月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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壊し合い

 私たちは航海を経て、目標地点へと辿り着く。覗き込んだ星は、表面だけ見れば特別なものはない。

 荒れ地と、暗がりを作る木々だけがある星。歩離の民が侵略した後の「陥落地」は、概ねそのような状態のものでこの星も同じだ。武器牧場として整備しない限り、奪っただけで放置する群れが多いことが理由である。

 

 狐族が逃げ走る様に悦楽を味わいながら、遊びで狩るための大きな遊具。歩離の民には搾りかすの一つであったとしても、ここは白狼の友であり、死した狐族の最期の地だ。

 

 しかし、もはや文明の名残しかないであろう星に、何故反物質レギオンが攻め込むのか。探究者の狼たちによれば、反物質レギオンは文明の破壊と星のエネルギーを得ることを目的にしているそうなのだ。そして壊滅の星神から一片の力を得たヴォイドレンジャーが、意思無き兵士として軍勢をなし、その勢力を壊滅の使令がまとめているらしい。

 これまで戦ったのは、文明を襲おうとするヴォイドレンジャーたちで、前例のない状況なのだ。

 

 ストリボーグがモノアイを光らせ、地表にある簡易的なテントの数々をホログラムにて示した。ヴォイドレンジャーの部隊と、歩離の民とその奴隷の抗戦している姿がそこには映し出されている。

 

 

「推論:これらは、はぐれのヴォイドレンジャー。壊滅の使令によって別の星系が破壊された際に、散った可能性が高いと演算結果が出ています。」

「そうか。飛散したとしてもおかしくない距離で、活動が行われていたようだな。残党狩りなら、特に危険は無さそうだ。」

 

 

 シグナルの発信によって調査された情報を、ストリボーグが投影していく。私は、こちらの戦力で問題なく倒しきれるという考えをより強固にし、獣艦を星に突き進ませた。

 大気を抜け、少なくない数の狐族と歩離の民が散っていくのが見えた。狐族の遠征人員は、その様にぎりと歯軋りする。

 狼と狐族たちが別の器獣から降り、ヴォイドレンジャーに向かって走っていく。私もすぐさま器獣を着陸させ、同じ艦に乗っていた人員と共に地を駆けた。

 

 

 突然乱入してきた私たちに、歩離の民たちは驚き体勢を崩されていた。私は、すぐさまヴォイドレンジャーたちを爪で裂く。データベースによれば、ヴォイドレンジャーが持ち込んでいる球状の物体、バリオンが彼らの継戦に必要とされるらしい。私たちは意識してそれを狙っていく。

 浮遊しているバリオンを掴んで、地面に叩きつける。そして拳や爪でバリオンの外装を砕き、ちぎった。奇襲であったためか抵抗の類ができないまま、召喚されたバリオンは、宙に吸い込まれるようにして消えていく。

 私は地面に残された欠片を鞭に取りつける。反物質で出来たそれは、対消滅するはずだ。しかし時が止まったように、螺旋を描く物質は空間に固定化されている。

 

 すんでのところで助かった、ぼろぼろの歩離の民が疑問を口にする。星は薄暗く、彼らの目には青緑の鎧しか入ってこないだろう。

 

 

「…お前ら、何者だ。何故俺たちを助けた…。」

「力を示すためだ、同族よ。私たちは、新しきを求める歩離の群れだ!」

 

 

 黒い装甲のヴォイドレンジャーが、体を回転させて両手の刃で切り刻もうとしてくる。私はそれを受け止め、尖らせた爪でヴォイドレンジャーの腹部を突き破った。

 治療が追い付かない傷を押さえながら、歩離の民は膝をつく。

 

 

「お前は狼か…ぐ。全身を覆っていて分からなかった…。」

「そこで見ていろ。私たちの力のほどを。」

 

 

 私は抗戦を続けている狐族の元へ走り、鎧でヴォイドレンジャーの光弾をはじく。別の次元へと装甲が持っていかれそうになるが、腕で払いのけ接近した。

 白い装甲のヴォイドレンジャーは、空いた両手で光弾を次々に放ってくる。直撃すればその部分は量子もつれになり満足に動けなくなるため、月狂いを発揮し自ら抉り取る。

 怯まずに歩を進めることが、歩離の民の再生能力を活かした立ち回りだ。

 

 私は白い装甲のヴォイドレンジャーに張り付いて両腕を砕き、体の中心を体躯が為す質量による攻撃で破壊しきった。

 狐族の治癒能力は、歩離の民に比べ微々たるものだ。まだ無事な狐族を私の仲間に預け、軍勢の波を拳でなぎ倒していく。消滅するそれらを横目で見ながら、次へ次へと歩を進める。私の鞭は、固定化された螺旋でいっぱいになっていた。

 

 並みのヴォイドレンジャーであれば、すぐ倒せる。問題は、四つ足の個体だ。個体数は少ないが、歩離における昂達のような役割をこなし、仲間を呼んで数で圧倒する立ち回りを見せる。

 四つ足の個体は、計七体。他の四つ足は遠征の人員が倒したようで、一際大きい螺旋を得ている。そして丁度一体ずつ、白狼とストリボーグが倒したようだ。私は、固まっている残りの四つ足たち計五体を相手取ることにした。

 

 

「前方にターゲット確認。マスター、援護します。」

「あたしも終わったよ。さあ最後の仕上げといこうか、狂风。」

 

 

 鎧を着た白狼とストリボーグが合流し、四つ足たちに対しそれぞれ構える。私は、ここぞとばかりに鏡面盾を使用した。

 月の輝く夜。人工血の散布で、私の視界が紅く染め上げられる。

 血は狼に高揚を齎し、反対に狐族には鎮静を与える。戦奴であった狐族は、血が出たときに死を覚悟せねばならない。鼻孔に漂う鮮血が、瞬間瞬間の集中力を跳ね上げるのだ。私はどちらにも倣い、静かな高揚に身を任せた。

 

 

「紅き月が照らす…。」

 

 

 染み渡るような感覚のまま、私は再度月狂いを発揮した。

 

 四つ足は、その硬質な脚部を叩きつけるようにして攻撃してくる。また、大弓を生成して光弾を放つ個体もおり、近距離遠距離両方に対応しながら、回避しカウンターを差し込んだ。

 ストリボーグは量子の光弾を、自らが出す光線で打ち消し殴りかかる。白狼は、持ってきていた短い曲剣を振り回し、ヴォイドレンジャーの体を切り裂く。

 四つ足が、黒い装甲のヴォイドレンジャーを別空間から連れ出した。数が増えないように、私は跳躍して地面に叩きつけていく。私の武器は大斧だ。筋力を活かして質量の塊である刃を振るい、装甲を両断していく。

 

 四つ足たちの損傷箇所が増えていき、ついには脚の一本が完全に砕けた個体が出てくる。大きな隙を見せたその個体に、私たちは一斉攻撃を仕掛け、それを宙に吸い込ませる。

 

 同じように、群れとしての団結を見せて各個撃破していき、しばらくして四つ足を全て消した。ヴォイドレンジャーのいない、荒れ果てた地へと戻ったのだ。

 

 

 私たちはヴォイドレンジャーの残骸を回収し、歩離の民たちと狐族をそれぞれ集めた場所へ向かう。狼は私たちの力を見ていた。少し体躯の大きい狼が群れの代表であるようで、理知的な口調で私に言う。

 

 

「私の名は压碎。この群れを率いる者だ。」

「私は狂风。新しきを作る群れの長だ。」

「狂风、助力を行った狼よ、お前は何を望む。あのままでは我らは全滅だった。我らが何をお前から獲られようが、それも弱さ故だ。」

 

 

 群れの代表は、牙を抜かれた様子で言った。後ろに座り込む歩離の民も同じような様子だ。狐族を囮にしようと、それは意味を為さない戦術だった。牙も爪も砕け鞭も千切れた上で、半端に生き残った彼ら。狼としての強さは彼らの中で怯え、死ぬこととなった。

 

 

「見たところ、小さい規模の群れのようだな。…狼は強さを尊ぶという。だが今、その強さは揺らいだ。生身の強さでは勝てない者も現れるのだ。私につけ。死に震えず、新しい歩離の導を作るために再び生きるのだ。」

「我らそのものさえ、お前の物にするというか…。はっはっは…これこそ狼の行く道…!」

 

 

 泣き笑いのように群れの代表は言葉を漏らし、狼一同が群れに加わることになった。壊滅した群れは、自然に淘汰されるだけだ。そういった強者から弱き者に転落した存在も、私は星海から掬い取りたい。奴隷であった狐族も、遠征人員が応急処置をし命を長らえさせることができた。

 

 この陥落地も、ヒスイノのように開拓を行うつもりだ。ヒスイノは現在数字を増やし、土壌の管理程度しか行っていないがⅤまで存在している。この星はⅥと名付けられるだろう。星系が少し離れていても、開拓する者の志は皆同じになっていく。新しき歩離のために。

 

 

 その後白狼が昔死した仲間と、この襲撃で死んだ同族に対し、祈りを捧げていた。その祈りは深く、私は彼女が目を閉じている間に、簡易的な弔いを側で行った。

 

 そして遠征からヒスイノ-Ⅱに戻り、新しく加わった狼と狐族に群れでのルールを説明する。頭を抱えたのは、歩離の民だった。憤る狼に、私は合成肉を手渡す。

 

 

「狐族や人間達を、対等に扱う…!?そんなことができるか!」

「そこの狼。これを食べてみろ。」

「…なんだこれは、美味いぞ。今まで食ってきた血肉の中で、一番美味い!」

 

 

 味蕾が少なくなり塩味のみを感じるようになっても、種族単位での好みはある。軽んじられてきた合成肉に一石を投じた仲間たちには、群れの皆が感謝している。尻尾を振る狼に、私は語り掛けた。

 

 

「これは、人間たちや狐族、オムニックの皆が関わることで出来上がった食べ物だ。そして、お前たちの命が今もあることだって皆のおかげだ。歩離の民だけでは到達できないことが、山ほどある。だから軽んじてはならない。それを知るがいい。」

「あ、ああ。分かった。無くなったら困る。あんたの言葉に従うよ。…俺腹が減ってて。もう一つくれないか。」

 

 

 合成肉を試食させ、説明を続けた。彼らも群れの一員として順応してもらうため、まずは私の傍で戦ってもらうことにする。群れのことがより深く理解出来たら、特異な方面に興味を示す者も現れるだろう。私は彼らの中から芽吹くのを期待していた。

 

 

 

 私は若い狼を集め、鎧を着た仲間の一部と共に器獣に乗って、ある武器牧場へ向かった。成人の儀が始まるのだ。

 しかし、私のときの再演にはならない。この群れらしい戦い方を、猟群の皆に見せつけ力を示そう。鎧の固さと肉体の強さを磨き上げた若い狼に、隙は無い。

 

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