最初こそ間接的な接点ではあったが、私たちはカタルス家との関係を強化してきた。他の夢追い人との交流もヒスイノのためにはなったが、ピノコニーにおいて出自が統一されていない家はカタルス家くらいだ。彼らと繋がりを持つことは、必ずヒスイノの未来を切り拓く。
ドリームメーカーたちをはじめ、カタルス家の当主グラークスとも顔を合わせ、協力関係を築いた。
数々の星系を回ってきた白珠は、カタルス家に対し、自らが「涯海船勝覧」の著者であることを公言した。彼女は開拓の合間を縫い、星ごとの伝手を使って、許可を取得済みの建築技法の数々を持ってきてくれたのだ。そして私主導で、現実世界におけるホテル・レバリーのために夢追い人と同じように建材を持ち込み、深緑の騎士を率いて安全対策を取った。
こうして数年経ち、現実と夢境どちらにも、ホテル・レバリーが無事完成しようとしていた。
しかし完成までに問題は起こりかけた。カタルス家のドリームメーカーは優秀だが後ろ暗い過去を持っている者も存在し、他のクランからやっかみを受けることがあったのだ。夢境を構築する役割はピノコニーの要になるはずなのに、何故足を引っ張ろうとするのか。私は四大クランの動向に疑念を感じていた。
まず表立って標的にされたのはジョーイだった。彼女は故郷のイプシロン星系における設計を盗作しているのではないかと、訴えがあったのだ。だがその訴えは早々に取り消される。ジョーイは、ヒスイノの存護を意識した、日々改良される建築技法と、白珠が持ってきた設計を取り入れたためだ。専門家が見れば別物であることは一目で分かるため、ジョーイの失脚は起こらずに済んだ。
次は、ピピシ人のフォーンという男性であった。彼は自身の技術開発によって爆発事故を起こしたため、スターピースカンパニーから雇用を打ち切られている。この過去を騒ぎ立てようとする流れが起こりかけ、それをカタルス家の当主グラークスが止めた。騒ぎを起こそうと企てたハウンド家の一部の言い分はこうだった。
これからの夢境を守るためには、危険人物は捕えておくべきだと。この頃からハウンド家はファミリーに帰属しており、オーク家以外の他家もファミリーに属そうとしていた。ファミリーの夢境開発計画に賛同しながら、加入するつもりがないのは、いつしかカタルス家だけになっていたのだ。
部外者である私たちはピノコニーの意向に口出しできないが、それでも不穏な雰囲気が漂ってきたのを感じていた。次は誰が、調和の名の元に押さえつけられるのか。短い付き合いだが、何とか彼らの力になれないか、私は思索を始める。
そんなときだった。私と白珠が、カタルス家の会議に呼ばれたのだ。
私が夢境内にあるカタルス家の陣地に入ると、ジョーイとフォーン、それに五人の人物が円卓に腰かけ、話をしていた。幼い風貌のサングラスをかけた男性フォーンは癇癪を起こしたような口ぶりで、ジョーイはそれを宥めている。
「全く!これ以上面倒事が増えるのはこりごりだ!」
「フォーンさん、落ち着いて。…あら、クゥアン・フェンさんに白さん。」
ジョーイの言葉で、総勢が私たちを見る。折り紙のドリームメーカーの称号をグラークスから付けられた秀才たちに、カタルス家に引き取られ才能を開花させた少年。そして、頭部が梟の鳥人、ザスカー人のグラークス教授。それに、特徴的な装飾品を身に着けた壮年の男性。最後の人物には見覚えがない。
場の雰囲気を和らげるためか、グラークスが嘴を開いて、順々にゆっくりと紹介してくれる。
「協力者のお二人。よく来て下さった。何度か顔を合わせたことがあるが、改めて紹介しよう。こちらの方についても。」
右から順にグラークスは名前を呼んでいく。ジョーイ、フォーン、バロー、フィッシャー。少年の名をオルラ。最後に、壮年の男性をミハイルと呼んだ。彼は現在時計屋と呼ばれており、ピノコニーの開拓のため残ったナナシビトだと告げられる。まさかこのようなタイミングで、白珠の話していた人物に会えるとは。
白珠の瞳が光り輝き、口を開こうとするが、咳払いをして止まる。呼ばれたわけについて訊くのが優先だと、白珠も考えているようだ。
紹介を終え、グラークスはそのまま続ける。
「お二人に来ていただいたのは、ファミリーについて考えなくてはならないことができたからだ。最近他クランから、ファミリーへの加入を催促されていてね。名ばかりの団結を促すために、強硬手段を取られている。ドリームメーカーたちの安全を引き換えに…。」
「グラークスさん。俺は断固反対だ!」
「そうだ。屈すれば、カタルス家が培った技術を根こそぎファミリーに取られるのと同じだ。」
フォーンが憤り、バローという名の金髪の男性が頷く。ファミリーに強制的に加入するのは私も反対である。調和の名の元に一つとなる。字面だけ見ればそれは一見美しく感じられるが、個の意思を排除した結果だ。宴を掲げるならば、各々が自由でなくてはならないと私は思う。
「ここにいる皆さんは、ファミリーに入ることを拒んでいらっしゃるようですね。折角の協力関係です、私もカタルス家の進む道を支えたい。…ミハイルさん、貴方もお考えは同じなのですか?」
「ええ。僕は今のピノコニーが、古い友人が本当に望んでいた景色なのか。それを考えています。それに反対する者を無理やりに加えるのは、彼らしくない。」
ミハイルは、過去ピノコニーに落ちた星核を封印したファミリーの代表のことを話した。そのファミリーの代表は以前私と白珠、クネーテなどが向かったモントール星系から来ているようで、ずっとピノコニーの建設に協力しているらしい。ミハイルから見てその代表は善良な人物であり、調和を進めるにしても以前の彼なら温和な策を使うと断言した。
考えが変わるきっかけがあったのか、それとも下の統率が取れていないのか。どちらにしてもミハイルはカタルス家に協力するようだ。ミハイルとグラークスは友であり、その友情が反故にされることはない。
会議が始まり、ドリームメーカーたちの保護を目的とする夢境の構築が考案される。この計画において、重要な役割を果たすことになりそうなのは、カタルス家に引き取られた、少年オルラであった。彼はドリームメイクの天性の才能を持っており、特に「シェルター」を作ることに長けているそうだ。
具体案が出てきて、オルラを主体として、カタルス家は秘密裏に夢境製作を行うこととなった。ドリームリーフ、ファミリーの手が届かない安寧の場所を。
「私たちができるのは、あなた方の護衛です。完成するまで、ドリームメーカーたちに危害が及ばないよう尽力しましょう。」
「ありがたいことだ。君たちのことはよく耳にする。力と文明に秀でた星の住民だと。ミームを難なく退けられるその力、お借りするよ。」
「僕は、他のクランに掛け合おう。カタルス家は、ホテル・レバリーや十二の刻の製作にのみ注力していると僕が言えば、怪しむこともないはずだ。」
グラークスが目を細めて私の言葉に返し、ミハイルが策を練る。
白珠がミハイルから話を詳しく聞けたのは、それから五システム時間ほど経った後であった。
精神の休息のために、談話の時間が取られる。グラークスはドリームメイカーたちと技術の進展について話しており、私と白珠はミハイルから話を聞いていた。
ミハイルは、白珠がナナシビトであることを本人の口から聞くと、同族に対する親近感が湧いたようで、砕けた口調になった。星穹列車に乗ったことがなくても、開拓の精神を持つものならば皆ナナシビトだ。白珠が訪れた星の話を聞きながら、お返しにと星穹列車時代の開拓の物語を、私たちに話してくれる。
ミハイルは被っていた帽子を、膝の上に持ってきて言った。
「…この帽子は、星穹列車の先輩から受け継いだものなんだ。ファルケン・アムンゼンという、ナビゲーターの男性でね。アムンゼンさんには開拓の多くを教えてもらった。彼が僕に渡したように、いつかはこの帽子を託したい。」
「素敵です…!」
白珠が熱心に聞くのを彼は眩しそうに見ながら、話を続ける。星穹列車は消失したが、彼はこう考えているそうだ。列車は必ずや、星海を再び走り始める。それがいつになるかは分からないが、開拓の精神を持つナナシビトがいる限り、その象徴が隠れたままであるはずがないのだと。
星神が隠れても人々の理念、精神が死ぬわけではない。例えば、話に聞く「純美の騎士団」という派閥は、その信仰元である純美の星神イドリラが姿を隠しても尚、信じることを止めず純美の道を実践しているそうだ。
ならば開拓も終わることはない。現に目の前には、ミハイルや白珠がその精神を燃やし続けているのだから。
楽しい話以外、このピノコニーの独立戦争についてもミハイルから聞く。先ほど会議で口に出していた古い友人とは、独立戦争を起こした囚人ハヌヌという人物のことだった。ミハイルの他にも二人のナナシビトがピノコニーで降り、共に戦ったが、戦争中やピノコニーでの内乱によって喪ってしまったそうだ。
星穹列車に乗りながらも憶質の研究を行っていた測量士の女性ラザリナ、武術に長け星穹列車の護衛を行っていたガンマンのティエルナン。そしてアスデナにて自由のため懸命に戦った囚人ハヌヌ。三人だけでなくその他大勢のためにも、開拓に責任を持ってミハイルは進み続けている。
私たちは再び会議を行い、カタルス家の進む道を理解した。きな臭いファミリーに支配されない、自由なピノコニーを作るために。私は、カタルス家とナナシビトに傾いた。
ピノコニー、本編との大きな差異
・「折り紙のドリームメーカー」の命が延びる。
・グラークス教授が当主を引退する前、カタルス家を守るための決断をする。