月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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エピローグ
狼が目覚めた日


 終焉が去り、星海を揺るがすほどの大きな騒乱はない世界。

 

 数えきることが出来ないほど存在する星系の中で、このような星系群がある。

 ヒスイノ星系群。十八あった星系は、今や二十を超えるほどに勢いを増しており、文明の隆盛を誕生から700年以上経っても感じられる土地だ。

 

 そして「開拓」され増えた星系の内、観光地もなく居住区すらない、数人しか住んでいない星系がある。だがそこに訪れる人は多い。

 何故なら、恒星の横に、その惑星とは別で、巨大な生物が丸まって眠っているからだ。

 

 それは抜け殻のようでありながら、息を立てている。純白の狼、ヒスイノを作り上げた狼の盟主、狂风である。

 その眠っている狼のために、彼の知り合いやヒスイノの民はやってくる。

 

 

 今日も人がやってくる。それは、狼の巨大宇宙船に搭乗していた人員たちだ。

 一人ずつ進んだ道は違えど、彼女らの容姿は変わらない。ベクターの星、鉄騎のサマンサ、歳陽と融合した遺伝子改造戦士サユ。そして彼女らは今回他にも人を連れてきていた。

 

 星は、停雲と将軍の任期を終えた飛霄。サマンサは、白珠と白露を。サユはフォフォを。

 ほとんどが仙舟にいた者たちで、彼女たちは談笑しながら、眠る狼を見上げる。

 

 

「本当に大きいわね…。」

「こ、これが、狂风さんなんだ…!」

「智械黑塔が、ヘルタたちに頼んで連れてきたらしいよ。」

「智械黑塔がですか?別の方が頼まずとも持ってきたって言ってましたよ?」

「怖いのはやめて…!」

 

 

 飛霄とフォフォは狼を見上げて感嘆の声を上げ、星とサマンサは雑談する。

 星たちが向かうと、惑星に居住している少女、智械黑塔の義体が彼女たちを迎える。

 

 

「あがっていいよ。今この部屋も研究中なの。気にしないでね。」

「久しぶりですね!お邪魔しますー!」

 

 

 白珠は智械黑塔に笑いかけると元気よく言い、部屋の中に入る。

 

 そして彼女たちは各々の近況を報告した。

 ヒスイノの発展は勿論のこと、星たちの現状は多岐に渡っている。

 まず星についてだ。彼女は仮面の愚者として、普段は花火とゴミケーキを連れて星海を旅してまわっている。偶に他のメンバーとも一緒に遊ぶが、その自由さが星は気に入っている。

 

 次にサマンサだ。彼女は「深緑の騎士」と技術者を兼任し、任務を行いながら、鉄騎の開発にも力を入れている。サユは、ヒスイノに定住し、頭脳を活かし続けている。並行世界の研究は順調であり、サユにそっくりな人物がいる世界も見つけ出したという。

 

 仙舟同盟の面々は、波乱が続いていた。薬師も嵐もナヌークさえもいなくなったため、仙舟同盟が討つべき相手はいなくなった。そのため軍は縮小され、クリフォトの加護をカンパニーと協力して貰いながら航行しているそうだ。

 

 その中でフォフォは、判官として大成した上に労働環境も見直され、休日を多くもらえるようになったらしい。フォフォはシッポに嬉しそうに笑いかける。

 停雲は商談をゆっくりと進めており、あまり遠出はしなくなったという。

 飛霄は、先代と次代の将軍と共に日々鍛錬を積んでいるそうだ。

 

 そして白珠と白露は、巡る医士兼ナナシビトとして、開拓の旅を続けている。まだまだ欠け月は手放せないと、同じく胸に入れている飛霄、サマンサと共に笑った。

 

 智械黑塔も近況を簡潔に話す。たまに狼と縁があったメモキーパーが来たり、他にも「抗う者」のメンバーが来ることもあるという。そして研究自体は共同で天才たちと行っており、約束通り手伝いもしているようだ。

 

 

「私、星様の冒険譚を詳しくお聞きしたいです~」

「いいよ!花火がぶっ飛んでる話ばかりになるけどね。」

 

 

 彼女らはそれぞれ雑談を始め、サマンサと智械黑塔、飛霄はふうと息を吐く。続けて白珠と白露も表情を動かした。

 

 

「父さま…。」

「狂风はいつ起きるんじゃ?早く、話したいのう…。」

「…それ、今日研究成果が出るの。」

「え…!そんなの知らなかった…。」

「言ってないからね。」

 

 

 智械黑塔は扉を開け、外に出て空を見上げた。星たちも外へ出て、狼の巨躯を眺める。智械黑塔が自信に満ちた表情で、共同研究者の名前を出した。そのとき、狼の耳がぴくりと動く。

 星たちはあまりに大きい狼が身じろぎするたびに、驚きの声を上げる。

 

 

 その後すぐに、狼はぱちりと目を開ける。そして自身の視線の先に親しき者たちが居ることに口元を緩ませた。

 

 狼は親しき者たちから、多くを聞く。眠っていた間の話、彼女らの幸せな旅を。

 

 彼は思う。今はただ、大切な人たちが笑っているのを見ているだけでいい。狂风は、彼女らの様子をじっと見つめ、ヒスイノの民と親しき者のこれからの幸せも願った。

 

 戦いを終え、狼はゆっくりと休んでいても、旅はいつかまた始まる。これからを生きる者たちの心の内で。

 

 

 狼たちの上を、列車が通った。旅の始まりはすぐそこだ。

 




これにて「月に狂えど血に酔わず、異端の狼」は完結です。皆様、ここまでお読みいただきありがとうございました。

また皆様と、別の二次創作や、オリジナル作品でお会いできるのを楽しみにしております。
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