月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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最終章
前兆


 私の終焉の描写が、完全に意味を為さなくなった。星神同士の戦いこそが、多くの終焉を引き起こす原因そのものであるからだ。「巡狩」と「豊穣」が直接衝突を始めてからすぐに、私は動き出す。私は「抗う者」が長年作り出してきた情報網、軍事力を駆使して、嵐と薬師が衝突している場所を割り出した。

 

 観測した結果、薬師は嵐に対して攻撃をすることなく、すぐに姿をくらますことを繰り返しているようだ。嵐の光速さえ超える機動力は逃げる薬師を執拗に追い、嵐の攻撃が星海中で虚数エネルギーの衝撃を作り出している。

 衝撃波を受けた惑星についての被害状況を見れば、星間旅行が出来ないほど文明レベルが低い場合、向いていた惑星の面が更地になるほどであった。星間を移動できる惑星であれば、建造物の一部倒壊程度でおさえられている。

 

 この報告から星神の力がどれだけ理不尽であるのか、よく分かる。私は「抗う者」を通して、協力関係にある惑星群の守りを固めさせる。神秘の壁の増強を行えば、防護をしながら、レギオンの襲撃など他の要因での被害も回避することが出来る。

 

 

 私は智械黑塔が高速で思考しているのを横目に、私が戦うつもりだった絶滅大君たちについて考える。「壊滅」の星神、ナヌークと他の星神が争う際、其の尖兵である絶滅大君の存在は、かつてないほど厄介な存在となる。

 単体で星系を滅ぼせる力を持った奴らは、本格的に動き出したナヌークにより、力を分け与えられる可能性があるからだ。

 ナヌークは積極的に使令を作る、自由意思が高い星神だ。星海中を「壊滅」させるなら細かな部分まで手を伸ばそうとし、その結果絶滅大君全てに命令を下すかもしれない。

 

 私たち「抗う者」は、七名いる絶滅大君を倒すことへ躍起にならなかった。これまでの歴史から、幾ら個体を倒そうと補充されることが分かっているからだ。だから私たちは絶滅大君が引き起こそうとする「壊滅」の影響を、保護や壁の建設、治癒によって最小限まで抑えてきた。

 

 だが星神同士の戦いが始まれば、前提は変わる。「壊滅」が過ぎたナヌークを、他の星神が殞落させるまでの間。「抗う者」の実力者たちで、絶滅大君を倒し続けるという手段を取ることを画策したのだ。

 使令の膨大な虚数エネルギーは、其由来のもの。星神同士の戦いの最中、ナヌークがこれまで通り絶滅大君を七名揃え続けるというのであれば、絶滅大君を暗殺することはナヌークの力を削ぐことと同義だ。

 

 「壊滅」の使令を相手取ることが出来るのは、同じく他星神の使令だけだ。つまり、カンパニーにいる「存護」の使令や、その力を分けられた「十の石心」に協力してもらうことになる。星神から膨大な力を受け取ったわけではないが、私や智械黑塔も、命をかけ全力を出すことで補充され続ける絶滅大君へ対抗可能だと踏んでいる。

 

 私たちや仙舟同盟の主力武器となる、「嵐の残した光矢」は確かに大きなエネルギーが秘められている。だが、使令には少しダメージを与えられても、それだけだ。星神に対してはほぼ効かないとも予測されている。

 何故なら、光矢は「巡狩」の星神の弓に引き絞られてこそ、爆発的な火力を発揮するからだ。星神の弓と腕を、人間が再現できるわけもない。そのため光矢については、絶滅大君を足止めするためだったり、大量の雑兵を倒すために使うことになる。

 

 武力衝突の繰り返しによって勝機を得る。「抗う者」はそう計画し、準備を進めていた。嵐が薬師を攻撃し始めるまでは。

 

 

 私は未だナヌークの積極的な動きがないことを、軍事的な協力関係を築いた各勢力から聞く。嵐は現在、光矢を星海の至る所に残し飛びまわっている。薬師に向かって射た矢だ。これらを回収し絶滅大君への攻撃手段は着々と増えているが、この八方塞がりな状況に対して、私はどうすればいいか内心頭を抱えていた。

 嵐に戦いを挑もうと考えても、其は薬師に夢中であり留まらない。これでは良いように動き回られて、被害が増えていくだけだ。

 

 智械黑塔はヒスイノや「抗う者」に対し自身の演算結果を、私を通して伝えた。今は準備をすることが最善であると。

 私はいてもたってもいられない心情を押しとどめ、己の鍛錬に多くの時間を割いている。それには大きな成果があった。私の中の死していた本質が息を吹き返したためか、私が何十年もかけてコントロールしてきた「存護」と「豊穣」の力が、するすると頭の中で整理できているのだ。こんなにも簡単な事だったのかと、驚くほどに。

 

 これなら敗北するか、共倒れすることは無くなると私は確信した。当初の私の予定よりも、多くの使令を道連れに出来る可能性が出てきたのだ。民や未来を生きる仲間に貢献できる割合が増えたと、私は喜ぶ。

 それにもう一つ、紅月を得てから、私は別の種類の喜びが湧き出ていた。私がより洗練された力を使うことが出来れば、強大な絶滅大君たちと戦える時が長くなる。戦う楽しさをより感じることができると。

 

 

 私が席を立とうとすると、智械黑塔が義体の高速思考を止め、じとりとした目を向けてくる。一体どうしたのか。私は「抗う者」の作戦を端末に表示させ、配備した人員が順調に防護を行っていることを見せた。

 

 

「そのデータが何?私も持ってるものでしょ。」

「私が、任務を行っていないことに叱咤したがっているのかと思ってな。君も知っている通り、現在上がった課題は解決されている。だから、空いた時間を鍛錬に費やす。」

「そのことだよ。あなた、なに死に急ごうとしているの?」

 

 

 智械黑塔は眉を吊り上げ、オムニックとは思えないほどに怒りの表情を作り上げた。私の考えを読み取れるのは、彼女の才覚故か。

 私は智械黑塔に指を近づけ、なだめてから話す。

 

 

「星神ナヌークは嵐とは違う。神々が争えば、絶滅大君の強化だけでなく、星神自身が万物を「壊滅」させる可能性があると…そう結論付けたのは君じゃないか。天才たちもそう言っている。…それに後世のためもあるが、私自身がそうしたいんだよ。」

「ふうん…本気で言ってるんだ。」

 

 

 智械黑塔はいきなり私の頭上から肩へ、大量の義体を落下させた後、地面を指さす。義体たちは私の背をぐいと押す。腰を屈めろと言外に智械黑塔は示した。

 私が目線を彼女の顔の高さに合わせると、左腕を腰に当てて右手で私を指さす。

 

 

「あなた、自分の手が届く範囲で助けるって言ってたよね。それに私は、大人しく待つように話したはずだけど。私は天才だけど貴重な時間を割いてまで、あなたたちのことも考えてあげてる。私の考えのどこが不満なの?」

「君がヒスイノや仲間を大切に思うように、私も君たちのことをそう思っている。分かっているだろう。…今できることを考えたんだ。」

「今、ヘルタにも動くように言ってるんだから。戦いに出る準備ばかりしないで。」

「…分かった。」

 

 

 私は再び共有スペースのソファに座り、端末を見る。暇さえあればトレーニングルームに籠ろうとしたのが、裏目に出たようだ。今までは朝の鍛錬のみであったから、智械黑塔を不安にさせてしまったのだろう。

 私は肩を落とし、横にいる彼女の顔を見た。智械黑塔はじとりとした目を、ずっと私に向けてきている。彼女の視線はしばらくしても外れることがない。私は再度、大人しくしていると彼女に伝えると、ふんと音を鳴らし端末を見始めた。

 

 

 そのときだった。共有スペースに招きもしていない者が現れたのは。

 私はすぐさま副脳を出し、拳を握る。智械黑塔はため息を吐いた後、目の前の人間を睨みつける。

 

 

「また貴様か。星を放置しておきながら、彼女に接触してくるなど…。」

『それは必要なことだった。「崩壊」へ対抗するためには、あの子の力が必要不可欠なのよ。』

 

 

 再びホログラムで入り込んできた星核ハンター、カフカは、自身の指先を見ながらそう言った。

 智械黑塔はすぐさまカフカのホログラムを遮断しようとするが、私は彼女を制止した。

 

 

「…智械黑塔、少し待ってくれ。貴様が言う「崩壊」とは何か。すぐに話すんだ。」

『賢明な判断ね。君も確信したということかしら。』

「ああ。確かに私の持つ終焉の描写と、これから星海が辿る道は違っているようだ。」

『エリオから君に伝言よ。「巡狩」の嵐が止まった時、「崩壊」の星神は誕生する。「壊滅」のナヌークが嵐を取り込み、更に多くの因子が「崩壊」を助長させる。…どう?今回も君は、信じる?』

 

 

 私は智械黑塔と目配せした後、僅かに頷いた。少し前、仙舟「朱明」が落ちるという言葉をカフカは残していったが、今の状況を見るに、その文言よりはよっぽど可能性としてあり得ると考えたからだ。

 復讐を終えるか、「豊穣」に対抗する力を失った嵐がどうなるか。学者だけではなく、天才たちまでもがシミュレーションを以て予測を立てている。明示された可能性の内、一つがそれだ。

 

 カフカはエリオの予言を話す。嵐から「豊穣」を殺すという性質が、薬師との戦いの中で除かれるか薄れることで、復讐と冷酷のみを残した暴力装置へと変わる。だが、それらの性質は「壊滅」も持っているものである。

 力を弱めた嵐は、神々の戦いを仕掛けたナヌークに取り込まれる。そして攻撃性を更に増した、純粋に力と命を奪う性質を持った星神になる。これが「崩壊」の星神だと。

 その星神は、更に隠れた星神の因子を取り込み、運命の範囲を広くしていくとエリオは予言した。

 

 

『――今の星海における状況こそ、「崩壊」の前兆。「崩壊」の星神が誕生した後、すぐに対処しなければ終焉に抗う術は無くなる。そうエリオは考えているわ。』

「運命の範囲が拡大し続ける星神だと…智械黑塔、こんなことがあり得るのか…。」

「…どこかに消えた「貪慾」みたい。」

『ふふ、これでお話は終わりよ。同じ、終焉に対抗する者として、別々の道で答えを見つけ出しましょう。』

 

 

 カフカのホログラムはそう言って右手の指を鳴らすと、跡形もなく消えた。

 私はエリオの予言に考えを巡らせる。「壊滅」さえ超える力を持った、底なし沼のような化物が生まれる。それが跋扈すれば、「抗う者」が民を守ることさえ不可能だ。

 私は拳を握り締める。最悪の事態、この予言が本当であった場合。私の力はどれだけ大敵に通用するのか。

 

 考え直す。私が持てる力の全て。それは武力だけではない。人との繋がりも、私の得てきた力の源だ。

 凡百がどう足搔いても到達できない境地に辿り着いている「天才」との縁。彼女たちが「答え」に辿りつくことが出来るならば。

 

 私はまず「天才」に並ぶ智械黑塔に、考えを聞く。彼女がどのように危機へ対抗しようとしているのか。智械黑塔は両掌を頭の横で広げ、首を振る。

 

 

「ようやく私の考えを聞く気になったの?」

「…ああ。智械黑塔、聞かせてくれ。君の頭脳が導いた策を。」

「まったく…もうどんどん進めてるよ。お子ちゃまたちがね。」

 

 

 智械黑塔は共有スペースの外、研究室群がある方向を指さした。智械黑塔は、私への不満げな表情を取り払い、己の才能に対する絶対的な自信に満ちた顔を向けた。

 

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