月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

103 / 128
祭りの前

 クリフォト城へと足を運んだ私は、明日が「祭り」の日であることを、大守護者であるカカリアに聞かされる。

 太陽の日。気温が少し下がる春分の日に、祭りは開かれる。彼女はブローニャが執務室にいないのを確認してから小さく言う。

 

 

「ブローニャには言っていないのだけど、この祭りの日、あの子に大守護者を継承させる予定なの。各都市との決議も行った。ブローニャは既に大守護者として立ち振舞える。」

「なるほど、このタイミングでの継承か。…カカリア君、継承した後もブローニャ君をしっかり支えてあげてくれ。大戦の際、民を守ることが出来るように。」

「ええ。お母さまが出来なかったことを、私はやり遂げるわ。」

 

 

 大守護者として存在感を増した彼女は、不敵な笑みで私に応える。もうカカリアは為政者であり、二人の娘を育て上げた母だ。伝えていた神々の戦いが起こった後も、強い存護の意思にて、民を守り切ることが出来るだろう。

 その後私は、ブローニャとキオラの精神的成長具合についてと、ヤリーロ星系の開拓で戻ってこない夫についての愚痴を聞いて過ごすことになった。親友であるセーバルとの仲は今でも良好なようで、祭りの日は彼女の曲にて大いに盛り上げてもらう予定らしい。

 親愛の情を向ける人々について話すカカリアは、少女のように無邪気な笑みを浮かべていた。

 

 

 それから私は、ブローニャのいる場所について聞き、シルバーメインの訓練所を見ることにした。シルバーメインのリーダーとしてブローニャが、戦場でのリーダーとしてキオラが任を果たしている。大守護者となるための勉学をしていないとき、ブローニャはここにいるとのことだった。

 

 カカリアの言葉通り、訓練所には戦略会議を行うブローニャがおり、その奥には実践訓練を積んでいるキオラがいた。キオラの髪型は親譲りの金髪に編み込みをしたポニーテールであり、訓練の際に結ばれた後ろ髪が大きく揺れる。

 よく見れば、サマンサの鉄騎も訓練に参加しているようである。学生時代ぶりのヤリーロ-Ⅵで、訓練欲が高まったのだろうか。

 

 私が入ってきたことにシルバーメインの兵士が気づき、次にブローニャが気づいた。兵士たちが敬礼しようとするのを留め、私はブローニャに話しかける。私は作戦指揮について書かれた用紙に目をやる。

 

 

「裂界前の防衛について会議していたのか、ブローニャ君。」

「ええ。そうです、狂风おじい様。裂界は拡大しなくても、縮小もしない。シルバーメインの力は維持しなければなりませんから。」

「裂界は、ヤリーロ-Ⅵ外とも繋がっている。見たこともない裂界造物が紛れ込むこともあるだろう。…ここの布陣は、鶴翼に変えるのもありだ。」

「兵力の調整をしてみます。…それで狂风おじい様は、訓練相手をしに来てくれたのですか?」

 

 

 ブローニャは私を見上げて尋ねてくる。私が訓練場に来る理由は二つくらいだろう。私はその一方について話す。

 

 

「ただ君たちの顔を見に来ただけだ。通信越しでは分からないものだ。あとは夜、食事でもどうかと思ってな。」

「滅多にない機会…!後でキオラにも伝えておかないと。」

 

 

 ブローニャは口調を崩し、責任者としての仮面を剥がした。

 私はキオラの戦闘を眺める。幼子だった頃の面影は残りながらも、荒っぽさが見え隠れしている。先陣を切る役割に適した気性だ。独自にカスタマイズした弓を使い、奇抜な戦術で兵士を翻弄する。彼女の戦闘についてこられる者は、シルバーメインでは少ないだろう。実際相手をしているのは、シルバーメインの戍衛官として活躍しているランドゥー家の青年だ。動には、岩のような不動で返す。存護を体現しているような青年である。

 ブローニャもキオラのことを見た後、じっと考え込む。

 

 

「ゼーレもシルバーメインに来て、兼任してくれれば…。そうすれば、更に安定して守りが固められるのに…。」

「裂界の無い場所で、治安維持をするのも大事なことだ。君の話に上がる、ルカという青年はどうなんだ?」

「…彼は下層部のヒーローでありたいみたい。後、シルバーメインというよりは、狂风おじい様のところの深緑の騎士に入りたいそう。星間をまたにかけるボクサーになって、子どもたちを笑顔にしたいって。」

 

 

 ブローニャはその後、親友であるゼーレの声真似らしきものをして、私に伝える。私は頷くと、二人の居場所について聞く。するとブローニャは端末を取りだし、連絡をし始めた。

 次代大守護者の立場で、地炎のような民間組織とコミュニケーションが取れるのは理想的だ。私は彼女の言葉を待つ。

 

 

「志が立派な子だな。ゼーレ君に、ルカ君…二人は今、ベロブルグの下層部にいるのか。」

「…ええ、いるみたい。ペルンから帰ってきて、休憩しているって返ってきた。」

「ありがとう。ルカ君については特に興味がある、一度顔を見てみるとしよう。ブローニャ君、祭りの前に根は詰め過ぎないようにな。」

「ええ。気遣ってくれてありがとう、狂风おじい様。でも祭りの日はゼーレや孤児院にいた皆と会えるから、それまでに仕事は終わらせておくつもりなの。また夜に会えるのを楽しみにしてる。」

 

 

 私は手を上げると、訓練所から離れる。おそらく下層部には星が行っているだろう。私は彼女がこの地に満足しているか直接聞きたいと思いながら、下層部へ向かって歩いた。

 

 

―――――

 

 

 少し前。星は下層部をクラーラと共に歩き回っていた。物探しは今のところ順調に進んでいる。自動機兵が伝えた場所を星が隈なく探して部品を探し当てている。

 同行している内に、星はクラーラの心根を分かってきた。人のことを心から思いやれる、優しさを持った少女だと。それ故にファンは沢山いるようで、遠巻きにクラーラを見ている人間を、星は確認している。

 

 

「…星お姉さん。この子が言うには、こっちみたいです。」

「クラーラは、ロボット全員と友達なんだね。会うロボット皆が答えてくれるし。」

「…はい。みんな、大事な友達です。星お姉さんも、抱えているその子ととても仲良しですね。」

「このチビと私には、固い絆があるからね。古い部品とかが好きなもの同士、気が合うんだよ。」

「レトロ趣味なんですね…クラーラも、古い機械部品の子は好きです…!もちろん、新しい子も…!」

 

 

 クラーラは星の話に合わせようとし、両拳を胸の前で握りそう言う。

 

 それから星は、新しい下層部の人間に出会った。明るい金髪をローツインテールにした小さな少女だ。子どもらしい無邪気さを前面に押し出し、その少女はクラーラに言う。

 

 

「クラーラ名誉隊員!スヴァローグと一緒じゃないのは珍しいな。あと…そっちのお前は何者だ!名を名乗れ、もこもこ!」

「私は星!銀河打者だよ!」

「元気だな!星もモグラ党に入らないか。モグラ党のボスであるあたし、フック様が直々にスカウトするのは名誉なことだぞ!」

「えっと…星お姉さんは観光客さんで、ちょっとの間だけクラーラのお手伝いをしてくれてるの…。だからモグラ党に入れるかは分からない…。」

「何!く、体は大きくても、中身は子どもの波動を感じたのに…!」

 

 

 星がフックという名前の少女に声を張り上げて返す。フックは乗り気になったところで、クラーラからの話を聞き、元気を失う。その後星は、クラーラからモグラ党に入るのを迷っているという旨を聞き、その理由も話された。クラーラの家族であるスヴァローグが遊んでいる間どうしていればいいかという、子どもらしい悩みであった。星は、クラーラに一緒に入るのはどうかと話す。

 

 

「スヴァローグってロボットがどれだけ大きいのか分からないけど、かくれんぼのとき壁役になってもらえばいいんじゃない。私はあまり来れないけど、またヤリーロ-Ⅵに来たときは一緒に遊ぶよ。」

「お姉さんも一緒に入ってくれるんですか…!フック。クラーラ、スヴァローグに聞いてみるね。」

「こんな簡単に隊員が二人も…あたしは感動してる…!」

 

 

 フックは嬉し泣きをした後、クラーラの物探しについていくと話した。この機に星はフックとクラーラのビーコン場を交換しておいた。

 星の目の前を小さな少女が二人歩く。星は自分が保護者になった気分であったが、フックの言動に全力で乗っかるため、フックが感じたことは間違いではないようだった。

 

 三人と一匹、そして二体は自動機兵たちの言葉通り進み、やがて一つの施設前に辿り着く。ファイトクラブである。クラーラが探していた最後の部品と器具はファイトクラブ近くにあった。

 クラーラは何故こんなに散らばっていたのか、改めて疑問を持ったようで首を傾げ、フックは賑やかす。

 

 

「ファイトクラブの中を見ていこうよ!こいつも、ルカ兄ちゃんが連勝してる姿を見て、やる気を出してから修理される方が絶対いいって!」

「へえ、私も見ていきたいな。どのくらい強いのか気になる。クラーラ、このロボットってどこで直すの?」

「集落で直そうと思っています。星お姉さんと会った場所の奥です。」

「一旦戻ろう。」

 

 

 フックは、ファイトクラブと星たちを交互に見てから決断する。

 

 

「うう、部品が見つかったならすぐ直した方がいいか…。だが二人とも!後でこのフック様と、ここで合流するぞ!ボスとの約束だ!」

「了解、フック様。」

 

 

 星は表情をほとんど動かさず、おどけた言葉をフックにかけると、クラーラの目的が果たされるのを見届けるためついていった。フックは他の隊員を集めるといって、クラーラと星の元から離れていく。

 

 クラーラはようやく友達を直せると喜びながら、機械集落へと戻っていく。そして星は知ることになる。クラーラの話していたスヴァローグとはどのような姿なのかを。

 

 

「クラーラ、修理用の部品が集まったか。そちらは――分析結果:ヤリーロ-Ⅵのデータベースに該当なし。星間旅行者と判断。」

「スヴァローグ、星お姉さんだよ。星お姉さんはクラーラと一緒に部品を探してくれたの。」

「データ更新完了。識別氏名:星。クラーラの手伝いについて、あなたに感謝する。」

「…あのオムニックにそっくり。あんた、ヒスイノのオムニックだったりしない?」

「否定:当機は、ヤリーロ-Ⅵで監督ロボットとして製造された。データベース参照:ヒスイノ星系群でも、同型の製造は行われている。この事実が、あなたが誤解した理由だと推測する。」

 

 

 スヴァローグは柔軟に答える。星は彼の体を見た後、細かい部分は違うことを理解する。そして星は思う。確かにこの巨体では、子どもの遊びには不向きであると。

 

 星はクラーラの傍で自動機兵が直されていくのを見ていた。

 その間星は彼に幾つか問いかけ、話を聞く。彼が放った言葉から、スヴァローグは地髄というエネルギーの管理と、下層部の存続のために動いていることを星は知った。スヴァローグたち監督ロボットの行っていることが、ヤリーロ-Ⅵに非常に大事であることも。

 この惑星でも得意なことを各々が担当し、発展に寄与している。人々の相互関係を星は感じ取った。

 

 

 クラーラは手際良く修理を終え、額を袖で拭う。問題なく動き回る自動機兵を見て、クラーラはにこりと笑顔を見せた。彼女はスヴァローグに言葉をかける。

 友達が誘ってくれた場所に、スヴァローグもついてきてほしいと。ファイトクラブであることを聞くと、スヴァローグは彼女が行くことに反対していたが、最後にはお願いに折れた。

 

 

「戦うのは嫌だけど…。クラーラもいつかスヴァローグみたいに、みんなを助けたいから…。」

「クラーラは下層部の人間に好意的に見られている。加えてクラーラは、既に彼らに対して助勢を行っている。」

「クラーラは、スヴァローグに愛されてるね。」

 

 

 クラーラは小さく拳を握り、ボクサーの真似をしてみていた。スヴァローグはその姿を、赤いカメラアイでじっと見つめる。

 

 

 そして星は二人と共にクラブの前へ行って、フックたちモグラ党の子どもと合流し、もう一人の知っている顔とも合流する。白いローブを被った狼は、星たちと同じ目的をもって下層部へとやってきていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。