月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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繁殖と豊穣

 遠征と鍛錬、星の開拓を進める日々を送っていると、早いもので約束の二十年が近づいてきた。私の体は呼雷にも届くほどまで成長し、筋肉の密度も絶えず上がっている。

 そして、遠征の人員の練度も著しく向上している。遠征をする意味は、始まりよりも多くの意味を持っている。鞭に付けるための獲物の残骸など、副産物に過ぎない。力を示すならば、より多くの戦いを経験すればいいのだから。

 

 自らの力を磨く、青緑の鎧を着た集団の周知をする、歩離の猟群や陥落地にいる奴隷たちの引き入れを行う。主な目的はこれらだ。遠征の人員は、狼には緑翠猟群の力を示す役割を果たし、それ以外には厄介な相手を討伐する「翡翠の騎士」としての側面を見せる。特徴的な外骨格は一部の星系で知られ、私たちの考えを示す象徴になっているようであった。カンパニーの情報網は厚い。

 交流をしているカンパニーの人々には、歩離人が仕切る集団であることは漏れないように情報を遮断してもらっている。クネーテや他の協力者は同意してくれ、秘密裏に研究と取引が進められている。

 

 この広大な宇宙では、星神の動きを人の頭で都合よく解釈し、多くの派閥が出来上がっている。仙舟同盟がこの翡翠の騎士を知ったとして、豊穣の民が正体だと分かれば、妖弓の矢は私たちの星々に向けられることになるだろう。それは避けなくてはならない。

 

 

 私は、小さく感じられるようになった斧とぼろぼろになった外骨格を新調することにした。首長選挙の儀式の前に、仕上げを行っておくべきだと考えたのだ。

 いつの間にか中途半端な長さになってしまったこの斧では、私の体躯を活かしきることができない。また、リーチの短い手斧を使うくらいであれば、己の爪を使う方が理にかなっている。三つ前の遠征に行くとき、詳細を書いて頼んでいた。それが今日ヒスイノ-Ⅰから運ばれてきたというので、取りに行く予定なのだ。

 

 巣父候補や小さな猟群の巣父とは何度も戦い、猟群に引き入れてきた。しかし主要な猟群の巣父とは、まだ会うことができていない。猟群の指導者とは常に冷静でなくてはならないため、ただの狩りでは後方に収まっているのだろう。

 私の磨き上げた肉体と技がどれだけ、強大な彼らに届き得るのか。それを試すために、装備を新調した上で遠征に赴くことにした。ストリボーグに、後で目的地を決定することを言い残し、武器研究が行われている施設に足を運んだ。

 

 

 武器研究の施設は、ヒスイノ-Ⅰ、ヒスイノ-Ⅱの二つに作られている。ヒスイノ-Ⅰで加工、ヒスイノーⅡで研究内容の決定、完成品の確認を行う。大斧の完成品を受け取るため、私はヒスイノ-Ⅱの施設に入った。

 特殊な表面加工がされていない、灰色の装甲を身に纏った狼と、同じように装甲を纏う人間たちが私を出迎える。カンパニーの人との会合の際、咄嗟に歩離の民であることを隠し通せるものではないため、仕事中は皆装甲を着た方が良いという結論に達したのだ。遠征に出ない者であろうと、少しは戦える方が研究にも襲撃を受けた際にも役立つ。

 危険な研究もあるため着用するのは良いのではと狼たちは話していた。また、カンパニーの社員のように制服のように扱って統一感を出すのは面白いと、商売専門の狼たちが言っていた。

 装飾は腕や足に付けるが、服を着るというのは歩離の社会には浸透していない文化だ。複数のメリットがあることから、私は彼らの意見を取り入れた。

 

 複数の狼が外骨格を軋ませながら、大斧を運んできた。人間たちは、鎧を持ってくる。斧は床が抜けそうになるほどの重さであるためか、届いてからずっと一階に置かれたままだったようだ。

 

 

「狂风、頼まれていた武器だよ。こっちの斧は星の重金属かき集めて、カンパニーからも素材を買って作った特注品さ。要望通りだけど、本当に振れるんだろうね…?」

「義姉さんありがとう。外に持っていくから、離れて見ていてくれ。素振りをしておきたい。」

「おうよ。随分、戦いから離れていたから…狼の戦いを見るのも久しぶりだな…。」

 

 

 共に来た歩離の女性一人が呟く。私は大斧を狼たちから受け取り、ぐいと持ち上げた。ずっしりとした重さだ。体が引っ張られるほどではないが、これに慣れるには実際に振ることが一番だろう。私は大斧を担ぎ、改良された鎧を脇に抱えて施設の外へ出た。

 

 

 鎧は地面に置いた。両手で柄を持ち、斧の刃を丁寧に振り下ろす。振る度にぶんと低く空気が唸る。敵の体を両断する重みを感じさせた。踏み込むと足が地面に沈んでいくので、大斧を背中にかけて一旦素振りを中断する。並みの敵であれば、大斧を担いだ体でぷちりと潰せそうだ。

 後に加入した狼の一人が、大斧に対する説明を行ってくれた。単純な重さだけでなく、機能が追加されているようだ。

 

 

「狂风さんにお渡しした武装についてですが、他の遠征人員の方々のように、追加武装が取り付けられています。これです。炎と嵐の斬撃と、簡潔にまとめてあります。」

「うん…展開後、疑似的な嵐を…。」

 

 

 端末の画面を狼たちと共に確認し、大斧と外骨格の機能を把握していった。まずこの大斧は、戦闘用オムニックが出す熱線を取り付け、刃を炎で包むことができるらしい。そして青緑の装甲についてだが、展開することで強風を周囲に発生させ、第二の鎧として運用できるようだ。鎧を装着している者でも、この竜巻に近づけば表層が削られる威力らしく、個人で戦う際に役に立つ武装だろう。

 私は一連の改善箇所を見終え、呟いた。

 

 

「…スウォーム狩りに適した武装だな。熱で断ち切るのは良い案だ。ありがとう、しっかりと活かしていこう。」

「ああ、蟲は狼にとっても未知数な敵だ。命に気を付けて。腹も壊さないようにね。」

 

 

 私は展開方法などをしっかり確認した上で、私は彼らに礼を伝え、武器研究の施設を後にした。スウォームと戦うときは引き際を徹底しなくてはならなかった。しかしこの武装を有効活用すれば、より長時間接敵できそうだ。

 ストリボーグたちに伝える目標地点は決まったようなものである。私は遠征人員との合流を急いだ。

 

 

 私の住むテントの近くに、会議を行うための巨大なテントは存在する。四種族が集まったこの空間では、どこが次の目標地点にふさわしいか、ホログラムを使いながら議論が交わされていた。

 私はテントに入ると、私が最適だと考える目標地点を指さす。そこには、陥落地でも反物質レギオンの出現位置でもない、蟲の大群が映っている。

 狐族の一人が挙手して私に尋ねる。

 

 

「狂风様、ここまで増殖したスウォームを狩るおつもりですか?」

「ああ、そうだ。首長選挙の儀式が近いからな…私も動けるだけ動いておきたい。治癒能力が弱い狼以外の皆は、別の星群に行ってもらおう。」

「承知しました。…今回は狂风様と別行動かぁ…。」

 

 

 繁殖が広がったスウォームの群れは、鎧でも防ぎきれない爆破の連なりで我々を追いやる。そのため人間でも対処できる小さな群れを相手取ることが常であるが、時偶に大きな群れとも戦うことがある。私たちの管理しているヒスイノに影響が及びそうになった時だ。この表示されている群れはヒスイノ-Ⅳに近づくことが予想されるため、危険度は少々高めだ。倒すならば、少し離れた場所にある荒れ果てた星での戦いになるだろう。

 私は共に行く狼を集め、器獣に乗って、目標地点へと飛んだ。

 

 

 宇宙からスウォームの留まる星を眺める。黒い点が絶えず動き回っており、これだけで千に届く量だろう。通常の大きさのものよりも三回りほど大きい個体が一匹群れの中心におり、クローンを増殖させているのが見える。

 

 

「狼たちよ。武装は付けたな?さあ、狩りに行くぞ!」

「はい、狂风様…!」

 

 

 狼たちが爪を尖らせ、吠えながら器獣から飛び降りていく。狼の足のばねは、良く伸びる。四つ足で着地してからすっくと立ちあがり、装甲に付けた取り回しの良い武装を、スウォームに叩きつけていく。

 

 探究者たちによれば、繁殖の星神というものが太古の昔に存在していたらしく、スウォームはその名残らしい。真蟄虫という蟲がデータベース内で取り上げられることが多く、よく知られているが、他にも沢山の種類がいるそうだ。私は蟲の区別を付けられるほど、戦闘中動きを止めていないためどれがどの種類かは、これからも知ることがないだろう。

 私は器獣に離脱させ、蟲の掃除が終わったときにまた来るよう指示した。

 

 大斧を振り、蟲を両断する。再生できないほどまで以前は潰していたが、これからはもっと楽になる。私は炎を噴出させた大斧を叩きつけ、蟲を末端から焼き溶かした。

 

 

「良い破壊力だ、重さが違う。今回の大物はあれだな…。よし…。」

 

 

 私は、ぶつかり爆発してこようとする蟲が体に届く前に両断していき、群れの発生源まで辿り着く。上から見ていたのと近くで見るのでは、大きさが全く違っている。その蟲は私よりも大きく、見上げるほどまで成長していた。

 大斧を回転させながら、蟲を塵にし周囲の様子を確認する。狼たちの中には装甲がめくれている者もいるが、圧倒的な再生能力のおかげで、堪えている様子はない。牙を使い爪で刻み、蟲の硬質な装甲を砕いている。

 繁殖と豊穣。どちらも生命を賛美する性質であるが、決定的な違いがある。繁殖はただ増え、豊穣は祈りを捧げる。自身で考える知性を持つかどうかだ。

 似た性質を持っているなら、戦闘の技量を高められる歩離の民に分がある。私は体を重くした巨大な蟲に、大斧を振った。装甲は他の蟲より少々固いがそれだけだ。蟲の首を断ち、羽を砕く。

 増殖したものは、私が鎧から展開した追加武装の嵐によって、ばらばらに砕け生命活動を終える。

 

 頭だけになろうとしぶとく生き残る蟲は、嵐に燃え移った炎によって焼かれ、高い鳴き声を上げながら絶命した。

 

 

 焼けた蟲の残骸が散らばる地を見渡す。狼たちは残った蟲を狩り尽くしたようで、黒ずんだ羽の欠片を鞭に吊るしていた。私は絶命した蟲を眺め、その欠片を口にする。

 退化した味蕾でも感じ取ることができるほどにそれは苦く、毒素を持っているように感じる。だが私は手を止めず、それを摂取し続けた。

 私は蝕月猟群の狼だった。蝕月猟群は、月狂いの発達の他にも大きな特徴がある。別種族の肉を喰らい、自身にその性質を取り入れることに長けているのだ。

 スウォームには、繁殖の力が刻み込まれている。その因子が多いであろう成長した個体を摂取すれば、私は更なる再生能力を獲得することができると踏んだのだ。

 

 実際遠征の度に蟲を喰らうようになってから、傷の治りが早くなった。筋繊維が鍛えるたびに増強されていくため、肉体の成長も後押ししていると考えられる。また冷静な月狂いは、受けた痛みを直で感じることになるのだが、重傷を負っていても痛みは鈍化している。

 私は、蟲を摂取して顔をしかめている狼たちを見る。美味の前に苦味を摂る。蟲を喰らうことも、また刺激だ。

 

 また一つ、戦いによって肉体を高められた私たちは器獣を駆り、戻った後は鍛錬の時間にあてる。歩離の社会において無駄だとされていたスウォーム狩りは、私たちにとって重要視される戦いである。

 

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