月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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星海を巡る

 統治者として目を通す必要のある書類は確認し終え、その上で宇宙の情勢も落ち着いている場合。私は数日間、自身の「開拓」のため、別の惑星へ足を運んでいる。これはヒスイノの交易のための訪問ではなく、極めて個人的なものだ。

 開拓を行おうとするとき、白珠が決まって案内してくれる。自身の著書で紹介した惑星の中でも、選りすぐりの地であるそうで、その選択基準は私に教えてはくれない。だが白珠の選んだ惑星は癖があり、全て忘れられない体験になるため、毎回とても有意義な時間を過ごせている。

 

 そのような自由を作って問題ないのかと考えるかもしれないが、12あるヒスイノには磐石な体制が出来上がっている。各々の地で優れた指導者が複数選別され、また代々受け継いできた欠け月によって強化された戦士も、ヒスイノの護りを固めているのだ。勤務している者が体を休められるように交代制になっており、公務に押しつぶされることもない。

 

 つまり、総括である私が諸事情で少しヒスイノから離れたとしても、穴埋めは簡単にできる状態なのだ。時が経ち、民はどんどんと頼もしく成長している。後数百年もすれば、私が描いている護りは私抜きで完璧に作り上げられるだろう。攻め込む力は凡庸であっても、物理的な「壁」と、人同士のつながりによる太き網の雛型はもう出来上がっている。巡狩の矢を防ぎ、繁殖や壊滅の軍勢を惑星に入らせずに星海で散らす、絶対的な盾である。

 

 群れは、移り変わりによって進化を遂げる。私が完成における最後の一欠片になるまで、足りない欠片を集め続ける。休暇であってもその意識は変わらない。

 一個人として惑星を歩くことで、例えば人の営みや食文化、慣習などから刺激を得ることが出来る。またそういった娯楽のための旅では、思いがけない縁が生まれるものだ。

 

 

 直近では「純美の騎士団」の一人と偶然出会ったことが、深く印象に残っている。その騎士は人間種の美醜観でいえば、絶世の美貌と呼べる人物だった。

 何故顔を覚え続けられるほど、私の中で印象深かったのか。それは、「純美の騎士団」の信念にいたく感銘を受けたからだ。

 

 その騎士は初め街頭で、堂々たる口調で言葉を発していた。特徴的な紋様の入った白銀の鎧は衛星の光を反射し、住民の服装からはかけ離れていた。この時点でその騎士は、私と同じく星間旅行者だとすぐ分かった。

 多数の原住民が不審者を見る目で遠ざかっていく中、私は騎士の言葉を聞き続けた。騎士の演説はただの酔っ払いが言う戯言ではなく、「純美」の星神イドリラの美しさと、「純美の騎士団」としての精神についてであり、一貫性のある話であったからだ。

 自らを試練の壁へ常に挑戦させていじめ抜き、肉体精神を洗練させていく。それでいて謙虚さと分け隔てのない愛、これら全てをひっくるめたイドリラへの信仰心を絶えず持ち続ける。堕落せず騎士道に乗っ取り続けるのは、並大抵の精神では出来ない。自立した求道者として完成されているため、ただ星神に追い縋る信者とは訳が違う。

 

 私は事前に知っていた。「純美」の星神イドリラは、現在既に姿を隠したと噂されていることを。またその信徒の一派である「純美の騎士団」は、非凡な実力を持っていながら、隠れた星神への崇拝を行っているため軽視されていることも。

 だが私は実際に目にして思った。彼らが貫く信念は美しく、星神への敬虔さは決して無駄ではない。例えイドリラが逝去しており、永遠に姿を追い求めることになろうと、彼らの在り方を称賛し星神の名を覚え続ける者は必ずいる。そして騎士団の精神が受け継がれていくのならば、イドリラと「純美」は朽ちないと。

 星神の名を広めるための演説が終わったとき、私と白珠、そしてその場に残っていた原住民は、騎士の語った美しい物語に対して拍手を行った。この物語への憧れが芽となり、やがて大樹となる。

 

 私たちが声をかけて食事に誘った後。整った所作で食事を終えた騎士は、いつかの再会を口にしてその星を去っていった。

 彼もしくは彼女は、その中世的な容姿から性別の区別がつかなかった。また名を名乗るほどの者ではないと言ったため、本名を知ることさえ叶わなかった。全くもって騎士個人についての情報を得られなかったが、私と白珠は顔をしっかりと見て話した。そのため、もし騎士側が私のことを忘れていたとしても、私は一目見れば思い出せるだろう。

 人の縁は巡り巡って私の道を照らしてくれる。だから娯楽であっても重要な意味を持つのだ。

 

 

 白珠と約束していた時間が来たため、執務室から出て彼女と合流することにした。だが白珠は部屋の外で待っており、そわそわとした様子であった。私が扉を開けて右を覗き込むと、白珠はぱっと笑みを浮かべて寄ってくる。

 

 

「お疲れ様です、狂风!あたしの方も編集作業が終わったので、このまま船に乗りましょう!今回あたしが選んだ星について、歩きながらでも説明しますね!」

「ありがとう。白珠さんも、直近十個の惑星をまとめるのは大変だったろう。どれどれ…。」

 

 

 端末に情報が送信されたので、白珠の口頭での説明と共に、惑星の詳細を確認する。そこは有名であったが、ヒスイノと協力関係になることは難しそうな惑星であった。

 タリア。星々から出るゴミの廃棄場として知られており、現在は盗賊のたまり場である荒れ果てた地だ。

 

 白珠が星の説明をした後、追って諸注意と、私の質問に答えるように今回の旅で訪れたい場所を話す。

 

 

「――貴重品は盗まれないように注意してください。後、あたしたちは星を飼っているおかげで再生できますが、残った放射能と砂塵を防ぐためのマスクは忘れずに。これをどうぞ!」

「流石、用意周到だな。…伝聞でしかないが、元より危険な土地であることは知っている。透明化機能のある宇宙船で行こう。それで、白珠さん…タリアに着いたらどこに行くつもりなのだろうか?」

「ずばり珍味です!地下にバーがあって、そこで飲んだお酒が不思議な味わいなんです。狂风に分かるくらいに濃くしてもらいますから、一緒に飲んでみたいという気持ちがありまして…!」

 

 

 次のページで、白珠が訪れたときに撮影したのであろう、グラスの写真が貼り付けられている。タリアは排気ガスやガソリンで汚れたイメージであったが、写真のテーブルや店の内装はそのような印象を抱かせない。白珠からの補足が入り、店の内部はとても広く、私が入っても問題ないほどだという。

 

 また、店の成り立ちや酒の成分について、白珠から説明される。

 まず店についてだが、タリアの盗賊と贔屓にしている「壊滅」の派閥、アナイアレイトギャングの融資を受けて開かれたものらしい。アナイアレイトギャングといえば無法者の集団で、反物質レギオンほどではないが、数々の惑星に対して暴虐を働いている組織だ。現状過激派に対して「抗う者」が介入し、防いでいる状況である。

 カンパニーと同じように、アナイアレイトギャングも一枚岩ではない。多くの人命を奪わず経済的に暗躍する派閥があるそうだ。そういった、星海から見れば穏健派に属する集団が、密会の場として店を使う予定だったらしい。

 しかしタリアが再使用した技術の寄り合わせが絶妙な味わいを作り、この店は通に好まれるようになった。そして一般的な星間旅行者がメインの客になり、アナイアレイトギャングの計画は頓挫した。またタリアの荒くれ者も店に入るため、どれだけ重大な話をしても、周囲は酒の入った与太話だと流す風潮が出来上がったそうだ。つまり図らずも密会の場所としては最適な店になったというわけである。

 

 次に白珠が推す酒の成分についてだ。甘味料の配合を駆使して作り出された、偽チョコレートがメインに混ぜられているらしい。

 なるほど、これは珍しいと私は思った。前提として狐族はチョコレートを食べることが出来ない。誤食すればすぐさま食中毒を引き起こすのだ。欠け月で強化された狐族であっても、消化は不可能である。

 狐族の多数は、チョコレートを食べたいと強く思うほど情熱を見せない。毒となるものに味を似せてまで食べたいと思わないようだ。人間種も似せなくても本物を食べればいいとして、味を似せる技術自体が発達していない。

 

 

「一回偽チョコだけで食べて、タリアのお酒にしたら何とも体に悪そうな…ジャンクな美味しさがあったんです。鏡流は気に入らなかったみたいですけど…。私たちだからこそできる挑戦だと思いませんか!」

「確かに、食の開拓も面白そうだ。」

「乗り気で嬉しいです!他の珍味も制覇しましょうー!」

 

 

 顔をしかめながらも頬を緩める鏡流が、ありありと思い浮かぶ。白珠からの土産は、どんな味だろうと喜びそうだ。

 いつかの仙舟「羅浮」での対談のとき、景元とも連絡が取れるようにしたが、鏡流や丹楓、そして自身の近況が送られてくる。景元は現在、愛玩動物の雪獅子を愛でるのにはまっているらしい。

 白珠からも偶に話を聞くが、共に戦うことが無くなっても、雲上の五騎士の仲は良好のようだ。

 

 私と白珠は宇宙船に乗り、搭載されたワープ機能を使った。白珠に準備してもらったマスクを着け、いつも着用している白いローブと鎧を脱ぐ。そして深緑の騎士と分からないような普遍的な鉄鎧に着替えた。今この時だけ、私はただの狂风だ。

 

 

 タリアは、私の想像通り荒れた土地だった。住民は廃棄物の山を漁り、奇妙なスクラップを改造して車に取り付け町中を叫びながら走行している。

 世紀末の光景を見ながら、賑やかで良いという感想が白珠から漏れる。凄まじい胆力である。こういった感想が出るのも、住民のならず者たちから実害を被るほど、白珠は鈍くないし軟でもないためだろう。惑星間を単身渡り歩けるのは、相当な実力がある者だけである。

 私はならず者たちの罵声や叫びを背景に、白珠と雑談しながら目的のバーへと向かう。

 

 

「――最近、宇宙船を大破させてもすぐ帰れるようになったんですよ!修理スキルを磨いただけありました…!」

「白さんはメカニックとしても一流になったのだな。外因で大破しない船に改造もできるんじゃないか?」

「それも難しいんですよー。三つ前の旅では、拡張パーツを全方位に付けて装甲に厚みを持たせたんです…それでも宇宙船の倍はある飛行獣の群れに激突されちゃいました…あ、見えてきましたよ!」

 

 

 白珠の不運は必然であるかのように発生するようだ。白珠は前方を手で示した。地下トンネルがくり抜かれてできた店は、周囲の荒れ具合と比較して高級感のある見た目である。よく外装を綺麗に保てるものだ。

 私は大きめに作られた店のドアをくぐり、白珠と共に中へ入った。

 

 

 バーの中は賑やかであったが、外とは別世界であった。私が入れるほどに天井が広く、使われている内装の鉄も錆びることなく磨かれている。店の主人であろうバーテンダーは、顔に機械仕掛けの防護マスクを着用しながら、首から下の衣装はきっちりとスーツで統一されていた。

 マスクによって少しこもった声で、バーテンダーは私たちに言う。

 

 

「いらっしゃいませお客様。…ああ、白様でございましたか。涯海船勝覧の新作、拝読させていただきました。描写力の素晴らしさに、毎回感服しております…。」

「ありがとうございます、オーナーさん!…狂风、ここのオーナーさん、あたしの本のファンって言ってくれて…それもあって連れてきたんです。」

「なるほど。気分の良くなる店だな。マスター、こちらの白さんが気に入っていたカクテルを頼む。私の種族は味覚が薄くてな…濃い味になるようにお願いしたい。」

「かしこまりました。まずは、大型オムニックのお客様用の席をご用意いたします。お二人とも、少々お待ちください。」

 

 

 タリアのバーテンダーは私を見上げると、似た服装をした従業員に合図をし、大きな椅子を私の前に持ってこさせた。私と白珠は並んで座り、酒が出来上がるまで待つ。白珠は店のリストから、ヒスイノにはないような珍妙な食べ物を頼み、出された酒と一緒に食べ始めた。私も気になる食べ物を濃い味で出してもらい、疑似チョコレートの使われた酒を飲んだ。甘みと苦味、そして白珠の言うようにジャンクな味わいが舌を通る。狼の退化した味蕾でも分かる味だ。

 人間種が思う分かりやすい美味ではないが、こういった味を好む民もいるかもしれない。私と白珠は雑談しながらゆっくりと時間を過ごし、店にある膨大な商品を一つずつ注文していった。

 

 

 タリアの治安から考えて、酔いを深くするわけにはいかない。せめて、どちらか一方は素面で無くては。そのため白珠に合わせながらも、欠け月で酒の毒素を中和し、意識をはっきりさせておく。中和しきれない分もあるが、前後不覚になるほどではない。

 そうしていると、私の耳に他の客の話し声が聞こえてくる。タリアの現状を嘆きながらも、ゴミから使えそうな物を発掘することを楽しむ日々の生活の話。バザードンリザードというタリアの過酷な環境に適応している生物を、アナイアレイトギャングにどれだけ高値で売れたかを競う話。

 どれも聞きごたえのある風土に合った話だが、一つだけ異質な話題があった。それはテーブル席を囲んだ団体客によるものだった。

 

 

「マスター、他の客との会話はしても良いのだろうか。店でのルールを知らなくてな。」

「問題ございませんよ。また私たちは、ここで聞いたことは他言いたしません。…ご心配かもしれませんが…タリアとアナイアレイトギャングは独立していて、お互い腹の内は隠しておりますから。」

「狂风、どこにいくんですかー?」

「よく分かった、信頼しよう。白さん、ちょっとあちらの席に顔を出すだけだ。すぐ戻ってくる。」

 

 

 白珠は予想以上に酒に酔っているようだ。いつもより張りがない口調になった白珠に私は声をかけ、立ち上がる。白珠がゆったり手を振るのを横目に、団体客の元へと近づいた。

 

 

「いつ決行するんだ?ここの、うじゃうじゃいる盗賊どもを、ぶっ潰して待つのもありだけどよ。」

「まあ待て。ここは機密性の高い場所だ。失うのも惜しい。それに急かずとも、同志は集まっている。後は誅羅の動き次第だ。…ん?何だ、あんた。」

 

 

 私は団体客を見る。個々の服装は奇抜でありながら、彼らの瞳は共通して鋭く、獲物を追い詰める形をしていた。彼らの話は途中からしか聞いていなかったが内容は分かる。絶滅大君、誅羅、同志。この断面的な言葉で一気に目が覚めた。彼らは絶滅大君の一人、誅羅を討つ準備をしているのだ。

 私は自己紹介と共に、話を聞こうとする。

 

 

「私は狂风という。…あなた方が私を知っているかは分からないが、気になることがあってな。同席してもいいだろうか?酒の代金なら全部出そう。」

 

 

 支払いは信用ポイントだ。私は懐に入れておいたカードを首を傾けて確認し、再びしまい込む。ここにいる全員の分は払えるだろう。

 集団の内まとめ役のような女性が頭に手を当て思考にふけった後、目を見開いた。声を潜めて仲間たちに私のことを話した後、言う。

 

 

「あんたの巨体に、名前。酒が回ってるが思い出したよ。…なんでこんな場所にいるんだ?」

「全くの偶然だ。友人がこのバーを紹介してくれてな。共に来たんだ。」

 

 

 私は背後をちらりと見て、その女性に回答する。団体客はざわつき始めた。黙っているのは、奥に座った重役らしき人物と、藁で出来た笠を被った男性のみだった。私は目を見張る。写真ではあるが見覚えのある人物が席に座っていたからだ。

 

 

「顔を見せてくれ。聞いている通りだったら話す。」

「これでいいだろうか。」

「…いいよ、席を空けておく。お連れのどこかで見たことのある嬢さんも、呼んでくるといい。正義を貫ける戦力なら大歓迎さ。」

「ロレッタ、マジなのか…!?」

 

 

 私の背後から、まとめ役らしき女性に確認を取る言葉が聞こえる。ロレッタと呼ばれた彼女が仲間をいなしている間に、私は白珠のところへ戻った。

 

 

「お帰りなさいー!」

「白さん、ただいま。急なのだが、少しあちらの席に移ってくれないか。酔いも覚める衝撃が来るかもしれないぞ。」

「そんなにすごいことなんですかー?行きます!」

 

 

 バーテンダーに会釈してから、白珠を支えて団体客のところへ向かう。そして、白珠の視線を誘導してその人物が誰なのかを耳元で告げた。

 白珠の半開きの眼が焦点を合わせ、耳をぴんと伸ばした。そして震わした声で白珠は、言葉をかける。

 

 

「あの、お間違いなかったら…。ブルックリン・ティエルナンさんですか…?」

「しっかりと呼ばれたのは久しぶりだ…私を知っているのか。」

 

 

 

 私は空けてもらった位置に席を置いて腰かけ、すっかり酔いの覚めた白珠と共に団体客の話に加わる。ロレッタは私たちが座ったのを確認してから、言葉を紡いだ。他の客に聞かれない程度の声量で。

 

 

「星海の掃除を行う『抗う者』の首領の一人に…それに、なんでこの時代まで生きれているのかは知らないが…かの英雄と会えて光栄だよ。私はロレッタ。ここにいる皆も同じで、巡海レンジャーさ。」

「巡海レンジャー…!景元と会ったばかりの頃よく言ってました。巡海レンジャーになりたいって!」

「ははっ!羅浮の将軍がそんなことを!酒の肴には勿体ないくらいの話だ!…だが、それはまた機会があったら聞くとしよう。」

 

 

 ロレッタは真剣な顔つきになり、声を押さえながらこのバーを会議の場に使ったわけを話す。事の発端は、巡海レンジャーが追っていた、ある星間盗賊だった。タリアに逃げ込んだという情報を掴んだのは、追っていた盗賊が死んでからで、辿り着いたときにはその子孫さえ見つけることが出来なかったそうだ。

 

 小悪党しかいないタリアに、とんだ無駄骨だと去ろうとしたが、このバーを見つけた。タリアの人間はほとんどが悪党だ。怪しい経営主であるため銃口を突き付けたが、全く動じず店内のルールを守り続けるマスターに毒気を抜かれて、少しずつ通うようになったのだそうだ。義を重んじる巡海レンジャーは、偶にツケにしてくれるマスターを信用したらしい。正義でも悪でもないならば、殺す必要もない。

 

 そして巡海レンジャーが計画している本題について話される。それは私が聞いていた通り、絶滅大君の誅羅の暗殺であった。その方法は緻密に計画されていたが、一言で表すならばスウォームの利用である。

 

 

「――だが、あんたとあんたが率いる勢力が協力してくれるなら話は別だ。もっとこの作戦の成功率を高められる。」

「兵士だけじゃない。今開発中の機械も使おう。破壊力は期待できないが、これを使えば拘束は成功する可能性が高い。この装置について説明しよう――」

 

 

 私は端末を開き、巡海レンジャーの面々に機械の設計を見せる。それは「天才」からもらった案を形にしたものだ。仮の名はそのままで、虚数拘束装置。虚数エネルギーの海に穴を開け、星間を繋ぐプロジェクトから応用されてできた。空いた空間に対し、分かたれた虚数エネルギーの膨張を利用して、部分的に圧縮する。

 虚数エネルギーによる拘束は強力であり、出力を高めさえすれば巡狩の矢でさえ、宇宙空間で着弾前に停止させられる構想だ。

 

 

「随分協力的だね。こっちにとっては好都合だが。…まあ、酒の席だ。とりあえず仲を深めようじゃないか。」

「ああ。ここで出会えた幸運に乾杯しよう。」

 

 

 

 作戦の大まかな流れは伝えられ、私たちの協力によって軌道修正された案を以て、一度話し合いは終わる。

 私と白珠、巡海レンジャーの面々はお互いの話をして夜を明かす。白珠は、笠を被った男性、ブルックリン・ティエルナンに興味を持って話しかけていた。

 

 ティエルナン、彼はピノコニーの時計屋ミハイルの仲間であり、星穹列車の元乗員だ。白珠は開拓の話をミハイルとよくしている故に、かつての仲間の話や写真をたくさん見せてもらっていた。ミハイルの認識においてティエルナンは、共にピノコニーで列車を降りて開拓をしてきたが、状況は違えどラザリナという女性と同じように、遠い過去に失ってしまった仲間であった。

 白珠は再び酒に酔いが回り、その状態で力説する。

 

 

「ティエルナンさん、ミハイルさんともう一度会うべきですよっ!まだまだお元気ですから、オペレーション誅羅が終わったら、行きましょう!代金は持ちますから!」

「私も出そう。ピノコニーへ入るための信用ポイントは、凄まじく高く設定されているからな。白さんが全部持つのは負担がかかりすぎる。」

「ああ…感謝する。長いこと留守にしてしまったな…ミハイル。」

 

 

 私は白珠と共に、巡海レンジャーの武勇伝やティエルナンの開拓の旅について聞き、その壮大さを楽しんだ。巡海レンジャーに至っては仙舟同盟と同じく、嵐を信仰しているのに、その在り方は義侠であり、より寛大であった。正義と悪。巡海レンジャーのようにこれを断定することは私には出来ないし行うつもりはない。私は正しいことを行っているというよりも、民の未来に焦点を置いているからだ。

 だが、星間の人々を危険に晒す大敵を討つことについては、同じ道を行ける。

 

 

 巡海レンジャーが付けたプロジェクト名、オペレーション誅羅。私たちはこれに介入し、壊滅への大きな一手とする。近い内に彼らとは戦場で会い、そして肩を並べる。

 

 この奇跡は白珠が呼んでくれたものだ。私は心の中で白珠に礼を言い、羽目を外していつの間にか眠ってしまった彼女を抱える。

 そして私はテーブルを囲んだ面々とタリアの朝を迎え、白珠を宇宙船に寝かせて、彼女と共に帰路へついた。

 

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