白珠が仙舟に戻れるようになるまでの間、私は彼女についてきてもらいながら、ヒスイノの開拓に力を入れた。それは物理的な開墾でもあるが、仙舟外との交流、ビジネスを通した経済的な広がりの意味も含まれていた。
今まではヒスイノの皆が歩む道の舗装のため、純粋な力を得て皆を守れるようにするために、反物質レギオンやスウォームを狩ることに注力していた。だが私は既に力を得た。星核のエネルギーに、豊穣の使令の一部。これらを取り込んだ影響で、個としての戦力は他の追随を許さなくなっている。
継続して狩りは行うが、それだけを行っていても飛躍的な一歩は望めない。別の観点から、皆の道を作る時が来たのだ。
現在、陥落地や人間の住めない環境であった星を興し、ヒスイノの名を付けた惑星は全部で十二個。これだけ広大な土地があれば、ヒスイノだけでも経済圏を作ることができる。
まず、以前は仙舟に訪問していて、現在は戦争の影響で元の星に戻った取引相手。彼らとの繋がりを戻し、より深いビジネスができるよう、私は星海を駆けまわった。
仙舟と豊穣の戦争に介入し、豊穣の民が仕切っているという情報は出回っており、深緑の騎士のことを警戒する取引相手もいた。だがヒスイノの商人が持つ人の良さを信じる者、先の戦場での動きがこれまでの功績と何ら変わらないと言い支持してくれる者は少なからずおり、ビジネスの継続を行ってくれることになった。
また一部の信頼できる商人には、ヒスイノの現状を個々に教えていたらしく、「多種族が上手く相互関係を築けている組織」という部分に惹かれて、一層入れ込んでくれる商人もいた。
次に、反物質レギオン、スウォーム、そして侵略を行う豊穣の民の無力化を行った場所。その星に住まう人々との交易だ。狩りが終わり、目的を達したらすぐに離れていたのだが、私はこれらの星とも初めから友好的な繋がりが築けるのではないかと考えた。
実際星々に再び訪れて交易を行いたいと願うと、星の代表者や国の統治者は、諸手を挙げて歓迎してくれた。生物科学技術では、我ら狼の技術を上回る星は無かったが、食品の生成や、機械製品の豊富なバリエーションといった生活をより豊かにできる日用品については彼らに分があった。
種族も増え、生活様式の幅は多様化してきている。細かいところに手が届く技術群は、今最もヒスイノに必要なものだ。
白珠は他の星に向かう機会を楽しんでおり、星の特産品を買い漁っていた。
そして私たちにとって、取引で大きな割合を占めている、ヤリーロ-Ⅵとスターピースカンパニーの一部事業部。彼らとのビジネスは、より密接になった。
ヤリーロ-Ⅵからは改良された自動機兵、星を存護するための技術が次々に開発され、私たちの生体ドームと引き換えに鉄壁の護りを提供してくれている。ヤリーロ-Ⅵは大部分が雪に覆われたままだが、ベロブルグ以外に活動できる土地は広がっている。第二のベロブルグが生まれる日も近いだろう。
スターピースカンパニーは、クネーテが率いる隊と、彼女の息がかかったビジネスパートナーたち。カンパニーの巨大さから見れば小さいのかもしれないが、数百名規模の取引相手がいるため、幅広いビジネスを展開できている。
こうして比較的短い間で、基盤となる取引相手との交易は強化でき、更なる顧客も獲得した。ヒスイノの名は豊穣の民の集団という安易なレッテルで括られず、取引した者へ最大限の利益を齎す、穏健な集団という認識に落ち着いた。
ある時、カンパニーのクネーテから、あるビジネスが持ちかけられた。以前から提案されていたことだが、時期尚早と断っていた話だ。私はヒスイノの研究の進み具合から判断し、一度腰を据えて彼女と話すことにした。
議会用の席に私とクネーテは座り、対談を始める。クネーテは、昔から変わらない幼い容貌を自信で満たしながら口を開く。
「クゥアンさん、最近のヒスイノの進歩は目を見張るものがございますね!カンパニーの視点だけでなく、わたし個人といたしましても、この発展を支えたいと考えております。それで…お考えは決まりましたか。」
「貴女が長らく協力していただいたおかげだ。私は、ヒスイノの発展のために力を尽くしたいと考えている。商人と研究者それぞれのまとめ役も、このプロジェクトに賛同しているよ。」
「それはそれは、嬉しいことです!」
クネーテは両手を胸元に持ってきて拍手をする。彼女の顔には、商人としての打算が色濃く出ていた。
私は書類を見て、新しいビジネスの全容を確認する。それは、「欠け月」の粒子の実用化だ。
クネーテだけでなく、ヒスイノに関わるカンパニー社員は欠け月の有用性に目を付け、富裕層向けのビジネスを提案した。欠け月を最小化された粒子を人体に取り込むことで、健康寿命のまま天寿を全うできる。基準値を上回った量を摂取すれば、寿命が種族の限界を超える。
これは自ら進んで実験に参加した人間種や、人間種で深緑の騎士に加わった者からデータを取り、証明されたことだ。粒子が体内を駆け巡る状態は、宇宙に瞬く星々のようである。そのため欠け月を取り込んだ者は、「星を飼っている」と称され、私たちは「星飼い」と自らを呼ぶことになっていた。
クネーテは大まかな説明と詳しい説明を織り交ぜながら、分かりやすく続ける。
「この広い星海には、膨大な信用ポイントを抱えた資産家の方が多くいます。富を持っても老いからは逃れられない。死を恐れて延命技術を求めるのです。…長命と言えば、仙舟同盟は長命種で構成されていますが、まあ情報を得ることは不可能です。」
「だからこそ、こぞってヒスイノに来る…。クネーテさん、一つ話しておきたい。確かにヒスイノにはまだ、巡狩の矢は打ち込まれていない。だがヒスイノの外部の者が欠け月を持ち出すと、どうなるかは未知数だ。もし打ち込まれたら、経済的損失は計り知れないだろう。」
クネーテは少し考えこむと、笑みを浮かべて端末に情報を投影する。それは私がクネーテから交渉され、高値で渡した情報の他に、未知のデータが記されていた。
「…貴重な統計データを、クゥアンさんからいただきました。加えて、わたしも独自で調査したのです。カンパニー内でも権限を持つ者が入れる情報ネットワーク、そこにはカンパニー側が観測した巡狩の星神の矢について、詳しく記載がなされていました。」
「それで…。」
「はい。「帝弓の矢」はあなた方が考えている通り、豊穣の民の動物的な行動、略奪行為に反応して放たれている可能性が高いです。それに、豊穣の力を受けた上で、人を襲い始めることが鍵のようです。」
矢が落ちた場所のデータと、近年の出現数が示される。古き歩離の民に、豊穣の民はまだ多く残っているが、私たちの縄張りには近づけさせていないため、ヒスイノの名がついた星群の周囲だけ不自然に点がない。それに出現数は右肩下がりだ。
「ヒスイノの発展によって、鞍替えした豊穣の民も確認されています。ほぼ危険はないとデータが物語っています…ですが、資産家の方にはヒスイノに永住してもらう契約で行きましょう。公にすれば、それこそクゥアンさんが話された、もしもが起こりかねません。」
クネーテは端末の投影を終えると、こちらに向き直る。ピピシ人は姿が幼いままだが、彼女も私と同じくらい生きている。彼女が多くの星を巡り、積み重ねた経験は、小さな体を山のごとく幻視させた。
「おそらくわたしがカンパニー社員として立ち上げられる、最後の大規模プロジェクトになるでしょう。必ずやヒスイノの皆さん、そして琥珀の王のために、成功させたいのです。」
「…よろしくお願いする。」
クネーテのとても小さな手に、私の指をゆっくりと出す。ビジネスの始まりを告げる握手を終えると、クネーテは、ほっと自然な調子に戻った。
「スターピースエンターテインメントには話を通してあります。すぐにでも富裕層向けに広告を打ち出せますよ。…カンパニーを辞めたら、個人事業主としてヒスイノの資産家の仲間入りを果たしたいところですね!」
彼女に老後などなく、商売を続けることを望んでいる。全財産をはたいてでも、寿命を延ばし自身の生きがいを追うとクネーテは意気込んでいた。私としても、信頼できる人が生き続けてくれるのはこの上ない幸せだ。
私は白珠や応星のことを想った。景元は仙舟人として、究極的には寿命の概念がない。だが彼女たちはやがて寿命を迎える。そのとき、欠け月を取る選択をするだろうか。
老いても尚、活力に満ち溢れている応星。星間を飛び回り、開拓をずっと続けることを望む白珠。特に応星は人間種ゆえに余命は短い。会える機会も少ないだろう。そのときになったら、私は二人の選択を尊重したい。
月日は流れる。仙舟同盟が声明を出し、仙舟「羅浮」の玉界門が、外部の人間のためにも開けられることとなった。白珠は星槎ではない、他星から輸入した船で、仙舟に戻ることになる。
私は中には入れない。仙舟同盟が、こちらに対してどう対応するか、まだ定められていないからだ。だが護衛だけはしようと考えている。
白珠がこの一年弱で集めた、星の特産品でいっぱいになった船を見て笑う。雲上の五騎士や、他の組織にいる友人へのお土産だそうだ。
「ふふふ…これだけあれば、皆も喜びますよー!」
「白珠さんの無事こそ、最も喜ばれることだ。しっかり守ろう。」
「お願いします…貴方がいると、船が大破しないんです!やっぱり狂风は、幸運を持っていますよ!あたしの不運を吸い上げてくれます!」
白珠は私の見ていないところでは頻繁に星槎を大破させているそうだ。そんな事故で白珠の身に危険が及ぶのは、よろしくない。私は護衛と言えど、ゲン担ぎに近い形でついていくのだ。
私は横に止めていた巨大な船に乗り、白珠の船の前を飛ぶ。今回も幸いなことに白珠の船は壊れずに済んだようだ。
見えてきた仙舟「羅浮」の前で一時の別れを告げ、ヒスイノに戻った。白珠から来る報告を楽しみにしながら。
星飼い
ヒスイノ人の総称。彼らは緑色の星を体内に飼っている。そしてその星は、自身が託したいと思う人物に出会ったとき、体内から出ていかせられるという。
これは継承の儀式のようであるが、血生臭くなく、美さえ感じさせる。