月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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抑止力

 タリアのバーでの出会いから、何月か経過した後。差出人の不明な電子手紙が届く。その文面にはただ二言こう書かれていた。

 文明の輝きを絶やす軍勢。その大将を討つ準備は整った。

 

 この手紙が届いた瞬間、私は巡海レンジャーとの約束であると理解した。そして「抗う者」とヒスイノの戦士たち全員に通達する。巡海レンジャーとの協力、それによってついに絶滅大君の一人を倒すため動くことを。ここからは総力戦だ。

 

 

 私は絶滅大君の暗殺が、並みの個人の力では成しえないと理解している。あくまで混乱に乗じた奇襲でのみ届く凶刃であると。そのため、私は「抗う者」という組織を一つの群れとして考え、誅羅を拘束・撹乱する役割を果たすため動くことにした。

 よって単体戦力としては申し分ないストリボーグや白珠は、安全圏からの射撃・統率を行ってもらう。

 ストリボーグは拡張機能として自動機兵を従えるアップグレードを行っており、ヤリーロ-Ⅵの技術力を改良した監督ロボットと共に多数の意思無き機械を操ることになった。

 また白珠は射撃性能の高められた戦闘艦にて、パイロットとなったヒスイノの戦士を率いてもらい、蟲用の興奮剤を撒いてスウォームの混乱を更に広げてもらうことにした。誅羅の暗殺が終われば、スウォームの被害を出さないようにすべて倒す。白珠は、役割は違えどティエルナンと肩を並べて戦えることに、喜びを感じているようだった。

 

 私は、天才クラブのチャドウィックやスクリューガムの知恵の産物を、微量ながら受け取っている。全て等価交換によるものだ。私はそれを形にした巨大な機械を持ちだすことを決めた。あの会合のときでは試作段階であったが、危機に対抗するために実証試験が幾多に重ねられ、ver2の名を付けられた虚数拘束装置である。

 

 カンパニーとの共同プロジェクトを完遂し、そのままヒスイノに別荘を持ったチャドウィック。紳士的な態度を崩さず、知見を広めることに助言をし続けてくれるスクリューガム。彼らは気軽に接してくれ、私は天才の言葉や理論から多くを学んだ。

 チャドウィックはいつの間にか白くなった髪を撫でつけて、日頃から言う。彼はカンパニーに恩義を感じながらも、組織の危うさを一研究者として、天才の慧眼で容易く見抜いていた。

 

 

『カンパニーの過激派は利を求めるあまり、どんな外道も行うだろう。何れ、星間を繋ぐ技術を悪用するために動く社員も現れる。彼らが存護の道を外れないよう…クゥアン、君や君の組織が抑止力になってほしい。私の研究成果をよりよく使い、道を示してくれ。』

 

 

 チャドウィックの技術を応用した虚数拘束装置は、完璧ではないとはいえ確かに大きな力だ。悪用すれば多くの人命を掌握してしまうだろう。だが私はこの装置を、ただ人命を守るために使う。巨大な破壊の力を止め、失われるはずだった人間を助け出すためだけにだ。

 

 私は機械研究チームに対して指示を出し、巨大な宇宙船の外装に装置を積み上げる。戦闘用宇宙船の構造は、第二次豊穣戦争のときから変わっていない。器獣を使っていたところに鉄製のそれを代用し、量産を容易にしただけだ。

 絶滅大君相手に、単純な質量による攻撃は通じない。そのため宇宙船の上部に取り付けられた造物エンジンは、関節を増やされ行動の素早さも改良された、機動性重視の調整が行われている。

 狼の研究責任者が私に近づき、書類にある、宇宙船に積み込まれた武装のリストを読み上げる。

 

 

「失礼いたします、狂风様。宇宙船にそれぞれ積まれた汎用装備の再確認をお願いします。壊滅勢力用の「反粒子消散装置」、百十点。「立ち塞がる樹木」、十五点――」

「――そうだ。反粒子消散装置は、バリオンを模したタイプか?浮遊させるための開発は進んでいた覚えがあるが、何せ大規模な戦いでしか使われなかったからな。」

「ええ、勿論でございます!接着、投擲が容易なように構造も改良されております。」

「なるほど…報告の邪魔をしたな。続きを頼む。」

 

 

 武装の数々を端末で見せてもらい、汎用装備のバリエーションが多岐に渡っていることを実感する。私は整備士や研究員が宇宙船の点検を終えるまで、確認作業を行った。

 

 人員が準備を終えた後。私は声を張り上げ、これから始まる戦いに加わる全ての戦士に向けて宣言する。ヒスイノ周辺に船を停めている厄災前衛の面々や、カンパニーの出資者、壊滅から逃れた惑星の戦士たちは遠隔で私の姿を見ている。

 

 

「皆へ幾分か前に伝えたように、これから私たちは、立ち向かおうと崩すことのできなかった絶滅大君を打ち倒しに行く!壊滅は分かりやすく、惑星を終焉へと導く。いつまでも好きに動かせておけば、無辜の人命は容易く、壊滅の毒牙にかかるだろう。私たちはそれを見逃すわけにいかない!」

「同志よ、私たちの利害は一致している。私はヒスイノの民のため、民の可能性を作る数多の惑星のため、全力を尽くす!人間が生に苦しみを抱くことの無いように…共に行かん、同志たちよ!」

 

 

 続いて同盟相手である厄災前衛とカンパニーの代表から、私たちに向けての言葉をもらう。ヒスイノに協力的な惑星の統治者からも作戦の成功を祈られた。抗う者が、真の意味で終焉に抗える。壊滅や破壊活動を行う全ての勢力への抑止力として、名を轟かせるのだ。

 

 

 順次届いた座標へと向かう。合流するため、巡海レンジャーだと分かるように信号を送ってくれるらしい。私の方からも旗艦が合図をする旨を返信する。

 計画の大まかな流れを知っている私は全軍に共有した。そのため、闇に溶け込み擬態できる器獣や、光学迷彩技術が使われた宇宙船を我ら同盟は率いていく。

 

 着いたそこは既に死滅世界であり、反物質レギオンが星系に漂っている。私はそれらを倒したいという思いで思考を支配されかけたが、待機している宇宙船を確認して気持ちを改める。

 反物質レギオンに視認されないよう上手く隠れている、この船群に巡海レンジャーが搭乗しているのだろう。私は指示を出し、宇宙船に気づいてもらえるように光信号を送る。すると、しばらくして私の乗る船に通信が入る。

 

 

『また会ったな。これだけの勢力を持ってきてくれるとは…正義を為すには十分な量だ。』

「ロレッタさん、首尾はどうだ。」

『上々。仲間たちが己を吊り下げた餌にして、この星域にスウォームをおびき寄せている。決行までもうすぐだ。』

 

 

 ロレッタは話す。スウォームは惑星を砕くほどの強靭な顎を持ち、エネルギーとなるものならば繁殖のままに群がる。巨大なエネルギーならば尚食いつきが良い。その餌となる巨大なエネルギーの元は、巡海レンジャーが悪を討って回る際に収集しており、それを宇宙船から撒いて誘導しているようだ。

 巡海レンジャーは、正義を個人の行動によって為すと定めている。しかし、その手段は問わない。餌を撒くような奇想天外な案であったり、縁を手繰り寄せて呼んだ軍勢も個人の力として扱ったり、柔軟にものを考えるのだ。

 

 私は全軍に待機を命じ、スペースデブリの陰に船を停止させる。観測できる反物質レギオンの中に、一際目立つ破壊者がいる。私はすぐにそれが誅羅だと分かった。

 

 

 待機する時間は長かったが、その間に巡海レンジャーたちと情報共有をしておく。

 反物質レギオンはこちらに気づくことはなかった。念入りに文明を破壊することに執着しているのか、生命の気配がない星々を壊し尽くしている。

 

 宇宙船の側面から、凄まじい量の点々が近づいてくる。先頭には十数隻の宇宙船が、背後には星系を覆うほどに増殖したスウォームの群れが飛んできた。ロレッタは私とそれ以外の船、同盟のリーダーたちへ宣言する。

 

 

『負創神の信徒たちは、これより自身の壊滅へと向かう。オペレーション誅羅、実行開始。』

 

 

 

 反物質レギオンの軍勢を瞬く間にスウォームが覆い尽くし、互いの体を壊し合う泥沼の戦いが始まった。私たち「抗う者」の軍勢は、巡海レンジャーの支援を行うために散開し、スウォームを暴走させるための手段を取る。

 まず、レギオンを劣勢に追い込むための汎用武装をばらまく。反粒子消散を起こさせるための、バリオンに似た浮遊物である。巧妙な偽装により、ヴォイドレンジャーはバリオンとこの兵装の区別を付けられない。

 スウォームによる混乱は、壊滅の意志の操り人形であるヴォイドレンジャーに規則性のある行動をさせない。虚空に吸い込まれるように、少数のスウォームごと軍勢は消失していく。

 

 

『狂风様、樹木を順次展開しています!この星域から逃走される可能性は20%――23%減少!』

「いいぞ!造物エンジン隊、このまま砲撃を休まず行ってくれ!」

 

 

 私は指示を出しながら星域を飛び回り、無数の「立ち塞がる樹木」が網目状に囲い込んでいるのを視認する。この兵装は、造翼者の故郷「穹桑」に似た世界から採取した苗木から作り出されたものだ。枝が外への跳躍を行えるなら、逆もしかり。この樹が囲い込んだ場所は体を反発させ、外側へ向かうことを困難にさせるのである。

 無数に降り注ぐ、矢に付与された蟲用の神経毒がスウォームの飛ぶ軌道を狂わせ、元々予測不可能な蝗害を更なる混沌へと導く。

 

 私はレギオンの大将であるそれの動向を絶えず追い、巡海レンジャーの動きも把握しておく。誅羅は巨大なスウォームの顎を破壊して回るが、すぐに蟲に群がられ鬱陶しそうに殺しまわっている。振るわれる力は流石使令といえるほど強大であるが、視界を埋め尽くすスウォームの増殖力には手間取っている。

 それと巡海レンジャーは、一人一人が一騎当千の実力を持っているようだ。惑星間を飛び回り、スウォームの陰から誅羅へと一撃を喰らわせている。そこには笠を被ったガンマンもおり、急所を狙った適確な攻撃を行っている。

 

 全身を喰らわれ、上手く動くことのできない誅羅。それの注意が一度、スウォームのみに向けられた。私は宇宙船の拡大機能で以て、その一瞬を見逃さない。

 

 

「今が好機…!各隊、虚数拘束装置を起動!誅羅に向けて放て!」

 

 

 私の掛け声とともに、虚数拘束装置の精密な照準が合わされ、星域を無数のエネルギー波が割った。

 通信を聞いていた巡海レンジャーたちは、私たちの拘束を巧みな技量で避ける。次の瞬間、虚数エネルギーの圧縮が誅羅単体を特殊空間に閉じ込めた。

 

 私たちは総攻撃を開始する。抵抗が出来ない誅羅は、活きの良い蟲の食べ物に成り下がる。

 そして氷や炎を纏わせた貫通力のある矢と砲丸が、並みのヴォイドレンジャーとスウォームを一掃しながらも、誅羅の体を破壊する。巡海レンジャー総出で誅羅の体を撃ち、切り刻み、あらゆる致命的な一撃を与えていく。私たち「抗う者」からも、星神から一瞥を受けた実力者が船から飛び出し、各々の得物を振りかざす。

 私は搭乗している宇宙船から、大きく跳躍した。そして欠け月と紅鎧により限界まで強化された両手で、斧槍を引き絞り、誅羅に向けて叩きつけた。

 

 

「…!」

 

 

 その後も巡海レンジャーは、誅羅に致命傷を与え続けた。未だ続くスウォームの混乱の中、誅羅は声のない叫びを上げ、ついに使令としての役割を終えた。

 一時間以内の決着。奇襲に対応する間もなく重傷を負わせられ、与えられた強大な権能を発揮しきることも叶わず。

 

 

 この「誅羅の暗殺」は、戦いに加わったスターピースカンパニーによって大々的に報じられた。

 数多の惑星を滅ぼす絶滅大君、それらに対し「壊滅」に抗う者は立ち上がった。この四琥珀紀間に興った新勢力と、古くから存在する義侠団体は大きく名を広める。絶滅大君、並びに惑星・星海規模の大逆に対する抑止力として。

 

 まだ力が足りず、小さな抵抗であったとしても。終焉に進む秒針は確かに握り締められ、針は鈍化する。

 

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