『そんなわけだから、出久には雄英体育祭に出場しない代わりに、終了後のエキシビションでオールマイトと戦ってほしい』
「……そこで、僕が寧香ちゃんを制御できているところを、公安や雄英、そして世間に見せてほしい。そういうことですね?」
『察しが良くて助かるよ』
その日の授業を終えた放課後。ホークスからの電話を受けた、出久は話の内容に納得していた。
雄英体育祭への参加を禁じられたことは分かる。個性把握テストを免除されたのと理由は同じだろう。加えて、A組のみんなは、大丈夫だ、緑谷が出場できないなんておかしい、そう怒ってくれていたが、そんな自身の強すぎる個性に見舞われないようにという雄英側の配慮も理解できる。
まあそれ含め、出久の実力が他と別格過ぎるというのもあるが……
だが、その後にオールマイトとのエキシビションマッチを組まされた理由が、出久には分からなかった。世間やプロヒーローたちに対するアピールは確かに出久としても魅力だが、ホークスのもとで学んでいたおかげもあって、人脈的な不自由も今のところ無い。
何より、これ以上目立つことを、公安が許すはずがない。
そう思っていたのだが……
「分かりました。オールマイトとのエキシビション、全力で臨みます」
疑問も解消したことで、出久もようやく、やる気を出した。
「それに、僕としてもいい加減、公安の皆さんに知ってほしいと思っていたので。寧香ちゃんはもう、危ない、悪い子じゃないんだってこと」
『……ひょっとして、今回彼女を完全顕現したのも、ワザとかい?』
「……
『そうだろうね。いくら君でも、進んで自分や、寧香ちゃんの立場を悪くするようなことはしないと思っていたよ……同じ状況なら、俺でも同じ判断をしただろう』
「それでも結果的に、寧香ちゃんをアピールできる場を得ることができました……これ以上、愛する人を悪しざまに言われるのは、僕としても良い気持ちはしないので」
「……」
ミルコさんが聞いたら、どんな顔をするやら……
ホークスがそんなことを考えているとも知らず、その後は恩師から激励を受けて、通話を切った。
「今までごめん、寧香ちゃん……君は僕が守るよ」
死んでもなお自分のために尽くしてくれる。そんな愛する
……
…………
………………
(ほぉ……雄英への入学を果たしたと聞いていたのに、姿が無いと思っていれば。戦わずして、焦凍より上だと言うつもりか?)
ホークスやミルコ、ベストジーニストらほどでないにせよ、緑谷出久――デクの存在を知っていた人物。
ヒーロービルボードチャートNo.2、フレイムヒーロー エンデヴァーもまた、彼の戦いに注目した。
自分がどれだけ足掻き、高め、登ろうとも、決して届かぬ頂。
次代に託すしかないと諦めるしかなかった、そんな存在に、果たして、自身の『最高傑作』と同い年の『例外』と呼ばれた少年が、どれほど渡り合えるものか。
(その力、ここで見せてみろ)
『エキシビションマッチ! デクVSオールマイト!!』
『STAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAART!!!』
「早速だが、強めにいくぞ! デトロイト――むぅ!?」
合図と同時。オールマイトが早速、必殺の拳を繰り出そうとした。だが、振り上げたその体勢から、それ以上動かなくなってしまう。
「これは……!」
観客席からも疑問の声が上がる中、すぐに気づいたのは他ならぬ、オールマイト。
自身の拳、どころか腕、どころか全身を拘束する糸。
その糸がつながっている先は……
「衣服とはすなわち、現代の檻」
「糸ではない、繊維……この個性は、ベストジーニストの、『ファイバーマスター』? そのヒーローコスチューム、デニム生地か!?」
「正確には、コスチュームの裏地がデニム生地です。見た人間に悟られないように――」
No.4、ファイバーヒーロー ベストジーニスト。個性『ファイバーマスター』。繊維を自在に操り、主に敵の拘束を行う。特にデニム生地が最も操りやすいらしい。ちなみにスウェット生地は苦手らしい。
「拘束完了……当然、これだけじゃない――」
オールマイトならこの程度の拘束、すぐに抜け出すだろう。それでも、一瞬でも動きを封じることができれば、後は、最速を尽くすのみ。
「コピーはしているけど、
続けて、デクの背中から出現した、赤色の翼。
そこから大量の羽毛が、オールマイト目掛けて飛んでいった。
「ホークスの『剛翼』……は!?」
「僕がアナタに届くかどうか――蹴って見れば分かる!」
No.3ヒーロー、最速の男の個性を使用し、一気に間合いを詰めて――
「
その場で開脚した足を回転させての、踵回し蹴り。
「
瞬時に頭上へ飛んだ先、オールマイトの頭部への蹴り振り下ろし。
「
トドメとばかりに両足にオールマイトの頭を捕まえて、後ろへ体重を掛ける、脚を使ってのフランケンシュタイナー。
「手応えが……はッ!」
「やるじゃないか、緑谷少年」
すでに、拘束を破っている。瞬時に判断したデクは、両手でブリッジしているオールマイトから剛翼の起動ですぐさま距離を取り、無事なデニム生地も回収。
「あれだけ蹴ったのに、無傷ですか?」
「いやぁ、多少は効いた。それでも耐えることができたよ」
「タフネスもNo.1ですね……」
「まあね……」
「おい、どうなったんだ、今の!?」
「いきなりオールマイトの動きが止まったと思ったら、ホークスと同じ翼が生えて……」
「オールマイトへの攻撃、剛翼と、ミルコの技だよな?」
「一体、どんな個性なんだ!?」
スタートと同時に行われた、息を吐かせぬデクの速攻。猛攻。
「ハハハ!! 出久の野郎、私の個性と技パクリやがったぞ!!」
「俺の『剛翼』も使いましたね。発動しても羽が生え揃うまで何日も掛かるのに……この日のためにちまちま育ててたな」
「私の個性も使ったな……まだまだモダンデニムといったところか」
疑問や驚愕の声が上がる中、集まっていたデクを知る者たちは、言い合いながらも嬉しそうに声を上げていた。
『デクの猛攻!! そしてそれをものともしないオールマイト!! みんなが知りたがっている、デクの個性を教えよう! デクの個性は『
『よく分かったな、お前も……』
相澤からのツッコミが入るも、プレゼント・マイクの実況に、再び驚愕の声が上がる。
「『個性』をコピーするだって!?」
「おいおい、トップヒーローの個性ばかりじゃねーか! どうやってコピーしたんだ!?」
「しかも、あそこまで操ることができるのか」
「あれが、デク君の本気……!」
「すげぇ……なにしたか全然分からなかった」
「強ぇ……」
「才能マンだ才能マン、やだやだ……」
「……だが、オールマイトには――」
『……ダメージは無いな』
観客たちや、プロヒーローたちはデクの個性、攻撃に、再び驚愕と興奮を見せていた。
そして、それら興奮をもたらした攻撃の結果は、爆豪と、相澤の一言に尽きる。
「
有無を言わさず、オールマイトが反撃に転じた。
三つの個性を駆使して行った出久の奇襲に対するは、何の小細工も必要無い単純な一撃。
たったの一振りで天候さえ変える、そんな拳が出久目掛けて放たれた。
「
それに対し、出久は身を回転させて足を振るう。
渾身の踵がオールマイトの拳とぶつかり――真上に跳ね返された。
『デク渾身の蹴り技! しかし、オールマイトの拳には通じず吹き飛ばされたー!!』
『……違うな。通じないと分かっていてワザと攻撃したんだ。下手に避けるか逃げるかしても拳の風圧で飛ばされ場外になる。だからオールマイトの攻撃を利用したんだ。横ではなく、上へ飛ぶようにな』
跳ね返され、吹き飛ばされた出久は――オールマイトと距離を取ることに成功し、剛翼で起動を修正、着地した。
「とっさの判断力も素晴らしいな……だからこそ分かったはずだ。
「……ええ。おかげで僕も、心置きなく全力が出せる」
出久だけではオールマイトには勝てない……つまり、
彼の大ファンとして分かっていた事実ではあるが、それでも彼を一人の人間として、心配する気持ちもあった。だから攻撃に耐えられるかどうか、確かめることにした。
そして分かった。心配は一つも、必要ない――
「寧香ちゃん、力を貸して――」
「来る……!」
出久が、左手薬指に指輪をはめる。そんな小さな光景は、観客席からはよく見えない。
それでも、間近でその光景に出くわし、目の当たりにした爆豪は、その空気の変化を察知した。
「出たな、個性の女王よ――否、物間寧香少女!!」
オールマイトはいつも見せる笑顔をそのままに、突然現れた巨大な拳を受け止めていた。
「なんだアレ!?」
「どこから出てきた!?」
「か、怪物……!?」
「アレはなんだ!!?」
みたび、観客席から上がる絶叫、驚愕。
誰もがオールマイト、デクから、宙に浮いた
見上げるほどの巨大で真っ白な身体に脚は無く、細長い胴体からは更に長い二本の両腕が伸びている。そんな身体から生えた平べったい頭には、目も鼻も無く、代わりに巨大な口から鋭い牙が光っているのが見える。
とても、既存の生物とは合致しない特徴と、おぞましい姿形を持って現れた巨大なソレに、誰もが驚き、声を上げ、中には悲鳴を上げる者もいた。
『出た出た出た出たー!! これこそ、デクの個性の真の姿! 雄英体育祭3位、ヒーロー科A組、
イズクゥ~……カレ、オールマイトかい?
「そうだよ、寧香ちゃん。僕たちは今、オールマイトと試合してるんだ」
スバラシイ……
ボク
オールマイト
スキィィィィイイイイイイイイ!!!
「HAーHA HA HA HA HA!! 照れちゃうぜ!! 物間少女!!」
「いくよ、寧香ちゃん!」
言葉を送り、動き出す。
瞬間、『剛翼』から離れた羽がオールマイトを包囲する。
「
オールマイトの接近の後、不規則に周囲を移動しながらの蹴りの乱打。
加えて、大量の剛翼による打撃も与えていく。
「同時に繊維による拘束、からの――ほら来た!!」
乱打の隙間からの巨大な一撃。それを読んでいたオールマイトは、拘束を無視して拳を繰り出し――二つの拳がぶつかる。
「いささか単調だぜ!! 緑谷少年!!」
「ですよね――」
と、寧香の攻撃を受け止めた後ろから、出久の声が聞こえた。
「今は2対1ですよ、オールマイト――」
「しまッ、拘束で身動きが――」
脇腹に、鞘に納まった
「このまま場外に――」
「
剛翼の進行方向に向けて放たれた、オールマイトの拳。
それによって起きた風圧が、オールマイトの巨躯を、押し出していた剛翼ごと反対側へはじき返した。
「あなたなら、それができますよね?」
だが、戻ってきたその頭上には――
「ぐぅ……ッ!」
デクの刀と、寧香の拳、同時に振るわれ、オールマイトの背中がステージに叩きつけられる。
「なんの!」
追い打ちの寧香の拳を避けつつ、その腕を走ってデクのもとへ。
デクの刀と、オールマイトの拳がぶつかり――
互いに弾かれ、距離を取った。
(物間少女が現れた途端、明らかに緑谷少年自身の身体能力が上がっている。『剛翼』や『兎』の発動下と言えども、それで強化された度合いは初撃が全て。それが今では私とも渡り合えるほどの力を発揮している)
「君を強くする……それが、物間少女の力というわけか?」
「そうです。一緒に戦ってくれるだけじゃない。彼女がそばにいてくれている間、コピーしている『個性』を一つ、常に発動させ続けてくれる。基本的には、僕に対する強化系の個性を……彼女が僕を支えてくれる限り、僕は、アナタにも負ける気はしない」
「この――オシドリ夫婦め!」
「ええ。最愛の
「……チッ!」
「どうしました、ミルコさん?」
「うっせ! 話しかけんな!」
「は……ッ!」
「どしたの? 麗日?」
「う、ううん、なんでも……」
ミルコが兎の聴力に舌打ちし、麗日お茶子がなぜか感じた胸の痛みをごまかしている間にも、彼女らの周囲では、多くの言葉が行きかっていた。
「すげぇ、オールマイトと渡り合ってる」
「あのデカイ『個性』を出す前と後で、明らかに動きが違う。そういう個性ってわけか」
「一年生で仮免取得済みと聞いて、只者じゃないとは分かっていたが、すでにトップヒーローのレベルだ」
「……それにしても、『
そして、彼らの言葉に構わず、二人の試合も止まらず進む。
寧香に力をもらった出久の刀と、『兎』の蹴り技に加えて、『剛翼』による視覚封じと機動力、『ファイバーマスター』の拘束。
バラバラの力を組み上げ、編み込み、自らのものとする。そうして一つにした力をオールマイトに振るう。
そんな出久とともに、寧香の巨腕が振るわれる。
「まったく、2対1、どころかプロヒーローが三人、5対1で戦っている気分だぜ!」
そうぼやくオールマイトも、二人の攻撃を確実に対処する。
個性や手数は多くとも、相手の数は二人のみ。加えて、出久は手数やからめ手で多彩な攻撃を仕掛けてくるが、その威力自体は脅威じゃない。オールマイトの本気にははるかに及ばない。寧香は逆に、攻撃の威力こそあるが、やるのは巨体から伸びる長い手のみの単調な攻撃。
ナチュラルボーンヒーロー、オールマイトが、この二人との戦闘に慣れるのに、大した時間は要さない……
「
二人が前後から攻撃を仕掛けてきた、完璧なタイミングでの横回転、全方向への回転パンチ。
それを喰らった二人は同時に弾き飛ばされ――
「
続けざまに、寧香に向かって拳を放つ。その拳と風圧で寧香を吹き飛ばしたと同時に、反対側にいるデクに向かってヒップアタック。
「
デクも負けじと、両手に構えた刀を振りかぶる。
本来は剛翼による直進移動の速度と勢いで威力を乗せる技だが、吹き飛ばされたと同時に技を繰り出されたことで飛行もままならず、振り返りざまのとっさに振りかぶっただけ。
当然、威力どころか体重さえ乗り切っていない不完全な技が、力でも体重も勝るオールマイトに敵うわけもなく、刀の一撃は見事な臀筋に跳ね返され、再び吹き飛ばされた。
「まだだ!!」
地面に向かって並行に吹き飛んで、誰もが場外を予見した。
しかし、剛翼の羽ばたきにより推力を軽減、加えて刀からロックを解除した鞘を抜き、抜き身をステージに突き刺す。
結果、ステージを斬り裂きながら後ろへ下がるも、ステージスレスレでブレーキが掛かり、場外を防ぐことができた。
「危なかった……」
鞘はどこかへ飛んでいった。さすがに真剣で挑むわけにはいかないので、刀はこのまま放置する。
そこへちょうど、寧香も出久のもとへ戻ってきた。
「中々粘るな、少年。さあ、次はどう来る?」
そう、優しく問いかけてくるオールマイトはどう思っているか知れないが……
見ている観客のほとんどは、思っているだろう。
これだけの『個性』。これだけの技。それらを駆使して戦っても、
お前はよくやった。すごさも実力も分かった。
もう十分だ。負けたって何も恥じゃない。
誰もが緑谷出久――デクの力を認め、実力を讃えて、そして、勝利を諦めていた。
(正直言って、この試合の目的自体は果たしたと言っていい。見てる人たちも、公安も、寧香ちゃんが安全だってことは十分分かったはずだ……でも――)
少なくとも、一人――否、二人を除いて。
(ここまでやって、負けたくない……勝ちたい、寧香ちゃんのために!)
自身に寄り添う最愛の
(今まで通りじゃ勝てない。誰もが予想できないような攻撃でスキを生むんだ。そのためには……アレしかない)
「行きます!!」
武器を失い丸腰で、それでも諦めず向かってくる出久に、オールマイトは笑みを強くする。
「出し切ってみな! 若人よ!!」
オールマイトも同じく走り出した。
「寧香ちゃん!!」
走ってくるオールマイトに向かって、寧香の拳が振るわれる。
相変わらずの単調な一撃は、あっさりジャンプして交わされた。
「
跳んだオールマイトの真下に最速で移動して、再び回転踵蹴り。
「風見の羽!! 着飾りへの自問自答!!」
続けざまに、大量の羽根で押し出しつつ、デニム生地による拘束からの、場外狙い。
さっきまでと同じ手と展開に、観客たちは落胆を見せる者もいた。オールマイトも。
「場外を狙うのは悪くない。だが、さすがにワンパターンだぜ――」
「
腕の拘束を破り、再び拳を振るおうとした、その瞬間、デクの全身から巨大な炎が発生。
それは、一直線上に並んだ剛翼を伝い、燃やしながら、更に大きさを増し、オールマイトへ向かう。
「まさか! エンデヴァーの『ヘルフレイム』まで!!?」
さすがのNo.1と言えども、これだけ巨大な炎を受けてはタダでは済まない。
進行方向へ打とうとした拳の方向を瞬時に転換、炎へ向けて、拳を放つ。
「
風圧により、炎はかき消すことができた。
「物間少女!?」
かき消した炎の先から現れたのは、真っ白な巨躯。
出久の蹴りと、自身の拳によって場外へ向かっていたオールマイトの身が、長く巨大な手に掴まれる。
平和の象徴を捕まえた寧香は、そのまま真っすぐ飛んでいき――
「オールマイト、場外!! 勝者――デク!!」
オールマイトの身が、優しく地面に降ろされたその瞬間。
体育祭開始からここまで、ずっと審判を務めてきた、18禁ヒーロー『ミッドナイト』の声が響いたその瞬間。
「「「「「わああああああああああああああああああ!!」」」」」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
「「「「「わああああああああああああああああああ!!」」」」」
割れんばかりの絶叫が、観客席から響いた。
『エキシビションマッチ、決着!! なんてこった!! ヒーロー科1年、緑谷出久――デクが、No.1ヒーロー、平和の象徴『オールマイト』を下しやがったああああああ!!!』
実況のプレゼント・マイクも、観客たちに負けず劣らずの、興奮した様子で声を上げていた。
「ハハ!! 出久の野郎!! オールマイトに勝っちまった!!」
「見事な高機能デニムだったな、デクよ」
「がんばったね、出久」
彼を教えてきたプロヒーローらも、教え子の勝利を祝福した。
「勝った! デク君が勝った!!」
「すげぇ……」
「すごすぎるわ、緑谷ちゃん!!」
「やべー!! マジでやりやがった、アイツ!!」
「スゲーよマジで!! 緑谷すげー!! デクすげー!!」
「あれがオールマイトの言っていた……写し身宿せし者の究極」
「デクの野郎……やるじゃねーか、クソが!」
A組生徒も、オールマイトを下した仲間の姿に、興奮していた。
「完敗だ……最高のヒーローだな。緑谷少年……いいや、ヒーロー、デク。もちろん、物間少女もな」
敗れたオールマイトも、デクの健闘を。そして、自身を優しく支えながら、出久を気にしつつもゆっくり消えていった寧香の献身を讃えていた。
誰もが、興奮に声を上げていた――
誰もが、その光景に酔いしれた――
「バカ野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そんな、巨大な歓声を、更なる巨大な絶叫がかき消した。
その声の先――
観客席から一人、会場へ飛び出した。
フレイムヒーロー エンデヴァー。オールマイトに勝てず、万年No.2の男。
ずっと勝てなかったオールマイトが、自身以外に敗けたことがそんなにゆるせないか。
見た人間の何人かは、そう感じた。
そんなエンデヴァーは、進行方向に立つオールマイトを――
そのまま素通りし、ステージの上へ。
ステージの上は、オールマイトの拳に鎮火されたとはいえ、燃えた剛翼の黒煙が舞っている。
そして、そんな煙の中心まで走った時。
「おい!!?」
エンデヴァーが走ってきたその瞬間、まるで待っていたかのように、エンデヴァーに身を預ける形で倒れ込んだ。
燃え尽きたヒーローコスチュームの下の、焼けただれた全身からも、煙を漂わせて――
「担架だ!! すぐにこの子を運べ!! 焦凍、来い!! 緑谷出久の体を冷やせ!! 他に水や氷の個性を持った者がいれば手を貸せ!! この子を死なせるな!!!」
冷徹でストイックな態度で知られるNo.2ヒーローの、今までにないほど取り乱した姿に、呼ばれた
次話で『物間寧香』の詳しい解説しますわ。