月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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細くも確かな糸口

 応星は、先ほどまで会話していた男性に一言話して別れると、私と白珠に目をやり歩き出した。白珠は私と応星の繋がりについて気になったようで、私たちを交互に見ながら、彼についていく。

 

 

「飯食べるのは、いつものところだろ?歩きながら話そうぜ。」

「ああ、私も君に訊きたいことはある。」

「応星も、狂风とお知り合いだったんですか!?あたしにも聞かせてくださいよー!」

 

 

 彼らが食事をとる予定の料理屋は、近くにあったようだ。情報収集をしながら私の様子を見ていた仲間たちに小さく手を上げ、危険な状況ではないことを示す。仲間たちは頷くと、約束の時間まで調査を継続していた。

 私はまず、応星の状況について尋ねた。彼の母親は生き残っていたはずだ。

 

 

「応星君、母親は大事ないか。」

「心配してくれてんのか。おう、ぴんぴんしてるぜ。この船とは違う、朱明って船に住んでるから、俺は最近会っていないんだけど。」

「そうか…よかった。故郷から離れた場所で暮らすのは、貴方方には心細いことだろうから。」

 

 

 それから私は、応星が辿ってきた生を聞く。故郷を滅ぼした豊穣に対する復讐の刃を磨くために、鍛冶師を志したこと。弛まぬ研鑽と才能によって、鍛冶師が集う工造司という組織の頭目、「百治」の称号を得たこと。そして現在、鍛冶の腕と戦いの技術から、雲上の五騎士として豊穣の民を相手取っていること。

 十数年の間に、彼は劇的な人生を経験していた。彼の生き様は、溶鉱炉でどろどろに溶け熱くなった鉄のごとく、輝きを放っていた。

 

 話している間に私たちは料理店に着き、椅子に座って白珠が注文した料理を待っていた。白珠は別の席に座った私の仲間たちに、おすすめを紹介しているようだ。応星は茶を飲むと、こちらに話を促す。

 

 

「長々と話しちまったな。この応星の、天才的な話はまだまだ語れるが!俺はあんたの話を聞きたい。」

「いいのか?私としては聞きごたえがあって、まだまだ話してほしいくらいだ。」

 

 

 応星は目を閉じて笑みを深めるが、すぐさまかぶりを振り言葉を続ける。才能を開花して自信家になった彼の姿は、あのときとは全く違うが、良い印象を与えてくる。

 

 

「仙舟の外の人間から、あんたらの動向は聞いていたんだよ。だが、全然情報が出てこない!あんたも含め、「深緑の騎士」に興味がある。俺が鍛冶師になったのも、偶然じゃないしな。」

「…そうだな。話しておこう。ここに来たわけについても。」

 

 

 私はヒスイノの復興についてと、私たちが掲げる目的についてを口に出した。すべて真実だ。白珠が勘違いしている「鎧人」のことは、言わないでおく。私が歩離の民であること、それを感づかせることは絶対に話さないよう細心の注意を払って伝えきった。

 白珠とヒスイノが巡り合ったのは偶然であり、この再会も奇跡であると。応星は小さく頷き、呟く。

 

 

「なるほどな。だから各地を飛び回っているのか。反物質レギオンにスウォーム、忌み物。全部、他の星を侵略して、更地にする奴らだ。俺が集めた情報通りだな。」

「私はいずれ、星に住む仲間たちに、より大きな世界を見せたいと思っている。その三者のように、侵略をするのではなく、広い宇宙で自身の可能性を開花させてほしい。その下準備は、まだ続いているということだ。」

「それで、見学のために仙舟へ来たってことか。確かに仙舟は広いからな!ごった返す人も長命種だけじゃない!」

 

 

 応星は大きく笑うと、少し陰のある表情で口の端を吊り上げた。日々の仙舟人からの扱いを考えているのだろう。

 彼から聞いた。仙舟人は、寿命が百年ほどの人間種を短命種として扱い、受け入れようとしないことを。彼が百冶になるときも、なった後でも、その認識はずっと付いて回っているそうだ。多種族が集まってできているコロニーであるのに、特定の存在を排斥しようとする考え方は、私たち豊穣の民を裏切った部分に通ずるものがあった。細かな部分で団結できないこの歪みこそ、仙舟同盟の根底なのかもしれない。

 そのまま軽い話を続けていると、料理店の従業員と共に白珠が戻ってきた。私の前には熱せられた肉が置かれる。

 

 

「応星ー?あたしを放って狂风と話し込んで、とても楽しそうじゃないですか?」

「いいだろ!白珠は頻繁に話しているんだから!おい、聞いてくれよあんた。白珠な、集まる度にあんたの話をすこーしだけ挟んでくるんだ!鏡流あたりは頬がぴくぴくしてるんだからな!」

「おお…こんなに嬉しそうな応星、百治になったときくらいしか見たことありません…。」

 

 

 悪戯気のある表情から一変して、白珠は掌を口に当て、目を見開いている。そして私を見ると、椅子に腰を落ち着けた。私は彼とどういう関係なのか、白珠に話すことにした。応星からも白珠に話していく。

 

 

―――――――――――

 

 鍛冶師の頂に達し、今や英雄となった彼は、同じく雲上の五騎士として活躍する白珠に話しながら、ちらりと向かい合う巨体に目をやる。

 彼、応星にとって、焼けて灰になっていく故郷から命を救い出してくれた「深緑の騎士」は、ずっと心の内にある存在だった。彼らが扱う武器が歩離人を刻んでいく姿は、射しこむ光のように目に焼き付いており、仙舟「朱明」で暮らすようになってからも思いは膨らみ、彼らのようになりたい、彼らの武器を作りたいと思うほどになっていた。

 朱明は職人の聖地だ。彼が暮らすようになった場所が偶然そこであったこともあるが、鍛冶技術を高めればいつか彼らが振るう価値のある武器が作れると思い、志願したのだ。短命種であることが枷になっても、それを千切れるほどに応星には才能があった。

 懐炎、母、白珠。皆、応星のことをその人なりの対応を以て支え、彼の成長を後押しした。

 

 そして今、応星の目の前に、ずっと会いたいと思っていた存在がいる。深緑の騎士を率いており、直接応星と母を助けてくれた男だ。

 雲上の五騎士として仲間に渡した武器を、いつか彼にも渡したい。その願いがようやく叶うと思っていた。

 

 応星は場を楽しみながらもその一歩を踏み出せないでいた。その巨体から、大きな違和感を覚えているからだ。狂风は確かに、あの時自らを救ってくれた恩人だ。しかし今まで戦ってきた経験が、直感が囁くのだ。目の前に腰かけている人物が、長命種であることを。

 鍛冶と戦闘で研ぎ澄まされた感覚は、いつしか短命種と長命種を見分けることができるようにした。彼の天性の才能がそうさせた部分もあるだろう。

 長命種に関しては、対応だけでなく根本的に違う存在であることを感じさせるのだ。また忌み物と長命種には違いを感じない。入っていないか、入っているか。それが長命を決定する。

 

 応星は、狂风と同じ格好をした人たちを見る。見た目は統一されていても、それぞれ種族が違うことを感じ取る。冷たい金属に、自分と同じ短命種。白珠、狂风にそれぞれ似た気配だ。

 深緑の騎士について、断片的に得られる情報から後ろ暗い話は出てこなかった。だからこそ信じたいと彼は思っていた。だが長命種あるいは忌み物だと感じられる人物に対して、自身が作ったとっておきの武器を渡すには、あまりにもリスクがある。狂风が忌み物であった場合を応星は考えたくない。

 応星は白珠が離れるタイミングを見計らって、鎌をかけることにした。

 

 

―――――――――――

 

 白珠は納得がいった様子で、私たちを交互に見て言う。

 

 

「わあ、そうだったのですね!まるで物語みたいな、奇跡的な再会です…!」

「まさか白珠が話していた奴が、狂风…さんだったとは、思いもしなかった。あんたじゃなかったら、今日とっちめてやろうと思っていたんだが。」

「すごい!さん付けなんて、小さい頃しか聞いたことないですよ!」

 

 

 応星はじとりとした目を私に向け、白珠は応星の言葉に度々声を上げる。それから、応星と白珠が仲が良さそうに掛け合うのを見て、雲上の五騎士とは心の通じ合った集まりなのだろうとふと頭に浮かんだ。やはり仙舟同盟、仇敵として向き合うのと、こうして身元を隠して個々を見るのでは全く違う。豊穣と巡狩の対立は、私が生まれるずっと前から続いてきた。集団を束ね、分厚い憎しみと化した仙舟同盟は死ぬまで止まらない。

 

 私は先の滅びを想起した。二十数年前、私が見せられた数多くの終焉は、ずっと脳裏にこびりついているのだ。

 歩離の民の戦首が死に、その先の戦いで豊穣の民全体が勢力を縮小させられる。そして時が経つにつれ、豊穣の民は世界の陰に隠れ狩られるのを待つだけになる。巡狩の導きが私たちを穿ち、殺していく。

 

 原因は近い内に再び起こるであろう、大規模な戦いだと私は推測している。星神の力を多く受け取った存在、おそらく使令が死ぬビジョンが見えたのだ。使令とは、呼雷やあの冷たい刃の剣士でも太刀打ちがいかないほど強大な力を持った存在だ。その私たちにとって偉大な存在が討たれる。

 つまり豊穣、仙舟どちらもが多く死ぬことになるだろう。これ以上命を取りこぼすわけにはいかないのだ。

 

 呼雷が死ぬのを止められなかったように、終焉とは抗いようのない運命なのかもしれない。だが凡人であっても、挑み続けなくてはならない。狼と、狼が自由に生きるための星を守るために。

 

 私はしばらく黙り込んでいたようで、白珠が私の顔を覗き込んでくる。

 

 

「狂风、どうしたのですか?」

「白珠さん、肉を飲み込んでいただけだ。…応星君と白珠さんは特に仲が良さそうに見える。彼が幼い頃からの知り合いらしいが、他の五騎士ともこういった感じなのか?」

「本当だ、いつの間にか無くなってます!五人の仲ですか?皆確かに仲が良いですけど、応星は丹楓と、とっても仲良しですよ。これを見てください!」

 

 

 白珠は応星の右腕を掴み、こちらに持ってくる。なんでも応星に付けられている腕甲は、丹楓という持明族の男性と一つずつ分けた物であるらしく、片割れがどこにいるかさえ分かるらしい。応星は後頭部を触って、恥ずかし気に笑っていた。

 

 

 和やかな会話と時間は続き、だがある時を以て張りつめる。食事が終わり、私の仲間の様子を見るため白珠が席を離れたときだ。応星は目をつむり、意を決したように私に言った。

 

 

「狂风さん。あんたが俺にとって、忘れられない恩人であることはずっと伝えてきたつもりだ。だけどよ…正直に答えてくれ。…あんたは忌み物なのか?」

 

 

 応星の真剣な瞳は、私の兜の奥を貫く。私は焦りが全身を伝っていた。やはり気づかれてしまうものなのか。私は慎重に答える。

 

 

「何故、そう思うんだ?」

「ははは、あんたみたいな巨体になる種族は見たことがないっていうのが一つ。あとは仙舟で生きている人間ならではの直感、観察眼だ。豊穣の力を受けているやつが、仙舟には腐るほどいるからな。」

「なるほど、それで私の種族を感じ取ったのか。」

「結局あんたらは何者なんだ?金人みたいなやつもいれば、俺と同じ短命種も混じっている。外部に情報もほとんど漏れていない。」

「話した通りで、多種族が共に暮らす集団だ。あとは…。私が豊穣の力を受けていることも、君の感じた通りになる。」

 

 

 豊穣の単語を聞いた瞬間、応星の目が広がる。応星は実力者かつ、復讐者だ。私は危険を感じながらも言葉を続けた。

 

 

「私たちは侵略、略奪など望まない。無論、意思ある生命の殺しもな。だから千年以上にわたって続く戦争を止めたい。そうすることが、私たちの仲間を安心して旅立たせることに繋がる。」

「それじゃ…あんたたちが忌み物だと言っているようなもんだ。俺をそんなに信用したのか?あんたと俺はまだ二回しか会ってない。俺の目的だって分かるはずだ。」

 

 

 応星の拳が強く握られていくのが見て取れる。白珠はまだこちらに来ないようだ。周囲を見ながらも、私は本意を告げる。

 

 

「私の大切な人は…仙舟の同族に殺された。そのとき思ったのだ。仙舟に生きる者と豊穣の民、それには何も違いはない。これは内戦だ。殺し殺されには、両者の悲しみが募るだけだと。」

「同族というのは。」

「狐族だ。私たちの星の繁栄を望み貢献し続けた、誰より信頼できる人だった。」

 

 

 私は応星に訴えかける。昔のよしみにつけ込む汚い手だ。だが元々繋がりを持てるはずのない派閥であり、少しでも情報を得る手段を作らなくては、妖弓の矢が襲い来る可能性を回避できない。争いを止めるために行動し、第三者としての形を取ろうとしてもだ。穏やかに暮らしている仲間が、突然殺されるなどあってはならないことだ。

 

 

「応星君、豊穣とは相容れないのが仙舟、それに君自身なのだろう。だが、私たちだけは信じてくれないか。侵略を厭い戦ってきた。これからもそうだ。」

「忌み物は許せねえ…だけどよ…。…ここにいるとき、俺や白珠の近くから離れないようにしてくれ。怪しまれれば、その鎧の中を見られることになる。」

「…ありがとう、応星君。」

 

 

 じっと黙って顔をしかめ、それから絞り出すような声で彼は言う。そして私の兜をじっと見て続けた。

 

 

「今回はもう帰った方がいい。俺が分かるんだ、雲騎軍や他の三人が分からない訳がないだろ。話は付けておく。俺と白珠二人が問題ないと言えば、景元や鏡流、それに丹楓も…何とかなるかもしれないしな。」

「重荷を背負わせてしまって、すまない。…何れ、君に再び見せよう。私たち、深緑の騎士の戦いを。」

 

 

 白珠が戻ってきたところで、応星が別れを告げる。白珠は首をかしげたが、私は彼の言葉に同意し、仙舟での観光を切り上げることを話した。

 

 

「えええ!まだご飯を食べただけですよ!」

「もう少し交流を深めたいところだったが、応星君や他の五騎士の方も予定が合わないようだ。仲間たちも、初めての訪問にしては、勉強できたことは多かった。白珠さん、また仙舟へ観光に来ても良いだろうか。」

「それは勿論!おかしいですね…皆の時間が合うときを見計らったのに。」

 

 

 私は仲間たち一人一人から、短い間で得た情報を耳打ちしてもらう。対話型のオムニックは道行く人の中から、いくつかの商談をもぎ取ったようだ。そして護衛として来た三人は街並みや、建木の歴史など大まかな歴史を聞き出したという。仙舟人は寿命が長いため、私たちにとっては大昔のことも知っている人が多いのだろう。人当たりの良い人員を連れてきてよかった。

 私は金人港を去る前に、応星と短い会話をした。

 

 

「何はともあれ…あんたに会えてよかった。俺はあんたが人を襲わないって信じている。だからさ…また今度、母さんにも会ってやってくれよ。きっと喜ぶだろうから。」

「君の信頼を裏切らないように、これからも行動しよう。私も会えてよかったよ、応星君。」

 

 

 それから私たちは器獣の元に戻り、再び玉界門を通る。帰りは白珠の案内無しだ。拡張された位置情報が記された端末で、どこにヒスイノがあるかは把握できている。

 

 私たちは白珠にまた会おうという旨を伝え、帰路についた。これからもっと情報を集めよう。私たちが何としてでも生き残るために。

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