「よく言われたよ。その『個性』じゃあスーパーヒーローにはなれないって。一人じゃなんにもできない、そんなヒーローがいてたまるかってさ」
白いベッドの上に、入院服を着た子供が二人、並んで座っている。
一人は少年。一人は少女。同い年だろう。
隣に座る少年に、少女はほとんど一方的に、話しかけていた。
「まあ、『無個性』に生まれた君に比べたら、いくらかマシかもしれないけど……中途半端な力というものは時に、ただ無いこと以上の苦痛となることもある。なまじ力を持っていても、『何でもできる力』に比べれば何の役にも立たない。そんな程度な力なら、何も持っていないのと変わらないってね」
年齢にそぐわぬ聡いことを言っている。そんな少女はきっと、そんな考えに至るほどの、苦い経験を積んできたんだろう。
だから、『無個性』に生まれた少年のことを気に掛けたのかもしれない。『役に立たない個性』を持った自分と、『無個性』の彼。仮にも1と0とで大きな差はあるにせよ、『一人じゃ何もできない』身として、正真正銘、『何もできない』身で生まれてしまった彼の辛さは分かるから……
「僕は、ネイカちゃんの『個性』、すごいと思うよ!!」
そんな、少女の話、思いを理解しているのかいないのか。少年は、無邪気な声を少女へ返していた。
「色んな人の『個性』を使えるんでしょう? だったら、色んなことができて、たくさんの人を救けることができる、すごいヒーローにネイカちゃんはなれるよ!」
「……」
そんな便利な『個性』じゃない。万能と言われればある意味そうだろうが、本当に、自分一人になったら何もできなくなる、そんな個性なんだから。
それを、他ならぬ少女自身が、知っているのだが……
「ありがとう。イズク」
今まで誰からも、家族からさえ、自身の夢を否定された。そんな自分にただ一人、実現可能だと言ってくれた人。
これが、恋の始まりだったのかどうか。それは当人にしか分からない。
だが少なくとも、たまたま同じ病院で出会った少年少女が、退院後も仲良く遊ぶ仲になったキッカケが、この会話だったことは間違いない……
「あ、マルタせんせー!」
「ネイカちゃん、あの人はキューダイ先生だよ」
……
…………
………………
「……」
「目が覚めたね?」
夢と――あの時と同じ、光景と感触とニオイを感じた。
白い天井。柔らかなベッド。薬品のニオイ。
聞こえたのは少女の声ではなく、老婆の声だが。
「ここは……」
「おはよう」
続けて聞こえてきたのは、他ならぬ恩師の声。
「リカバリーガール……ホークスも」
起き上がろうと、体に力を込めた時。
「痛ぅ……!」
全身に……足もとから指先、頭の先まで、至るところに痛みが走る。加えて、体中に包帯が巻かれている感触がある。そして、力も入らない。
(あれ? こんなキャラクター、確か、流浪人が出てくる漫画にいたような……)
と、そんなことをノンビリ思い出しつつ……
(真希さんのこと、とやかく言えないな……個性、『超再生』)
すぐに、自分が全身火傷を負ったことを思い出して、コピーストックしてある個性を発動。結果、体の痛みは徐々に消えていき、包帯の下の痛みは、正常な感触になっていく。
起き上がる力が戻り、最終的に、マトモに動ける身になった。
「さっすがー……もっとも、さすがに今回は無茶をしたね。リカバリーガールの『治癒』と、エンデヴァーさんの的確な応急処置が無ければ、個性を発動させるヒマも無く死んでたよ?」
「え? エンデヴァーが? No.2ヒーローの!?」
思わぬ名前が聞こえたことで、興奮して立ち上がったが……すぐに、そんな場合じゃないと自覚した。
「……すみません」
言い訳する気はない。コピーストックした『個性』は一つ残らず試してきた。結果、体に負担がかかるもの、体質に合わないもの等、相性が悪いものはどうしても出てくる。『個性』はコピーできても、コピー元の人物の体質や、個性への耐性まではコピーできないから。
今回使った『ヘルフレイム』も、『無個性』の自分が使えば、自分の身が燃えることは分かっていた。
分かっていながら……
「どうしても……勝ちたいという気持ちに、逆らえませんでした」
「オールマイトに勝ちたい、か……」
それを聞いたNo.3ヒーローは……優しい微笑みを向けていた。
「勝ちたい、負けたくないって気持ちも、必勝を義務づけられるヒーローには必要な気持ちさね。けどね、そのために動けなくなっていたんじゃあ、たとえその場は勝てたとしても意味はないんだよ?」
「はい……」
リカバリーガールの言う通りだろう。ほんの一瞬の勝ちたいという欲求を叶えた結果、周囲の人間に多大な迷惑を掛けてしまった。
「……自覚があるなら、俺からはこれ以上言うことはない。ただ、出久とどうしても、話がしたいって人がいるんだ」
「僕と? ミルコですか?」
初めて会った時は、ウジウジした性格や言動、人格を見透かされ悪態を吐かれた。それが、何度か仕事を手伝っている内に気安く絡んでくるようになって、雄英に入学した後も、電話やら何かと干渉してくるようになった。
迷惑、とまでは言わないが、さすがにイヤになってくる。
そんなゲンナリと言った反応を見せる出久に対して、ホークスは笑いかけた。
「まあ確かに、ミルコさんが一番取り乱して慌ててたけど、彼女じゃない。どうにか落ち着かせて、出久が起きるまで待つって聞かなかったのを、ベストジーニストさんが無理やり連れて帰ったよ」
「ベストジーニストまで見にきてくれてたんですか?」
「ああ……話したい人は外で待ってるから、呼んでくる」
「あの……!」
部屋を出る前に、どうしても、ホークスに確認したいことがあった。
「僕が気を失った後、寧香ちゃんは?」
ベッド横の台に立てかけられた、鞘に納まった
「……君が気を失ったことで、彼女も存在を維持できなくなったんだろう。特に暴れ出すようなことも無く、ゆっくり消えていったよ」
「そう、ですか……」
彼女の思いと深い繋がりの宿った婚約指輪に、焼け跡は全く残っていない。そんな大切な指輪を見つめながら……自身の中の、寧香の存在を感じながら、ホッとしている自分を、嫌悪せずにはいられない。
愛しているだの、彼女は良い子だの口では語っておきながら、結局、彼女を一番恐れ、信用していないのは、僕自身じゃないのか……
「失礼する」
と、入室の一言が聞こえたと同時に、感じる熱。
そちらを見ると――
「エンデヴァー!!?」
ミルコやベストジーニストの仕事にお供していた時、何度か出会うことはあった。その際、挨拶程度は交わしたこともある。
そんな、決して関わりがあるは言えないNo.2ヒーローが、険しい顔を出久に向けながら、部屋に入ってきた。
「……ホークスの言った通り、ケガは完治しているな」
「は、はいぃ……!」
寧香のことも含む、数々の修羅場を経験し、ヒーロー仮免許を修得するまでになった。
そんな出久と言えども、明らか激怒している様子のフレイムヒーローを前にすれば、一人の高校一年生でしかなかった。
「……コイツと二人で話がしたい。外してもらえるか?」
「俺は構いませんよ?」
「ケガが治ったなら、私も必要ないね」
そんな、待って、一人にしないで……
そんなデクの視線に対し、ホークスは満面の笑みを向けた。
「俺もエンデヴァーさんとリカバリーガールからこっぴどく叱られた後だから、出久もがんばれ!」
ギッとエンデヴァーから睨まれたことで、すぐにホークスは退室していった。リカバリーガールも……
「……」
「あ、あの……あ! ありがとうございます! エンデヴァー、さんが、火傷の応急処置をしてくれたと聞きました!」
「……礼などいらん。フレイムヒーローとして当然のたしなみだ」
とっさに出た礼の言葉に対しても、エンデヴァーはぶっきらぼうに返すだけ。
「いつの間に俺の『個性』をコピーしたか……それはどうでも良い。貴様、分かっていたのか? 俺の個性を使えば、ああなると」
「……はい」
ホークスを前にした時と同じ、言い訳はせず、正直に答えた。
「どれだけの個性をコピーしてきたか知らんが、炎を使っても、焼かれぬ身とする個性を使うことはできなかったのか?」
「……そういう個性も、確かにコピーしてますけど」
例えば、ヒーロー科B組の『
彼のものではないが、似たような個性はコピーストックの中にある。そして、実際に同時使用を試したこともある。
ただし、何事にもできることと、できないことというものはある。
「僕の……寧香ちゃんの個性、『
ちなみに、本来発動してから羽が生え揃うまで何日もかかる『剛翼』を今回使えたのも、『剛翼』を5分間発動している間、同時に『育毛』の個性を5分間、同時に発動させることを繰り返すことで可能にしたものである(動かすことはできないが、出久が消そう思わない限り、一度出した『剛翼』は消えずに残すことができる)。
「僕は試合の間、ずっと『剛翼』と『兎』と『ファイバーマスター』の三つを同時に発動させていました。最後の攻撃の時は、『剛翼』と『ファイバーマスター』の二つを維持しつつ、三つ目の『兎』を解除して、代わりに『ヘルフレイム』を発動させた。他の個性を使用する余地は無かったんです」
「そのうえで――炎に耐えられない身体だと自覚したうえで、俺の個性を使ったということか?」
「はい……オールマイトに勝ちたくて、それで……」
そんな独白を聞いて――
奥歯を噛みしめたエンデヴァーは、更に言葉を送った。
「貴様の身体に貴様の個性だ。赤の他人の俺がどうこう言う筋合いはない。だがこれだけは覚えておけ。たとえ正しいと考え行動し結果を出したとしても、それが周囲にとっても正しい行為とは限らん。その結果によって一人でも、貴様のために悲しむ人間がお前の近くにいたのなら、それは……それは――」
なぜか、言葉を詰まらせ、そして――
「それは貴様一人のエゴに過ぎん! 貴様という存在の価値を認めている者が、貴様一人ではないということを自覚しておけ!」
「エンデヴァー……」
そこまで言ったエンデヴァーは、一度、息を吐いた。
「これから先、俺の個性を使うなとは言わん。だがもし、また今回と同じようなことをしてみろ。その時は、貴様がプロヒーローとなることは俺が許さん。No.2ヒーローとして、どんなことをしても止めさせてもらう」
「……どうしてそこまで、僕のために?」
一見すれば、理不尽な言葉に聞こえる。それでも出久には、そんな言葉に込められた思いやりを感じ取った。
「……決まっている。俺の個性によって貴様が焼け死んだとあっては、俺としても寝覚めが悪い。それに、何らかの形で俺や焦凍に非難が向けられることも迷惑だからだ」
「そう、ですよね……」
それが、本音かどうかは分からないが、それでも納得した。
言いたいことを言い終えたエンデヴァーは出久に背を向け……
部屋を出ていくエンデヴァーに対し、出久は深々と、頭を下げた。
「おや、エンデヴァーさん。終わったんですか?」
「……ああ」
外で待っていたホークスに対して、エンデヴァーは顔をしかめていた。
「俺にはリカバリーガールと一緒に延々説教してきたから、てっきり出久にも同じかそれ以上お説教するものだと思ってたのに」
「説教は貴様の仕事だ……貴様の教え子なのだろう。貴様が見ていろ」
「……もちろん。出久のことは、俺がちゃんと見てますよ」
エンデヴァーは終始、顔をしかめていた。いつもの顔だと言えばその通りだが……
(さて、証明は十分。後は、公安のおじさんどもが、どう動くか……)
エンデヴァーが去った後で、ホークスは、教え子のことを思い……
(寧香ちゃん……この雄英高校で、僕が必ず、君の呪いを解くよ。)
出久は、指輪をはめた左手を握りしめつつ、最愛の
作中で説明あったけど、改めて原作との比較をば。
原作:個性『コピー』
物間寧人
・触れた人間の個性を5分間使用できる。
・コピーストックは4つまで可。
・個性の同時使用は不可。
これ:個性『物間寧香』
緑谷出久
・触れた人間の個性を5分間のみ使用できる(あまり使わない)。
・触れた場合のみのコピーストックは4つまで。
・ただし、コピー元の人間の体の一部(髪、爪、皮膚、血液等)を寧香に食べさせることで永久保存できる。
・個性の同時使用は可能だが、一度に使える個性は3つまで。
・発動後、5分経過した個性は、5分間使用不可になる。別の個性の使用は可。
・発動したことで身体に出現した物質は、5分経過後も出久が消そうと思わない限りは残しておける。
・個性のみをコピーする個性であって、コピー元の体質・個性への耐性まではコピーできない。
・寧香LOVE♡
物間寧香(完全顕現時)
・婚約指輪をはめることで完全顕現できる。
・完全顕現している間、5分間の縛りはなくなる(コピー元に常に触れている状態になるため)。
・出久の個性同時使用が3つまでなのは共通。
・出久自身が使用する3つとは別に、1つの個性を寧香自身が使用可能。
・寧香の戦闘時における使用様態は現状、完全顕現するかしないかの二つのみ。
・ただし、一瞬だけ呼び出し引っ込めるというのも可能。個性の永久ストックもこの方法による。
・出久が気絶した場合は自動的に消える。
・出久大好き。オールマイトのファン。
さすがに永久ストックの条件は元ネタほどグロくはないです。
ちなみに、出久が使える個性が3つまでなのは、原作の物間が使える個性が3つまでと大海が勘違いしてたせいです。
なお、羽が生え揃った剛翼を試合までどこにしまってあったかは聞かんでやってください。