月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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歳陽と猟剣士

 修練場から白珠が離れた後。星たちは、朱明の戦士たちの訓練風景に圧倒されていた。そして、朱明の人間が軽装である理由がよく分かる、施設内の熱気にも。外は涼しいくらいであったのに、ただ立っているだけでも個々の額に汗が流れる。

 案内係に連れられ、星と白露は後方に、フォフォとサユは火玉のような若い歳陽が飛ぶ場へと向かうことになった。フォフォは頭を押さえ、浮かぶそれに恐怖を感じていた。

 

 

「朱明って本当に、歳陽がいっぱいいるんだ…。ひ、ひええ!来ないで…!」

「鋳煉宮の奥に行けば、もっといるはずだ!これくらいで怖がるな!」

「も、もっと…!?うう…アタシ、帰りたい…。」

 

 

 フォフォを分離したシッポが叱責し、彼女の背中を押すように動く。フォフォ以外の三人はそれぞれ彼女を励ました。項垂れながらも、フォフォはゆっくり修行場へと歩いていく。

 

 星は離れていくフォフォとサユの後ろ姿を見ながら、二つのことに気がついた。一つはサユの体から今まで見たことが無いほどに緑色の炎が揺らめいていること。もう一つはフォフォの後を、複数の人影がついていっていることである。星はその人物たちについて、白露に尋ねる。

 

 

「白露、あの人たちって…。」

「うむ。フォフォと同じ十王司の判官じゃ。朱明にも判官はおる。大方フォフォの護衛か、修行の様子を記録するために来たのじゃろう。」

「秘密組織のはずなのに、結構表に出てくるね…。」

 

 

 星は白露と雑談しながら、二人の修行風景を見守る。

 

 

 サユとフォフォはそれぞれ少し離れた場所に立つ。サユはまず朱明の融合戦士の修行を観察した。フォフォは既にシッポと一心同体と呼べるほどであるため、術の特訓へと取り組んでいる。護符を使った判官の封印術はサユにとって興味をそそられるものであったが、自身の肉体に集中すべきだと考え直した。

 

 

「嵐神顕現…。」

 

 

 サユが呟くように言うと風が球状に集まり、嵐神と呼ばれた歳陽が姿を現す。獅子のようで、一度目を離せば別の獣の形を変える純エネルギーの塊。それは、くるりとサユの体を一周する。

 目を閉じ、彼女は瞑想を始め、幾度も繰り返してきた問いかけを頭の中で思い浮かべる。何故己は、言葉を紡がないのか。

 

 無垢な歳陽が漂い精気に満ちる環境であっても、嵐神は黙り込んだままである。

 

 フォフォと共に星たちのところに行き、三回の水分補給を挟みながらも、時間だけが過ぎていく。サユは焦りを募らせると同時に、諦めの感情も現れ始める。

 

 

「主は、確かに人格を持っているはず。何故黙ったままなんだ。…ここでも拙と話してくれないのか?」

「…おい、そこの小娘。待っていてもこの歳陽は喋りださねぇぞ。」

 

 

 サユの肩口から、粗暴そうな男性の声が聞こえてきた。サユが一度瞑想を止め振り返ると、狐に似た大きな緑の火球、シッポが浮遊していた。フォフォが慌てた様子で近づいてきて、頭を下げる。

 

 

「シッポ、邪魔したらダメだよ…!ご、ごめんなさい…すぐ離れるから…。」

「フォフォ殿、拙にとっては寧ろありがたいことだ。…やり方が間違っていることか?」

「な、ならいいんだけど…。」

「話す気がないんだよ!だが、お前が弱るのを待っているわけでもないな。この変な歳陽は何だ?」

「拙にも分からないことばかりだ。仲間から受け取った歳陽であり、手が加えられているとしか。」

 

 

 シッポは歳陽とサユを交互に見て、浮かばせた顔を理解できないとばかりに歪めた。そして言う。歳陽は本質的には、サユに憑依しているのではないということを。シッポが視線を向けた先は、サユの背負っている黒い特大剣のようなクナイであった。

 

 

「体の中に隠れているように見えたが、本体は剣の中だ。」

「なんだと?だが、拙の仲間は確かに、肉体と同調させたはずだぞ。」

「その時のこと、忘れてるんじゃねぇのか?」

 

 

 サユは普段から常人よりも回転し続けている頭を捻り、人工歳陽を受け取った時のことを思い出そうとする。だが不思議なことにその記憶は靄がかっており、断片的にしか浮かんでこない。

 サユが唸っていると、フォフォが助け舟を出す。

 

 

「ねえ、シッポ…サユさんのこと、何とかならないかな…。」

「…仕方ねえ、この浮かんでいるやつにうろちょろされるのも目障りだ。俺様が見てやるよ。」

「えへへ…シッポ、最近優しくなったよね…。」

「黙ってろ!」

 

 

 素直にシッポが応じ、フォフォは微笑む。シッポは声を張り上げるが、この環境に気分が高揚しているため、本気の怒りではなかった。

 戸惑うサユに対し、フォフォとシッポが簡単な説明をする。シッポがサユの中に入り込むことで、記憶を漁り、忘れかけている事象を思い出させるのだと。

 

 

「かたじけない。シッポ殿、お願い申し上げる。」

「じっとしてろ。それで、この歳陽を初めて見たときのことを思い浮かべろ!」

「う…さ、寒い…。」

 

 

 シッポが体内に入り込んだ瞬間、サユは凍えるような寒さを味わう。そして彼女の意識が暗転し、精神の奥底へと沈む。

 

 

―――――

 

 サユが意識を失った瞬間、シッポは彼女の精神世界へと入り込んでいた。強く思い浮かべられた描写が、シッポの前に像をなす。シッポはぷかぷかと宙に浮かびながら、サユとオムニックの少女の虚像に近づいていく。

 

 

『ねえ。最近睡眠時間が安定してきたのに、本当にこれ以上を望むの?』

『無論だ。このまま生活していれば、拙はいずれ■■できず、眠り続けることになる可能性が高い。智械黑塔の研究も手伝えなくなるぞ。』

『…いいよ。試してみて。』

 

 

 シッポが見ていると、すぐさま二人の虚像がぐちゃぐちゃに四散した。掻き乱されるように消えた記憶にシッポは苛立ちながらも、疑問を持つ。思い出したくなかったり忘れていただけでは、このように虚像が消えることはないからだ。

 

 

「ああ?一番大事なところが見れねえじゃねえか!とりあえず、先のも見てみるか。」

 

 

 彼は横に方向転換し、サユの歳陽に関する記憶を覗きに行く。同じような描写であり、変わっているのは歳陽の大きさだけ。登場する少女たちの言葉は虫食い状態で、聞き取ることも難しい。

 精神世界を巡り続け、ついにシッポは端にまでやってくる。虚像すら崩れかけた少女たちが、真剣な面持ちで話し合っている。

 

 

『■■に移したから。これで■■■は無くな――でも、気をつけて。使えば使うほど、■■は抜け落ちていく。』

『承知。絶対に■■だけは■れない。』

「これで終わりかよ!何を言っているのかさっぱりだ!…おい。」

 

 

 シッポはじろりと目を尖らせ背後を向く。何もない、再現された記憶の背景でしかない壁。そこからぬるりと影が現れた。

 

 

 その影はサユよりも濃い、桃色の髪をした女性の姿をしていた。シッポはその正体にあたりをつけていた。

 

 

「お前が、あの小娘の剣に入っていた歳陽か。何もかも変な奴だな!感情を養分にするんじゃなくて、記憶を食い荒らすとは。一応聞くが、どこの一派だ?」

「シッポといったか。妾は仙舟の外で生まれた。仙舟の同胞が、妾のことを知るはずも無かろう。」

 

 

 シッポの推測は当たった。人型の歳陽に対し、シッポは言葉を投げつける。

 

 

「お前の出自は、俺様にとってはどうでもいいんだよ。だが丁度いい。黙っていたわけを話せ。」

「シッポ。それを話す前に…汝は、己が全てが作られたものであったとしたらどうする?記憶も肉体さえも、全てまやかしであったとしたらどうじゃ?」

「こっちが聞いてるんだよ!…歳陽一族は、大歳陽から生まれるだろうが。想像もつかねぇな。」

「…そうじゃろう。しかし妾は、元より紛い物として作られた。…サユと話さぬわけは、この事実を一時も思い浮かべたくないからじゃ。必要だから話さねばならないが、この時間さえ妾は厭うておる。」

「はっ!俺様もだ。意見が一致したな!」

 

 

 深くため息を吐いた後、滔々と古めかしい口調で話す歳陽。シッポは話を聞き、目の前の同族の境遇がいかに特異であるかを理解し始める。

 

 歳陽曰く、己はオムニックの才女が研究の際造られた副産物であり、一つの目的を与えられた。それは、サユが武器を握った時、日々サユの頭に蓄積し続ける記憶を食い、脳の損傷を防ぐこと。

 実際に存在した人間の人格データを混ぜられた傀儡。それこそがこの人工歳陽の正体であった。シッポは歳陽からサユの出自も聞く。遺伝子をデザインされた強化人間であり、思考さえも際限なく記憶できる脳を持っていることを。

 

 

「――妾に植え付けられた記憶は、絶望そのものであった。肉親である妹が死に、失意のままに後を追う亡国の貴族。妾にとって大事なものであっても、それはとうに失せており、まやかしでさえある。だが…サユを見ると、妾の感情が揺さぶられるのじゃ!記憶の中のまやかしの妹と、あの子が重なって見える!だから妾のことをサユが気にせぬように、この記憶を余分に食ったというのに…。」

「…だから、話したくないってか?癇癪を起こした後、自分の部屋に閉じこもる子どもかよ!歳陽らしさの欠片もないやつだな!」

「な、妾の苦しみを理解できぬ汝に…!」

 

 

 シッポは怒る人型の歳陽に対し、語気を荒げて言う。発破をかけるため、鈍感であるかように変わらず口汚く。

 

 

「別の場所で生まれていようが、同族を慰める趣味はねぇんだよ。お前、記憶がどうの言ってるが、小娘の都合の良いように生きることを望んでやがるじゃねぇか!人間と仲良しこよししやがって…それは植え付けられた記憶は関係ない、お前自身が選択したことだろうが!」

 

 

 目を瞬かせた人工歳陽は、シッポが放った言葉の意味を理解し、俯く。

 

 

「…ふ…随分甘いのう…。」

「これだけ長々俺様に言う気力があるなら、小娘の方に話しやがれ。…表に出ても、俺様には話しかけるなよ。」

 

 

 歳陽は顔を歪めて、シッポの言葉を噛み締める。シッポは、歳陽の目からエネルギーの粒がぽたりぽたりと垂れるのを見ないことにして、サユの精神世界から離れる。こんな面倒なことはこりごりだと、愚痴をこぼしながら。

 

 

―――――

 

 サユの意識が暗闇から引き戻される。シッポはサユから離れ、ぶっきらぼうな調子で言った。

 

 

「…シッポ殿、どうだった?何か分かったか?」

「しょうもない理由だったぜ。お前の剣に入っている歳陽が、自分でわけを話すだろうよ。」

 

 

 サユは背中から特大のクナイを抜き、黒い鏡面を見つめる。飛び回っていた風の球はふっと消え、歳陽の本体が浮かび上がる。獅子ではなく狐のような姿に固定された火の球が、サユの前で止まる。発した声は、女性のものだった。

 

 

「…サユ。汝の言葉に答えずにいて、すまなかったのう。同胞のおかげで決心できた。妾の話を聞いてくれるか…?」

「うん。まずは嵐神…のことをおしえてくれ。本当の名前があるのだろう?」

「その通りじゃ。妾の名前は…ヤエ。そう呼んでおくれ。」

 

 

 桃色の火球である人工歳陽は名乗った。

 遠い、どこかの世界で命を落とした少女の記憶。刻まれた八重の名を、自分として再定義するために。

 

 

―――――

 

 報告を受けた私は、星たちと待ち合わせをする。雲璃という少女と共に食事し、手合わせすることもメッセージで送っておく。そして白珠、合流してきた雲璃と大殿を出ることにした。雲璃が同行するから装備するのは最低限でいいと懐炎から言ってもらったため、彼の言葉に従い機械装甲を部分的に取り付ける。

 残念ながら懐炎は今回、食事を共にできない。彼は去る前、ぼかしながらも重大な会議があると話した。

 

 

『仙舟同盟全体で練っておる策だ。これだけは話してもいいだろう。…こういうやり方は好かんのだが、これこそあやつらの考える最善か。』

 

 

 背を向ける前、彼の瞳は憂いを帯びていた。外部に漏らせない作戦は、組織が巨大であればあるほど多くなる。私は懐炎に頭を下げ、彼を見送った。

 

 星槎乗り場まで来る。移動の間、白珠と雲璃は仲睦まじくコミュニケーションを取っていた。雲璃は白珠の尻尾にくっつき、近況を話している。私は二人の後につき、星槎の土台へと足を踏み込んだ。

 

 

「――最近まで霊砂ってお姉ちゃんが羅浮から来てて、炎庭君のところで修行してたんだ。私が小さい頃にも何回か留学しに来てたみたい。」

「羅浮に行ったとき、聞いたことがあります!丹鼎司の次期司鼎候補で、とても優秀な女性ですって!」

「うん、炎庭君はすごく褒めてた。白珠お姉ちゃんと同じくらい、いい匂いだったな…。…あなたも、だいぶ手入れをしっかりしてるんだね。獣臭くない。」

「手入れは欠かさず行っている。…場所を取ってしまってすまないな。詫びとして、料理店では君の好きな物を沢山注文してくれ。」

「そんな気にしなくていいのに。私が朱明一美味しいと思ってる店、教えてあげる。」

 

 

 私の体で大部分が埋まった星槎が白珠の操縦によって飛び、目的地で停止する。融合戦士が修行場がある地点だ。待ち合わせていた星たちがこちらに気づき、歩いてくる。サユの体を見ると、背中から今まで纏ったことのない色のオーラが零れている。サユが人工歳陽との対話に成功したことを星たち伝手に知ったが、実際自らの目で見ても、彼女が新しい段階に進んでいるのはよく分かった。

 私は汗ばんでいる星たちに目をやり、どういった物が食べたいかを尋ねる。雲璃が教えてくれるという店に、食べたいものがあるか確認するためだ。

 

 

「おお雲璃、久しぶりじゃな!やっぱり朱明なら、甘じょっぱい味付けの菓子がよいな!」

「私は銀河打者、よろしく。最初はロングセラー商品から食べるべきだよね。」

「雲璃だよ。白露以外知らない人…。…ねえ、あなた。あなたが背負ってるの、もしかして歳陽が入ってる?」

 

 

 星たちと雲璃が自己紹介し合い、それが終わったとき雲璃はサユをじっと見つめた。彼女の口から飛び出してきたのは、友好的でない低めの声であった。

 歳陽を材料に使い作り出された、父の「魔剣」を雲璃は狩ってきた。父の過ちを償うため、危険だと結論付けた魔性の剣を人の手に残らないようにするために。

 だが雲璃の父、含光が作った「魔剣」でない武器はどう判断するのか。私は予測しながらも、懐炎から詳細を聞いていなかった。

 

 雲璃は威嚇するようにサユの背中を睨みつけ、サユは首を傾げる。

 

 

「そうだと言ったら、主はどうするつもりだ?」

「歳陽を材料に出来る職人は少ないけど、全部危険であることには変わりないから…できれば溶かしたい。」

「これは拙が、手間暇かけて作ったクナイだ。絶対渡さないぞ。」

「あなたが作った!?溶かす理由が一つ増えた。それだけの歳陽を封じ込めた剣…あの人と同じ道は辿らせない!」

「…狂风様、ご説明をいただけますか?」

 

 

 雲璃の鬼気迫る表情に対し、サユが困った顔で私を見る。白珠と白露は同じように額へ手を当てており、星とフォフォは戸惑っている。

 私は、雲璃が何故こんなにサユのクナイに反応しているのか、簡単に話す。雲璃は歳陽が使われた武器を目の敵にしており、剣を狩って熔兵剣炉で溶かしていると。

 これ以上のことは雲璃本人しか語れない。雲璃は白露が差し出す飴玉を舐め、眉をしかめながら大きく息を吐く。

 

 

「私、魔剣のことになると、いてもたってもいられなくなっちゃって。…初対面の、私より小さい子に向ける態度じゃなかった。ごめんなさい。」

「大丈夫だ。だが、主がいいなら拙たちに事情を聞かせてくれないか。その強い憎しみの念は並大抵の経験では現れないものだ。手合わせのとき悪感情は持ってほしくないし、何より拙はとても気になる。」

「…場所を移そうか。それに、ご飯を食べた後でも話は出来る。」

 

 

 私が提案すると、雲璃は頷き食事処へと案内してくれる。鼻孔を甘い匂いがくすぐった。

 

 食事の場では、陰気はなしだ。雲璃は感情を使った分多くを食べ、星たちも施設内で消耗した分を取り戻すように食べた。私は少しでも味を感じ取れるように香辛料を大量に入れ、焼いたひき肉を食べた。

 

 

―――――

 

 朱明の料理を腹いっぱいに食べた星は、一足先に店の外へ出る。腹は膨れたが、あまり味を楽しむことは出来なかった。ならば手合わせした後、気分良く菓子を頬張ろうと、星は計画した。

 

 星より先に、頭頂に飾りをつけた黒髪の少女、雲璃が出ていた。雲璃の小さな体躯の横には、巨大な剣が立てかけられている。彼女もサユのように、この大きな武器をぶん投げるのだろうかと星はぼんやり考える。

 星がじっと特大剣を見つめていると、雲璃は視線に気づき話しかける。

 

 

「あなた、剣ちゃんが気になるの?」

「うん。食後の運動がどれだけ激しくなるか考えてた。」

「それじゃあ、銀河打者…?も私と試合をするの?」

 

 

 雲璃は、先ほどの自己紹介を思い出しながら言う。星は左手を腰に当てて返す。衣服に引っ掛けていたバットを右手に掴み、肩に担いだ。

 

 

「私は星。雲璃の言う通りだよ。この相棒で相手する。この場にはいないけど、ゴミケーキっていう猫みたいな生き物も武器として運用予定だね。」

「…不思議な人。でも、あなたの持っている“剣”は、随分懐いているみたい。腕が立つんだね。」

「それって武器の声を聞けるっていう特殊能力?すごいね。バットちゃん、これからも生涯の友だよ…!」

「…変な人。」

 

 

 星がわざとらしい調子で言ってバットに頬ずりし始めると、雲璃の表情が少し歪む。バットから聞こえてきた声が、あまりにフレンドリーで、頬ずりを喜んでいたからだ。こんなにも性質が持ち主と似ることがあるのかと、雲璃は思った。

 

 

 しばらくして、白珠や狂风たちが会計を終えて出てくる。雲璃は年長の二人に礼を言った後、目的の場所へと案内する。今の時間人が少ない、修練用の演舞台。

 

 懐炎は雲璃を呼び戻したとき、狼と手合わせするのはまたとない機会であると言った。雲璃は懐炎の狙いを理解しながらも、自分の経験にもなると受け止めた。狼たちと試合をすることで、また一つ猟剣を完遂するために必要な力が得られると、雲璃は考えたのだ。

 

 雲璃は鍛冶の熱気がなびく演舞台にて、一人の少女と向かい合う。風を纏った年齢以上に幼き見た目の少女は、顔の前で印を結ぶ。

 まず手合わせの前に、彼女を試す。雲璃は身の丈以上ある熔鉄剣骸を握り締め、歳陽に心を奪われていないのか、冷静に観察を始めた。

 

 

―――――

 

 同時刻。長くを生き仙舟を守ってきた翁、懐炎は会議を終えた後、異変を感じ取った。幾度も将軍の座を降りていようと皆から望まれるのは、彼の実力が非凡を超越しているからに他ならない。

 直感的に嗅ぎ取った、不穏の匂い。懐炎は鋭い瞳で、焔輪鋳煉宮の中心を睨みつける。

 

 

「…愚かな鼠が入り込んだか。全く、老いぼれをこき使いおって…。」

 

 

 懐炎は白き笠を深く被り、部屋を出る。彼の背中には、忍び込んだ不届き者への怒りの炎が焼きついていた。

 

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