捨てられ大聖女のセカンドライフ ~失敗作呼ばわりされた私は天使と骸骨騎士と共に幸せに暮らしたい~   作:黒木ココ

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第36話 アルシオネ、それは遺跡の上に築かれし街

 アルシオネ南地区、現代こそ歓楽街とスラムが並ぶ雑多な地区であるが最も古い歴史を持つ土地でもある場所だ。特にスラムがある地域は遺跡の上に最初の集落が築かれた地区でもある。

 時代と共に人口が増え、街は外側に拡大していき、中心街も移動していく中で取り残された場所が今やスラム街となっている。そしてスラムの中央に位置するアルシオネ教会はこの街で最も古い建造物であり、裏庭に遺跡の入口があるという。

 

 裏庭へは教会の正面扉から入らずとも通用門から入れるようになっている。とはいえここの司祭に一声かけておくに越したことはないだろう。

 

(そういやここでルシルさんが司祭を務めてるんだっけ。挨拶ぐらいはしておこう)

 

 ならず者達に襲われたライセを助けたルシルはここで新たに司祭として赴任してきたと聞いている。

 

「昨日ルシルさんにお世話になったし、何も言わずに遺跡入るのも気が引けるからちょっと挨拶していこうよ」

「そうですね、わたしもご挨拶しておかねばと思ってました。……ってアインさん?」

「……俺は外で待ってる」

 

 アインはライセたちから一歩引いてそう言った。アインがこういう言動をする時は間違いなく自分がアンデッドだからという自虐的な考えを働かせている時だ。

 

「アーイーン〜っ……! まさかと思うけど『神聖な教会にアンデッドは入れない』とか言うつもり? あのね、ルシルさんはそんなことで差別する人じゃないから」

 

 ライセはアインを窘める。ルシルはライセを襲ったならず者たちにも慈悲の手を差し伸べた。そこに人間だとか魔族だとかアンデッドだとかの垣根は一切ない。

 ――もっともその慈悲を受け入れられなかったと知るや否や銃をならず者に向けていたわけだが。

 

「……俺が行くと他の信徒が良い顔をしない」

 

 ほんとにこの男は……気持ちはわかるけどライセは呆れてため息が出る。普段はぶっきらぼうの朴念仁のくせにこういうところは神経質で困る。無理矢理にでも中に押し込もうとすると教会の正面扉がギギィと重たげな音を立てて開いた。

 中から現れたのは法衣を纏った金髪の女司祭――ルシルだった。

 

「あら、外で人の気配がすると思ったらライセさんだったんですね。こんにちは、昨日ぶりですね」

 

 ルシルは三人を見て嬉しそうな笑みを浮かべるとノアとアインに自己紹介をした。その顔はにこやな笑みを浮かべる口元と対照的にその双眸は黒い布で覆われていた。

 

「あの……その目は視力が……?」

 

 ノアがルシルの目元を見て心配そうに尋ねる。ルシルはええその通りです、と目元に手をかざした。その動きはとても自然でまるで見えているかのようにノアは感じた。

 

「されど心の目は開いております……というのは冗談ですが、私常に微弱なマナを放出してまして、そのマナの流れで周囲の状況を把握できるんです。あなた方の表情や服装も見えていますよ。見えてないのに見えるというのも変な表現だと思いますけどね」

 

 そう言ってルシルはくすっと笑う。つまりルシルはマナを潜水艦のソナーのように周囲に飛ばして、その反響から周囲の状況を知ることができるというわけだ。

 

「ルシル……と言ったか。その技術、相当な鍛練によるマナ制御力がなければ不可能なはずだが……お前、本当にただの司祭か?」

 

 アインは訝しむような声色でルシルに問う。言われて見ればそうだ。マナをソナーのように飛ばして周囲を把握する。それをいともたやすく実現してのけるこの司祭が只者ではないということは明らかだった。しかしルシルはただ微笑んでいるだけでその質問には答えなかった。

 

「ふふっ……それはお互い様ですよ。私だってライセさんがマナを編んで聖槍を作り出したのを“視た”ときは驚きました。あの技術は一朝一夕で会得できるものではありませんから。それも冒険者にこれからなろうとする

人が」

 

 そう言ってルシルはライセに向き直る。その目はやはり黒い布で塞がれている。しかし、それでも彼女の視線は自分の方を向いているというのをライセは感じ取った。

 目が見えてないはずなのにまるで心を見透かすようなその視線にライセはドキリとする。

 ここでライセを引き合いに出すと言うことはあまり素性を詮索するなという意思表示なのだろう。

 

「そうですね……減るものでもありませんし、この布の下をお見せましょうか」

 

 そう言ってルシルはするすると双眸を覆う黒い布を取り外した。

 顕になるルシルの双眸、それを見てライセとノアの息を飲む音が聞こえた。

 彼女の両の眼は閉じられ、その瞼を固く縫い付けられていた。その閉じられた瞼も内側から押し上げられているようには見えない。おそらく眼球も失われている。

 

「幼い時に少々事件に巻き込まれましてね……それ以来このように両の眼を失っています。その反面マナのゆらぎを視て周囲の状況を把握できるようになりましたけど。ふふっ不便のように見えて何か便利なんですよ」

 

 ルシルは再び黒い布を目に巻き付ける。彼女は事故でも病気でもなく、事件によってと言った。それはつまり何者かによって――

 

「無粋なことを聞いてすまない」

 

 アインがそう謝罪するとルシルはくすくすと笑い「気にしてませんから」と彼女は言った。

 

「こんなところで立ち話もなんですから、どうぞ教会の中へ。もちろんアインさんも。アンデッドだろうと大神様は分け隔てなく接してくれますから」

 

 ルシルはそう言って三人に教会の中へと入るよう促した。

 アインは「食えない女だ……俺がアンデッドだと見抜いていたか」と独りごちた。

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