捨てられ大聖女のセカンドライフ ~失敗作呼ばわりされた私は天使と骸骨騎士と共に幸せに暮らしたい~   作:黒木ココ

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第38話 闇に浮かぶ異界の残影

 教会の裏庭に件の遺跡への入り口はあった。石で出来た囲いの内側に地下に降りるための階段が続いている。

 階段の壁の外装は元々は白く艶のある材質だったのが長年の劣化で朽ち果て、内部の無骨な石材が剥き出しになっていた。

 

 階段を降りて行くに連れ日の光は差し込まなくなり辺りは暗闇に包まれていくはずなのだが――壁が仄かに光を放っておりその光でなんとか視界は確保できた。

 

「明かりもないのに光ってる……」

「マナの輝きだな。よくあることだ。とは言えこの手のダンジョンは常に光っているわけでもないのでな。ダンジョンに潜る際はランタンは照明魔法は必須だ」

「わたし、光球(ライトスフィア)使えるのでもしマナの輝きがなくて真っ暗な場所でも大丈夫ですよ」

 

 ――光球(ライトスフィア)はその名の通り光球を出現させ術者の周囲数メートルを照らす初歩的な魔法だ。

 

「助かる。俺は基本単独(ソロ)ばかりでな……こういった準備する物が多いダンジョンの探索は不得手だ」

 

単独(ソロ)ばかり――その言葉の意味するところは言うまでもなく彼がアンデッドであるからに他ならない。冒険者として実力は認められながらも、共にパーティーを組んでくれる仲間がいなかった。ゆえにこういったダンジョンへの単独での潜入というクエストは避けていた。

 

 ふとライセは思った。いつも無口なアインだが今日は饒舌な気がする。普段はぶっき、ぼうに必要最小限の会話しかしないのに、今日は自分から話しかけてくれる。一体どういう風の吹き回しだろう?

 

(やっぱ一緒にパーティーを組んでくれる仲間ができて嬉しいのかな)

 

 そんなことを口に出して言うとアイン怒られそうだがライセはそう考えるとなんだか温かい気持ちになった。彼は口では孤独を好むような言動だが、その実誰よりも仲間を欲しがっていたのかもしれない。

 

(まっ、私が勝手に気にかけてるだけかもしれないけど)

 

 石造りの階段を降り切ると開けた空間に出た。天井の高い広い空間だ。ぼんやりとしたマナの光に照らされた空間をライセは見渡すと、その空間の見慣れた光景――この世界で見るにはあまりに異質な光景に息を呑んだ。

 

「ウソでしょ……なんでここに……こんなものがあるの……」

 

 ライセは驚きのあまりそう呟いた。そこは紛れもなく地下鉄のホームだった。

 朽ち果てたプラットフォームと思しき空間の端には電車の停車位置を示す線が引かれており、改札口らしきゲートの残骸が転がっている。

 

「ねえ、この遺跡――」

 

 ライセはアインに尋ねようと口を開こうとするも「――魔物の気配だ。小声で話せ」とアインに制止された。

 

小鬼(ゴブリン)が六……七体か。なんてことはない魔物だが、駆け出しが相手をするには骨が折れる数だろうな」

 

 アインは周囲の気配を探りそう呟いた。ライセとノアも注意深く周囲を見渡すとホームの端に暗緑色の肌をした小さな人型の生物が群れを成して徘徊していた。

 人間の半分以下の背丈のそれら。老人のように皺だらけの顔で、顔の面積に対して象のような広い耳と長い鷲鼻、そして不釣り合いに大きい口の下顎には長い犬歯が生えている。そのビジュアルはライセが知る小鬼(ゴブリン)と特徴が一致する。

 

「まだこちらには気付いてないみたいですね」

 

 ノアが小鬼(ゴブリン)の様子を伺いながらそう言った。小鬼(ゴブリン)は粗末な棍棒を片手に、うろうろと周辺を徘徊している。

 すると、一体の小鬼(ゴブリン)がこちらを向くとクンクンと鼻を鳴らし始めた。

 

「クサイ、クサイゾ。ニンゲンノシタイノニオイダ、クサイ。クサイ」

「シタイニマジッテオンナノニオイモスルゾ」

「オンナクウ! ニンゲンクウ! シタイイラナイ!!」

 

 小鬼(ゴブリン)たちはライセたちの臭いを嗅ぎ取ったのか、警戒体制に入っていく。

 ライセたちは物陰に潜みながら小鬼(ゴブリン)たちの様子を伺う。

 

「……わかっちゃいたが小鬼(ゴブリン)にまで死体扱いとはやってられんな」

 

 アインの言葉にわずかに怒気が孕む。こんな魔物にまでアンデッドは蔑まれるのかという苛立ち。アインとてこんな小鬼(ゴブリン)どもに蔑まれたくなどなかっただろう。知能が低い本能で生きているからこそ、蘇った死体という本能に反する存在に敏感なのだろうか。

 

 「俺が三体受け持つ。お前たちは一体ずつ確実に仕留めろ。ただし他にも群れがいるかもしれない。大きな音を立てる魔法は使うな。いけるな?」

 

 アインの指示にライセとノアはこくんと頷きライセは銃型の、ノアは杖型の武器をマナで形成する。ライセの銃はあくまで銃の形をした杖だ。弾を撃ったからと言って銃声がするわけではない。ライセは確実に近距離で仕留めるために散弾をイメージした魔力を銃注ぎ込んでいく。

 

「アインさん、最初にわたしが光量最大、持続時間1秒の光球(ライトスフィア)を投げ込みましょうか?」

「ほう、光球(ライトスフィア)を即席の閃光弾代わりか、悪くない。奴らは夜目が効く。それをまともに浴びれば動くのもままならんだろう」

「さっすがノア、 頼りになるぅ」

 

 ノアはえへへ、と嬉しそうに笑みを浮かべると。杖に魔力を込めていく。一般的に知られる魔法の応用技法は高いマナ操作力を必要とする。それを難なくやってみせると言ったノアの潜在能力の高さが窺い知れる。

 アインは背中の大剣ではなく今回の探索のために腰に差していた長剣を鞘から引き抜いた。狭い屋内では取り回しのよい長剣のほうが便利だからだ。

 

「五つ数えるからそれに合わせて光球(ライトスフィア)を投げ込め」

 

 アインは小声でノアにそう言った。そしてアインは指のジェスチャーで5……4……とカウントダウンしていく。

 小鬼(ゴブリン)たちは警戒しているがまだこちらには気付いていない。しかし今にもこちらに気付いて飛び掛かってきそうな緊張感が漂う中ライセは息を呑む。

 

 そしてアインの指がゼロを指し示すと同時にノアは小鬼(ゴブリン)の群れに光球(ライトスフィア)を放った。

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