょうに……
そう思った時、私も感じた。目が、鼻が痛くて、口、喉まで痛くなってくる。峰田ちゃんもそうなったみたい。
そうなった理由を、緑谷ちゃんが説明してくれた。
『水質を変化させる』個性。それを使って、私たちが話し合ってる間に、敵たちのいる水場をお酢に変化させたって。
なんだかどこかで聞いたことがあるような話だけど、それでも、今の状況の把握に精一杯だった私や峰田ちゃんと違って、ここに飛ばされた瞬間には
お酢に溺れてる敵たちには、峰田ちゃんのくっつく個性、『もぎもぎ』を投げつけて動きを封じておいて、そのまま私たちは水難ゾーンを脱出した。
お酢の中に放置された敵たちは気の毒だけど、まあ、自業自得ね。緑谷ちゃんが離れた時点で徐々に普通の水に戻っていくって話だし、大丈夫じゃないかしら。
水難ゾーンを脱出した後は、向こう岸にあった広場にたどり着いた。
そこで見たのは……
ずっと戦ってくれていた相澤先生が、黒くて大きな
それを見た緑谷ちゃんが走りだした。走っていった先にいる、黒い異形を蹴り飛ばした。
その後は、ケガをした相澤先生を私たちのもとまで連れてきた。
きっと、治癒系の個性でしょうね。緑谷ちゃんが傷に触れた瞬間、折れて、皮膚が崩れてた腕が、キレイに治ったわ。
それでも、フラフラな状態な相澤先生を私たちに任せた後は、一人、サポートアイテムの刀を片手に敵たちのもとへ走ったわ。
目にも止まらない疾さで敵たちを蹴散らしてしまって、中心にいた、顔や体中に手を飾ってる、黒服の男には鞘に納まったままの刀を振るった。
そんな
緑谷ちゃんも応戦したけど、さすがに威力が強くて、後ろへ吹き飛ばされた。
それでケガをしたようだけど……
その傷も、見る見る綺麗に治っていった。他人の傷だけじゃなくて、自分の傷まで治せちゃうみたい。
チートが……緑谷ちゃんに対して、手だらけが、そう呟いたのが聞こえた。
まあ、気持ちは分からなくもないけど……
そんな緑谷ちゃんは立ち上がると、いつの間にか、右手には指輪が握られてた。
それを、左手の薬指にはめて――
「止せ! やめろ緑谷――!!」
「もう大丈夫……なぜって? 私が来た――て、あれ?」
委員長の飯田ちゃんが脱出して、オールマイトがかけつけてくれた時には、全部が終わってた。
私も、峰田ちゃんも、相澤先生も、A組の全員、呆然とするしかなかった。特に、いつも怒ってるけど、誰よりも強気なはずの爆豪ちゃんは、誰よりも震えて小さくなってた。
A組のみんなが戦っていた敵たちは、全員が倒れて、動けずにいた。
そんな敵たちの中心だった二人組は、とっくに逃げてた。
そんな、USJの中心、広場にいるのは、動かなくなった、黒い異形と……
「緑谷少年……呼び出したんだな。
全部が終わって、事後処理が済んだ後は、その後の授業も中止になって、A組以外の生徒は全員、下校させられた。
私たちA組は、警察の事情聴取もあったけど、その後は教室に残された。
前には相澤先生と、緑谷ちゃんが立ってる。
そこで改めて、緑谷ちゃんは、自分の話をしてくれた。
彼が『
同じA組の
そんな『個性』を、緑谷ちゃんは始め制御することができず、ある日、ずっと彼をイジメていた同級生たちに重傷を負わせてしまった。
そのせいで一度は逮捕された。けど逮捕された先で、No.3ヒーロー、ホークスに出会って、個性の制御を教わることができた。
そのおかげで、雄英に来る前にはヒーロー仮免許を取得することができたって聞いた時は、さすがにみんな驚いた。
けど同時に、納得もした。
厳しい相澤先生が、個性把握テストで彼だけ例外扱いしていたことも、実際彼が例外と言えるほど強いことも、あれほど見事に個性を使いこなすことができたことにも。そのことを褒められても他人事のような反応だったことも。
USJに突然現れて、敵たちを倒してしまった……言い方は悪いけど、
そして、USJで見せた通り、今でこそ緑谷ちゃんは、彼女を制御することはできてる。けど、それでも彼女が、独立した意思を持って、人を襲うことができて、オマケに、たくさんの個性を操ることができる、そんな、危険極まりない『個性』なことは確か。
そんな彼女が、もし、なんらかの理由で制御不能にでもなったら……
緑谷ちゃん自身に制御してもらう以外に、彼女を止める方法は無い。発動系や変形系の個性にしか効果がない相澤先生の『抹消』では消すことができない。オールマイトが全力を出したとしても、勝てる保証はない。
だから、コピーは使っても、彼女を呼び出すことは決してしないように。
それが、彼が雄英の生徒としてやっていくための条件だったみたい。
そして今日、そんな彼女を、私たちや先生を救けるために、呼び出したって。
「僕がこの話をみんなにしたのは、これから僕がどうするか、みんなに決めてもらおうと思ったからです」
一通り説明を終えた緑谷ちゃんは、敬語でそんなことを呼びかけた。
「みんなもUSJで見た通り、寧香ちゃんは、一人で大勢の敵を一度に倒してしまうことができます。そして、13号の言った通り、人を殺すことはもちろん、場合によっては、雄英はもちろん、街一つを消すことができるだけの力を持っています」
アッサリ説明された、恐ろしい事実に、生徒の何人かは顔色を青くした。
「相澤先生の言う通り、今は僕が制御できているけど、事故が起きる可能性はゼロにはできません。もしみんなが、そんな危険な人間とは一緒にやっていけないと思ったなら、僕は、雄英を去ります」
それは、彼自身の処遇を、他でもない、現場に居合わせた私たちに決めてほしい。そういう提案だった。
危険すぎる力を持ってしまった呪いの子。
そんな男の子の呼びかけに対する、私の答えは……
「……ケッ! 他人の『個性』が怖くて、ヒーロー目指せるかよ!」
最初に声を上げたのは、爆豪ちゃん。見ると、いつも緑谷ちゃんから目を逸らしていた彼が、今は、真っすぐ緑谷ちゃんへ視線を向けていたわ。
「個性の制御はできてんだろう? 自分の力に責任持ってんだろう? だったら遠慮せずに使っとけや。それでヤバくなったら、そん時は、俺が責任もってぶっ殺してやっからよぉ」
「かっちゃん……」
そんな物騒なことをいう爆豪ちゃんの顔には、言葉の通り、責任感が宿っているように感じた。ずっと、緑谷ちゃんに対して震えていた彼の姿は、そこには無かったわ。
「ああそうだ! 俺たちのことなら心配すんな、緑谷!」
次にそう叫んだのは、
「お前の個性のことは分かった。個性がヤベェってことも。けど、その個性のおかげで俺たちは救けられたんだ。そんなお前を追い出そうだなんて考えねぇ! 個性のせいで困った時は、俺を頼れ! 今度は俺がお前を救けてやるよ!」
その後で、みんな、思い思いに声を上げていった。
「私も、デク君はA組にいてほしい!」
「オイラもだ! 救けてくれたやつのこと、追い出すなんてことしてたまるか!」
「俺たちは全員、身を守るすべは心得ているつもりだ」
「ああ……お前には負けねぇ」
「ケロ……私も大丈夫よ、緑谷ちゃん」
私も、多分全員が、彼がA組に残ることを望んだ。彼はいつも見せる、優しい笑顔を浮かべていたけど、きっと、喜んでいたって信じてる。
その答えを聞いた相澤先生も、私たちがそう言うならって、なんだか意味深な表情を見せながらも納得してくれた。
(もっとも、
こうして、私たちの敵と遭遇した日は終わったの。
私たちが一体なにと戦っているか。何を目指しているか。
そして、自分たちが何者なのか。
それを、痛感した一日だったわ
現段階で、出久は寧香ちゃんの制御はできています。
劇場版の対夏油戦のような戦いも可能ですが、危険な個性ということで完全顕現は禁じられていた感じです。