懐炎と景元は深く頷く。元帥へ決断させる前に、将軍たちが判断したのだ。
景元は、仙舟「羅浮」「朱明」は私たちヒスイノとの協力関係を結ぶことを宣言した。懐炎は「方壺」「曜青」も軍事的な協力関係を作ることに賛同するだろうと推測し、元帥に仙舟の半分以上が賛同したことを認めさせると言った。
「全ての責任は私と、懐炎将軍が持つ。狂风さん。仙舟で生きる民を光矢から守るために、是非とも協力してほしい。」
「…我らには巡狩の力が分け与えられている。例え帝弓が最後にわしらを滅ぼそうとしていても、力は無くならん。燼滅禍祖に弓びく、仙舟同盟の目標と、「抗う者」とは同じ方向を向いておる。ならば、共に戦えるはずだ。」
「…ええ。共に戦いましょう。」
私は掌を出し、握手の代わりとする。今この瞬間から、仙舟「玉殿」「虚陵」がある場所へと、方舟が飛んだ。ヒスイノ星系群にいるオムニックたちへ、智械黑塔が一斉に任務を送信したのだ。
実質的な仙舟同盟との和解を喜びながらも、私の頭には昔から思っていたことが浮かんでくる。
仙舟同盟は「巡狩」の名の元に「豊穣」を駆逐しようとしながらも、全てを駆逐しようとはしない。朱明の歳陽への管理方法の甘さも、長命を求める薬乞いに対しても、ヒスイノに「豊穣」の考えを持った仙舟の民を逃がしたことも。あらゆるところから甘さが分かる。
仙舟の民は、復讐のために豊穣を殺すだけの集団ではない。そうはなれない。
何故なら、人間とは「概念」や「性質」ではないからだ。オムニックだって有機生命体だって、ミーム生命体だってそうだ。色々な情報が集まることで、個としての人格を持っている。
市井の人間は仙舟で平穏に生きることを望んでいるし、豊穣勢力に恨みを持っている人間であっても他のことに目が向く。ご飯を食べる、風呂に入るといった、どんな些細な事であっても、復讐以外のことを行っている。
仙舟の民には、復讐以外に生きる目的がある。それを害するのが星神であるなら、星神に従う道理はない。
私は二人に対して簡単に方舟のことを説明した後、羅浮の様子を確認すると言い残し、神策府を飛び出た。
跳躍し空から洞天を見ると、場所によっては建物が壊れている。視力を高めると、街には多種多様な種族が氷漬けにされているのが見えた。
「剣豪…流石の手腕というべきだな。」
「私も義体を動かして鎮圧してるけど。」
「何から何までありがとう、智械黑塔。私も鎮圧に―――」
智械黑塔の言葉に礼を返した直後、私の耳に聞こえてきた。狼の遠吠え。懐かしい響きをしたそれは、私の感情を激しく揺さぶった。
「…智械黑塔。宇宙船の皆を頼んだ。」
「分かった。」
私は、琥珀の壁を地面から生やして足場にし、空を見上げる。星天演武典礼が行われる場所。準備のため飛び続けている競鋒艦から、力強い遠吠えは響いてきた。まるで私を呼ぶかのように。
私はあそこへ向かわなくてはならない。智械黑塔は特に私へ説明を求めることをせず、頷いた。いつもはしない穏やかな表情を作りながら。彼女の姿に私は旧友の姿が重なって見えた。
「じゃあ、行ってくるよ。」
智械黑塔を肩から降ろし、私は競鋒艦目がけて跳躍する。古き狼の矜持を最後まで貫いた彼に、私の今を見せるために。
―――――
星は、飛霄と共に武器を振るい、羅浮内部の忌み物たちを鎮圧していく。だが飛霄の殲滅力は高く、彼女に比べれば、星はほとんど何もしていないも同然である。
飛霄が走っている合間に、星の動きを褒めた。
「いいわね!修行前もよかったけど、どんどん様になってきてる!」
「ありがとう。運動神経はいいんだよね。」
「自信があるのは良いことね!…そうだ、今度一緒にトレーニングしてみない?武器を振る練習以外も楽しいわよ!」
星はサムズアップを以て、飛霄の誘いに乗る。飛霄は、長いポニーテールを風でたなびかせながら快活に笑った。忌み物の鎮圧は、実力者たちによってどんどん進められていく。
捕縛された忌み物は、放たれた光矢で死なず何とか外へと出てきた幽囚獄からの判官と、別の場所で勤務していた判官たちが対応していく。その中には朱明から戻ってきた、才能あふれる狐族の少女の姿もあった。
そんな中、羅浮全てに響き渡るような咆哮が聞こえてきた。その発生源は、狼たちであった。脱獄した戦首が死にかけの囚人に血を分け与えたことで生まれ変わった者たち。彼らは生き長らえたことに歓びながら、狼血に酔い、民へと襲い掛かる。その集団の中には、今の犀犬猟群の在り方に不満を抱いた狼や、復讐に燃える残り僅かな「古き歩離」たちもいた。
だがそれを止める者は多くいる。仙舟同盟、星穹列車だけでなく、演武典礼のためいち早くやってきた実力者やヒスイノの民たちが。
喰らいつこうとする狼兵を、ヒスイノの狼が横から押し潰し、その巨躯を使って受け止める。
「…久しぶりに、戦うのも悪くない!おい、そこの慧駿。お前も騎士だったろ。」
「確かに、あんた見たことあると思ってたよ。じゃあやるか!」
ヒスイノの慧駿の女性は逞しく育った後ろ脚で、新生した狼を蹴り飛ばす。機械装甲を一時的に外し、商談に来ていたヒスイノの民たちは、一般人の中から立ち上がった。
商人として星海を廻れる胆力がある者に、弱い者はいない。深緑の騎士から転向したものや、巡る医士だったがヒスイノに腰を落ち着けた者。長い生涯の中で、色々な遍歴を経て彼らは商人となった。
狼の不始末は狼が、ヒスイノがつける。民は実力者たちと肩を並べ、鎮圧に向かった。
皆が一丸となって、日常を取り戻す。
そして戦いの中で、星は空を見た。狼の遠吠えが空から聞こえたからだ。星は隣にいる飛霄に目配せする。飛霄もまた空を見て、右掌を掲げるように腕を伸ばしていた。
月のごとき「剣」が、空を舞う。星と飛霄は顔を見合わせ、浮かんでいる競鋒艦へと、暴風を起こし跳んだ。
―――――
私は脚のバネを最大限に活かして船まで跳躍し、その舞台へと手を叩きつけるようにして着陸する。私は前を見た。その瞬間、私の胸からとめどなく感情があふれてくる。やはり私を呼ぶように吠えていたのは、彼だった。
拘束具を付けていようと、変わらない姿。古き歩離を貫き、現在まで囚われ続けていた戦首。
呼雷が、巨大な剣を持ちそこに立っていた。
彼はやってきた私に対して、唸るように言う。そこには疑問が混ざっていた。私は彼の問いに、頷くことしか出来なかった。
「貴様…狂风か?」
「…はい。」
「ふ、ふはは!声で、すぐに分かったぞ!」
呼雷は大きく笑い、口の端を吊り上げる。私は彼の姿を焼きつけるように見た。
本当に変わらない。だが彼が小さく見える。それが示すのは、私の図体が彼よりも大きくなったということ。過ぎた年月が私の体に重くのしかかるような感覚がした。
呼雷は、剣の腹を撫でるように触り、呟く。
「途方もない長さだった…。」
「…呼雷様。」
「…だが、俺の生は無駄にはならなかった。貴様がここにいるからだ。」
呼雷は私の顔をじっと見つめると、大きく息を吐く。そして彼は武器をつかみ取り、前傾姿勢になる。私は彼の動きを見ながら構える。
「狂风…俺に見せてみろ。この700年以上の年月で、貴様が得てきた力を!」
呼雷は張り上げるように大きく吠え、私に切りかかってきた。私は機械装甲を外し、武器もない完全な生身の状態で、呼雷を受け止める。彼から冷たい牢獄の匂いと、あのとき私にくれた温かさを感じる。
彼は変わっていない。だが何もできない幽閉生活において、彼は保ち続けたのだ。
万物に対する憎悪などではなく、誇り高き歩離の強さを。
私は理解した。彼は自らの肉体を以て、知りたいのだ。
ならば、応えよう。考えは違くとも、導いてくれた偉大なる巣父に、私の力を。
「ふはは!なんという力だ!この俺が、赤子のように止められている!」
「呼雷様。私がここまでの縁を、新しい群れを作り上げられた恩。ずっと、貴方に返したかった!」
私は腕で呼雷を持ち上げ、舞台の床へ投げる。呼雷は立ち上がると、斬撃を飛ばしてくる。私はあえて琥珀のバリアを顕現させると、その黒き斬撃を無力化した。
「琥珀色の盾…!面白いものを得たな、狂风!」
「これもまた、縁によるもの。」
私と呼雷は近づき、肉弾戦を始めた。呼雷の攻撃は確かに重い。だが、私の体を突き破るほどの威力ではない。戦首の攻撃を受けながら、私も左拳で一撃を当てる。爪を立てない純粋な殴打。
呼雷は床を滑るように吹き飛んだ。そして腹部を左掌で押さえながら、よろよろと立ち上がる。
「くくく…狼の子らから聞いたぞ。貴様は、豊穣の使令さえも喰らったとな!…大地よ、震えろ!」
呼雷は舞台の床を砕き、ひび割れた隙間からエネルギーの波動を吹き出させる。船だからこそ有効的な戦術だ。私はそれを受け、地面に手をやる。
紅鎧、顕現。
私の体から紅き人型が現れ、垂らした血から、血肉の大樹「倏忽」の似姿を出現させる。実際の倏忽よりも小さいが、雄々しい樹。
呼雷はそれに全身を突き刺されながらも、にたりと口端を歪ませる。
「狂风!こんなものではないだろう!「紅月」が昇る…!」
「…な、それは!あの戦場で使った技と…!」
「ふはは…!戦首代々受け継いできた紅月は、このようにも使えるのだ!…さあ。俺を止めてみろ、狂风!」
呼雷は、胸部の「紅月」を光らせ、背後に月の幻を出現させる。だが彼は攻撃に転じず、ぐぐと背中に力を込めている。紅月の光がどんどんと強くなっていく様子を見て、戦慄が走る。
あれは、呼雷自身の体が、掻き消えていっているのだ。そして「紅月」はやがて剥き出しになり、仙舟「羅浮」で爆発する。「紅月」によって、狼や狐族が狩りの本能を増大させられ、狂いながら苦しむことになる。
だがそれは欠け月や、私の力で治せるものだ。私の焦りは、呼雷が消えていくこと。
彼にとって牢に封じられていることは苦しみだ。だが、呼雷は私に力を見せるように言った。まだ私は彼に言葉を伝えきっていない。彼は私の力に納得できていない。
その時、私の背後ですたりという音がした。私が背後を見ると、そこには鏡流がいた。冷気を纏った双剣を持ち、赤い目で私と呼雷を見る。
「ふん。…狼、今更我らを裏切るつもりか?」
「鏡流!貴様もまだ生きていたか…!」
「…老いぼればかりが集まりおって。どけ、狼。貴様がやらぬのなら、我が斬る。」
鏡流の姿を見て、呼雷がどこか嬉しそうに彼女の名を呟いた。鏡流は小さく息をつくと、冷気を纏いながら呼雷へと近づいていく。そのとき、戦首が悪辣な笑みを思いきり浮かべる。そして彼は空気に溶け込むように姿を消していく。赤黒い靄が天に昇っていくかのように。
鏡流は一瞬眉を吊り上げ表情を変化させるが、呼雷の方へと走った。
『狂风!俺の、最後の意地を見せてやろう!古き狼が辿る道は、継承される!形を変えようと…貴様の心に!』
呼雷は完全に消え、鏡流の手によって「紅月」が砕け散る。だがその欠片は私の体を包み込み、そして体内へと入り込んだ。
―――――
星と飛霄が競鋒艦の演武台へやってきたとき、その場には鏡流と狂风の姿だけがあった。
星から見て、剣の達人だという白髪の女性と狂风は、余り仲が良くないようであった。神策府で初めて会ったときも星の修行中も、鏡流は狂风の文句ばかり口にしていた。
その過程で星は、鏡流が白珠と親交があることを知った。白珠をたぶらかして仙舟から外に出したと、鏡流は表情を怒らせていた。
星は、普段は怒る姿をほとんど見せない狼に、いがみ合う人などいるのかと思っていた。
今も鏡流が剣をしまっていないことからして、相当仲がこじれているのかもしれないと、星は認識を新にする。
「狂风、今回も私は大活躍だったよ。見せられなかったのが残念。」
「…星、まって。様子がおかしい。」
星が狼に近寄ろうとすると、飛霄が手で制止する。振り返った彼の瞳は、いつもの温和なくりくりとした黒目ではなく、赤く光っていた。
狂风は深く息を吐き、口の端を歪めて笑う。
「星、飛霄君…来てくれるとは。嬉しいよ。」
「狂风、それイメチェン?サユが前図鑑を見てたんだけど、そこに載ってたウサギみたいだね。いちご大福?」
「狼が陥っているのは、そんな程度の低いものではない。油断するな。」
「…え?」
狂风は腕を薙ぎ払い、星たちに向かって衝撃波を飛ばした。星は咄嗟の判断で「不落」を構え、風圧を遮る。それを見て、鏡流が狼に斬りかかった。狼はそれを受け止め、冷気の部分だけを握りしめて砕く。そしてそのまま鏡流を振り回した後、剣を離した。
狼は軽く笑い、両拳を合わせる。
「…私は、少し気分が高揚していてな。この昂りが静まるまで付き合ってくれないか…。」
「なるほどね。鏡流、彼は今正気じゃないってこと。そうなんでしょう?」
「剣を幾度か交え、意識はあるが暴力性が抑えられなくなっているという結論に達した。正気でないならば…我の剣を折ってもおかしくはないはずだ。それに、我を殺していないからな。」
「何を言っている…?応星君が打った武器を、ただの手合わせで折るはずがないだろう。貴女が悲しむからな…。」
飛霄の言葉に、鏡流が訂正をする。その会話を受けて、ゆらりとした体運びをしながら狂风は言った。鏡流は短く舌打ちをし、双剣を向ける。飛霄は一瞬二人を交互に見た後、不敵な笑みを浮かべた。
鏡流と飛霄、どちらもが狂风と戦おうとしているため、星は考える。そして彼女なりの選択を出した。「不落」を構え、狼に相対することを選んだのだ。
「…狂风が満足するまでやるよ。今の狂风、楽しそうだからね。」
「君は本当に優しい子だ。…師匠。それに二人とも…少し付き合ってくれ。」
「あたしは飛霄!まったく…先代が言ってたわ!あなた、あたしのことちゃんと見てないでしょ!」
飛霄は息をついた後、目を細めて狼を非難する。狼は眩暈がしたように頭を振った後、体勢を低くして拳を構えた。
「あたしはあたしよ!狂风…狼さん!この機にしっかり、あたしを知ってもらうわ!」
狼と、三人の手慣れは互いに威圧感を与える。そして星の放つ斬撃によって、闘いの火蓋が切って落とされた。
―――――
意識を取り戻した私は、薄暗く何もない空間に立っていた。ぐっと拳を握ると感覚がある。
ここは、メモキーパーのヘッジングが、私を己の精神世界に案内してくれた時に見る場所とよく似ている。ならば私は今、深い場所に意識が落ちているのか。
私は治癒を以て、意識を取り戻そうとするが天井に少し光が射しただけだ。これも「紅月」の影響なのだろうか。
どうすべきか考えていると、私の横に「紅月」を心臓としていた呼雷が現れる。まさか意識空間に入り込めるとは。呼雷は雄々しい声で、私に言葉をかける。
『俺がいるのは、紅月が、貴様の欠け月に取り込まれるまでの僅かな時間だ。』
「そうですか…。呼雷様。貴方は何故、私に紅月を取り込ませたのですか。」
『それは、貴様に継承したかったからだ。そして俺の行動が、結果的に意味を持った。ついてこい。』
呼雷は煙のように消え、ある虚像を作り出す。それは私の生涯であった。呼雷は、終焉を見る前の私から順に、私の記憶を見せていく。
父が死に、母と兄とは二度と会うことはなく。猟群を結成して、古き歩離から見れば異端であっても、強きを見せつけた。そして呼雷に貰った惑星を基点に群れが増強していく。そして猟群として強くなったとき、呼雷は捕えられ、師匠は死んだ。
第二次豊穣戦争前に白珠という導きを得て、戦争の終結へ助勢した。そして数多の世界を巡り、縁を繋げ、できた縁から更なる縁を作っていった。
そして今。私の周りにいてくれる人は、全て縁によって集まってくれた。
『…貴様の望んだ「新しい歩離」は、貴様自身が作り上げた。だが、貴様は自由に星海を駆けているか?』
「はい。充分に。」
『…貴様の記憶と感情を見て、俺はそう思わなかった。貴様は恐れている。奴らの死を。』
呼雷は新しく虚像を作り出す。宇宙船の人員に、白珠と白露。飛霄、今まで出会い、言葉で心を通わせた者たち。そして私の目の前に、死していった親しかった者の姿が映された。チャドウィック、応星、クネーテ、ストリボーグ…師匠。
最後にあるものが、地面に現れた。それは灰色の小さな狼だった。
狼は倒れ込み、息をしていない。
『…貴様は、己を殺した。戦いを心の底から愉しむ本質を!ヒスイノの狼の本質は否定せず、そのための運動施設まで作り上げているそうじゃないか。貴様は駆ける前に、死したままなのだ。』
「呼雷様…そうであったとしても、私はこの状態を望んでいます。仲間が死ぬのは天寿を全うした結果であっても、苦しい。ずっと背負っていくことこそ、私の望みなのです。」
『それで、貴様は苦しみ続けたいというのか。狂风!貴様は、星神にさえ挑まんとしている!俺でも貴様以外の、どの狼でも選べない道を選択したのだ!』
呼雷は死した狼に近づき、ぐるりと竜巻のごとき黒い幕を作り上げた。彼は続け様に、私へと怒ったように言葉を投げかける。私は分かっていた。彼が私を激励してくれていることを。
私は、熱く透明な雫が目から零れ落ちるのを感じる。700年以上も冷たい牢獄で苦しみ続けたというのに、何故貴方はこんなにも偉大なのか。
『一時であっても、戦いの歓びを教えてやろう。苦痛を感じるだけの戦いなど、狼は望まない。』
目の前の呼雷は、姿を変えた。私の記憶の奥深くにいた彼女。顔の似た飛霄に、その姿を探してしまうほど大切だった人。私たちのために死した、師匠の姿へと。
ああ。確かに彼女は、私へ修行をつけてくれるとき、こんな表情をしていた。師匠の影は槍を持ち、私に言う。
「…狂风。構えなさい。」
「はい…!師匠!」
私の体は若く、欠け月さえ取り込んでいない頃。師匠と初めて会ったときに戻っていた。
私は視界がにじむのを感じながらも、心まで子狼のときに戻ったかのように駆けた。師匠と呼雷から、戦いの楽しさを学び教えてもらうために。私は手を組み合わせた。
―――――
紅い瞳の狼は、その強大な力の一端を振るいながら、舞台で踊るように闘う。殺す気で戦っているわけではなくとも、星はだんだんと消耗してきていた。「不落」ともども狼に放り投げられ、星は脳をくらりと揺らしながら、何とか着地をする。
「…昔から我は、貴様が気に入らなかった。我の仲間に距離を近づけ、全てを奪っていく。我の生死さえも…!」
鏡流は普段の冷静な調子を崩し、苛立ったように言葉を紡いだ。剣で、肉を断とうとするも、琥珀の鉱石によって阻まれる。そして狼の裏拳で彼女は演武台の隅へと吹き飛ぶ。
「―――常勝、不敗!」
飛霄が鏡流を見て、一瞬心配そうな表情をするも、帝弓七天将としての力を発揮する。巨大な竜巻のごとき風を呼び、己が大量に抱えた武器、大斧や銃剣を使って狂风に攻撃を与える。
暴風が吹き荒れる中、狼は血肉の大樹を作り出し風に刻まれる血肉を足場にして、飛び上がった飛霄を撃墜する。飛霄はまだ飛び続けるが、狼の生成した巨大な琥珀の柱によって攻撃を中断させられ、床へ叩きつけられた。
「ぐ…まだまだ、これからよ!」
飛霄は顔を歪めた後、ひょいと起き上がり、拳で狼と肉薄する。星と鏡流も彼女に続き、狼へ斬撃と拳を浴びせ続けた。
それから十分の格闘の後。
狼は腕を薙ぎ払い、ふと怪訝な顔をする。星は「不落」を床に突き立て、棒高跳びの要領で狼の体に張りつく。そして耳元で大声を上げた。
「狂风!今日は、ラーメンが食べたいな!」
「…小娘、何を言っている?」
「狂风ってご飯も作れるんだよね。…だから、戻ってきて!そろそろ船の床が修復できなくなっちゃうよ!」
「なるほど、分かったわ!声で目覚めさせるのね。」
動きが止まった狼の耳元に、星と飛霄が、狂风が日常的に行っていることについてと、彼に対する不満の数々を大声で伝えていく。鏡流は目を細めて三人を見た後、小さく息を吐き、背後に回り込んだ。無論、狼への不満を全てぶつけるためである。ねちねちと白珠についてのことを話していく。応星の武器を譲ったことも。
狼の赤い瞳が、少しずつ黒色に戻っていく。それを見た三人は更に声を張り上げた。
―――――
どれだけ経っただろうか。私が、師匠の姿と組手を行う時間はあまりにも楽しく、我を忘れるほどであった。
師匠の後ろには、呼雷の声をした紅い狼が立ち、私と競い合うように組手をする。
ずっとこのまま組手をしていたいとまで思った。だが、この空間の上から声が響いてきて、私は手を止めた。星たちの声だ。
師匠の顔が、白珠に、成長した飛霄に変わり、最後には彼女ら全ての特徴が混ざったような顔になった。三人の声で、呼雷が問う。
「狂风。もういいのか?」
「…はい。私は思い出すことができました。ですから…もう大丈夫です。呼雷様。」
『そうか。…形が無くなろうと、欠け月の中で見ているぞ。貴様が望んだ、最後まで星海を駆ける姿をな。』
呼雷は最後に狼としての姿を現し、背を向けると煙のように掻き消えた。
その場に残ったのは、狼だけ。死したはずの小さな狼が、紅く染まりこちらを向いている。私は心の中で死んでいた感情が湧き上がっていくのを感じる。
積み重なる死を背負って老いたから、新しい世代のため、燃え尽きるまで戦うのではない。力尽きることに対して、何を言い訳にすることもなく。最後まで私自身がそうしたいから、そうするのだ。
私は記憶の中の師匠や、いなくなった者たちを見た。空から聞こえてくる飛霄の声も言っている。私はもう振り返らない。人を重ねてみたりしない。過去を見て立ち止まらず、最後まで走ってみせる。
願わくば最後まで、私が親しき者たちに良き影響を残せるように。
私の意識は浮上していく。偉大なる呼雷の激励を受け、私は内なる獣を駆けさせた。
狂风(純白の狼)…
存護・物理
「豊穣」と「存護」の指向性を持った力を操ることが出来る「使令級」。狼の本質は「壊滅」の性質も持ち、戦いを望む。
蟲を喰らって緑翠に染まり、倏忽の血肉を喰らって血の紅に染まり、力を得て色は抜け落ちた。
純白の狼が遠い昔から望んだ守りは形作られ、彼は更に遠くへ手を伸ばす。
枝が分かたれ、終焉の描写に違いが発生しても、彼は挑むことを止めない。最後まで駆け続ける。
―――――――
「記憶の精霊」と同じ性能の存在を二つ召喚して戦う。巨躯であるため、並んだ場合は他のキャラクターの後ろに立つ形になる。「血肉の大樹」も「紅狼」も狂风より大きいため、全て後方に出現する。
戦闘中、味方全体の最大HPが際限なく増え、そのHPを参照して火力を出す。
他のヒーラーキャラによる回復でも、最大HPを増やすことができる。
―――――――――――――――
通常攻撃 槍連舞 [拡散攻撃]…
指定した敵単体に狂风の攻撃力のX%の物理ダメージを与える。
戦闘スキル 琥珀の盾 [防御・召喚]…
味方全体に狂风の攻撃力X%+Yの耐久値を持つ「琥珀の盾」バリアを付与する、3ターン継続。
「琥珀の盾」を重複して獲得する時、バリア耐久値は累積される。
「琥珀の盾」の耐久値は、戦闘スキルが付与できるバリア耐久値の200%を超えない。
「琥珀の盾」を付与された味方が攻撃を受けると、味方の攻撃力X%の物理ダメージを与える。
加えて、疑似的な記憶の精霊「血肉の大樹」を召喚し、行動するたびに味方の最大HPの50%を治癒し味方全体の最大HPに応じて攻撃する。また味方が攻撃を受けるたびに、味方全体の最大HPに応じて反撃を行う。最大HPは治癒が為されれば為されるほど、際限なく増えていく。
必殺技 琥珀の壁 [全体攻撃]…
敵全体に狂风の攻撃力のX%の物理ダメージを与える。同時に、その時点での味方全体のHPと「琥珀の盾」バリア耐久値割合を参照して追加ダメージを与える。
琥珀の壁が敵を潰し、民を存護する。
天賦 「豊穣」の指向性…
味方が攻撃した後、狂风の「欠け月」+1。「欠け月」が6まで溜まると、味方全体を即座に行動させ、最大HPの20%を回復。最大HPは戦闘時のみ際限なく増え続ける。
秘技 紅鎧 …
秘技を使用するたびに「紅鎧」が1層貯まる。(最大3層)
「紅鎧」は「琥珀の盾」バリアが張られた味方に、敵から攻撃を受けたとき1層貯まる。1キャラクター最大10層。
「紅鎧」はそのキャラクターが行動したとき、即座に追加攻撃を行う。
追加能力…
1.狐族がパーティ内に一人いると、味方全体の会心率+100%、二人いると加えて味方全体の会心ダメージ+50%
2.「狼の宇宙船」の人員が一人いるごとに、味方全体の行動速度+20%
3.通常攻撃を行うと、疑似的な記憶の精霊「紅狼」を召喚する。
「紅狼」は行動するたびに全体攻撃を行い、「狼の号令」によって、敵全体の全耐性を大幅に下げる。
―――――――――――――
紅狼…
紅狼、狂风の内なる獣。攻撃的であり、紅い毛並みをした四足歩行の巨大狼。