【完結】個性:物間寧香   作:大海

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今回、出久の出番少な目。



第7話  職場体験まで ~1年A組 轟焦凍の視点~

 緑谷出久……

 入学してから今日まで、こいつの話題が尽きたことは無かったと思う。

 俺自身、こいつのことはすげーヤツだと思ってる。

 

 入学早々始まった個性把握テストで、こいつ一人だけ免除。

 USJ事件での活躍と、その後明かされたヒーロー仮免許取得済みって事実。

 雄英体育祭の出場禁止、代わりのオールマイトとのエキシビション。

 大ケガはしてたが、代わりにオールマイトにも勝っちまった。

 

 それだけすごいヤツだから、体育祭で優勝した爆豪や、二位だった俺以上に、職場体験でのヒーロー事務所から指名が集まったのも納得できた。

 その中に、エンデヴァーヒーロー事務所からの指名が入っていたことも……

 

 

 その日のヒーロー基礎学でコードネーム、ヒーロー名を決めた後は、当然どこのヒーロー事務所に行くかって話題になった。俺もだが、指名があった生徒には指名してきた事務所のリストを渡された。それで、指名数一位の緑谷のリストをみんなが覗いてた。

 俺も覗いたが、ピンからキリまで、うちピンはさすがってメンツだ。

 ベストジーニスト、ミルコ、リューキュウ、ヨロイムシャ、クラスト……

 で、エンデヴァー。

 ちなみに、こいつが師事してたっていう、ホークスからの指名は無かったらしい。緑谷も、ホークスの事務所へ行くつもりだったらしいから意外に思ったみてーだ。

 

 後で聞いたことだが、わざわざ雄英に入って、職場体験まで自分が教えてたんじゃあ、代わり映えしなくて成長しないってこと、らしかった。それで、指名があったのなら、エンデヴァーの事務所を勧められたとも。

 師匠からの勧めと、ナンバー2から学びたいってことで、緑谷は俺と同じ、エンデヴァーヒーロー事務所へ行くことに決まった。

 ただどういうわけか、最後までミルコとどっちにするか、本気で悩んでた様子なのが気にはなったが……

 

 

 

 事務所に着いて早々、親父(エンデヴァー)は俺と一緒に、緑谷を指名した理由を明かした。

 そこでA組(俺たち)もよくは知らねぇ、緑谷の『個性』の詳細を聞くことになった。

 一度に使える個性は三つ。発動して5分間経ったら5分間使えなくなる。寧香を出してる間は、5分の縛りは無くなる。

 そして、『個性』をコピーしても、その持ち主の体質まではコピーできない。だから体育祭の時、親父の個性を使った結果、大火傷を負って倒れたとも。

 そういう事情があるから、緑谷がコピーしてきた個性の中で、実際に使える個性は限られる。そんな限られた個性でも、緑谷自身が個性の分析とかが得意で、使いこなして見せるのはもちろん、応用を利かすこともできる。

 それでも、親父の個性含め、全部を使えるようにならねーと宝の持ち腐れだって。

 

 そんなわけだから、俺含め、初日はひたすら個性の反復練習になった。

 俺は、今までやってきた通り、個性の発動の訓練。特に、氷結にばっか偏ってた分、炎の扱いを練習し続けた。

 緑谷はと言えば、まず、『煉瓦(れんが)』の個性で身体を耐火煉瓦に変える。その後で、エンデヴァーの『ヘルフレイム』を発動。

 これを瞬時に、考えずに自然とできるようになるまでひたすら繰り返す。5分で終わらないよう、あらかじめ寧香も出した状態でだ。

 これができるようになったら、同じように体質上使えずにいた個性でもやってみるようにって課題を出してた。わざわざそういう個性を書きださせて。それらの個性と相性のいい個性との組み合わせまで考えて。

 俺の個性をコピーさせていいかって聞かれたから、快諾したんだが……

 

 今まで俺にしか……オールマイトに勝てると見込んだ俺にしか、この男は興味が無ぇ。そう思ってた。なのにこの男は今、俺とは違う、俺と同い年の男に、俺以上に熱心に物を教えてる。

 別に、羨ましいだとか妬ましいなんて気持ちは感じない。

 ただなんつーか、不思議な感覚だった。

 緑谷に熱心に教える親父の姿。それはまるで、俺とは違う、誰かの代わりに、緑谷を教えてる、そんなふうに感じられた……

 

 

 

 一日目を終えて、二日目の朝。その日は急遽移動になった。

 場所は、保須市。理由を聞くと、最近ニュースなんかで話題になってる(ヴィラン)、『ヒーロー殺し』ステイン。飯田の兄貴であるプロヒーロー、インゲニウムをヤったっていう敵が潜んでるのが保須市ってことらしい。

 さすがNo.2だけあって、そう思う根拠には説得力があった。

 そこでエンデヴァー本人はもちろん、サイドキックが何人かに加えて、俺たち二人の同行が許された。特に、緑谷は仮免も持ってて経験豊富だから、即戦力として期待する。そう、親父が直々に言った時は驚かされた。

 エキシビションと、昨日の訓練で、こいつは、この男にここまで認められたのかって……

 

 

 保須市に着いた時、ヒーロー殺しが見つかる前に、騒ぎが起きてた。

 ビルの崩壊、所々で火災、交通の乱れ。

 遠くから、暴れるデカイ異形型が見えた。そいつはUSJで暴れた黒いヤツと似た姿をしていた。

 それを見つけた緑谷は、先行する許可を親父に求めた。親父やサイドキックたちのいる面々の中で、自分が一番速く現場に向かえるって。

 緑谷を即戦力として認めていたエンデヴァーはそれを了承。必要なら戦闘も許可するが、住民の避難誘導を最優先にって条件で先行させた。

 脱兎のごとく! 便利だからよく使うっていう、ラビットヒーロー ミルコの『兎』の個性を使って、俺たちのはるか先を奔っていったアイツの背中。その背中の距離が、オールマイトに勝って、親父にも認められたアイツと、俺との差なのかって感じた。

 だから俺も、エンデヴァーたちと一緒に急いだ。

 USJの時はよく見られなかった。体育祭のアレはあくまでエキシビションだった。

 今こそ、緑谷の本気、ヒーローとしての実力が見られる。そんな期待と、対抗心から……

 

 急ごうと思った身体を、逆方向へ向ける。

 連絡があったからだ。同じクラスの生徒全員へのメッセージ一斉送信。

 送り主は、ヒーロー科B組の、禪院真希。

 体育祭の試合の後、交換することができた連絡先。

 アイツと同じB組の生徒、多分全員と、A組でただ一人、俺へのメッセージ。

 

『江向通り4-2-10の細道』

 

 他に文章は無い。位置情報のみの一斉送信。

 真希はそんな意味の無いことをするヤツじゃねえ。

 つまり、詳しく説明するヒマが無い、切羽詰まった状況。

 加勢を求めてる……

 

 数秒考えて、そんな結論に至った後は、急いで真希がいるんだろう位置情報の住所へ向かった。

 

 ……名前? 仕方ねーだろう。本人が苗字で呼ぶの嫌がるんだよ。

 実際、俺だけじゃなくて、B組は全員、真希のことは名前で呼んでるっていうしな。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 何だかんだあって、あちこちケガした今、俺たちは病院にいる。

 俺と飯田。真希はさすがに女子だからって、病室は別にされたらしい。

 

 

 真希のメッセージにあった住所。そこには真希と、飯田と、プロヒーローのネイティブが動けず倒れてた。戦ってたのは、ヒーロー殺し ステイン。血を舐めた相手の動き封じる『凝血』の個性を持った敵。

 個性も厄介だが、刃物を使った戦闘力もかなりのもので、俺の個性じゃ太刀打ちできなかった。途中、個性が解けた真希と飯田の三人がかり、且つ、俺と真希があからさまに生かされたことで、倒すことができた。

 

 ステインを倒して、ゴミ置き場から見つけた縄で縛って大通りに出た後は、真希の職場体験先だっていうじいさん、グラントリノや、親父のサイドキックたちと合流した。

 そのすぐ後だった。翼の生えた脳無が現れて、真希を掴まえた。

 そのまま飛んでいこうとしていたのを……

 止めたのは、ヒーロー殺しだった。

 体中ズタボロ。後で聞いたが、折れたあばらが肺に刺さってた状態らしかった。

 そんな体になりながら、それでも俺たちを見据えて、自分の主張を叫んだ。叫んで、戦おうとして……そこで、意識を失った。

 その時、いつの間にか来てたエンデヴァーの指揮のもと、ヒーロー殺しの捕縛と脳無の回収が始まった。

 で、俺たち三人は、そのまま病院へ送られたってわけだ。

 

 

 昨日のことを思い出してるうちに、病室に犬が入ってきた。

 比喩じゃねえ。顔が完全に犬、つまりそういう個性の、面構(つらがまえ)って名前の警察署長が、真希と一緒に入ってきた。

 ソイツの話によると、相手がヒーロー殺しとは言え、ヒーロー免許も持ってねぇ俺たちが、個性を使って攻撃を仕掛けたことは立派な規則違反。処罰の対象になる。

 当然、反論した。あの時、俺たちが戦わなきゃ、プロヒーローのネイティブも、飯田も殺されてたって言うのに。もしかしたら、真希も……

 だがそれも、法律違反には変わりない。だから処分は免れない。

 ただし、それは公表すれば……

 

 要するに、俺たちがやったってことを公表せず、エンデヴァーがヒーロー殺しを捕まえたってことにして、俺たちの行為は不問にする。そういう話だった。

 先に言えって思ったが……まあ、受け入れない理由は無ぇ。

 

 そんな感じで話がまとまって、俺と飯田と、病室に残った真希とで話をした。

 飯田は両手がズタボロになって、特に左手に後遺症が残るって話だ。神経移植の手術をすれば治るかもしれねぇ。だが、ヤられた兄貴の復讐に走ったっていう今回の軽率な行動の戒めとして、本当のヒーローになれるまで、そのケガは残そうって。

 俺との試合で、ズタボロにしちまった真希の腕と言い……

 

 俺が関わると、ソイツの手がダメになっちまう、そういう、ハンドクラッシャー的な呪いが、俺にはあるんじゃねーか?

 

 そう言ったら、眼鏡掛けた二人そろって大笑いしだした。

 

 

 そんな時に、病室にまた一人入ってきた。

 緑谷。後で親父に聞いたところ、すでに現場に着いた時には、三体いた脳無のうちの一体を無力化しちまってたらしい。で、親父が来るまでの間、指示通り避難誘導に徹して、親父たちが到着した後は避難誘導と救助、ケガ人の治療とかに回ったから、残りの二体は対処できなかった。そう、脳無に掴まった真希に謝ってた。

 まあ、落ち込みながら、さらっと親父も手こずったっていう脳無の一体をアッサリ倒しちまったことは、相変わらずスゲーことだと思うけど。

 

「真希さんが送ってくれたメッセージにも気づかなくて、駆けつけられなくてごめん」

 

「……は?」

 

 ちょっと待て。

 今、聞き捨てならねぇ言葉が聞こえた。

 メッセージを一斉送信したのは、真希と同じクラスのB組と、A組でただ一人、アドレス交換した俺。

 なのに、緑谷にも……?

 

 急いでスマホを取り出した。で、宛先をスライドさせたら、下の方に、確かにあった。

 

『緑谷出久』。

 

「リカバリーガールが、個性の反動でケガしたら治してもらえるってんで、無理やり連絡先交換させられたんだよ」

 

 そう、嫌々っぽい口調で、緑谷を見ながら言った真希の仏頂面は、うっすら赤み掛かってて……

 

「緑谷……」

「なに? 轟君?」

「……お前には負けねぇ」

「え……あ、うん……」

 

 俺は、緑谷と、ついでに隣でさりげなく真希とアドレス交換してる飯田に対して、敵意を向けずにはいられなかった。

 

 

「……そうだ、飯田君? 公安からやっと『個性』の使用許可が下りてね、ここに来る途中、お兄さん(インゲニウム)の脊髄を治しておいたよ?」

 

「え?」

「え?」

「え?」

 

 

 

 




炎熱と氷結の両方に耐えられるものってなに?
クマムシ?
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