神殿でトランクスや悟天がフュージョンの練習を,そして龍華が精神と時の部屋を使って鍛錬を積む中,とうとう悟空があの世へ帰る時間がやってくる。
「悟空さ……!」
「そう泣くなよチチ……おめぇにはまだ悟天が……それに龍華だっている。でぇじょうぶだ。このフュージョンが完成して龍華が鍛錬を積めばもし魔人ブウがまた暴れても大丈夫さ……」
夫との再びの別れで涙を流すチチ,彼女は息子である悟飯を亡くしたのもあってかなり精神的に効いていた。
……だが悟空はそんなチチに安心するよう言葉をかけた。
それは周りの皆にも言い聞かせるように
「・・・」
「ん?どうしたんだ悟天」
父の近くで少し俯きながら何かを言いたげな悟天。
「分かった悟天。おめぇお父に抱っこして欲しいんだべ!」
「なんだそんな事か!ほれ!」
俯く悟天の心情を察して声をかけるチチ。
この悟天の思いは,つい最近見たベジータの別れ際の姿が過ぎったのが理由なのかは分からない。
ともかく悟空はそれに快く応じ,悟天を抱き上げる。その表情は涙に濡れていた。
「…………龍華」
「お父さん…」
悟天を降ろしつつ,龍華に声をかける悟空。
その表情はどこか憂いに満ちていた。
「龍華悪かったな…おめぇに危険な魔人ブウの足止めを任せちまって…けどそのお陰でチチや悟天とあの世へ帰るまでの間随分傍に居てやれたぞ。
・・・おめぇがあの時言ってくれた言葉でチチや悟天の事をしっかり考えれた。ありがとな…」
「ううん。あの場では私がやるべきだった事だから…それにお父さんには少しでも長く現世にいて欲しかったし…」
悟空は自身の娘に危険な魔人ブウの足止めを任せた事を少し後悔していた。しかしそのおかげで自身が家族の想いを全く考えてなかったことを気づかされた事も事実だ。
龍華を心配する思いもあるのは間違いないが,感謝の気持ちと頼りにする気持ちもある複雑な思いの狭間で揺れていた。
「龍華…けどおめぇも大切な家族の1人だ。チチや悟天だけじゃねぇ…龍華ともこれで最後になる…抱き締めさせてくんねーか」
「うん…」
自身の娘との最後になる交流であることをハッキリ伝え,抱きしめる悟空。
自身の腕の中にいる龍華は確かに自分の面影を感じさせ,チチとも似ている部分がある事から自分の娘だと明確にわかった。
産まれた頃から病弱体質で自分は殆ど見に行ったことはなく,ようやく普通に生活出来るようになってからも自身は死んでいた為全く今まで親らしいことをした事がなかった娘。
たった1日だけ帰ってきて,ほんの少し話しただけだが,今まで1度も娘の看病にすら行っていない事を責める訳でも無く,赤ん坊の頃以降ほとんど面識の無い自分を父親と認めてくれた龍華。
さらに自分と家族の事を想ってわざわざ危険な魔人ブウの足止めを買って出た龍華に対してしっかり父親としての愛情が芽生えていた。
だがそれと同時に自身と遜色ない程の実力を持つ娘に,心配だけでなく地球や現世にいる家族を守ってもらう戦士としての信頼も芽生えていた。
・・・そして殆ど自分と面識が無いまま人としても戦士としても立派に成長した娘に少しだけ罪悪感もあった。
「暖かいね…お父さん」
死人である筈の父にちゃんと体温を感じ,今まで経験した事のなかった父の体温というものに何処か安心した龍華。
お互いの体温をしっかり感じさせる為,自分の胸に体をうずめて甘えるように抱き着く龍華を見て,悟空は次の言葉を言うか葛藤してしまう。
「あぁ………………龍華…少し大変なことを頼むけんど…
オラが居なくなったあとの地球と…そしてチチや悟天を頼む。」
少し悩んだ後覚悟を決め,龍華に父としてではなく1人の戦士として後は任せると頼む悟空に…
「うん…何があっても絶対に守ってみせるよ」
迷うことなくハッキリと自身の意志を述べる龍華。
「…それでこそオラの娘だ」
「悟空…そろそろじゃ」
最後の会話が済んだタイミングで,占いババからの声がかかる。どうやら本当にお別れの時間が来たらしい。
「じゃーなー!みんな!死んだらまた会おうなー!」
「あいつ…縁起でもないこと言いやがって…」
最期は軽くそして明るい雰囲気で,ある意味悟空らしい別れ方をする。その様子を見て仲間達は悲しみと一緒にある意味での安心感を感じた。
〜〜〜〜〜
そして悟空が居なくなってから暫く経ち。
状況は一変した。
どうやらあの魔人ブウはミスターサタンと過ごしていくうちに穏やかになっていったらしいが,馬鹿な地球人のせいで異変が起き,2人に分裂した挙句太っちょの元のブウは食べられてしまったようだ。
その魔人ブウは前よりも更に比べ物にならない程強くなり,そのブウはあっという間に神殿へとやってきた。どうやら前に悟空が言った強い戦士の事を覚えていたらしい。
ピッコロは何とか魔人ブウを説得し,待ってもらうことにはなったが途中チチが悟飯を殺した魔人ブウに激昂する。
しかし…
「やめなよ…お母さん」
「龍華…」
龍華が激昂し,魔人ブウに平手打ちをしようとするチチを止める。
「気持ちは分かるけど…魔人ブウからしたらお母さんは蟻を潰すように殺せるよ…もしお母さんに何かあった時残される悟天の気持ちを考えてあげて… 」
「………………龍華…オラが悪かったべ。もう軽率なことはしねぇ…」
龍華の言葉を聞いて冷静になったチチは大人しく仲間たちの元へ下がっていた。
そしてホッと溜息をつきながらチラリと魔人ブウをみる龍華の瞳は……
「・・・・ 」
恐ろしい程に冷たかった。
そしてとうとう時は満ち,悟天とトランクスの準備が整いピッコロは魔人ブウと共に精神と時の部屋へ入っていった。
「龍華ちゃんは一緒に行かないのか…?」
「はい…ピッコロさんが言うには私は何かあった時の為にも外にいた方がいいと…」
クリリンが龍華に対して悟天達と共に戦わないのかと聞いてくるが,ピッコロは何かあった時の戦力として龍華は外へ残しておくと判断し,龍華はそれに従っていた。
「まぁ情けないけどこの中で圧倒的に1番強いのは龍華ちゃんだ。戦力バランスとしては丁度いいのかもな。」
「あれを見てからだとねぇ〜。それにしても龍華ちゃんは産まれからずーっと病弱だったってチチさんから聞いたけどどうしてそんなに強いの?」
ヤムチャが自身よりも圧倒的に若い高校生程の少女に頼るしかない現状を情けなく思うが,戦力面での状況を的確に判断していた。
ブルマは龍華の実力を魔人ブウの足止めで見たので疑問はない。しかし同時に龍華の強さの理由に疑問を持ったようだ。
「あー…それはですねーーーー」
精神と時の部屋で戦う者たちをとにかく信じ,仲間同士で会話に花を咲かせながらその結果を待つ龍華たち。
・・・しかしその結果は案外早く知ることになることになる。
〜〜〜〜〜〜
???side
………………突然だが,強さって言うのは何だろうか。
心の強さや想いの強さ色々な強さがあるだろうが,しかし私は強さって言うのは屈強な体があってこその前提だと思っている。
『・・・・面白いなぁこれ』
確かドラゴンボールだっけ。凄いなぁ漫画とはいえこんなに自由に体を動かして,血や汗を出して戦って…何より色んな敵と戦って最後には勝ってハッピーエンド!っていうのもスッキリしていい。
『はぁ…』
しかし自身の現状を見るとため息しか出てこない。自分の今の現状はこの漫画とは程遠い,一面真っ白な窮屈な空間,虚弱で不自由な体。こんなにも地獄な事があるのだろうか。
最初の問いに絡めて言うのならば,自分は今この世界においてトップクラスに弱いという部類に入るだろう。
私の幼なじみのーーーちゃんはとっても体が強くて楽しそうなのになぁ…文武両道で人当たりも良くてご近所さんからも人気だし,それに比べて私は………
もう死ぬだけの自身の現状を見て,諦めきれずに偽善に塗りたくられた行動を繰り返して,永遠に叶うことがない願いを追っている哀れな病人でしかない。……本当に自分が嫌になる。
『ーーーは世界で1番強いよ!』
『そんな訳…私は幼稚園児にだって勝てないよ…』
私の幼なじみはよく口癖のように私の事を世界で1番強いと言ってくる。多分どこかおかしいのだろうと私は思っている。
『いやいや…私知ってるからね!ーーーがよく〇〇号室のおばあさんのお手伝いをしてたり,病院裏の捨て猫ちゃんのお世話してたり,それに隣の部屋に入院してるちっちゃい女の子の事よく励ましてるじゃん!』
『それの何が関係あるの…?』
いや確かに事実だがそれの何が関係あるというのか。
…………ただ何も出来ない自分が少しでも何かの役に立つことで自身が他の人と同じ強さを身に付けたような気になっているだけなのに
『ーーーは自分がどんなに貧乏くじを引かされても,何も言わないし,体が弱くて辛くても他の人の為に動けるでしょ!そんなの他の人には出来ないよ!それに小学校の時クラスに馴染めなくて1人だった私をうまく輪に入れるよう頑張ってくれたのもーーーだし!
…………私本当に感謝してるんだ…今の私がいるのはーーーのおかげだと思ってる。…………だからそんな無理して強い人になりたいなんて願いを追わなくていいんだよ。ーーーはもう十分強いんだから』
『強さって言うのは体じゃなくてーーーみたいな心が強い人が本当の強い人なんだよ!』
『…なにそれ』
つい苦笑してしまう私。だってあまりにも純粋でキラキラした目で言うから特に言い返す気力も無くなってしまった。
私としては体が強くて,今落ち込んでる私を励ましてくれてる優しいーーーちゃんみたいな人が本当に強い人だと思うけど。
…………でも嬉しいな。……私が憧れてる他でもないーーーちゃんから言われたから余計に……
……私も来世はーーーちゃんみたいな本当に強い人になれたらいいな……でも心が強いっていうのもーーーちゃんが言う通り本当の強さなのかな?
……でも今の私はーーーちゃんの言葉が嘘だって分かる…だから,だからこそ私は…
〜〜〜〜〜
「ん…?」
「おっ!起きたか龍華ちゃん随分疲れてたみたいだしじっくり休むんだぞ。」
目が覚めた龍華が辺りを見渡すと仲間たちもそれぞれ神殿で寛いでいるようだった。
龍華が目覚めたのに気づいたヤムチャが労いの言葉をかけてくれる。どうやら疲れから自分はぐっすり眠っていたらしい。
・・・なんか変な夢を見てた気がするが,もう忘れてしまった。
「戦いの結果は…?」
「いやまだ出てきてないみたいだ。」
龍華はまだピッコロや悟天,トランクスが居ないのを見て結果を聞く。
しかしクリリンによるとまだ部屋からは出てきていないらしい。
「大丈夫だべか…」
「きっと大丈夫よ。なんたって孫くんとベジータの息子よ!勝てない敵なんていないわ」
悟空や悟飯が居なくなってしまったこともあり自分の息子の悟天の心配をするチチ。
それに対してブルマは慰めの言葉をかける
・・・それは自分にも言い聞かせているような言葉だったが。
その瞬間,神殿に突然謎の穴が空く。
それはどこか別の異世界にでも繋がっているような穴だった。
だが驚いたのはそれでは無い,そこから感じる邪悪な気と見覚えのあるピンクの肉塊それは絶望の証明でもあった。
「あはァァ…」
「あ…あ…魔人…ブウ」
その穴から出てきたのは魔人ブウ。不気味な笑みを浮かべながら出てきた魔人ブウは品定めをするかのように皆を見渡す。
・・・ピッコロと悟天,トランクスの姿は無く穴は閉じてしまった。
それだけでも皆戦いの結果を察せられた。
「みんな!!逃げて!ピッコロさん達は殺された!後は私が戦うしかない!!」
すぐさま状況を理解し,声を張り上げて仲間たちに指示をする龍華。
龍華はもうこの戦いを終わらせるのは自分しかいないと不安で震える体を抑えて前へ出る。
今,絶望の戦いが幕を上げたーーー