月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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脈動する命

 目の前でルアン・メェイが姿を消した。その後、私の体にすさまじい活力がみなぎってくるのを感じる。隣を見ると星は両拳を耳元に上げて二の腕の筋肉を盛り上がらせるポージングをしており、智械黑塔は胸部に手を当てている。

 

 

「なんかすごい、元気になったよ!」

「私もだ。もしや、ルアン・メェイさんの影響か…!」

「そうだよ。ルアン・メェイは――」

 

 

 私たちが体の活力について話していると、ルアン・メェイの研究施設から、ヘルタにそっくりだがそのまま成長したような姿の女性と、スクリューガムが出てきた。女性は周囲を見渡すと、天を仰いで顔を手で押さえた。

 

 

「あーあ。やっぱり…。」

「認識:私たちは自力で辿り着かなくてはならないようですね。」

「ポルカ・カカムは関係ない。それが分かっただけでも収穫よ。」

「…失礼。スクリューガムさんと、そちらは?」

 

 

 私は彼女について尋ねると、とんがり帽子を被った女性はじとりとした目をこちらに向ける。その表情で分かった。私の推測は正しかったようだ。

 

 

「でかいの。若くて、美しくて、可愛い。この私のことが分からない?」

「とても分かりやすい。ヘルタさん、初めて貴女本人に会えてとても光栄です。」

 

 

 ヘルタは人形でないからか、随分と表情豊かだ。こちらを目を細めて睨む彼女に対し、智械黑塔がルアン・メェイのことを話す。そして天才二人は私たちに言葉を返した。

 彼女は私たちの目の前で、星神に昇華したのだろうと。

 なるほど、それならばこの湧き上がる活力に説明がいく。彼女が私たちに虚数エネルギーを分けてくれたのだ。おそらく、ヘルタやスクリューガムにも。

 

 

「確かに、体のだるさは無くなったかも。」

「ルアン・メェイさんの性質は、生命の探究。生命体の身体機能に関与する星神になったのでしょう。私の機能も上昇しています。」

 

 

 詳しくは彼女が姿を現さなくては判別できない。ヘルタとスクリューガムは、どのような星神であるのかを推測し合っていたが、最終的に二人の間で賭けをして終わった。

 二人も研究の合間に、「崩壊」の対処を行ってくれるようだ。二人が協力してくれるだけで、とても心強い。

 

 

 私たちは天才たちと別れた。漲る力が尽きぬ内に、多くを倒したい。

 

 そして私たちは、使令討伐のため向かった星々で見ることになる。人々が団結し「崩壊」に抗い続ける姿を。

 

 

―――――

 

 新たに誕生した「命脈」の星神は、星海中に視線を向ける。其の視界に入ること、すなわちそれは諦めず、生きるために抗い続けている者、命の灯火を燃やしきる勢いで戦っている者たちなのだ。

 全ての世界の、懸命に生きる人間には、祝福が与えられる。「崩壊」に立ち向かうための勇気、相応の力を。

 

 

 ヒスイノ星系群や、ヤリーロ-Ⅵなど狼と深く繋がりのある地にも、「崩壊」は絶えずやってくる。

 特にヤリーロ-Ⅵには長らく天敵がおらず、約700年前のヴォイドレンジャー討伐から、個々の力はほとんど上がっていない。並のヴォイドレンジャーより強い軍勢に対して、「深緑の騎士」の協力もあって防衛は出来ても、脅威から逃れることは出来ていなかった。

 建創者たちは、星海においてクリフォトの献身を知り宣言した。「存護」の元に集い、抗い続けるのだと。

 

 

 星海には独立性を保ちながら、訪れた地における人々の戦いに助勢する派閥もある。それは「均衡」の互を信奉する仲裁官であったり、「純美」のイドリラの名の元に純美を実践する純美の騎士団だ。

 

 仲裁官たちは、「崩壊」の被害が「壊滅」の勢力による攻撃よりも多くの人間を殺していることに憤る。これでは存在と無の均衡が、無に傾きすぎる。そうなれば、均衡を取るにしても、世界全体の生命が縮小することになる。そのため仲裁官たちはその強い力を以て、かつて均衡を取った世界で人々の上に立ち、戦うことにした。仲裁官を神と誤解していた世界の人々は奮起する。

 

 純美の騎士団は、特別な力を持たない人々の団結に「純美」を見た。その惑星に生きる家族のため、防衛線を張る彼らに対し、純美の騎士は一様に美しさを強調した。そして人々の純美の助けになりたい、ならせてほしいとそれぞれ訪れた星で協力を申し出、武器を取った。「崩壊」に打ち勝つことも、また其からの試練。古典美を尊ぶ甲冑姿の美しい騎士たちは、人々を守り抜く。

 

 

―――――

 

ある星系。突然体の動きが軽やかになった鉄騎たちは、乱入してきた星核ハンターサムと一時的に協力し、レギオンを撃破する。サムは完全燃焼状態から元に戻り、この星系に隠されているという、星神の要素を破壊するという。

 

 

『脚本にはこう書かれています。姿を隠した星神、もしくは殞落した星神の要素を破壊することで終焉を乗り越えられると。星核狩りは既に終わりました。後は星核に関わらない任務を着実にこなしていくだけです。』

『あなたは、このまま立ち去るつもりですか?』

『はい。私はレギオンを、星神の因子を燃やし尽くした後、自身も燃え尽きます。その前にあなたたち鉄騎の支援が出来て良かった。』

 

 

 星核ハンター、サムはブースターを点火する。サムの腕を掴もうとする者もいたが、サムは一度背後を見た後、超スピードで飛び立つ。最後に集まった同族を目に焼きつけるように。

 サムの姿は流星のようであり、命を燃やす蛍のようであった。其が万物に視線を向けても、サムの在り方は変わらない。最期まで身勝手に、同族が未来と、仲間のために戦う。

 少しだけ延びた命で、西グラモスの鉄騎は任を果たし続けた。

 

 

―――――

 

 ある日。特定の運命を歩まず、相対的に力を持たない人々は、降って湧いたような幸運を手にした。

 

 「崩壊」と戦い続ける人々は突如、体の中から活力が湧いてくるのを感じた。神経伝達物質の過剰分泌ではなく、感覚的には、自身の最も体の調子がいい時と形容できる状態であった。長らくの勝ちが見えない戦いにおいて、由来の分からない力でもそれは希望であった。しかもレギオンを一度攻撃すれば、面白いくらいに互角に立ち回れるのだ。

 

 そして人々の奮闘する姿を、興奮気味に観測する派閥があった。ガーデン・オブ・リコレクション、肉体を捨ててミーム生命体になったメモキーパーたちだ。

 彼らは特別な力を持たない人々が、「崩壊」に逆転し、打ち倒していく姿に感動していた。メモキーパーたちはこういった、ドラマ性のある記憶を好むものだ。この星海全体を巻き込んだ大戦は、どこを記録しても価値がある。メモキーパーたちは考えた。彼らが信奉する「記憶」の星神、浮黎。其もこの記憶を喜ぶことだろうと。

 

 

 一部の人間に対して、「命脈」の星神の祝福が、劇的な変化をもたらした。

 それは「虚無」の視線を受けた者たち。「虚無」の星神Ⅸの影に足を踏み入れてしまった者。自滅者と、彼らの中から同族を治すため集まった混沌医師だ。

 自滅者は時間が経つ度、何かを失っていく。それは体組織、記憶、感情、感覚器官など多岐に渡る。混沌医師は治療の方法を懸命に探しながらも、根治はできておらず、投薬で誤魔化すほかなかった。

 

 だがある時から、「虚無」に存在の意味を失っていた人々がじわじわと治り始めた。存在を取り戻し始めたのだ。亡霊のようになった自滅者の目には再び光が灯り、混沌医師の投薬にも劇的な効果を見せた。投薬を続けさえすれば、自滅者は再び虚無に呑まれることはない。自滅者が存在の意味を渇望し続けている限り。

 そのとき、混沌医師たちは星海中の状況を知り、考えた。「虚無」が幾ら無価値を見せようと、存在は蘇っていく。万物の存在の意味は、今証明されたのだと。

 

 

 一人。星神Ⅸの影を追い、第Ⅸ機関に辿り着かんとする自滅者はふと足を止めた。肉体に纏わりつくように生命の気配がして、次の瞬間刀を抜かずとも、失った記憶が靄のように浮かび上がってきたからだ。

 その自滅者、其の力を多く持ってしまった彼女は渡る死水から、空を見た。

 

 彼女は感じる。まだⅨを討つ前に、やるべきことがある。

 そして彼女は踵を返した。感覚が無くなる前に生命の気配を追いかけて、再び死水の上から舞い戻る。

 

 

―――――

 

 私は星たちと共に何度も戦っている内に、「崩壊」のレギオンの勢いが少しずつ落ちているような感覚がした。現地住民の頑張りももちろんあるだろうが、明らかに一惑星に投下されている量が減ってきている。

 

 

「いけるぞ…!」

 

 

 私は「奔雲」を振り回して乱造されたレギオンたちを砕く。動きをどんどん早くできる。私の体に限界などないという気分にさえなる。この活力は一時的なものであろうが、この感覚をずっと味わっていたい。

 

 星と、智械黑塔の義体が数体、幻術と認識撹乱によって使令を追いつめていく。星の「不落」とバットが大敵の体を砕き、私が虚数エネルギーを込めた渾身の一撃をぶつけ消し炭にした。

 

 

 そして残党がいないのを確認してから、現地住民に軽く手を振り、別の場所へ向かう。分け隔てなく与えられたルアン・メェイからの祝福によるものか、使令以外のヴォイドレンジャー擬きについては、戦士であれば互角に戦えるようになっている。

 私は確信した。この力が皆にあり続ければ、必ず終焉を越えられる。

 

 

 宇宙船で次の使令の観測地点、戦場へ向かう準備をしていると、「抗う者」からの報告がなだれ込んでくる。星系の防衛を完了したという報告に、カンパニーの「存護」の使令が「崩壊」の使令を次々に倒しているというものが。爆発的に崩壊の勢いは削がれているのを感じる。

 またサユからも連絡が来た。カンパニーの影響下に無い惑星への情報伝達体系を確立し、天外からの敵に備えるようにと通達、その後すぐに「抗う者」の戦士が介入するように作戦を組んだとのことだ。

 

 あともう少しだ。もう少しで未来に手が届く。私は使令を倒し続ける以外に、自身ができることを考え始めた。

 

 

―――――

 

 星海ではまず「存護」と「豊穣」の星神が疑似的に協力し、「崩壊」の星神を押さえ込んでいた。その戦いに新たなに星神が加わる。「調和」のシペ、「均衡」の互である。

 天才の面々が見ればこう話すだろう。まるで「繁殖」のタイズルスが殞落したときの戦いを再現しているかのようだと。

 

 人間側に勝ち戦が続いているが、星神の力はむしろ強まっていた。「崩壊」は、ただ星神二柱が融合した概念というだけではなく、万物を殺し呑み込む性質へと急速に変わっている。其はあらゆる死、滅びを内包しているのだ。何もかもを呑み込む「貪慾」の要素も併せ持っているかのように。

 「崩壊」の星神は誕生し、早くも過渡期へと入ったのだ。

 

 神々の戦いはさらに激化し、ある転換点を迎える。同じく新しく誕生した「命脈」の星神と、星神から直接力を受け取った強き人間たちの登壇によって。

 

 強大な星神同士の戦いに、比較すれば砂粒にも満たない人間が入り込み、抗う。星神と人間、それぞれの目的は違くとも、共通して万物を滅ぼさせないために戦う。

 

 

 

 星海をある列車が通り抜ける。星穹列車のナナシビトは、一つ「開拓」を終え、戦いへと参加する。

 

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