月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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第九章 交差する運命、多様な「解釈」
開演前


 仙舟「朱明」を離れてしばらく。宇宙船の人員は次の目的について狼に共有された後、自由に時間を過ごしていた。

 宇宙船の自室にて、星はゲームをしながら、仲を深めた人たちとのメッセージを確認していた。特に、仙舟「羅浮」に戻ったフォフォとのやり取りは活発に行われており、彼女が直近で経験したことは、星に好奇心と微笑ましく思う気持ちを同時に与えていた。

 

 

「配信者デビューか…。まさか二人が知り合うとは思わなかったな…。」

『何、配信?』

「ああ、リアルの友達のことだよ。あんたは心霊系って見たりする?」

『…ホラゲーはやることもあるけど。顔出し実写はNG。』

 

 

 星は、フォフォが共有してきた配信用アカウントを見ながら呟いていた。フォフォを含めた四人組が心霊系の投稿をしているアカウントである。フォフォ以外の三人の中には、星が見知った姿があり、わざとらしくキメ顔を披露している。星は、投稿されている「心霊」の正体が歳陽であるとすぐに分かった。朱明で恒星のごとき個体から、浮遊する小さいものまでたくさん見てきたからだ。

 短期間ではあるが、フォフォの実力を見てきた星にとって、彼女の活躍は自分のことのように嬉しかった。

 

 星の呟きを拾い、通話相手の少女が返答する。星がゲーム内で知り合った、ネット友達である少女。幼さが残る喋り方で、通話相手の少女は自分の考えを隠すことなく言う。顔も知らない相手であるが、星はこのネット友達に妙な親近感を抱いていた。

 

 協力型のゲームで星とその少女は一通り遊び、無事仮想敵を倒す。指を柔らかくほぐした後、星は時計を見た。

 

 

「…あ、もう時間だ。シルバーフィンガー、また時間が空いてたら遊ぼう。」

『もう切り上げるの?早くない?あと一ボスくらい倒そうよ。』

「最近運動にハマってるんだ。だからまた今度にしよう。」

『いつの間に。オッケー。…あ、通話切る前に一つ話しておく事があったんだった。』

 

 

 ユーザーネームで星は彼女のことを呼び、付けていたヘッドホンを外そうとする。少女は星を一旦呼び止めた。そして星に軽い調子で話す。

 

 

『私の友達がピノコニーに遊びに行くらしい。「流星」と気が合いそうだから、友達の友達ってことで会ったらよろしく。』

「リアルの友達?」

『いやネットの。「流星」とも偶に協力プレイしてる人。』

「花火って人?誰だか分からないじゃん。」

『そう。彼女ネットリテラシーないし、見たらすぐ分かるよ。それに、こいつ、ヤバい…!って思うはず。話したかったのはこれだけ。じゃバイバイ。』

 

 

 通話が切れ、星は首を傾げた。通話相手とも顔を合わせたことが無いのに、なぜこの話をしたのか。彼女は理解できなかった。

 星はすぐに気分を変えて、ゴミケーキを片手に、狼から受け取った「不落」を担いで、自室を出る。バットはコートに引っ掛けてある。星は不落をより扱えるようにするため、白いトレーニングルームへと足を運んだ。

 

 

―――――

 

 星が通話を切った後。どこかの星系で、少女が椅子を傾けて伸びをした。くるりと巻かれたポニーテールに、近未来的なストリートファッションを着こんだハッカー、偽名を銀狼という少女。銀狼は移した拠点にて、仮に作り上げた自室から出て、「協力者」の待機している空間へ足を運ぶ。

 その広めに取られた空間には、指示を待っている黒いスーツ姿の幾人かが座り込んでいた。そして銀狼に気づき、声をかけてくる人物が一人。その女性はカフカと名乗っている。

 

 

「あの子とは「脚本」通り、楽しくお喋りできたかしら?」

「まあね。…警戒心がまるでない。変わったところはそのくらい。」

「エリオの狙い通りね。」

「サブクエストの方が上手く進んでる。メインと並ぶ日も近いかも。ああそうだ。サム…あなたもピノコニーに向かうんだよね?」

 

 

 銀狼が、唯一スーツを着ず立っている鉄騎の名を呼ぶ。西グラモスの生き残り、サムが振り返り銀狼の言葉に返した。

 

 

『はい。ですが彼女に会うことはないでしょう。私の任務と彼女が交差することはありません。』

「…考えれば考えるほど不思議。あなたじゃなくて、他のメンバーの方が取り持つのに向いてそうなのに。」

『脚本には、全てを偽るように書かれています。サムとしてではない振る舞いであれば、任務の達成は可能でしょう。』

「確かに。隠れ蓑は何重にも用意できるし、楽勝といってもいいか。」

 

 

 銀狼たちが話していると、他のメンバーが立ち上がり準備をし始める。各々の「脚本」が準備されたのだ。銀狼、サム、カフカも脚本を見直した後、行動を開始する。

 星核ハンターは現地住民の生き死にを問わず、過激なやり方を以て星核を手中に収める。望みをエリオが叶えるという契約の元に、自分自身の目的のために星海を惑わす。

 

 

―――――

 

 星はこれまでより規則的に生活し、今日もまたトレーニングルームに入り込む。ルアン・メェイの研究施設がある星系に着くまで後2システム時間だと、オムニックの少女、智械黑塔の自動音声がアナウンスする。

 星はゴミケーキを、安全に観戦させるため離れた場所に置き、巨大な斧槍「不落」を両手で掴む。彼女の服装は普段の装いとは違って、黒いトレーニングウェアのみだ。

 

 身長以上の「不落」を振り、額から汗を飛び散らせる。振れば振るほど、星の手に不落が馴染んでいく。一心同体になったような感覚を彼女は感じ取っていた。

 

 

「――百七十九、百八十!…いい感じ!」

 

 

 星の体からは、微かに風が流れる。巡狩の力、その一端である。だが、豊穣の忌み物を狩るためだけに星海を駆ける嵐と彼女は、深く繋がることはない。巡狩を突き詰めた先にあるのは殺しの道であり、星はその真逆、人を大切に思う感情を持っているからだ。

 道の最初で止まっていても、得た力は無くならない。元々持っていた「壊滅」の指向性、以前得た「神秘」、そして「巡狩」。得た力を合わせられることこそ、星の可能性なのだ。

 

 

 星は姿勢を正したまま、「不落」を実戦での運用を想定した上で大きく薙ぐ。三百回目で不落はぴたりと止められ、滝のように流れた汗を彼女は持ち込んだタオルで拭いた。

 星はゴミケーキの元まで歩き、にゃあと言葉を紡ぐ仲間と共に戦術を練る。その創造物は、ゴミのことしか考えていない訳ではなく、共に部屋で暮らす星の相談に乗っている。

 

 

「確かに。距離のバランスも大事だね。次の運動では、バットとの兼ね合いも考えよう…。」

 

 

 特殊な共感覚ビーコンを用いてゴミケーキと会話し、次のトレーニングを考案する。トレーニングと作戦会議を繰り返すことで十分、ニ十分と時間は過ぎていく。宇宙船の人員が呼びに来る前にシャワーを浴び、星は共有スペースへ足を運んだ。

 

 

―――――

 

 私は業務の手を止め、全員が集まったことを確認する。狐族の女性、停雲については、星とサマンサが顔を合わせたことがある。ならば最初に会うのは、私と彼女たち二人にするのがいいだろう。一時的な保護であっても、最初の迎え入れは大事だ。

 私たちの宇宙船が星系へと着陸する。私は二人を連れ、ルアン・メェイの研究施設へ向かった。

 

 

 ルアン・メェイが普段食事を摂っている施設の前にきた。既に連絡は済ませているため、中にいるはずの彼女に対して声を発する。私に気がついたルアン・メェイは扉を開け、順々に私たちの顔を見た。

 

 

「こんにちは、助手さん。そして宇宙船の二人も。彼女の容態は既に安定しています。こちらへ、ついてきてください。」

「あんた…私に連絡してくれる話はどうなったの?」

「星、怒っているのですね。申し訳ありません。慣れない交渉続きで、時間を取られてしまいました。ここまで多くの人と関わるのは、本当に久しぶりだったんです。」

「…いいよ!ちゃんとした理由だしね。」

 

 

 星とルアン・メェイの会話は、見た目以上に幼いやり取りに見えた。星の言葉を押さえようとしたサマンサの鉄騎は、伸ばした手を下ろす。

 停雲を保護する前に、聞きたいことは山ほどある。特に研究内容と、仙舟同盟とルアン・メェイを取り巻く背景についてだ。私は、研究施設の間を先導するルアン・メェイに一つ一つ尋ねていく。

 

 

「――メッセージに残らないのであれば、話してくれるか。ルアン・メェイさん、貴女は何を取引したんだ?」

「お話しします。最初は、私と彼女との個人的な取引でした。壊滅の残滓を体に宿した彼女は、その源を辿ることが出来ます。」

「本当か…まさかあの、神出鬼没な幻朧の居場所が分かるとは。」

「はい。そして彼女は、幻朧の本体を研究材料として提供することを交渉しました。私が行っている使令の研究において、絶滅大君の体は貴重なサンプルになります。」

「なるほど…仙舟同盟と貴女にとっては確かに利がある。だが、停雲さんは…。」

 

 

 取引内容は分かりやすく、利益を考えた結果行われた契約のようだ。しかし停雲については別だ。偶然探知能力を得たとしても彼女は商人であり、戦う人ではない。幻朧の被害者でしかないのだ。停雲が亡くなったという情報も、計画を成功させるために練られた策の一部だろう。

 

 その能力を取引材料にすれば、折角拾った命が危うくなる。平穏な生活に戻れるとしても計画が終わった後だ。私はまだ彼女と顔を合わせていないのに、その決断からは強い感情を読み取った。

 

 ルアン・メェイがある扉の前で立ち止まり、言う。

 

 

「着きました。ここで彼女は待機しています。」

「ルアン・メェイさん…開いてくれ。」

 

 

 私が促すと、大きな扉がスイッチによって開かれる。部屋に置かれたテーブルの前で座っていたのは、黒髪の狐族であり、確かに私の知る少女だった。

 

 

 星は鉄騎と顔を見合わせ、私の脇を潜り抜ける。停雲は、口元に手を当てて驚きを露にしていた。私は彼女に挨拶する。

 

 

「狂风様に、あのときご助力いただいたお二方…!ルアン・メェイ様の助手の方とは、まさか貴方様のことだったのですね。そしてお二方も、狂风様のご関係者だったとは思いもよりませんでした…!」

「こんにちは、停雲さん。生きていて良かった。」

「…良かった。体調は良さそうだね。私は星。こっちはサマンサだよ。」

『鉄騎の一人です。…ルアン・メェイさんのお話通り、生命活動に支障はないようですね。』

「狂风様、お久しぶりです。星様にサマンサ様。一度お会いしただけでしたのに、ご心配下さるなんて…。ありがとうございます。」

 

 

 停雲は温和な笑みを浮かべ、頭を下げる。星、サマンサの鉄騎は停雲の容態に対して、安堵の息を零した。

 私がルアン・メェイの研究に助力すること、停雲の保護も行うことを伝える。物腰柔らかな彼女は、ほうと息をついた。

 

 

「貴方様の庇護下に…仙舟以外では、この上なく安心できる環境でございます。」

 

 

 停雲から話を聞いたところ、彼女の心の内で渦巻く怒りを私は知る。またルアン・メェイがどのように彼女を治療したのかも。

 幻朧が植えつけた「壊滅」の残滓は消えずとも、これまでルアン・メェイが行ってきた使令の研究における成果は、停雲の苦痛を早々に取り除いた。死から引き上げるだけの「豊穣」の力が、停雲の蘇りを確実なものとしたのだ。

 狐族の中でも一際綺麗な容姿をした女性の鋭い感情は、私の心情も揺さぶる。

 

 

「…ルアン・メェイ様のお陰で、私は死の淵から舞い戻ることが出来ました。私は恩人様のため…そしてあの「壊滅」によって殺された、鳴火の仲間たちのため。必ずや其の尖兵に一矢を報いてみせます。」

「私も向いている方は同じだ。停雲さん。今こそ貴女の助けになる時だ。計画が完遂されるまで、貴女を守り抜くことを約束する。」

 

 

 私は停雲に一本指を伸ばし、握手の代わりとする。停雲は初めて会ったときの、交渉事に慣れていない頃と同じように、童のごとく笑った。

 

 そして彼女は、生きていることを仙舟同盟の上層部以外に知られないよう、外へ出るときは仮面を被ることとなった。彼女は仮死し、その時が来れば表舞台に姿を現す。

 それまで停雲は、“帰忘”を名乗る。故郷を離れ名無しの狐族として、彼女はその時を待つのだ。

 

 

―――――

 

 停雲、偽名を帰忘という狐族の女性が、狼の宇宙船に加わってしばらく。宇宙船は、ピノコニーへ向かっていた。

 その間、星は宇宙船の人員の中で誰よりも停雲の世話をし、共に行動していた。与えられた自室に停雲を招き、彼女と話している。

 

 

「帰忘、他の入浴剤が欲しかったら言ってね。あと、尻尾のケアに良さそうなのを予備で持ってるんだ。ゴミケーキの中、毛艶良いでしょ?本当は狐族用なんだから、安心して。」

「星様、何から何までありがとうございます。やはりヒスイノの美容品はとても品質が良いですね。このベッドもふかふかです~」

 

 

 星は棚からゴミケーキに使う前の美容品を取り出し、停雲に手渡す。ベッドに座るよう促された停雲は、次々に並べられる商品を眺め、頤に指を当てる。今彼女の瞳は正しく、商人に戻っていた。

 

 

「帰忘って商人の中でも偉かったんだよね。やっぱり気になるの?」

「そんな大層な立場ではございませんよ。ですが、こうして穏やかに過ごせていると、商談や取引のことが自然と思い浮かぶのです。」

「帰忘、気分が悪くなったらすぐに話して。私たちがついてるよ。」

「お言葉に甘えさせていただきますね。」

 

 

 星と停雲は雑談をしながら過ごし、ピノコニーに入るのかを星が聞いた。星は、心療には良いという話を狂风から聞いている。停雲が望むなら、同行することについては止めないとも。しかし白珠と狂风の話を聞いていたこともあって、今の停雲がどうすべきなのか、星には考えをまとめることが出来なかった。

 停雲はしばらく考えた後、入るという意思を伝えた。

 

 

「皆様からお話を聞いて、星様や狂风様のお傍にいることが安全だと考えを固めました。死の淵を彷徨った後、私は力を得ましたから護身くらいは。」

「それは、この尻尾?」

「はい。放たれる狐火は中々頼もしいのですよ。それに、ほら!」

「ふ、増えた…!」

 

 

 停雲の白き尾は新たににょきと生え、更に三本、四本に増える。星の瞳は輝いた。

 

 

「ブラッシングしてもいい?」

「…お手入れが大変でして、困ったときにお願いしてもよろしいですか?」

「もちろん!」

 

 

 停雲はがっと顔を近づける星に顔を赤らめ、尾を撫でる。星は停雲の揺れる尾をずっと見ていた。

 

 

 それからしばらく日が過ぎ、ついに宴の星、ピノコニーへと宇宙船が辿り着いた。

 超大型建造物、ホテル・レバリーに対し、画像でしか知らない宇宙船の人員は沸き立つ。少女たちが楽しそうにしている中、狼はじっと視線を向けるだけであった。

 

 多くの派閥が集い、役者はもうすぐ揃う。今琥珀紀の調和セレモニーの開始は、すぐそこに迫っている。

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