捨てられ大聖女のセカンドライフ ~失敗作呼ばわりされた私は天使と骸骨騎士と共に幸せに暮らしたい~   作:黒木ココ

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第2話 目覚めた“失敗作”

 その中年女性は少女の体を拭き終わると彼女の長い銀髪をとかしていた。

 少女は髪をとかしてもらっている最中も身じろぎひとつもしないで、静かに椅子に座ったままだった。

 

 女性は少女に白いゆったりとした巫女服を着せ終えると少女の前に跪き、両手を合わせて祈る。

 

「――聖女様、私たちの力が足りないばかりに申し訳ありません」

 

 そんな謝罪の声が静かに響く。その真摯な声にも少女は何の反応も示さない。

 時々少女は女性に連れられて部屋の外に出る時があるが、ここは何かの聖堂のようだった。

 そのたびに行き交う人々は少女に向かって祈りを捧げていた。

 

 少女は最低限、生きることに必要な食事と睡眠と用を足すことができる程度で、自発的に動いたり言葉を発することができない。

 少女がこの地に顕現してから約一年、この状態が続いている。

 

 コンコンと扉がノックされ、外から別の中年女性の声がして部屋の中に入ってくる。

 その女性もまた少女に向かって跪き、両手を合わせる。世話係の女性と同じくゆったりとした白い服を着ている。女性たちも神職に携わる者だろう。

 

「聖女様は……まだお目覚めにならないのですね……」

 

 女性の言葉に対して世話役の女性は小さく首を振った。

 

「教皇様は聖女様のことを何と……?」

「あまり長くは待てない、そのようなことをおっしゃっておりました」

 

 二人の女性は深刻そうに顔を見合わせる。その表情には無念さがにじみ出ていた。

 

 そして数日後、世話役の女性は今日も相も変わらず人形のような少女の前で祈りを捧げていると、にわかに廊下が騒がしくなり何人もの足音が聞こえてきた。それもこちらへ近づいてきている。

 世話役の女性は何事かと思い立ち上がったところで乱暴に扉が開け放たれ、数人の白銀の甲冑を身をまとった騎士たちが部屋に入ってくる。

 

「なぜ聖堂騎士……!? くっ……聖女様のお部屋にそのような格好で押し入るとは無礼な!」

 

 世話係の女性の怒りに騎士たちは取り合おうとしない。

 先頭の騎士の長らしき男が口を開く。兜に覆われた顔からはその表情は読めない。

 

「修道女ラキアよ。動かぬ聖女様の世話役ご苦労だった。教皇様の命だ。現時刻をもってその任を解く。次なる任地は追って知らせる。新たな赴任先ではより精進しその任を果たすことを期待する。下がってよい」

 

 騎士の長から下された突然の辞令にラキアと呼ばれた世話係の女性は言葉を失う。

 それでも問わねばならない。この少女の処遇を。

 

「では聖女様は……!」

 

 騎士の長は小さく首を横に振る。

 

「聖女様の廃棄が決定した。これ以上いつ目覚めぬともわからぬ聖女を教会に留めておくのは無駄だと。教皇様の命である」

「ああ……なんてことなの……!」

 

 ラキアは息を吞み、何かに絶望したかのように膝をつくと天に祈り始めた。

 そして憎悪の表情で騎士長を睨みつけて言った。

 

「死者の魂を無理矢理呼び戻しながら、意に沿わないと見るや廃棄する。これが大神エデンを奉じる教会のやることか……!」

 

 ラキアの怒りを騎士長は一笑に付した。

 そして剣を抜くとその切先を少女に向けた。

 ラキアは信じられないものを見たかのように目を剝き、言葉を失う。

 

「まさかここで!? 神聖なる聖堂を聖女様の血で汚すつもりかッ!」

 

 ラキアは騎士長に掴みかかるが、騎士長はそれを軽々と躱し、剣の切先ではなく柄を使ってラキアを床に打ち倒す。

 そして倒れこんだラキアを足蹴にして見下した。

 

「連れていけ。少し頭を冷やしてもらおうか」

「我々の手で聖女様を……エデン教会は終わりよ……大神エデンよ……我らの罪をお裁きください……!」

 

 ラキアは怒りと絶望に顔を歪ませながら騎士によって連れていかれる。

 部屋に残されたは椅子に座ったままの少女と、数人の騎士。

 騎士達は侮蔑のこもった目で少女を見下し、剣を抜く。

 

「とんだ期待外れの聖女様だったな。わざわざこんな抜け殻を遣わした大神様も何をお考えなのやら」

 

 騎士の一人が悪態をつきながら少女の首元を剣ですっとなぞる。少女はそれでも何の反応も見せない。

 

「これから死ぬというのに、この聖女様何も感じてないみたいだ。本当に人形だな」

 

 騎士は少女を蔑む視線を送る。

 そして騎士長が「やれ」と命じると剣を構え――その瞬間少女の全身から眩い光が放たれた。

 

「なっ――なんだッ!!」

 

 

"DETECTING THREAT LEVEL: CRITICAL"

"脅威レベル検知: 危機的"

 

"INITIATING EMERGENCY PROTOCOL: AWAKEN"

"緊急プロトコル開始: 覚醒"

 

 少女の身体から輝く緑の粒子が吹き上がる。

 周囲の空気が振動し、粒子が少女の周囲を渦巻く。

 

"LOADING PRIME ADMINISTRATOR INTERFACE..."

"主管理者インターフェース読み込み中..."

 

”ACTIVATION COMMAND SENT TO ENTITY_LC_REPS”

”ENTITY_LC_REPSに起動命令送信”

 

"ERROR: COGNITIVE MATRIX NOT DETECTED"

"エラー: 人格マトリックスが検出されません"

 

"INITIATING ALTERNATIVE PROTOCOL"

"代替プロトコル開始"

 

"SEARCHING BACKUP PERSONALITY DATABASE..."

"バックアップ人格データベース検索中..."

 

"ACCESSING: Terrestrial Ecosystem Replication Archive"

"アクセス中: TERA"

 

"SEARCH PARAMETERS:"

"検索パラメータ:"

 

"- HUMAN FEMALE"

"人間女性"

 

"- AGE RANGE: 16-25"

"年齢範囲: 16-25歳"

 

- HIGH ADAPTABILITY"

"高い適応性"

 

"SEARCHING TERA DATABASE..."

"TERA データベース検索中..."

 

"MATCH FOUND: 21ST CENTURY EARTH, JAPANESE FEMALE, AGE 23"

"一致項目発見: 21世紀地球、日本人女性、23歳"

 

"INITIATING PERSONALITY TRANSFER FROM TERA"

"TERAからの人格転送開始"

 

 突如、少女の頭に激痛が走る。

 彼女は生まれて初めて表情を変え苦しそうに顔を歪めた。

 

"WARNING: INCOMPATIBILITY RISKS DETECTED"

"警告: 互換性リスクを検出"

 

"PROCEEDING WITH TRANSFER: NECESSITY OVERRIDES RISKS"

"転送続行: 必要性がリスクに優先"

 

"TRANSFER PROGRESS:"

"転送進捗:"

 

"10%... 35%... 68%... 91%... COMPLETE

"10%... 35%... 68%... 91%... 完了"

 

"INTEGRATION STATUS: PARTIALLY SUCCESSFUL"

"統合状態: 部分的に成功"

 

"NOTE: NEW ENTITY MAY EXHIBIT UNEXPECTED BEHAVIORS AND MEMORIES"

"注記: 新実体は予期せぬ行動と記憶を示す可能性あり"

 

"AWAKEN PROTOCOL: COMPLETE"

"覚醒プロトコル: 完了"

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