私はイゴールと別れた後、白珠や仲間たちと共に、ベロブルグの外へと再び出た。情報収集のための人員は、ベロブルグに残り、支援を続けている。
吹雪は少し前より落ち着き、器獣も無理せず飛べそうだ。私は改めて皆に宣言する。
「これより、ヤリーロ-Ⅵを狙う反物質レギオンを殲滅する。凍り付いているものも、見つけ次第全て破壊だ。この戦いは前座である。この星には「万界の癌」の源、星核が潜んでいる。全ての脅威を退けた後、私たちは名誉を手にするのだ。それでは出発!」
器獣を従えられる、狼や混血の狐族が小隊長となり、次々に上空を飛んでいく。彼らは寒冷地と聞いて物資を念入りに積んできたようで、空から簡易型のドームを投げ、展開していく。やがてヤリーロ-Ⅵは、一時的に地表の雪が消滅することになるだろう。
白珠は長めに休暇を取ってくれたため、一週間は協力してくれるそうだ。それだけの時間があれば、殲滅は可能だろう。彼女が星槎に乗って飛ぶのを確認してから、私もストリボーグと共に器獣に乗り込み、赤い半球が道となっている雪原を縦横無尽に飛び回った。
ヤリーロ-Ⅵにはベロブルグの他にも、多くの都市があったようだ。廃墟と化した砦の中に残存しているヴォイドレンジャーたちを見つけ、私とストリボーグの二人で掃討する。
ストリボーグは、ずっと遠征人員として戦いの場にあった。戦闘パターンは最適化され、装甲もアップグレードし続けている。オムニックには限界があるとストリボーグは言っていたが、私からすれば過小評価である。
小さな群れの巣父であろうと、ストリボーグに匹敵する力は持っていない。私を抜けば、今一番遠征人員で強いのは彼だ。だからこそ、私と二人で行動しているのだ。
私は鎧から炎嵐を展開し、雪を蒸発させながら、黒いヴォイドレンジャーを切り刻む。燃焼で持続的に損傷を与えられながら、巡狩の斧槍で切り付けられれば、並の兵卒であれば宙に吸い込まれていく。
ストリボーグも、外付けされた武装によって強化された腕部分から炎を発し、雪の中に倒れ込んでいるヴォイドレンジャーを破壊しつくす。
「ヴォイドレンジャー排除完了。マスター、こちらをご確認ください。このロボットは、「存護の壁」プロジェクトの補強になります。」
「…どことなく、君に似ているな。ここまで離れた星に…奇妙な偶然だ。」
ストリボーグと都市を隈なく歩き回っていると、回路の止まった人型ロボットを発見した。単一のカメラアイに、円柱形の頭部。横並びに金属板が取り付けられた胸部。装甲は藍色と白色で統一されてはいるが、そのロボットは装甲を付けていないストリボーグの外見にどことなく似ていた。
ストリボーグはモノアイを光らせながらロボットにかかった雪を払い、機械音声を発する。ロボットの解析を行ったようだ。
「パーツ照合…5%。このロボットに互換性を確認しました。このロボットは、自動コントロールユニットです。同型パーツを有した周囲のロボットに対する指揮回路を確認。」
「見た目が似ていても、随分違うものだな。…思考能力もあって、ロボットを操れるのか。確かに壁を作るのには適任だな。」
少なくても互換性があることに、宇宙の広大さを感じる。ストリボーグはそのロボットを器獣に収納したいようなので、私も手伝うことにした。ついでに同じパーツが使われているという他のロボットも持ち出しておく。
これらについての詳細は、アリサ・ランドに訊くべきだろう。ベロブルグでの話し合いの中で、造物エンジンを手掛けたのは、今を生きている技術者たちであると知った。出来ることならヒスイノに実物を持ち帰りたいものだ。
都市に残った有用そうなものを探しながらも、私とストリボーグは器獣にて飛び回る。
それから五日に渡って、ヤリーロ-Ⅵ全域の巡回が行われた。
造物エンジンが破壊された様や、ヴォイドレンジャーたちの凍結個体を空から眺めながら、幾つもの廃墟都市をまわっていく。仲間たちが来た場所は分かりやすい赤で示されており、残存戦力との戦いに勝利する姿も見受けられる。
こうして攻略を進めていると、星核が落ちる前のヤリーロ-Ⅵは、強い存護の力を持ち、宇宙進出が出来るだけの技術力を誇っていたことが分かってくる。反物質レギオンと寒波によってその大部分が失われてはいるが、星核をどうにか除去できれば、再びの繁栄が待っていることだろう。
まだ動くヴォイドレンジャーは見受けられない。いたとしても、仲間たちが交戦している個体で最後だろう。
ストリボーグが、吹雪で遮られた正面を示す。
「マスター、前方に巨大な反物質レギオンの戦力を確認。凍結と造物エンジンによる損傷で、活動を停止しています。気温:ヤリーロ-Ⅵ観測時より、15ポイント上昇。推測:一時的な凍解により、活動を再開する可能性高。」
「随分と厄介な戦力を送り込んでいたようだな。…各員、緊急招集だ!残存戦力の中でも大物を発見!端末に、私のいる座標を送信した。集結し、敵を打ち崩すぞ!」
私は吹雪で端末からの通信が届きづらい中、皆に招集をかける。そしてストリボーグが観測した地点へ器獣を駆った。
近くに来ると、それは私の体躯の何十倍もある物体だった。異形の獣と表現する他ない見た目だ。
凍り付いた獣の近くには、造物エンジンの残骸が十数体分倒れ込んでいる。獣は、腕部や頭部に損傷を受けており、コアのような場所にもひびが入っている。だがそれは些細な損傷なのだろう。
パキパキと氷が割れていく。獣の腕が動き始め、胴体の中心部に二本の腕で支えられている、何とも形容しがたい形状の物体が回転し始めた。
獣は咆哮する。長きにわたった封印から解放されたことを喜ぶように。
仲間たちが続々と合流してくる。私とストリボーグは低空飛行する器獣から飛び降り、獣に向かってそれぞれの武器を振るった。
レギオンの獣は下半身までは動かせないようで、飛び出ている四本の腕、そして頭部を巧みに使って攻撃してくる。私はまず、広範囲を薙ぐことのできる巨大な腕から破壊することにした。
左腕の装甲を取り外して背中に付け、爪を尖らせる。仲間たちが下半身の凍結した部分を削っていくのを見ながら、斧槍と爪どちらもを駆使して叩く。
全てを壊滅させるという意志だけが、レギオンの獣から私に向けられる。獣が時折発する咆哮は、終末を告げているかのようだ。だがそれでは、あの終焉を見せてきた影に及ばない。
反物質レギオンは使令を除き、知的生命体のように物を考えない。それはこの巨大な獣も同じだ。大振りに地表を殴りつけるレギオンの獣の攻撃を跳躍で回避し、私の体重と、斧槍の鋭さで少しずつ腕を砕いていく。
レギオンの獣にストリボーグの熱線が刺さる。優勢に進められている中、上空から矢が降り注ぐ。その矢はレギオンの獣の頭部を著しく破壊し、獣から苦悶の鳴き声を絞り出した。
「狂风ー!皆さんー!このまま押し切って、倒しましょう!」
星槎から白珠の声が響き、その後矢が次々に放たれる。彼女は卓越した操縦で、獣から放たれる光線も難なく回避し追撃する。
私はレギオンの獣が段々と弱っているのを感じ取った。ぶつけた斬撃によって獣がダウンした瞬間、一気に畳みかける。
「欠け月、降臨。」
私は日々強化されている緑の「欠け月」を幻視させ、味方にも力を与える。呼雷がいたあの戦場では十分に効果を発揮できなかったが、今ならこれの真価を見せられる。
欠け月の真骨頂は、自身を含めた周囲の味方の治癒能力の向上、そして同じく味方に対して、戦闘における行動の速さを増強することにある。
仲間の動きが目に見えてよくなり、ついに下半身が砕かれた。レギオンの獣は上半身だけでも飛び上がろうとする。
「この刃で、全てを穿つ…!」
私はレギオンの獣に張り付き、緑の光で包まれた斧槍をコアに向かって強かに打ち付けた。巡狩の矢じりを加工した刃先が、不思議なことに白く輝き、コアを突き抜けそのまま全身までを破壊する。
大きくヒビが入ったレギオンの獣は、細かい欠片になって地面に落下する。支えが無くなった私は、脚力によって衝撃を殺し、地面に着地した。
こうして、反物質レギオンの残存戦力は掃討された。まだ星核が残っているというのに吹雪が止み、陽の光が顔を見せる。私は仲間たちに対しその武勲を称えると、ベロブルグへと戻る。安心してヒスイノが交流を図るために、この星での私たちの戦いはまだ続く。
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ある晴れた日のことだった。深緑色の戦士たちがヤリーロ-Ⅵに訪れ、ベロブルグとの協力を約束した日から、しばらく経った後である。
アリサ・ランドの指揮によって総力戦が開始され、防衛ラインに侵略者が攻撃を仕掛けてこない日が続いた。それは初めてのことで、勇猛な将軍は疑問を感じつつも、「琥珀」、「炬火」の二旅団と共に関所を守り続けた。
そして、彼女の疑問は解消される。深緑色の戦士が乗る船の大群が、砦前に戻ってきたのだ。
赤によって雪解け、水が地表に染みわたっていく。彼女が見据えるベロブルグの外は、少しずつ色が変わっていった。
彼女は、今日もベロブルグを守り続ける。船が戻ってきた後、侵略者が姿を見せることはなかった。
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ある時代。黄ばんで擦れ切った新聞が、地下に落ちていた。
――――アリサ・ランドは主力部隊を率い、太陽の日、ついに侵略者を打ち崩した。その成功には、今日まで交流している、「ヒスイノ」の深緑の騎士たちの協力も深く関わっているという。
一つの綻び
ヤリーロ-Ⅵにおける書物の一部が変化