月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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第七章幕間 積雪の地
アライグマの吟味


 狼の宇宙船内、システム時間が7時を指した。そして惑星へ巨大艦船が着陸することが、狼の低い声でアナウンスされる。灰色髪の少女、星核の運び屋であるベクター星はぐっと伸びをして、外へ出る準備が整ったことを暗に示した。

 彼女に与えられた自室からは、白に緑が混ざる惑星が大きく見える。狂风という名の狼から伝えられた目的地、「ヤリーロ-Ⅵ」である。ヤリーロ-Ⅵの住民は現在、惑星外部に飛び、ヤリーロ星系の資源発掘を進めている。緑豊かであり、技術力の最も高かった700年以上前のヤリーロ-Ⅵよりも意欲的に。

 それ故に、エネルギー資源である「地髄」が底を尽きることはない。また産業発展の中心は変わらず、ヤリーロ-Ⅵである。

 

 星は部屋内部をぐるりと見渡す。彼女は、宇宙船の中で二番目に広い部屋をもらい、自分が飾りたいものを壁いっぱいに並べていた。無価値な物、汚臭を出さない厳選されたゴミも、おもちゃ箱にしまうかのように銀色の円柱へ乱雑に詰められている。

 加えて星は、一体の清掃用ロボットも受け取っており、その機械が奥の方でフィギュアの埃を落としている。星はこういった塵についても、一時的に袋詰めにされる様を楽しんでいる。

 

 常日頃、宇宙船の清掃をロボットと行っていること、狼の仕事やオムニックの少女の研究を手伝っていること、直近では星系の危機を退ける手伝いを行ったことで、保護者から渡された小遣いは沢山ある。節制すれば、プレミアもののゲームも買えるし、高めのフィギュアも集められるだろう。

 だが信用ポイントで得られる日常的な娯楽が、星にとっての全てではない。彼女にとって価値あるものは、未知であり好奇心を満たせるものである。ヒスイノ星系群を巡る、一月半ほどの星間旅行を経て、その傾向はさらに高まった。

 星が知り得ない場所に、未知は沢山眠っている。彼女はそれをただ知るだけでなく、体験したい。従来の性格と合わさり、彼女は他者から見れば奇異でありながらも、「開拓」の道にも足を踏み入れていた。

 

 

「ゴミケーキ行こう。…昨日も言ったけど、取り分は半々だよ。」

 

 

 銀色の外殻をした猫のような動物が、もちろんだという旨の声を返す。彼女たちの目的は収拾だ。探索の末見つけた物がゴミであったら嬉しいし、お宝であればそれはそれで面白い。特に星は、ヤリーロ-Ⅵで出会う人についても期待している。大まかな話は聞き、オムニックの少女の記憶領域で一瞬だけ見た場所ではあるが、その地で生きる人については未知だ。もしかしたら趣味が合う人もいるかもしれないと思うと、彼女は笑みがこぼれる。

 探検隊を結成した計二名は、ヤリーロ-Ⅵに目を輝かせた。

 

 

―――――

 

 

 私はアナウンスを終え、各々の部屋から人員が共有スペースに集まってくるのを確認する。サユは睡眠をとるのを優先するようで、滞在中のほとんどは宇宙船で過ごすようだ。個人的な生物観察には出向くつもりらしい。

 最後にやってきた星は、大きめのリュックを背負い、ゴミケーキをそのリュックの上に乗せていた。彼女の感性に合う廃品を集めるためだろう。

 智械黑塔が星に、何やら小型のデバイスを渡す。それは星の服に取りつき、籠手のように彼女の左手を覆った。グローブが少し分厚くなった感じだ。

 

 

「おお…。」

「安全装置はつけたから、好きに出歩いていいよ。」

「そうだ。君が怪しまれた場合のために、私からも渡しておこう。」

 

 

 渡した物は星核の拘束器具だったようだ。より簡略化されていて、星の動きを妨げない作りである。

 今回、都市内で星とずっと行動できる者はいない。私と最初に動き、サユと都市の外で会うことはあるだろうが、それ以外は単独行動を取ることになる。星自身もゴミケーキと二名で探検したいことだろう。

 

 私は自室に素早く戻り、ベロブルグと騎士が刻印されたメダリオンをケースから取り出すと、紐を指の腹に引っ掛け、星へと渡す。

 これはシリヤ・ランドが大守護者であったとき、彼女の妹セリルの武功を、深緑の騎士と共に祝した時からある飾り物だ。この飾りは、ヤリーロ-Ⅵとヒスイノ星系群の友好を示したものである。

 記念品としていくつか貰ったものなので、これを持っていれば、「古い友人」としてヤリーロ人も納得することだろう。

 

 星は表裏を何度か見てから、首にぶら下げる。すると次はサマンサが自室から持ってきたものを、星に渡した。それは毛皮のコートである。

 

 

「アハマグループが手掛けているコートは、品質が高いことで知られています。いくら環境に適応できても、寒いところは寒いですから…これを着れば中まで温かいですよ。」

「ありがとう。外に出る前なのに、いっぱいもらっちゃった。」

 

 

 サマンサが袋から取り出したのは、アハマグループの製品であった。アハマグループは、ヒスイノ内で業績を安定して伸ばしている企業だ。私の目にもよく入る名前であり、社長である彼の人となりも記憶している。

 

 グループを立ち上げたアハマは、第三次豊穣戦争が起こる前に保護された歩離の民である。彼は猟群で育てられていながら、残忍な性根を持たない少数派の狼だった。そしてアハマは幼少期から商人として生きることを望んでいた存在でもあった。

 保護できた狼の中でも、生き死にに喜びを持たない狼は更に少数派だ。そして自身の成し遂げたい事を、風習を理由に諦めなかった狼。だからこそ私はアハマへ強い親近感を抱いている。

 ヒスイノという基盤を整え続けてよかったと、彼の頑張りを耳にして思うときがある。ヒスイノが保護できなければ、彼は死ぬか仙舟に捕らえられるかの二択であっただろうから。

 

 星がリュックを一度外し、毛皮のコートを着た。デフォルメされた狼の顔がフードとして付けられており、仮装をしているかのようだ。星はコートの中に、ゴミケーキを入れて包み込む。

 準備は出来た。私とサマンサ、星はヤリーロ-Ⅵの地面に足を踏み入れた。

 

 

 ごうと雪混じりの風が、私の毛並みを乱す。私は普段着の白いローブにおける襟元を正し、ベロブルグの門前に歩く。サマンサは鉄騎を展開しており、星は私の体に隠れながら、火で暖を取っている。

 

 

「言ってた通り、結構寒いね。」

『これでもヤリーロ-Ⅵは、春に入っています。探索すれば、新芽も見られるかもしれませんね。都市内部は温かいので、入るまでの辛抱ですよ。』

 

 

 星が私の体の陰から頭を出し、前方を見た。彼女の視線が上へと行き、感嘆の声を漏らす。過去のベロブルグよりも年々堅牢になっていっているため、私も新鮮な気持ちで外壁を眺める。

 ヤリーロ-Ⅵには、ベロブルグの他にも、大都市がいくつかある。ロジャニツァ、ホルス、ダジブルグ、ペルン、そしてベロブルグの逆位置に配置されたチェルノブルグ。大守護者が受け継いでいるクリフォトの力を分け、惑星の復興を進めた結果だ。チェルノブルグは少数の専門家が開拓している最中であり、地髄の安定管理のための施設群が建てられる予定である。

 

 ベロブルグの正門が、シルバーメインの兵士たちによって開かれる。私は一日の終わりにゲーテホテル前で合流しようと話し、各々がしたいことのために解散した。

 

 

―――――

 

 

 狂风は大守護者の元に、サマンサは大学へ。星は知らない街をゴミケーキと歩き回る。電子データで地図はもらったため、地図と店頭を交互に見ながら探索する。

 

 

(クリフォト城、博物館、ホテル――見たところ上層部は綺麗めだな…。壊れた工具とか機械の欠片とか…持っていっても問題なさそうな物は下層部にありそう…。)

 

 

 星はとりあえず一般的な観光を楽しむことにする。

 博物館ではヤリーロ-Ⅵの歴史を、偶然居合わせた眼鏡をかけた青髪の少女に解説してもらった。博物館内には歴史的物品の他に、最近出版された本や娯楽用の雑誌なども置かれており、青髪の少女はそれを読んでいた。星は物怖じしない性質を活かして少女と会話し、『雪国冒険奇譚』をおすすめされる。星はその電子書籍版を読んでみることを話した。

 

 

「旅人さん、タイミングばっちりです。今週丁度、カカリア様主催のお祭りがあるんです。わたくしはバンドに所属しているんですが、そこでお祭りを盛り上げていく予定なので、是非見に来ていただけると嬉しいです。」

「もちろん。時間を聞いてもいい?」

 

 

 星は青髪の少女、ペラゲヤ・セルゲーヴナと連絡先を交換し、場を離れる。

 

 星は、上層部のゴミ箱を覗きながら施設を巡っていく。裏路地に入り、その中の一つに男性が隠れ潜んでいたことには流石の彼女も腰を抜かしそうになった。ガタガタと動いていたため、ネズミの類が入り込んでいるのかと思って開けたからだ。

 肩幅の広い長身の男性は、胡散臭い調子で星に頼みごとをする。

 

 

「あんた、ゴミ箱好きなの?」

「あははぁ…そんなわけありませんよ。臭くて汚い場所に好き好んでいるわけじゃ…これはただ、交渉人が…。ああ、お姉さん!僕がここにいることは誰にも言わないでくれませんか!もし僕の頼みを聞いて下さるのでしたら、良い儲け話を共有しましょう…どうです?」

「…ゴミ箱の中身はどうしたの?それ次第で聞いてあげる。」

「何か探し物でも?あそこにポイと、取り出しましたよ。」

 

 

 星は凍り付いたゴミ袋の中を開き、ゴミケーキと一緒に観察する。そして満足そうに笑みを浮かべると、男性に向かって軽く手を振りその場を去った。

 

 

「お、お姉さん!?どこへ行かれるのですか――」

「ゴミケーキ。下層部には、私たちの気に入るガラクタがあるはず。期待しよう。」

 

 

 男性の声を気にせず、星は下層部への道へと向かう。星はお小遣いを十分に貰っているが故に、儲け話に興味はなかった。

 

 

 そして星にとって、下層部は上層部より気に入る環境であった。地髄を取り出すために使った物が、下層部の大きいゴミ箱に廃棄されており、見る場所も多かったためだ。綺麗な場所も探索のしがいがあるが、こういった活気を肌で感じることのできる町も良いものだと、星は思った。

 

 リベットタウン、ボルダータウンと名がつけられた地区を、星は進んだ。ゴミ以外にも、機械の部品が落ちているのを発見し、使えなさそうなものを厳選してリュックに入れていく。住民は星が何をしているのか気になり遠巻きに見ていたが、廃品を拾い集めていることを視認するとその場を去っていった。清掃係が変わったのだろうと呑気に考える者もいた。

 

 

 星は地図を見ることも忘れ、ずんずんと奥に進んだ。視線の先には道は映っておらず、気がついたときには自分がどこに居るかさえ分からなくなっていた。

 星は汚れを取った手で、スマホを開く。下層部は入り組んでおり、来た道を戻ることさえ難しい。星は考え込み、道行く人に案内を頼みべきだと考えたが、近くにいるのはロボットばかりだ。星にはそれらがとてもオムニックであるようには見えなかった。

 

 悩んでいるとき、星に近づいてくる人影があった。星は気配に気づき、後ろを振り返る。そこにいたのは雪のように白い髪と肌をした、赤い服の少女だった。少女の近くには、四足歩行のロボットが二体ついている。見慣れない人物であるためか、少女は警戒しながら星の顔をのぞきこむようにして尋ねる。

 

 

「こんにちは…何かお困りですか?」

「実は迷子で。誰かに道案内してほしかったんだよね。」

「そ、そうなんですね。お姉さん、すごく堂々としていて…全くそう見えませんでした。」

「ここの人だよね。今は何をしてるの?」

「えっと…クラーラは今、この子の修理機材を取りに行く途中だったんです。でもどこに置いたのか、近くの子は知らないらしくて…下層部を歩き回って探しています。」

 

 

 クラーラという名前の少女は、ついてきている自動機兵の一体を手で示した。星の目から見ても、確かに様子がおかしい。がくがくとした動きで、外気に熱が零れている。

 星は両手を腰に当てると、クラーラに言う。

 

 

「私も手伝うよ。探すの得意だから。人手が欲しいよね?」

「ありがとうございます…。でも観光者さんの案内なら、地炎の皆さんが対応してくれます。クラーラについてきてくださるより、早く上層部に戻れると思います。」

「私もロボットの知り合いがいるから、壊れたとき早く何とかしたい気持ちは分かるつもりだよ。えっと…あんたの、クラーラの邪魔はしないから。」

「…会ってすぐなのに、ご親切にありがとうございます。観光者さん、クラーラがご案内します。探し物が終わったら、上層部までお連れしますね。」

 

 

 クラーラは、悪意のない純粋な瞳でこちらを見てくる星に対して頷き、手で道を示した。星は腕まくりをして白髪の少女の後ろをついて行く。星の小さな冒険が始まった。

 




<人物紹介>

アハマ…
歩離人の男性。ヒスイノの商人として活躍している。狂风は、経営面と人格面で彼を高く評価している。
スターレイル本編では仙舟に捕らえられており、幽囚獄で「アハマ鉄窓グループ」を運営している。


ペラゲヤ・セルゲーヴナ(ペラ)…
丸眼鏡をかけた青髪の少女。本編と変わらず、シルバーメインの情報官。
スターレイル本編と違う点は、彼女の母親ペーニャが死なず、大探検家として今も冒険をしていることである。
本二次創作のペラは、何れ友人のリンクスと共に、ヤリーロ星系の探検家へ転職することを検討している。


クラーラ…
赤い服を着た、真白な体の少女。本二次創作では、ベロブルグ下層部を拠点にしているが、各都市の下層にて地髄の管理を担当しているスヴァローグについて回っている。


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