月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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ドリームメイカー

 宴の星と噂されるピノコニーが存在する、アスデナ星系近辺にやってきた。

 現在この星には、色々な派閥や星から人が集まっているが、彼ら夢追い人は故郷に戻らず、戻った者も情報を漏らさない。ナナシビトからの招待状が語る、夢の叶う星だという噂だけが独り歩きしているようだ。

 ピノコニーを船内から観察する。荒れ果てた監獄そのものの外観だ。新しい建造物らしき骨組みは作られているが、とても「宴」の要素は見られない。白珠も首を傾げ、ピノコニーの様子を不思議がる。

 

 

 私たちの疑問は、星に入ってからさらに深まることとなる。私たちが船から降りると、監獄のいたるところに人がすっぽり入る大きさの容器が見つかった。容器の中には水色の液体が収められており、人の体が浸かっている。見てみると、液体に浸かった人間たちは眠っているようだ。

 私たちに近づいてくる人影がある。年若く見える女性だ。人間種に似ているが、耳が鳥の翼のような形状をしており、頭頂部にはヘイローが浮かんでいる。髪色と翼は黒く、ヘイローは金の光沢を放っている。

 この外見的特徴から、彼女の種族は天環族だと分かった。

 

 

「遠路はるばる、ピノコニーへようこそいらっしゃいました。私はノア。オーク家に属する者です。貴方へ招待状を出した、ファミリーの代表としてお待ちしておりました。クゥアン・フェンさんのことをお聞きしまして、是非ともピノコニーの開拓にご協力いただけたらと。」

「はじめまして、ノアさん。…一つお聞きしたいのですが、この星の開拓はどこから進められているのでしょうか。内外どちらも、荒れ果てているように見えます。」

 

 

 目の前の女性ノアは、私の問いかけに柔和な笑みを浮かべて答えた。それは私の想像を超える話だった。

 

 

「戸惑われるのも無理はありません。ピノコニーの主な開拓地は、夢の中。憶質に被曝し続けた住民が見出した、共感覚夢境にあるのです。」

 

 

 彼女は話す。現実と夢境双方に作る予定の建築物については、現在ナナシビトのミハイルに、ピノコニーの五大クランの内オーク家とカタルス家の代表が話し合っている状況だと。

 何でも最近まで、外部からやってきた夢追い人とピノコニーの原住民間の争いが勃発していて、ようやく夢追い人側が妥協したらしい。暴力を扇動していた夢追い人は追い出されたが、ピノコニーの悪評を広めないように調和の力を使い対処されたそうだ。調和の勢力は、星神の影響力の広さから、精神に干渉できる規格外の力を誇っている。調和の力は、やはり恐ろしく感じる。

 

 ノアは水色の液体を示し、言葉を続けた。これは憶質の塊であり、体を浸からせ眠ることで、夢境に入ることができるそうだ。

 

 

「クゥアン・フェンさんと、ご友人方。貴方方には、プロジェクトの補強をお手伝い願いたいのですが…詳しいお話は夢境の中で。またお会いしましょう。」

 

 

 ノアに手順を教えてもらい、私用に用意したという巨大な容器に肩を漬ける。夢を見ないオムニックも夢境に入るための技術があるらしく、ノアに案内されていた。私は目を閉じ、意識を闇へと落とす。

 

 

 意識が浮上すると、そこは荒野であった。点々とシンプルな造りの建物があり、監獄は影も形もない。夢境に入ったのを理解する。

 起き上がり待っていると、ノアが白珠やヒスイノの民を連れてきた。白珠は初めての体験を楽しんでいる。

 

 

「狂风、夢の中なのに現実みたいですよ!感覚もしっかりあります!」

「本当だ。憶質とは不思議な物質だな…。」

「皆さん、夢境へようこそ。ご案内しますね。」

 

 

 ノアは私たちを先導し、臨時で建てられたらしい大きめの建造物に入る。

 建物の中には、ノアと似た服装をした天環族が集まっていた。彼女は扉を閉めると、私たちを呼んだ理由を話す。

 

 

「クゥアン・フェンさん。私たちはピノコニーにおいて、夢境の雛型を作る「ドリームメイクプロジェクト」の成功のため尽力しています。中でも、ピノコニーの現実・夢境に対応する施設は綻びなく作らなくてはなりません。ですが、その部分を担当する設計者の方は、同時に別の空間も作られています。」

 

 

 彼女は設計者の写真と、設計者が提出した大まかなコンセプトを私に見せる。写真には、大きなつばの白い帽子を被った貴婦人が写っている。

 また、ピノコニーの入口となる建物は、この星ごと覆う巨大ホテルのようで、「ホテル・レバリー」と銘打たれている。もう一つは、「オアシスの刻」という名前になるらしく、美しい自然をイメージしているようだ。

 

 

「お仕事へかける力が分散されてしまうのは、非常に危ないことです。そのため、クゥアン・フェンさんたちには設計者のジョーイさんとオアシスの刻にて協力していただき、完璧なドリームメイクを行えるようにお願いいたします。」

 

 

 ドリームメイクという専門的な技術を持っていないことに一瞬焦りを感じたが、ノアが補足する。私たちは、ヒスイノの環境についての見識を、ジョーイという女性に伝えてくれればいいと話した。

 最後にノアは言う。今回の招待は設計者が望んだことであると。ピノコニーを真の意味で宴の星にするため、自然と文明の調和が取れた観光地として名が知れてきた、ヒスイノにおける統治者の私を呼んだそうだ。

 ノアは報酬を約束する。ファミリーとの協力関係と、ピノコニーに来ている人物との橋渡しを。ファミリーは、私の望んでいることをよく理解しているようだ。

 

 オムニックの皆が情報データを持ってきている。ヒスイノの中でも柔軟な発想ができる者も連れてきた。私もヒスイノの発展については詳しく知っているため、十分助けになれるだろう。

 ピノコニーの特殊性や夢境を構築するとはどのような技術なのかなど、この目で見てみたいことが沢山ある。白珠の本も書くことが増えるだろう。私は頷き、その依頼を了承した。

 

 

「承知しました。ジョーイさんがいらっしゃるところまで、案内をお願いします。」

 

 

 

 夢境は数多の夢追い人によって空間こそ広げられたらしいが、入口付近以外はまだ荒地のままだ。再びの案内の元、私たちは作りかけの巨大建造物の中にやってくる。憶質を再構築して作られている壁付近で、先ほど写真で見た女性が、スケッチブックや画材、そしてびっしりと文字が書かれた文献を手に、考え込んでいる。

 ノアが彼女に声をかけ、お辞儀をして去っていく。画材を置き、設計者のジョーイがにこやかに対応する。

 

 

「依頼を引き受けてくださりありがとうございます、クゥアン・フェンさん。ジョーイと申します。手短なご挨拶にはなってしまいますが、早速お願いします。」

「ええ。皆、情報データの投影を頼む。」

「了解しました。ヒスイノの環境データ閲覧、承認。」

 

 

 高密度のホログラムを使い、調和のとれた自然環境の詳細を説明した。ジョーイは芸術の才能を発揮し、目で耳で情報を受け取り、書き出していく。彼女が言うには、ドリームメイクは詩のようなものだそうだ。夢の中だからこそ奇想天外な発想を形に出来るが、まずはインプットが必要だという。

 密度の高い情報こそ、作る夢境の完成度をさらに向上させるのだろう。私はヒスイノの仲間たちや白珠が、ドリームメイクの技術を目で見て理解しようと努力しているのを確認しながら、休むことなく話し続けた。

 

 

「とても興味深いわ…私は建築は得意なのですけど、草木の表現でしたり、「楽園」の表現は難しくて…。」

 

 

 ジョーイが「オアシスの刻」の雛型を明瞭できたとき。精神的疲労を感じながらも、ジョーイと、人懐っこく話を回してくれる白珠と共に、雑談に興じた。

 

 彼女の出身はイプシロン星系で、芸術家系に生まれたそうだ。元々著名な星間建築デザイナーであり、その才覚を買われてグラークスという元博識学会の権威であり、現カタルス家当主の教授にヘッドハンティングされたらしい。ジョーイの話で、カタルス家のドリームメーカーについて情報が集まってくる。民間の建築デザイナーから、当主と同じく博識学会の元メンバー、スターピースカンパニーを追い出されたものまで。カタルス家は様々な経歴を持つ、優秀な人材を固めているようだ。

 またジョーイは、夢境の中を記憶域ミームが横行しているため、構築に危険がつきものであることから、身を守る術がないことに不安を抱いていた。

 

 その嘆きに対し、私が口を開いたのと白珠が言葉を発したのはほぼ同時だった。

 

 

「あたし、だいぶ腕が立ちますから、安全の確保なら任せてください!…狂风、いいですよね?」

「ああ私も考えていたところだ、白さん。ジョーイさん、ファミリーの方からそういった依頼は受けていないが、護衛なら任せてくれ。」

「お二人とも、ありがとうございます。お言葉に甘えて、お願いしようかしら。」

 

 

 ジョーイは、グラークスとファミリーに追加依頼を行ったことを伝え、私と白珠と一緒に夢境の開拓へと赴くこととなった。ヒスイノからの人員は戦闘をするために来たわけではない。彼らはファミリーとカタルス家から繋がりを得るため、交渉事に向かってもらった。

 

 

 未開拓の夢境は、足場もない無の空間であるか、人の記憶が繋ぎ合わされた奇怪な見た目の空間である。ジョーイはまず足場を作り、次に壁を作って慎重に進んでいく。

 そして彼女のみならずドリームメーカーたちが恐れている存在が現れる。手足の生えた、紫色の巨大な宝石鏡。くるくると回転しながら飛ぶ物体。記憶域ミームである。中には私の背丈より少し小さいくらいの怪獣もいる。記憶域ミームたちは私たち三人を認識すると、こちらに向かって鋭利な腕を突き出しながら走ってくる。

 私はジョーイを憶質で作った壁の影に隠れさせ、白珠と並ぶ。

 

 

「不思議な見た目だな。記憶に関わる物質は、宝石のように固まるのだろうか。」

「きれいですけど、攻撃性は高いみたいですね。狂风!間近であたしの弓の腕、見せてあげますよー!」

 

 

 曲弓を構え笑う白珠。夢の中であるのに、武器も再現されるとは面白いものだ。私も斧槍と大盾を構え、記憶域ミームへの攻撃を開始した。

 

 

 再現された斧槍は、私の攻撃の意思によって鋭さを増し、紫色の宝石を穿ち砕く。やはり記憶が関係している故か、鏡を模したミームは、姿形を別の生物へと変化させ再現した。私は見覚えがないが、白珠は驚いて口を開けている。

 

 

「雪岩オオトカゲです!スノーランドに生息しているんですよ!」

「一つ勉強になったな…!」

 

 

 斧槍で巨大なトカゲの脳天をたたき割り、別の個体を大盾で壁に押しつぶす。ぱりんとガラスが割れるような音がして記憶域ミームは形を保てず、雲散する。大盾「月昇」は再現であっても効果を為してくれた。

 

 白珠が星槎から出て弓を撃つ姿は新鮮だ。宝石の弱点を早々に見つけ出し、一・二本の矢で敵を壊していく。瞬く間に記憶域ミームの群れはいなくなり、私の首狩りと、白珠のヘッドショットで恐竜のごときミームが最後に消滅する。

 

 憶質の小さな塊が、ドリームメイクで作られた床にからんとと落ちる。それは小さな鏡だった。私は試しに手に取ると、力加減を間違えたか想像以上に脆く、厚い鏡が砕ける。それは私の手に絡まるように欠片がまとわりつき、武器の表面を加工していく。夢境に限ったことのようだが、武器の強化ができそうだ。

 夢の中の世界は、本当に奇想天外だ。私は心の中で、その不思議さを楽しんだ。

 物陰から出てきたジョーイは手を合わせる。

 

 

「お二人ともお強いですね。すごく安心できます。」

 

 

 私たちはそれから何度か記憶域ミームに遭遇したが撃退していった。ジョーイはリラックスした状態でドリームメイクができていたようだった。

 

 

 開拓は一日一夜で終わるものではない。ヒスイノの人員の交渉が終わったら、遠隔通信を行い、深緑の騎士に護衛の任務のため来てもらうことにした。物静かでドリームメイクの邪魔にならない戦士をだ。

 

 深緑の騎士の評判は知られており、ほぼ無償で行う護衛のため、構成員に戦士のいないカタルス家は私たちを歓迎してくれた。ピノコニーの五大クランは水面下で衝突しているらしく、警備・自治を行うハウンド家はあてに出来ないそうだ。

 交流を深めていると、ジョーイ以外の才能あるドリームメーカーに会うことができるようになった。彼らも私たち深緑の騎士で護衛しながら、ヒスイノとピノコニー間を往復することが続いた。

 

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