月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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調和のみならず

 ついにホテル・レバリーが完成し、オープンする。ファミリーは、ピノコニーで記念すべき第一回目の調和セレモニーを行おうとしていた。ファミリーにとって、調和の星神、シペの化身を降ろすこの儀式は重要なものであり、それを初めて行う星となれば、気合いの入れようが違う。

 

 しかし、ピノコニーにはまだ調和に属さない勢力が存在する。勿論ファミリーに帰依しようがしまいが、シペの化身はピノコニーにいる全てを祝福するだろう。そうであれば、ファミリーに加わっていた方が、同じ気持ちで調和セレモニーの音色を響かせることができるではないか。

 ファミリーの中のいくらかが交渉に行った。いつも通りの柔らかい声音で、最後の一つに対して加入してほしい旨を伝える。ピノコニーにおいて、最初にファミリーへ入ったオーク家もそれを後押しする。めでたい日に、そのまま融和は上手く行くと、ファミリーの総勢は考えていた。

 

 だが、差し伸べた手は力強く払われる。カタルス家の当主は、こう続ける。私たちは夢境開発計画に賛同しただけであり、公私は分ける。これからも独立し続けると。

 

 ピノコニーにくる以前からファミリーに所属していた人員にも、異なるアイデンティティはある。無理に加入を進めなくても「調和」は図れるという穏健な考えの者たちと、共に手を取り合い何としてでも家族になりたい、ここまで一緒に頑張ってきたじゃないかと、些か強引な「調和」を行いたがる者たち。二者の考えは、家族として親密でありつつも、水面下では隔たりができていく。

 強硬派の考えは、カタルス家を除いた他四大クランの一部にも浸透していく。そして考えは歪められ、本来の「調和」を望む気持ちのない、暴力的な行動へと移りかけていた。

 

―――――――――

 

 私は、完成していく表の夢境、十二の刻には立ち寄る機会が少なくなっていた。ファミリーの中でも穏健で、親身になってくれる人物との交流を行う外は、ずっと構築途中のドリームリーフに訪れている。

 ドリームリーフには、夢境に入るための液体であるドリーム流体を用いるだけでは入れない。

 カタルス家にやってきた者には、記憶の派閥であった人物も存在する。彼女らが試行錯誤し、オルラの作るシェルターを行き来する方法を考え出した。それは同じ「記憶」の所持だ。

 

 記憶の派閥である、ガーデン・オブ・リコレクションの高度な技術、光円錐。独自の精製技術であるので、ガーデンに所属していない者は作ることができないが、空白の光円錐は売買されている。高額ではあるが、買えないほどではない。「カタルス家や協力者たちが、ドリームリーフを作り上げている記憶」を光円錐に包装し、関係者が持つ。

 特別な識別反応が光円錐に入れられているため、記憶が一致する者だけがドリームリーフに入れるというわけだ。これは臨時で取り入れられた方法であり、ファミリーの干渉が無くなれば別の簡易な手段に変える予定だそうだ。

 

 

 私は、ドリームメーカーたちを率いて夢境の作製を熱心に行う少年オルラに、声をかける。私の役割は、工事現場で記憶域ミームに襲われないようにするための護衛と、オルラを見ることだ。オルラの護衛は、グラークス教授に任された。大事な計画の要であり、まだ幼いからだという。オルラの他にいる四人の「折り紙のドリームメーカー」たちは、十ニの刻にて作業を行っている。一人あたりにそれぞれ深緑の騎士数人をつけているため、非常事態が発生したら、すぐさま飛んでいく。

 

 オルラはむすっとした顔を見せ、ドリームメーカーたちに休憩の指示を出す。肉体の疲労はないが、適度な休息は必要だ。子供であればなおさら。

 彼は屈強な声で、不愛想に言った。

 

 

「お前、他にもやることがあるだろ。ドリームメーカーの世話ばかりしていないで、そのでかい体を動かせよ。」

「やはり家族が心配か。安心してくれ、有事のために待機しているだけだ。オルラ君の家族はしっかり私の仲間が護衛しているよ。」

「…当たり前だろ。ジョーイとフォーンは訴訟騒ぎの後、襲われかけたんだ。フィッシャーは先生と一緒だからまだ大丈夫かもしれないが…バローだって危ない。だから、お前はもっと働け。」

 

 

 オルラの殊勝な態度の裏には、不安の影がある。私はオルラの不安を取り除くために、言葉をかけ続ける。棘のある言葉はごもっともだと受け取り、オルラの話を真摯に聞く。

 少年はまだ心が成熟しておらず、さみしがり屋だ。口調は変わらないが、過去のことや自身が興味を持っているものなど、私的な感情を更に見せてくれるようになった。

 

 

 私は自身の役割を徹底した。そして、ホテル・レバリーがオープンしてまもなく。四大クランから大きな動きがある。特に目立っていたのはハウンド家であった。オーク家が定めた法律に従い、ピノコニーでドリームメイクをする前の行いを持ちだして、ドリームメーカーたちを逮捕しようと動き始めたのだ。

 

 オルラのシェルター、ドリームリーフに多くのドリームメーカーは逃げ込み、籠城する。だが十二の刻を作った責任者は最後まで残った。そのため、ハウンド家との諍いが起こりかける。

 私は、標的として選ばれたバローを守るため、夢境へと飛んだ。

 

 

 ほぼ完成しかけた夢境の中で、ハウンド家の人間がバローを責め立てようとしている。彼についていた深緑の騎士の女性が、ハウンド家の人間の腕をぐいと持ち上げ睨んでいた。

 

 

「バローさんは夢境の設計者、丁重に扱うべき方です。逮捕される謂れなどありません。侮辱はやめてください。」

「なんだお前は!部外者は引っ込んでろ、これはクラン同士の問題だ!」

「…おい、後ろ。」

 

 

 私は、ハウンド家の人間の顔を一人一人覗き込む。ハウンド家の人間だけでなく、バローや私の仲間も気づいたようだ。

 

 

「クゥアン!いいところに来てくれた!」

「でかすぎるだろ…ファミリーの人間が言ってたやつって…。」

「ハウンド家の皆さん。ファミリーは強硬手段に出るほど、調和らしくない集団なのか?彼はドリームメイカーになってから、罪を犯してなどいない。録音はした。…帰った方がいい、これ以上は貴方達が不利になるぞ。」

 

 

 バローの罪状は、ファミリーの機密情報を盗んだことらしい。だがそれは、ドリームメイク技術を高めるため、ピノコニー外の人間との協力を行っていただけだ。事実を歪め、尋問で痛めつけるためだけにバローを捕えようとしている。

 ハウンド家の人間のうち一人は、私の体躯を見て顔を青ざめさせながら、ぽつりと言葉をこぼす。人間種には聞こえないほどの小さな呟きだった。

 

 

「そういうわけにいくか…これは、ファミリーの総意だ。危険人物をピノコニーにのさばらせるより、ここで消してやる…。」

「随分と暴力的だな。」

「俺たちは暴力を行わない。だが記憶域ミームはどうかな…?うっかり事故が起こるかもしれないな。」

 

 

 ハウンド家の人間たちは思い切った決断をしたようだ。

 ハウンド家の人間は、夢境内でのサービスを行う「スウィート・ドリーム劇団」を従順にしたものを連れてきた。そしてそれらは、私たちの方に記憶域ミームを誘導する。まだ未完成の夢境であるからこそ、記憶域ミームは横行しているのだ。

 彼らは姿をくらます。まるでこの横暴が無かったかのように。

 

 

「狂风様、ドリームリーフに急ぎましょう。随分と用意周到に、暗殺の計画を立てていたようです。」

「ああ。…バローさん、私たちが壁になります。行きましょう。」

「だいぶ危なかった。深緑の騎士がいてくれて助かったよ。」

 

 

 私は深緑の騎士と共に、バローを護衛する。彼に付けていた他の深緑の騎士は、周囲の安全のため記憶域ミームを倒して回っていたようだ。続いて二名の深緑の騎士が合流し、記憶域ミームを砕きながら夢境を脱出するため奔走する。

 

 

「夢の中でも使えるか…?紅鎧!」

 

 

 私の体から靄が出て、人型の紅鎧を作り出す。現実世界では、手足と同じで拡張された器官であるが、それらは頷き意思を持って加勢する。夢の中では憶質を取り込んで、人間のように振舞うようだ。これも一種のドリームメイクと呼べるのかもしれない。

 時間制限付きの仮の命を使って私たちを守り、私たちはバローを守る。脱出までの道は開かれ、ドリームリーフへと私たちは辿り着いた。

 

 ドリームリーフを完成させたオルラは、戻ってきた私の方を見て、一言告げた。

 

 

「ようやく働いたな。…バロー、トレーニングするぞ。」

「ああ、約束してたからな。…クゥアンと、深緑の騎士たちもドリームメイクやってみるか?」

「ありがとう、挑戦させてくれ。」

「おい、時間は有限だぞ!早くしろ!」

 

 

 深緑の騎士たちも、一時の休息をバローとオルラと一緒に取ることにしたようだ。私はバローからの誘いを喜んで受ける。

 大きな声で急く言葉を言い、走っていくオルラの顔がちらりと見えた。その顔には安堵と喜びだけがあった。

 

 

 その後、ハウンド家の横暴はファミリーに正しく伝わり、四大クランはカタルス家の独立に対して文句を言えなくなった。そこで場を収めたのが、ファミリーの穏健派だ。同じ、ピノコニーで開発を進めた仲間に危害を加えるなどありえないと。

 ファミリーの穏健派はカタルス家に無理強いをせず、すり合わせが行われた。時計屋も話し合いに入り、カタルス家に賛同したため、夢の主の介入がないままに早く話は進む。

 

 そして調和セレモニーは無事終わる。通常ファミリーだけで行われる催しであるが、ピノコニーの皆のために開かれたのだ。

 

――――――――

 

 カタルス家は協力的な一部のファミリーの手を握り、気持ちを伝えた。当主、グラークスは言う。ファミリーに加入はしないがこれからも手を取り合う所存だと。

 

 カタルス家とファミリーが共存した証として、折り紙大学はある。グラークスの作品だ。

 未来のことではあるが、折り紙大学で多くに門戸を開き、ドリームメイクを究めたい人間は、ドリームリーフに加わる流れが出来上がった。

 

 このとき穏健派によって調和の本質は語られたが、ファミリーは一枚岩ではない。

 何れ来る波乱にも、カタルス家は一つの派閥として守りを固め、ピノコニーの未来をドリームメイクで形作る。

 




派閥
ドリームリーフ-存護

「ドリームリーフは、自由を求める人間を守り抜く。」
――カタルス家当主の言葉

様々な業界、派閥からドリームメイクの自由に憧れ集まってくる人々。その寄る辺はピノコニーの夢境における最下層にある。

派閥の名の由来になった地は、裏路地のような場所から始まり、今では「記憶」と「神秘」の力を合わせ、ピノコニーとは別の空間にまで手を広げている。そこではピノコニーの表とは別の法が敷かれており、ホテル・レバリーにてどちらに向かうかを明示する必要があるのだ。

ドリームリーフ全体に星神クリフォトへの絶対的な信仰は無くとも、夢境に構築された厚く高い壁の向こうから、鍛冶屋の暖かさが仄かに感じられた者もいる。

ピノコニーの太陽の刻には、ドリームリーフを名乗る前のカタルス家がファミリーと手を組んだ証がある。それは折り紙大学という。芸能にまつわるカリキュラムが取り揃えられており、その大学を出て名を知らしめた芸能人は数知れず。星海に及ぶ有名大学である。

ピノコニーのファミリーとドリームリーフは干渉することがあれど、ごく僅かだ。例えどちらが止まることになろうと、自由を描く旅路は続く。
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