デクはヤベェ……
そんなふうに思うようになったのはいつからだったか。
多分、9歳のころだ。
昔から、自分より他人を優先するようなヤツだった。弱ぇくせに、『無個性』のくせに、いざって時に自分を勘定に入れてねぇ、人助けに狂ったヤベェヤツ。
そんなヤツの言動が気持ち悪くて気味が悪くて、イジメるようになった。
そんなヤツと、決定的に距離を置くようになったのが、9歳のころ。
病気かケガか忘れたが、デクが入院した後、同い年の女と遊ぶようになったのは知ってた。いくらイジメてたっつっても、ヤツの周りの人間まで巻き込むようなことはしねぇ。たまに公園とかで見かけることはあったが、興味も無かった。取り巻きたちが生意気だってちょっかい出そうとしたのを止めたこともある。俺の見てねぇところでは知らねぇが。
その女が事故で死んじまったって聞いた時も、別に何とも思わなかった。チラ見したことがある程度で話したこともねぇ女に、思い入れもクソも無ぇしな。
それからだ。今まで気持ち悪ぃと思ってたデクが、今まで以上に気持ち悪くて、薄気味悪くて、ヤベェって思うようになったのは。
他のヤツらはそんなことには気づきもしねぇで、『無個性』のデクを見下して、バカにしてた。中には俺がやってた以上のことをしでかすようなヤツもいた。
そんなデクのことを、俺はただ、見てた。
なにもしねぇ。たまに必要な会話をするだけで、それ以上は無ぇ。
とにかく、こいつとは関わりたくねぇ。
関わっちゃいけねぇ。理由は分からねぇが、そう、本能的なもんを感じてた。
アイツが俺以外の連中からイジメられてたのも、そのせいか他の事情のせいか、しばらく不登校になったのも、何日かぶりに登校してきて早々不良どもに囲まれてたのも、ただ、見てた。
あの時も、ただ、見てた。
見て、後悔した。
なにもできなくなった。震えるしかできなくなった。
『無個性』だと思ってたアイツにあった、『個性』を見て、なにも。
ちょうど、今と同じように……
「かっちゃん! しっかりして! かっちゃん!!」
デクが叫んでるのが聞こえる。
正面から迫ってきてんのは、オールマイト。そんなオールマイトと向き合いながら、目の前でデクが叫んでやがる。
期末テストの演習試験。
事前の情報じゃあ、入試みてーなロボをぶっ壊すって内容だった。それが、
それを聞いた俺は、今までのことを思い出した。
デクのことだ。また理由付けられて、演習試験も免除になるんじゃねーか。それか、デクだけ一人とかかもしれねー。
何せ、事情があったにせよ俺らより一年早くヒーローとして鍛えてる。それで仮免許まで修得してる。
それだけ差が付けられたことは、もう仕様がねぇって。
俺とデクが関わらねぇことは、もう仕様がねぇって。
「かっちゃん!? とにかく動いて!! オールマイトから逃げるんだ!!」
仕様がねぇって思ってたデクと、思いがけず組まされて、そのデクが出してきた、中学でも見た『個性』を目の前にして、震えて動けなくなっちまってる。
そうなっちまうのも、もう、仕様がねぇって……
「相澤君の言った通りだな。爆豪少年、君は他のA組生徒とは違って、緑谷少年に対してビビり倒しているってね」
動けなくなってるのは、オールマイトに頭ぁ掴まれてる痛みとか、力の差に対する敗北感とかじゃねぇ。デクの『個性』が出てきてからずっと、頭が真っ白になったからだ。冷や汗が止まらねぇ。体が震えて奥歯もガタガタ鳴り続けて。逃げねーとって分かってんのに、体は言うこと聞かなくなって……
「分かるぜ、爆豪少年……怖いよな? 緑谷少年の個性、物間少女は。特に君は、緑谷少年が引き起こした事故の唯一の目撃者だったと聞く。目の当たりにした以上、衝撃も恐怖もひとしおだったろう。その恐怖をごまかすため、今まで威勢よく振る舞っていた。そうだね?」
……ああ、そうだ。認めたくねーが、認めるしかねぇ。今やっと気づいた。
口では負けねぇだのぶっ殺すだの言っておいて、本心では、こいつには勝てなくていい、負けたままでいい、だから関わりたくねぇ。そう望み続けてた。
そうやってずっと、アイツから逃げてきた。
逃げること自体は簡単だった。ただ、話さなきゃいい。近づかなきゃいい。オマケに色々と特別扱いされてるデクだ。自然と関わることは少ねぇ。
そう思って、ホッとしてたんだ。安心してたんだ。
俺は、
「君と緑谷少年の間に何があったかは知らない。たとえ、君がそこまで恐怖する理由が、
ケッ……お見通しかよ。
そうだ。俺はビビってたんだ。
デクのヤツを特にイジメて楽しんでやがった不良ども。そいつら四人は暴走したデクの個性で、ロッカーに詰められた。
アレを見た後、思ったんだ。
もしかしたら、俺もあーなってたかもしれねぇって。
もしかしたら、今度は俺の番じゃねーかって。
だから俺は、デクから逃げた。あんなふうになりたくなくて。デクの個性がとにかく怖くて。
怖くて。怖くて。
怖くて……
その結果がこれだ。
俺は、指一本動かせねーままオールマイトに掴まってる。
デクは、引っこ抜いて地面にぶっ刺したガードレールに挟まれてる。デクならあの程度、簡単に引っこ抜けそうなもんだが、角度なのか刺し方なのか、あの怪物個性を使っても中々抜けずにいやがる。
もっとも、抜けたところで、どのみちオールマイトを倒すか突破しねーと、この試験の合格は無理な話だ。で、その方法は、どうやら無ぇ。
「仕方がねぇ……負けても仕様がねぇ……」
アイツと組んだ。その時点で負けは決まってたんだ。
アイツと、アイツの怪物個性が怖くて仕方がねぇ。
そんなクソ弱ぇ俺だ。負けたって、仕様がねぇ……
「そっか……後悔は無いようにな」
オールマイトが拳を握った。
それを見ても、力が入らな――
「――え?」
諦めた、その瞬間。俺の体が、横へ移動した。
移動してる体は、デケェ何かに、優しく包まれてる。
「お前……デクの、怪物個性!?」
ずっと、怖くて仕方が無かったアイツの個性。次は俺が襲われる。そうビビり散らかしてた個性が、俺をつかんで、逃げてやがる。アイツを置き去りにしてまで。
「なんで?」
俺を攻撃しようとはしてねぇ。俺を見てすらねぇ。
優しく握りしめてる俺を、守りながら飛んでいってる。
「俺は……俺も、デクのことイジメてたんだぞ!?」
俺も襲われるかも知れねぇ。そんな可能性も無視して、聞かずにはいられなかった。
そりゃあ、ロッカーに詰められたヤツらほどでないにせよ、俺だって、似たようなことをしてた。デクからすりゃあ、程度の差はあれイジメには違いなかったろう。
そんな俺を、この、デクの個性は――
イズクはぁ、キミが好きぃぃ
「あぁん?」
イズクはぁ、キミをぉ、ずっと尊敬してる~~~
「尊、敬……アイツが、俺を?」
伝言だよ~~……諦める前に、『ボク』を使うくらいのこと、してみせろって~~
「テメェを、俺が?」
勝つのを諦めないのが~~~……キミなんだろ~~~?
……クソデクが!
ムカつくなあ!!
「物間少女が、緑谷少年から離れてまで爆豪少年を助けるとは、油断した……姿をくらませたということは、出口ゲートに向かっているかな?」
「どこぉ見てんだあ!!?」
「背後! 爆豪少年、とうとう復活したか?」
ムカつく野郎だ……誰がテメェなんかと……
テメェの、『個性』なんかと!!
「撃て!!」
俺が叫んだ瞬間――
デクの怪物個性が、デケェ手でパンチを、じゃねえ。開いた手で、俺の最大火力の『爆破』を使った。
「走れや怪物個性!!」
命令しないで~~~~~
俺の『個性』をコピーするなり、最大火力を平然と撃ちやがって。
素の力だって、デケェだけにオールマイトほどじゃねーが強ぇ。プラス、ふよふよ浮いた機動力。
強ぇ。そしてやっぱ、怖ぇ……
こんな怖ぇ怪物個性手懐けて、他の個性まで自在に操って。
そんだけ強ぇくせに、勝つためなら平気で自分を置き去りにして、イジメてた俺まで勝たせようとしやがる。
クソデクの分際で――
生意気で!
ムカつくんだよ!!
「おいバケモン個性!!」
な~~~んだ~~~~い?
「デクんとこ戻れ!」
…………
「さっさと行け!! 完膚なきまで勝たなきゃ、意味ねーんだよ!! さっさとデク救けて、出口まで連れてこいや!! それまで、オールマイトは俺が!」
この怪物個性が一緒なら、逃げるだけならいくらでも方法がある。
やろうと思えばもう一つの勝利条件――確保証明のハンドカフスを掛けることも。
だが、そんなんで勝っても意味が無ぇ。
「二人――
…………
俺の言葉を聞いた怪物個性は、デクのいる方へ戻っていった。
「さて、この暴れ馬、どう拘束したものか……」
あのまま上手く、脱出ゲートまで逃げ切れるとは思ってなかったが……
なにをされたか、さっぱり分かんねぇ内に、両手とも籠手をぶっ壊された。
圧倒的な速度……耐久力もパワーも、圧倒的にシンプル。
シンプルな強さ。対峙して改めて分かる。
この男は、最強のヒーロー……!
だが……
BOOOM!!
「ぬう……!!」
認めんのは癪だが、今の俺の力じゃ、オールマイトには逆立ちしたって勝てねぇ。
だが、お前は違うだろう?
「なあ――デク!!?」
爆破した直後、俺が叫んだ先。
何十メートルだか上空から、あの怪物個性を引き連れて、デクが飛んできてた。
「ほぅ……物間少女が消えたと思ったら、緑谷少年の救助に戻っていたのか。まあ、『個性』である物間少女が脱出ゲートを通ってもクリアにはならないからな」
ああ、そうだ。
わざわざ口で解説してくれて、デクの方を見てるスキに……
「籠手は最大火力をノーリスクで撃つためのもんだ……リスクも犯さず、アンタに勝てるわけねーよな?」
最大火力――
さっきと同じ、爆風でさすがのオールマイトも後ろへ吹き飛んだ。
「行けデク!!」
俺が叫んだ瞬間――
デクは方向を転換して、下へ降ってきた。俺としては、そのままゴールしちまえって意味だったのに。
下にいるのはオールマイト。右手を左前、左手を右後ろへ伸ばしながら、進行方向へ頭を向ける――
「こんの、クソ物真似野郎が……!!」
両手の平から、俺からコピーした『爆破』を発動させて身体を回転、その回転と落下の勢いを、着地と同時の最大火力に上乗せして威力を上げる、今の俺に出せる最高最大火力。
雄英体育祭の決勝で、半分野郎に使った必殺技――
「
直前の俺の爆破以上の威力の爆風、土煙。
それにオールマイトが吹き飛んで、その反動で俺も、デクも吹き飛んだ。
そんな俺たちを、怪物個性が抱えて――
「回転が甘ぇ……落下速度が足りてねぇ……軌道も成ってねぇ……テメェの個性と違って、俺の最大火力にも届いてねぇ」
「ごめん、初めて使った個性に技だったから……けど、手の平や肩にすごく負担が掛かる。こんな個性を自由に扱えるなんて、やっぱり、かっちゃんはすごいよ」
「ケッ、クソデクが……」
初めて使ったクセに、あそこまでコピーできちまうテメーに、言われたくねーんだよ……
そんな会話をしてる間に、ふよふよ浮いたデクの怪物個性は、俺たちを抱えたまま、脱出ゲートをくぐった。
《爆豪・緑谷チーム、条件達成!!》
結局、最後はクソデクに頼る形になっちまった……
だが、こっからだ。こっから俺は、こいつや、オールマイトをも超える、No.1になってやる!
「デク……」
こっから……!
「……今までずっと、ゴメンな」
こいつと、こっから……!!
「かっちゃん……それは、僕に謝ってるの? それとも、寧香ちゃんに謝ってるの?」
「……両方だ、クソが」
「そっか……うん。ゆるすよ。寧香ちゃんもゆるすって」
……ケッ。
ダイジェスト形式って、場面の省略も効くし短い文字数で済むのが利点だけど、文章は簡素になるし原作知ってる人にしか通じないのが欠点だわな。