月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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宇宙の裏側

 少し前。「巡狩」と「豊穣」の星神が直接衝突しておらず、狼の宇宙船が仙舟「羅浮」に滞在しているとき。演武典礼を数日前に終えた星は、宇宙船内の自室で疲れを取っていた。

 

 彼女は多くの強者たちと試合を行った。短期間で剣術の腕を成長させた三月なのかに、「巡海レンジャー」のパンクファッションに身を包んだ少女、ピノコニーで言葉を交わしたことのある「純美の騎士」、狼の宇宙船から出場してくれた二人の少女。仙舟同盟で何百年も生涯を費やして技を高め続けた者たちや、特大剣を軽々と扱う猟剣士との再戦。他にも多くの強者がいた。

 

 星にとって彼らと闘えることは、楽しいことであった。全力を出してぶつかれる相手がこんなにもいて、星海の広大さを示してくれる。未知に対する好奇心を持ち続ける星は、もっと多くが見たいと無邪気に考える。

 しばらくして、星の自室に入室許可を求める申請が入った。宇宙船の仲間の誰かだろうと、星は特に警戒することもなく自室のドアを開ける。そこには、智械黑塔とサユの二人が立っていた。

 

 

「星、透過宇宙のアップデートが完了したよ。はやくテストしに来て。」

「階差宇宙のノウハウを組み込んだ。拙も一部手伝ったぞ。休んだら透過宇宙が置かれている部屋に来てくれ。」

「もう休んだからついてくよ。どこが変わったの?」

 

 

 星はそのまま自室から出て、二人に同行することにした。智械黑塔に聞くと、星は更新された部分の広さに驚いた。

 これまでのシミュレーションは決まった一本道しかなく、星海で名を知られる各勢力や力を持った個人の歴史を辿るものであった。だが今回からは、選択した道によって状況が変化していく方式に変わったのだ。

 しかも選択される惑星はランダムであるという。

 星はランダムダンジョンを楽しむつもりで、透過宇宙に足を踏み入れることにした。

 

 

「今まではこの星海のシミュレーションだったけど、ようやく研究の本題に移れる。星、この透過宇宙内の時間の流れを現実より遅くしたから、どんどん進めて。」

「休憩スペースも作った。疲れたらそこで休んでくれ。」

「分かった。ねえ智械黑塔。今回はどのくらい報酬がもらえるの?」

「一つ終わったら、これだけあげる。」

「…やるしかない!」

 

 

 星は智械黑塔が示した報酬の数を見て、己を奮起する。踏破すればするほど報酬が無制限に貰えるのは、彼女の収集欲を大いに刺激した。そして星は透過宇宙の装置に手を伸ばし、仮想空間内へ入り込む。現実から見れば短くても、長い実験が始まった。

 

 

―――――

 

 そして現在。星は数々の世界の結末を見てきた。

 文明の繁栄から零落まで、簡略化された道を辿って。ヒスイノの歴史を全て見せられたときや、火皇の夢に比べて淡々としているものであったが、星は飽きることもなく続けていた。

 この透過宇宙ならではのターン制バトルが、戦略性を楽しめるものであったからだ。また辿る惑星ごとに部屋の雰囲気がすべて違い、進む過程で取得できる特殊効果や、性能を底上げするためのアイテムが違うのも飽きない理由であった。

 

 それはそうとして、星の集中は度々切れる。休みたくなった時は、進行中の透過宇宙のステージから退出し、休憩スペースへとやってくる。星は、智械黑塔の義体そのもののアバターに手を振り、ぐいと伸びをして仮想空間上のソファに腰を沈ませる。

 天才たちの各シミュレーションや、透過宇宙には同じように憶質が使われている。そのため休憩スペースは智械黑塔の「神秘」の力も加えられることで、ピノコニーの夢境にいるのと似たような状態になっていた。

 星は智械黑塔の計らいで用意されている、再現された菓子をソファ前に持ってきて食べる。

 

 

「透過宇宙で休憩できる日が来るなんて…。」

『ここは休憩スペースだよ。充分休んだら、テストを進めるように。』

 

 

 星は、入口付近に立っている実体のない智械黑塔の義体に触ろうとして、自動応答を返される。これで誰かと一緒に攻略できれば完璧なのにと、星はぼんやり思った。

 

 その時だった。彼女の耳元に聞きなれた少女の声がかけられたのは。星は耳がくすぐったく感じながらも、素早く振り返り、いるはずのない存在を視界に入れる。銀色の髪をウェーブをかけたポニーテールで一纏めにした小さな少女。

 

 

『やっほー。「流星」、いや星って呼んだ方がいいか。』

「その声…あんた、シルバーフィンガー?」

『ご明察。実は、銀狼ってアカウント名の方をよく使ってる。』

 

 

 眉を寄せた星が言葉を返したのは、星核ハンターの、銀狼を名乗る少女であった。星は記憶を失ってから銀狼の姿を初めて見たが、ゲームで協力プレイを知らずの間に行っていたこと、ピノコニーにて花火から補足されたことにより、少女の正体が分かっている。

 銀狼のホログラムは、ソファを跳び越えて星の隣に座る。そして足を組み、幼げな声で答えた。

 

 

『私に入れない場所は存在しない。この透過宇宙に外部から入るのだって簡単なこと。』

「星核ハンターって結構暇なんだね。」

『これは私の任務の一つ。後はゲームがしたいって個人的な気持ちも一つ。』

 

 

 銀狼は懐から取り出したガムを膨らませた後、続ける。

 

 

『あなたってルート分岐があったら全ルート100%コンプするタイプでしょ。同じやり込み勢としては、協力したいってわけ。どう?ヘルタのそっくり人形にも言われてる通り、私と一緒に全パターン制覇してみない?』

「…やっぱり、あんたからは危険な感じがしないね。協力プレイしよう。…銀狼って破壊活動はしないの?」

『そういう任務は他のメンバーがやる。後、あなたの手助けをするのが今回の任務だからね。』

 

 

 星は、銀狼の余りに堂々とした、ゲームを一緒にやっていた時と全く変わらない自然体な人間性を見て、警戒が緩んでいくのを感じる。

 銀狼はサイバージャックを行っていても、人死にに直接関与することはない。この星海をゲームだと思っているサイバーパンクが故郷の彼女は、出身故に人命を軽く考えていても、快楽のままに人を殺そうとする異常性、残虐性は持ち合わせていなかった。銀狼は、人生というゲームをただ楽しみたいだけだ。

 

 銀狼は口を大きく開けた後、透過宇宙の作り主にぼやくように文句を言う。アカウント爆撃のことを根に持ち、終わったらハッキングしまくってやると銀狼は呟いた。

 その後幼いハッカーのホログラムはすくりと立ち上がり、星に休憩スペースの外を示す。

 

 

『裏技を使っちゃおう。このゲーム、100%攻略してからが本番だから。』

「隠されていた要素が現れるとか?」

『そうそう。後その隠し要素、特定の人間の前じゃないと絶対に現れないようになってるんだよね。ほんと…!』

 

 

 銀狼は、透過宇宙のことを知り尽くしているかのように話す。その後、銀狼は何か気がついたように呆けた表情を作る。そして腕に付けた端末を操作し始め、星に話す。

 

 

『一旦退避。またこの休憩スペースに来るから、早めにここに連絡して、ヘルタっぽい人形も説得しておいて。じゃ抜けるから、また近い内によろしく。』

 

 

 銀狼が渡したそれは、仮面の愚者である花火が使い捨てているアカウントの内、唯一連絡手段が残されたものだった。

 銀狼は星に軽く手を振った後、その場から消えた。一人残った星は考え込んだ後、一度透過宇宙からログアウトする。

 

 現実に戻ってきた星は端末を取り出し、銀狼からもらった連絡先から、花火へと連絡した。

 花火とピノコニーで別れてから、星には彼女から度々メッセージが送られてきていた。その内容は大抵がなりきりであったり、ただの軽い会話であったりした。花火が満足したらアカウントは削除されていたため、星側から連絡することは無かったのだ。

 

 星と花火は再び遊ぶ約束をした。銀狼はシミュレーションの仕様に憤慨していたため、花火が面白がるかは分からずとも、友人として一緒に楽しみたいと思ったのだ。

 

 花火からスタンプが送られてくる。そして続けて返ってきたメッセージには、すぐ行くという旨が記されていた。

 

 

 それから星は透過宇宙のテストを一時中断し、宇宙船に乗る狼や少女たちと言葉を交わしながら、食事を摂った。テーブルを囲んだ時、星は、狂风が気持ちが沈んでいるように見えた。いつもは立っている狼の耳が、ぺたりと倒されている。加えて智械黑塔も狂风に視線を向ける回数が多く、二人の間に何かあったのだろうかと推測する。

 

 食事が終わった後、智械黑塔へ話を聞くと何でもないという旨が返ってくる。狂风も同じように星に返した。

 

 

「――気持ちがはやりすぎなのを、指摘しただけ。それで星、何か他に聞きたいことがあるの?」

「透過宇宙のテストに、友達を呼びたいんだ。そうすることで私のモチベーションが上がる。」

 

 

 星は智械黑塔へ、花火のことを話す。智械黑塔はじっと星の目を見ながら話を聞き、口元を上げる。

 

 

「…ふうん。「愉悦」が素直に応じることなんてあるんだ。面白いかもしれない。試してみていいよ。」

「ありがとう!完全攻略してみせるね。」

「透過宇宙はゲームじゃないけど…まあいいや。引き続きテストよろしく。」

 

 

 簡潔な許可により、星は満面の笑みを浮かべてから頷く。

 

 

 そして数日が経つ。銀狼は巧妙に入り込み、星と共に高速で道を回収していく。

 星が心では望んでいた、複数人での透過宇宙テストが始まった。

 

 

 

 一時的に停泊していた狼の宇宙船の前に、人影があった。その正体は、星が待っていた仮面の愚者、紅い服を着た黒髪の少女、花火である。ハッチを開き、星が彼女を迎えると、花火は道化じみた笑みを浮かべる。

 

 

「花火と楽しいことがしたい子はどこかなー?花火が来たよ~!」

「久しぶり。」

 

 

 星は笑みを浮かべながら花火の手を握り、中へと連れていく。星は花火の与太話に相槌を打ちながら、透過宇宙がある研究部屋へと共に入った。

 そして透過宇宙の仕様についても詳しく話していく。花火は、疑似的な星間旅行を共にしようと持ち掛ける星に対して機嫌が良さそうな演技で応えた。

 

 

「そんなに花火を求めてるなら、仕方ないな~!芦毛ちゃん、これで一緒に遊ぼっか?」

「うん。花火が前言ってくれたように、全力で遊ぼう。」

 

 

 二人は手を翳し、仮想空間に入り込む。

 

 そして星と花火は一旦休憩スペースへと向かい、そこで待ち合わせていたホログラムの銀狼と合流した。

 

 

「あはっ!君もいたんだ~!」

『来た来た。それじゃゲーム再開っと。』

 

 

 銀狼は花火を視認すると、自分の前に同じホログラムの盤面を表示させ、星が回った場所と、銀狼が「裏技」を使って探索した場所を示した地図を見せる。星は地図が完全には埋まっていないことを理解する。

 

 

『これが、既に回ったところ。そしてここからが、埋めていきたい空間。』

「こんなにあるんだ…。私とあんたでだいぶ埋めたはずなのに。」

『いや、確かに埋めた。ランダム抽選で選ばれないような、道すらない空間も行ったし。つまり、これだけ分岐が隠れてるってこと。』

 

 

 銀狼は隠されていない場所は全て回ったと話す。そして隠された部分を見つけるには、花火が、「愉悦」が必要なのだと再度星へと伝えた。

 銀狼は掌の端末を見ながら、それを読み上げるように言う。

 

 

『この仮面の愚者の「愉悦」の力は、すごく強い。だから私たちが知覚できない部分まで見えるんだよね。例えば、別の枝とか、舞台裏とか、星神が影響を及ぼしていない惑星とか…?何これ?仮面の愚者ってこんな何でもありなの。ちょっと離席。エリオ、ここどういうこと――』

「え~?そんな、花火はただの役者だから~!」

 

 

 銀狼は小さな文字に眉を凝らした後、掌を星たちに向けてからログアウトしていく。

 花火はとぼける演技をした後に、目元を押さえて笑う。本当におかしそうに、花火は上を向いて嘲るように笑った。

 

 

「あんたって、すごかったんだ。確かにピノコニーで戦ったとき強いと思ってたけど。」

「芦毛ちゃんも愉悦を突き進めば、簡単なことだよ~!花火が教えてあげる。」

 

 

 星の高い肩に、花火は手を回して言う。星は花火の右手首を握った後、彼女の左人差し指でくるくると回される仮面を見た。

 

 

「君のために用意したんだ~。どう?花火の力作、いる?」

「うん。後はそんなすごい花火が、これからも遊んでくれれば完璧だね。…でも花火、旅に行くにしても少し私に付き合って。」

 

 

 星はそう返答しながら、頭に思い浮かべることがあった。現在の星海の状況について。狼の宇宙船の皆が行おうとしていることについて。

 皆の選択を見届けるまでは、花火と一緒には行けない。星はその考えを強固にしていた。

 

 

―――――

 

 以前、智械黑塔と話したときのことだ。

 智械黑塔は何故、透過宇宙を作ったのか。そして自分にテストさせるのか。星は素朴な疑問を持っていた。オムニックの彼女は最初、雑に言葉を星に返した。

 

 

『私が知りたいから。それ以外にある?』

『でも、智械黑塔はヘルタって天才とは違うよね。ただ知りたいだけじゃないっていうのは、ヒスイノの歴史を見て分かってるよ。』

『…私自身の存在を再認識するためだよ。』

 

 

 星は驚いた。いつもはあしらわれるのに、深く言葉を交わしてくれたからだ。

 智械黑塔は続けた。自分は、一体のヘルタ人形から機械生命体としての生が始まった。ヘルタに廃棄された人形。彼女は芽生えてもいない無意識の中で、いつか自分の手で知恵を探究したいという意思を染み付かせていた。

 

 

『…私の誕生は、ヒスイノありき。世界と選択の研究を通して、分かってきた。多くの可能性の中で、ヒスイノが存在する星海はここだけだって。』

『それ、全部の星系にも同じこと言えそうだけど…。個人だったら尚更。』

『それは違うよ。あなたは、どの選択をしても存在してるの。だからテストさせてる。』

 

 

 智械黑塔の回答は、更に星を混乱させた。彼女は並行世界について説明した。そしてこの星海を形作る虚数の樹理論についても。星海には人間には数えきれないほど無数に星系があるが、星系ごとに選ばれなかった未来があり、それらは地に落ちる。そして選ばれた歴史だけが残る。

 

 だが智械黑塔は、その理論とは別に「分かたれる枝」という理論を考えている。星海全体が大きな枝であり、虚数エネルギーの値が大きく変動すると、A星海とB星海に分かれる。その星神でさえも観測できない、分かたれた星海が存在し、星系単位ではなく星海が全く別の歴史を辿るというのだ。

 

 そしてヒスイノは、ほとんど全ての可能性の中で、誕生すらしない。これだけ多くの選択があるというのに、第二次豊穣戦争より前に遡ってから選択をしてみれば、ヒスイノのきっかけとなった狼が死んでいるのだ。

 智械黑塔が話す中、星は面白いという感情が湧き上がってきた。そして星は彼女の手を取り、にっと笑った。

 

 

『そんな唯一無二だったんだね…!特別感があっていいじゃん!』

『え?』

『他の道だったら、智械黑塔たちと会えてなかった。今まで行ってきた惑星で会った人たちとも、仲良くなれてなかったかもしれないし。あんたは、それだけじゃ自分を肯定できない?』

 

 

 智械黑塔は星の言葉を聞いてしばし固まった後、自信満々に微笑んだ。

 

 

『――肯定してるから、私はこの研究をしてるの。この理論が間違っていないことを証明して、この私が唯一無二な天才だって知らしめるためにもね。』

『智械黑塔…!』

『ちょっと、離れて…!』

 

 

 自分たちの縁も肯定する智械黑塔に対し、星は嬉しくなって義体の腹部に手を回した。

 智械黑塔は星の体を押し返しながらも、その腕の力は込められていなかった。

 

 

―――――

 

 星は花火に話す。自分たちのことを大切に思う気持ちも理由にして、研究を続ける智械黑塔に、少しでも星から返したいと。それはそれとして、智械黑塔の言っていた、多くの星海が辿った様相を、仮想空間で見てみたかった。

 

 

「いいよ、芦毛ちゃんとお人形ちゃん~!秘密を無遠慮に踏み荒らしていく感じ…!」

「これも愉悦でしょ?」

「あははっ!それじゃあ、見せてあげる…!」

 

 

 花火は両方の瞳を光らせ、頭部につけた仮面を左手で外し、顔の前へと持ってくる。次の瞬間、透過宇宙の休憩スペースが吹き飛ぶ。

 

 紅い万華鏡のような、花火の空間が形成された。花火は「透過宇宙」のシステムを使いながら無数の可能性を鏡に映し出す。彼女は仮面を顔に付けたまま、星を軽く手招き、スキップでその空間を進んでいく。星は花火の後を追い、並ぶ。

 

 

 そして星は見る。この星海とは違う歴史を辿った世界たちと、人々を。

 星の知る純白の狼は、道半ばでただの異端の狼として死に。智械黑塔は存在せず、鉄騎のサマンサはAR-4100としてスウォームの波に呑まれ戦場で散り、サユはAK-A-4として完成せず培養管の中で生涯を終えている。

 白珠は第二次豊穣戦争で戦死し、仙舟同盟における「雲上の五騎士」の関係性において、重苦しい影となりずっと残り続ける。アベンチュリンの家族は全て死に、昏い瞳の彼は手段を選ばない。

 

 星の星海では存在しない者も、別の多くの星海ではいる。星は、白露と同じ外見をした幼い少女が仙舟「羅浮」で空を眺めている描写を見た。外見は同じでも角の形状は違い、生まれさえも全く違う。この白露は龍尊として生きることを強いられ、苦し気だ。どれだけ明るく繕っていても。星は、その白露を今すぐに抱きしめたいという衝動にかられた。

 

 

 星は現在に近づく描写の中で、最後に自身の姿を見る。そして穹の姿も重なって見えた。彼女たちはどちらか一方が、星穹列車に乗り、ナナシビトになるのだ。星は自分とよく似た少女が、ナナシビトの皆と列車内で和気あいあいとしている情景を見て、思う。

 別の世界では、自分と穹がどちらも、自らの意思で選択して生きることができないのかと。穹がいたことで、星の心細さはなくなった。自分だけが特別ではない。一人ではないのだと。

 

 

「どう、芦毛ちゃん~!もしかして、他の世界が羨ましくなっちゃった?」

「ますます、この世界を気に入ったよ。あんたとだって、この世界だからこそ深く関われたんだから。」

 

 

 星は、目を紅く光らせた花火に感情をぶつける。花火は声を上げて笑い、仮面を外した。その瞬間、万華鏡のような空間と、そこに映っていた別の世界の描写が消える。

 残ったのは、荒れに荒れた休憩スペースのみ。花火は星に少しだけ、多くの星海が辿る未来を見せたが、口元に左人差し指を立てる。

 

 

「しー…まだまだ舞台はこれから!終わり方が分からないから、面白いの!」

「そうだね。終焉なんかで、私たちの旅は終わらせない。」

「そうだよ~!だから、ほら!大笑いしてる!」

 

 

 花火はくるりと一回転して、天を仰ぎ見る。星が見た先には、仮面の集合体を抱えたような貌の無い其がいた。

 

 

 全ての人格データが笑い出し、無数の笑いが、透過宇宙中を埋め尽くす。星は嬉しいのか、嘲笑しているのか分からない其を見て、背を伸ばした。

 

 

『君はアキヴィリみたいなのに、愉悦の道を進もうとしてる!なんて面白いんだ!アキヴィリが、私と一緒に暴れ回る!バカみたいな話だ!』

「私はあんたの言う、バカみたいな道を進むよ!」

『嬉しい、愉しい!ようこそ、アキヴィリにそっくりな君!楽しい愉悦の道へ!』

 

 

 其はふざけた調子で拍手をし、花火もにやにやとして星を祝福する。星は嘲笑交じりでありながら歓迎され、「愉悦」の運命を歩む。

 現れた其が、データ上の存在ではなく本当のアッハであることを、星に対して誰も教えない。何故ならその方が面白いからだ。

 

 運命が定まっていていないように見えて、半ば決まっていたベクター「星」。彼女は其から祝福を受け、決定的に運命の束縛から抜け出した。

 

 

 それから星は、戻ってきた銀狼のホログラムの前で、花火に貰った仮面をつける。そして星と花火は、全く状況が分からず珍しく困惑している銀狼を、二人で笑った。

 

 星核ハンターのプランの一つは、知らずの内に達成される。一瞥されただけでなく「愉悦」の力を、其から気づかない間に分け与えられた星は、終焉に対抗するための参加権を手にした。

 




星(ベクター「星」)…

愉悦・虚数

「壊滅」の指向性から始まり「神秘」と「巡狩」の星神から一瞥を受け、「愉悦」に気に入られたベクター。

其から性質と行動を面白がられ、一瞥よりも強力な力を分け与えられる。

―――――――

追加攻撃と、「記憶の精霊」と同じ性能の存在を二つ召喚し、ランダムなバフを全体に撒いて戦う。
戦闘中は、画面が手足の生えたゴミ箱とルアン・メェイの創造物で埋め尽くされることになる。小山になったルアン・メェイの創造物は、星の後ろにピラミッド状に並ぶ。

戦闘中、星と全体のステータスが際限なく増えていく。列車に乗らなかった「開拓者」の完成形。

―――――――――――――――

通常攻撃 バットで一撃 [拡散攻撃・バウンド攻撃]…
指定した敵単体に星の攻撃力のX%の虚数ダメージを与える。
加えて、「ルアン・メェイの創造物」の幻を召喚し、敵にぶん投げ、追加のバウンド攻撃を行う。

召喚された後の「ルアン・メェイの創造物」は星とは別のキャラクターとして残り、自身が行動する際一匹ずつ数が増える。星が通常攻撃を行うことでも一匹増える。戦闘中は際限なく増える。

また自身が行動する際、増えた数分ランダムな「祝福」を味方全体に付与する。既にそのキャラクターが付与された「祝福」であれば効果が強化される。

「祝福」は様々なバフ、敵へのデバフ効果を与えるものである。階差宇宙に存在する「祝福」の効果を参照。

戦闘スキル ゴミ箱への熱き情熱 [召喚]…
記憶の精霊のような幻「星のゴミ箱、ゴミー」を召喚する。
加えて、味方全体に「価値ある無価値」を1層付与する。

「価値ある無価値」は一人あたり10層まで獲得でき、獲得するたびに「星のゴミ箱、ゴミー」が増える。味方が攻撃する時、攻撃される時、どちらにおいても追加攻撃を行う。

必殺技 全てを内包する「愉悦」 [全体攻撃]…
巨大な斧槍やバット、神秘の不確かさなどを全て使い、敵全体に星の攻撃力のX%の虚数ダメージを与える。同時に、その時点で存在する「ルアン・メェイの創造物」と「星のゴミ箱、ゴミー」の数を参照して追加ダメージを与える。


天賦 彼女だけの仮面 …
星が攻撃するか、召喚した「星のゴミ箱、ゴミー」が攻撃を行うことで、星の全ステータスが戦闘前のステータスを参照して5%ずつ上がっていく。これは戦闘時のみ、際限なく増え続ける。

秘技 可能性の運び屋 …
秘技を使用するたびに「可能性の一片」を1層獲得する。(最大3層)
「可能性の一片」は星が攻撃したとき、攻撃を受けたときに1層貯まる。最大10層。
「可能性の一片」は星のステータス上昇を、味方に一部共有する。1層で星のステータスの5%。最大10層のため、50%が共有される。
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