反物質レギオンの掃討が完了し、しばらく経った。戦いの終わりを喜び、祭りが開催される。アリサ・ランドは、「大守護者」として20数年の間ベロブルグを守り抜いた手腕から、これからも指導者として民を導いてほしいという声が市民からあがっていた。
アリサ・ランドは、共に戦った戦士たちを称え、勲章を授けた。私たちが初めて出会った現地住民であるホルス・ゲーテや、将軍として旅団を率いたという女性ランダル・ランドゥーなどが台に上っていた。
私はヤリーロ-Ⅵを行き来することにした。景元から星の様子を見てきてほしいという頼みがあったことがきっかけではあるが、そこから生まれた私個人の目的はまだ達せられていない。
星核がヤリーロ-Ⅵのどこにあるか把握するには、まだまだ時間がかかりそうであり、「存護の壁」を作る上でヒスイノで取り決めることもある。「大守護者」からの信頼は得られたため、より信頼を深めることに着手したい。故に深緑の騎士の一部には滞在してもらうことにする。
私たち猟群は、ヤリーロ-Ⅵに物資を提供し、その対価をもらい受ける循環を行う。遠征人員の何人かにヒスイノへの言伝を頼み、輸送してもらっている。ヤリーロ-Ⅵから出ていく物資の中には、アリサ・ランドとの約束通り、造物エンジンの部品が混ざっていた。破壊されていても、使い道は大いにある。
ヒスイノに戻ってから、やることは山積みであった。特に「存護の壁」を作ることと、星核の対処について情報を集めることにかかりきりになった。
星核の対処については、白珠、信頼できるカンパニーの社員の協力の元、星間を巡ることで探す時間を作った。「存護の壁」プロジェクトが完遂に近づくにつれ、星核についての調査に時間を割くようにした。
しかし星核によって起こる万界の癌は、カンパニーでさえも手を焼く現象であり、対処方法を知る者を中々見つけ出すことはできない。
どん詰まりの状況が続く中、ある星系で適任が見つかる。そこはモントール星系と呼ばれる場所であり、ファミリーという調和の派閥が管理している場所であった。
私は親身になってくれているカンパニー社員のクネーテ、白珠、そしてクネーテの身を守るためのカンパニー社員、深緑の騎士と共にモントール星系へと向かった。
モントール星系における一つの星では、耳触りの良い和音が流れ、調和の星神シペを称える祝詞が高らかに歌い上げられている。私たちはそれぞれの船を降り、合流してから少しばかり雑談をする。星内の奇妙な景観に、中々ない組み合わせの人員。白珠は弾んだ声で、私とクネーテに話しかけてくる。私はそれに頷きを以て返した。
「狂风、ファミリーの管理する星に入れるなんて、すごく貴重ですよ!カンパニーの方、ありがとうございます!」
「いえいえ。わたしとしても、噂に聞く仙舟の英雄に会えて、しかも同行できるなんて貴重な体験です!…クゥアンさん、すごいですね。敵対する勢力とも人脈を作るとは。やはり歩離人とあなたは、随分と違う存在のようです。」
「白珠さんが特別なのです。それに人との繋がりを作ることは、ヒスイノのために必要なことですから。」
クネーテは声を潜め、私にだけ聞こえる声量で言う。私もそれに従い、小さく言葉を返す。
この星ではどことなく気分が高揚するようになっているのか、白珠やクネーテとの会話が弾む。カンパニー社員と深緑の騎士たちも、雑談しているようだ。
最近P42に昇進したというクネーテは、自信に満ちた表情で触角を揺らしながら、依頼を引き受けた人物の説明を行ってくれる。
「クゥアンさん。彼との契約は、沢山の取引相手を繋いで、秘密裏に行われたことです。星核の有効活用ができるなんて…わたしも半信半疑ですけれど。その方法を聞くだけに留めてください。お名前を聞くですとか、ファミリーについて尋ねるのはNGでお願いします。」
「分かりました。肝に銘じます。クネーテさんの手繰り寄せてくれた機会、無駄にはしません。」
やがて私たちは、巨大な布が垂らされた大部屋の前へたどり着く。ここが待ち合わせ場所のようだ。この布は舞台幕というそうで、クネーテにそれを教わる。
ここから先は私一人で向かうことになる。皆に部屋の前で待っていてもらい、響く和音が小さい、比較的落ち着いた空間に入り込む。舞台幕に近づくと一部分に光が当たり、既に人影が幕の後ろに立っているのが分かった。
私はその人物に言葉をかける。
「依頼を受けていただき、ありがとうございます。私は狂风と申します。早速ですが、星核についてお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「ええ。始めましょうか。」
柔和だが、全く印象に残らない声でファミリーの人物は言う。調和とは、個人としての特徴を無くすことでもあるのだろうかと、ふと脳裏に浮かんだ。
私は星核の封印方法であったり、クネーテが聞いていた「星核の有効活用」についても聞いていく。彼の言葉は私の耳に引っかからないため、意識してメモを取らなければ書き漏らしてしまうところだった。
彼の言う対処方法を見返し、私はある方法を思いつき、尋ねてみる。
「一つお聞きしたい。星核を、肉体が損傷してもすぐに戻せる種族が体内で砕いたとき、貴方の言う有効活用は可能だろうか。」
「ふふふふ…それを望んでいるのですね。…これをお持ちなさい。」
舞台幕の下から小さな箱が出てくる。私はそれを拾うと、彼に促されるまま箱を開いた。それはオルゴールを模した形状をしているが、音を鳴らす部分がない。
彼は会話を締めるように箱の説明をし、舞台幕から姿を消した。
「その箱は、星核との調和を図るためのもの。貴方の体内に光が入るとき、箱を開くといいでしょう。何れ貴方の世界にも、頌歌が響きますよう。調和の抱擁があらんことを。」
月日は経ち、ベロブルグ内はどんどんと活気に満ちてきていた。現在、豊穣と巡狩の戦いは小規模であり、ヤリーロ-Ⅵとの交流を深めるのに注力しても問題なさそうであるため、交易を推し進めている。
白珠は雲上の五騎士としての繋がりあってか、この星のことを気にかけているようで、星槎に乗って共にベロブルグを見に行くことがしばしばある。時間が合わず景元に会うことができていないが、イゴールの姿は彼に無事届けられた旨を白珠から聞いた。以前白珠は、その景元の様子を、嬉しそうに私へ報告してきた。
私はアリサ・ランドとの会議を行うため、クリフォト城へと足を運ぶ。ヒスイノとヤリーロ-Ⅵにおける大きな交渉事を行う際、彼女と会うことになっているのだ。
兵士に通してもらい、窮屈な扉を身を縮めるようにして通過し、執務室までやってきた。執務室の奥には、アリサ・ランドが額に手を当て、書類を睨みつけている。
星外の商売相手ではスターピースカンパニーがおり、他にも仙舟に訪れていた商人たちとのビジネスはしている。しかし惑星規模の取引を行うのは、ヤリーロ-Ⅵが初めてだ。だからこそ私は、大事な取引相手に寄り添う形を取っている。
ヤリーロ-Ⅵ側は、反物質レギオンが侵略する前、星間での交流が多くあり、スターピースカンパニーの出資者もいたそうだ。カンパニーの出資者たちは、この星から避難する前、多額の資金を提供したという。ベロブルグを守るための壁の着工、造物エンジンや「自動機兵」の開発費など様々なことに資金を使い、余った資金などない状況であるそうで、アリサ・ランドは頭を悩ませていた。
アリサ・ランドの半生は戦いに費やされ、とても財政管理をしている暇はなかった。だが約束された返済期間まで250年はあるとのことなので、元の経済活動を取り戻せば無理なく完遂できるだろう。そのための支援も欠かさず行っていく予定だ。
アリサ・ランドは、私が来たことを兵士に言われて気づき、顔を上げる。彼女は戦いが終わった後、別の疲労を溜め込むようになっていたが、今日はいつにもまして体調が悪そうだ。
「失礼する、アリサ・ランドさん。」
「来てくれたか、深緑の戦士…ヒスイノの指導者よ。まずは座ってくれ。特注の椅子だ。」
横幅の広いソファーが、複数の兵士たちによって運び出される。私は彼らに礼を言い、それに腰かけた。
アリサ・ランドは人払いをすませると、おもむろに口を開いた。
「本日この場を設けたのは、ビジネスよりも重要なこと。ベロブルグ並びに、ヤリーロ-Ⅵの存亡に関わることについてだ。狂风さん、ご支援をいただいている身で申し訳ないが、今一度手を貸していただけないか。秘密裏に進めたいことなのだ。」
「内容をお話ししてくだされば、すぐに。」
アリサ・ランドは思いつめた顔をした後言った。確かにそれは、最も彼女の頭を悩ませていることだった。
「…星核、災いの始まりを除くことだ。狂风さんには星間のパートナーとして多くを語ったが、この星に落ちた星核についてはお話ししていなかった。あれは、私の頭にずっと囁き続けている。あの時は、侵略者を倒すための力を。今は…永遠の繁栄をもたらす約束を。」
口元を苦痛に歪ませ、彼女は続ける。私は彼女が話し終わるまで黙って聞き続けることにした。
「私は…その囁きを心の内から湧く闘志だと思い込み、力を願ってしまった!今なら分かる。この歪んだ声は、私のものではないと。寒波の到来は、星核に考えをゆだねた私のせいなのだ!…大守護者などと、呼ばれる資格はない。しかし災いの根源を取り除くまで、私は止まってはならない。」
私はアリサ・ランドが隠してきた苦悩を聞き終え、言葉を返す。
「私も貴女に伝える機会がなかった目的があります。この星から、星核による歪みを消し去ることです。」
「なんと、貴方がたはそこまで視野を広げていらっしゃったのか…。」
「星間交流の円滑化。星核を除くことで、ヤリーロ-Ⅵの経済が復活すれば、ヒスイノの民の道がより拓ける。是非とも協力させていただきたい。」
アリサ・ランドは、憔悴しきりながらも威厳を取り戻した。私はもう一度、ベロブルグと共同戦線を張ることに同意した。
その後彼女は精鋭を率いて、私とベロブルグに滞在させていた戦士と共に、星核の在りかへと進んでいく。星核の影響か、切れ目の入った空。私たちは別空間へと入り込んだ。